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悪役令嬢は友を得る


「お嬢様、むやみに人の家の廊下で騒いではなりません。皆様にご迷惑です。」


部屋に戻ってきて最初の一言がこれである。


「ったく、お嬢様は段々退化している原因は一体何でしょうね?」


「そうチクチク言わなくてもいいじゃない!?」


カムのお説教に不貞腐れる。


「そこがお子様というのですよ?」


「そこ煩いわよ?」


嫌味男の追い打ち

相手にしちゃだめだわ。


「あっ、そういえばシリウス様。先程ロザリア様をお迎えに行った時にこの手紙を受け取ったの。」


ナージャはドレスのポケットから一通の手紙を出した。


「もしかして兄さんから?」


「はい。どうぞ?」


シリウス様は手紙を開いて目を通す。

その様子を見ながら昨日の話を思い出した。


シリウス様はハワード家長子のはずなに兄君がいる。


兄の呼ぶのはまさかのあの人…。



※※※


カムが作った攻略本を見せて貰うと、そこにはハワード侯爵で宰相であるエイベル・ハワードを主とした家系図だった。


「これに何かあるの?」


見たところ普通の家系図。

特に違和感がなかった。


「ええ。ハワード侯爵様と奥方様の名前の下に嫡子であるシリウス様の名前がありますよね?」


「ええ、そうね。」


だってシリウス様はハワード家の一人息子ですもの。


「ではここを見て下さい。ハワード侯爵様の名前の横に線で繋ぎましたが、名前があるでしょう?」


おや?エイベル・ハワード侯爵には男兄弟しかいないはずなのに…女性の名前が載っている。

そしてその間に見覚えある名前があった。


でもハワード侯爵に第二夫人はいないと聞いている。


「この女の人は?」


「この人はハワード侯爵様の恋人でした。」


「…え?恋人?しかも過去形…何故、そんな人まで家系図に載せているの?」


「この人はハワード侯爵が学園在学中に付き合っていた女性です。何故この家系図に載せているのかというと、言いにくい話ですが…ハワード侯爵はその恋人と関係して子を授かっているのです。」


学園在学中に男女の関係を結んで子供を…四大侯爵家の子息とあろう者がなんと愚かなのろうか?


「とんだ恥さらしね?家名を汚すなんて…。」


「無論、ハワード家はこの事を隠しています。これはあくまで俺が書いた家系図なので、正式の家系図には載っていません。だからこの事は誰も知ることが出来ないですよ?」


カムは攻略本を見せて貰ってこの事を知っているそうだ。


「そしてここに載せてあるお子の名前…お嬢様もお気づきだと思いますが、ルーベルト殿下の側近レイドリック・ハイズ様です。お嬢様も何度かお会いしましたよね?」


ああ、あの人…。


知的な男性、でも鍛えているのかしっかりした肉体は側近の制服を着ていても隠し切れない。


全然シリウス様と似ても似つかない人。


「…言われなければシリウス様の兄と気づかないわね?」


「そうですね。シリウス様はハワード侯爵様に似ですから血縁者と分かりますが、レイドリック様はきっと母君に似たのでしょう。」


似てなくても血の繋がりはある。

二人は異母兄弟だ。


でも公では他人。


「ハワード侯爵様が恋人をハワードの籍に入れて居れば、レイドリック様がハワード侯爵家長子だったのです。でも彼は認知しなかった為、正妻のお子であるシリウス様が嫡子となりました。」


エイベル・ハワードには既に決められた貴族の婚約者がいた。

それも地位も財産も安定した由緒正しい家の娘。


当然、婚約を破棄するわけない。


醜聞を隠す為に学園卒業後すぐに婚式を行い、早々と身を固めた。


そして学園で付き合っていた恋人はハワード家の血族達に認められず、ハワード家から遠い縁の親族に嫁がせた。

決して恋人の子供をハワード家の相続に関わらせない様に、侯爵家の権力を使って無理やり遠く引き離した。


何と酷い話だ。


「…分かったわ。ハワード家が複雑なのは非嫡出子がいるからね?」


「ありきたりな話と思いますが、原因はそうです。しかもシリウス様以外のハワード一族はこの二人を酷く嫌悪しています。」


「…どうして?」


どちらかいうと事の原因はハワード侯爵が無責任なことをしでかした事だ。

恋人とレイドリック様を憎むなどおかしい。



「ハワード侯爵は…」


※※※



「…ロザリア様…ロザリア様!」


ナージャ様の声で我に返る。


「ア…」


しまった。こんなところで考え込んでしまったわ。


「何か難しい顔されていましたが、どうかされたのですか?」


「え、えっと、何もないわ?大丈夫よ。」


笑顔で返すと後ろでカムがため息を吐く。


「…ナージャ様ご心配いりません。ロザリアお嬢様は昨夜初めての遠出で興奮して夜ふかした為に睡魔と戦っていただけです。」


カムのフォローがわたくしの頭上にのしかかる。


「違うわよ!」


カムまでわたくしを幼児扱い…腹が立つ!!



「ふふっ、ロザリア様はレイチェルみたい!」


レイチェル?

知らない名前だわ。


「レイチェルとは誰なの?」


「あっすみません。レイチェルは女鹿です。可愛い子なんです。」


鹿…わたくしと鹿が同じ…


何処かの馬鹿男に“猪”と呼ばれたことがあるけど、今度は“鹿”


「ナージャ、レイチェルの方が素直でいい子です。ロザリア嬢と一緒にしてはいけません。」


再び嫌味男の追い打ち。


「シリウス様、オイタが過ぎますわよ。」


こめかみに青筋がたち、扇子を出し両手で握りしめる。


本当にお灸が必要の様ね?


でもシリウス様は楽しそうに笑う。


「そうそう。ナージャ、兄さんがもうすぐレイチェルの出産が近い為に休みを貰えたそうです。カレントスまで来てくれるそうですよ?」


「本当?レイドリック様がお見えになるの?」


ナージャ様が嬉しそうに手を叩く。


どうやら先程の手紙の内容にこの事が書かれていたようだ。


「レイドリック様はハワード家の血縁者なのですか?シリウス様は確か一人っ子ですよね?」


知っているくせにカムはシリウス様に問う。

ナージャ様がしまったと慌てて口を押えた。


でもシリウス様は違う。


「はい。レイドリックは僕の異母兄なのです。色々と事情がありまして公に伝えていません。」


堂々と伝えるシリウス様は肝が据わっている。


ハワード侯爵が知ったら良くないのでは?


「そう言った理由なので、兄はハイズ本家周辺以外のハワード領地に足を踏み入れる事を本領主によって禁じられています。」


本領主はエイベル・ハワード侯爵の事。


ハイズ家はハワード領地の一部にある。

それもとてもハワード本邸から離れていた。

遠い親戚に追いやったのに、それでもハワード領地に身を置かせた理由はただ一つ。

ハワード家の監視があるからだ。


レイドリック様はとても複雑な立場に置かれている。


「ですが、僕達はそれを知っていても普段から隠れて会っているのですよ?兄が非番の時は隣領であるカレントス領地でいつも会うのです。勿論父に隠して。」


『…シリウス様は父親の事情を知っていてレイドリック様を兄と慕っているの?自分にとっても複雑というのに?』


本妻の息子であるシリウス様にとって、血の繋がった異母兄は自分の地位を脅かす存在。


それを知っていて慕えるなどありえない。



「色々とあったのですよ。でもその話はもう止めましょう。」


シリウス様はわたくしにっこりと微笑む。

とても良い笑顔。

まるで追求しないようにとけん制しているかのよう。


…こいつ、わたくしの考えを読んでいるのだわ!?


「もうすぐレイチェルの出産予定日ですから、兄さんは明日あたりにカレントス領の宿に泊まるそうですよ。ちょうどいいタイミングですね。僕達も明日牧場に行きましょうか?」


「はい!」


シリウス様とナージャ様は約束を交わす。


その時、わたくしは違う事を考えていた。


「わたくし牧場を見たことないわ。ここにあるの?」


普段貴族令嬢に関わりないものだから興味がある。


「カレントス領は牧場が沢山ありますよ。でもレイチェルがいる所はハワード領にあります。とはいえここから近いですし、良ければロザリア嬢も僕達と一緒にみに行きますか?」


シリウス様が提案するとナージャ様も頷く。


「レイチェルだけではなく他の動物も沢山いますので、きっとロザリア様も楽しめると思います。折角ここまで来て下さったのですから、どうでしょう?」


シリウス様達が通っている牧場はカレントス地とハワード地の境目。

馬車なら何とか日帰りで行けるそうだ。


「いいの?」


これは嬉しいお誘いだ。

でも、そうなると問題が…


「ねえナージャ様。本日一泊と言いましたけど、2泊は可能かしら?」


後ろでアリアが「ええっ?」と驚く。


「ええ。大歓迎ですよ。」


ナージャ様はあっさりと了承した。


「ありがとう。という事でアリア、そのように支度をお願いね?」


お願いするとアリアは困った表情になる。


「で、でも明後日はお嬢様の講師がお見えになる日ですよ?」


「そんな事は問題ないわ。キャンセルする様に今から伝達を飛ばして頂戴。」


大切なお客様が来るわけでもない。

勉強など、時間がある時にまとめてすればいいわ。


今こうして友人宅に泊る事も一緒に何処かに遊びに行く事もした事がないから、とても新鮮だ。


「アリア、お嬢様は俺にお任せください。対応をお願いできますか?」


戸惑うアリアは頷きカムと今後のやり取りを決めてから席を外した。

早急に護衛達にも説明する必要があるから色々と慌てている。


でも彼女なら上手く段取りが出来るだろう。

なにせ公爵家の優秀な侍女だ。


「お嬢様の我儘を聞いて頂きありがとうござます。」


カムは頭を下げた。


「いいえ。私もロザリア様と親しくされそうで嬉しいですわ。」


ニッコリと嬉しそうに微笑むナージャ様に私も笑顔で応える。


「わたくしよ。ねぇ、ナージャ様、ぜひわたくしの親しいお友達になって?」


「親しいお友達…私で良いのですか?」


ナージャ様は驚く。

わたくし達は公爵・侯爵家どの貴族よりも高い身分の娘。

だから親しい友人など中々出来ない。


「勿論。ねえ、貴女を『ナージャ』と呼んでいいかしら?ナージャ様もわたくしに遠慮なく『ロザリア』で呼んで?」


「ええ!?私はいいですが、ロザリア様はまずいと思いますよ?」


公爵は王家の親戚だもの。

色々と問題が在るのは知っている。


「公以外はいいわよ。」


別に侯爵家のナージャなら大きな問題はないけど、貴族には貴族の社会がある。



「…善処しますね。」


照れているナージャが可愛らしいわ。

取り敢えずこれで満足ね。


友を得たわたくしにシリウス様が満面な笑みを浮かべる。


()()()()、ナージャをよろしくお願いしますね?」


シリウス様がわたくしの名を呼び捨てで呼ぶ。


「何で貴方まで呼び捨てなのよ!?」


嫌味男に言ったわけじゃないわよ!



お読み頂きありがとうございます。


ブクマ有難うございます。

すごく嬉しいです!投稿頑張ります!

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