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悪役令嬢は嫌味男と対峙する

「御機嫌よう、シリウス様」


淑女の礼をとってシリウス様に挨拶をする。


「ようこそおいでになりましたロザリア嬢。ナージャ、この人がこの前話をしていた人ですよ。貴女に会わせたかったのです。」


「…そうですか。」


あれ?

シリウス様が話すとナージャ様が更に暗くなる…。


「どうぞ席へ座ってください。」


シリウス様に促されて席に座った。


「ロザリア嬢にお茶を。あと茶菓子も宜しく頼みますね?」


シリウス様がまるでここの主みたいにメイドに命じる。


なぜかハワード侯爵家のシリウス様が勝手に割り振るのかしら?


「なぜナージャではなく私があれこれ言うかですか?それはナージャの婚約者は私だからですよ。」


シリウス様に心を読まれて仰天する。


なぜ私の思ったことが分かったの!?


「…お嬢様…全部顔に出ています…。」


後ろでカムが残念そうにため息を吐いた。


「…。」


「ぷっ、あはははっ!」


シリウス様の大爆笑…。


「あははっ、流石はロザリア嬢!素晴らしい顔芸ですよ?あははははっ!」


未来の王子妃に対してこの不敬罪。


どうしてくれよう?…この男。


ムカついたのでテーブルの下にあるシリウス様の足を踏みつけようとしたら、避けられて逆に自分の足がテーブルの足に当たる。


「痛!」


「あははははっ、馬鹿ですねぇ?」


シリウスはわたくしの様子をみて更に笑いだす。


この嫌味男ぉ…!


この男に殺意が湧く。


「…随分と御二人は仲が宜しいのですね?」


シリウス様が爆笑している中、ナージャ様は的外れの言葉を呟いた。


はぁ?これの何処を見て仲が良いと見えるのかしら?


訴えようとして振り向くと、ナージャ様は今にも泣きそうな顔になっている。


このやり取りは彼女にとって苦痛なもの?


…もしかして…妬いているのかしら?


「ちょっとナージャ様、いいかしら?」


大笑いのシリウス様をカムに任せ、戸惑うナージャ様の腕を取り二人で廊下にでる。


部屋から少し離れたところでナージャ様に向き合った。


「ナージャ様、何か勘違いされていませんか?」


「勘違い…とは、なんですか?」


「だから、わたくしとシリウス様の仲の事よ?それって恋仲と仰りたいの?とんだ勘違いをしていません?」


「…違うのですか?」


やっぱり勘違いしている!


「当然でしょ?だれがあんな嫌味男など好むものですかっ!それにわたくしはルーベルト殿下の婚約者ですわよ?勘違いするのは止めて欲しいわ?」


カムが話す乙女ゲームの攻略対象者は皆顔と性格が良いらしい。


でもね、現実はそんな甘い訳ないわよ?


ねちねちと文句や嫌味を言う者がいるわ。女性の顔見て失礼に爆笑する者はいるわ。

甘い設定と違って、とんでもない奴らだ。


唯一真面目そうなルーベルト殿下は不思議な人で掴めない。

もう一人は会っていないから知らないけど、今の所わたくしに対して全員失礼な人ばかり。


こんな相手達と恋愛したいなんて絶対に思えないわ?


「シリウス様は嫌味な御方ではありません。でも…そうですか…私、勘違いしておりましたのね…。」


勘違いは納得されたみたいでいいけど、嫌味は否定しないでほしい。


「そうですよ。一体どこをみてそういう勘違いなされるのかしら?」

勘違いするなら、もっと甘々な雰囲気を醸すだろう。

でもそんな要素など微塵にもない。


「…最近、シリウス様は貴女の話ばかりされるんです。面白いものを見つけたと言って…。」


ナージャ様が申し訳なさそうにわたくしを見る。


面白いもの…それ、わたくしを笑う者にしている事だとご存知?


「それに、普段シリウス様が他の女性の名前を言う事なんて余りないものですから、好きな人ができたのかと思いまして…。」


婚約者の前で他の女性の名を言う…それはシリウス様が悪いわ?


「ご安心くださいませ。シリウス様はたまたまこちらの事情でほんの少し知り合っただけの仲ですわ。ナージャ様がご心配する程、シリウス様の事を知りません。」


真実を知って申し訳なさそうにわたくしをチラチラみるナージャ様は可愛らしいわ。

…悪い子ではなさそうね?


「失礼な態度をとり申し訳ありません。」


「別にいいわよ。わたくしも誤解が解けて安心だわ。」


謝るナージャ様にわたくしは微笑む。

悪役令嬢とはいえお互いに仲良く出来るほうがいい。


「では戻りましょう?」


「そうですね。」

「姉様」


誤解が解けて一安心と思いきや、突然後から男の子の声が聞こえた。

振り返るとナージャ様と同じ髪色と瞳の男の子がこちらを見ている。


「ナディル。」


ナディルと呼ばれた男の子はこちらに寄りニッコリと微笑む。


「姉様、お客様ですか?」


「そうよ。こちらはブロッサム公爵家のご息女、ロザリア様です。ナディルご挨拶なさい。」


「…ブロッサム公爵家!もしかして、貴女はあの第二王子の婚約者になられたロザリア様ですか?」


名前を聞くとナディルは突然わたくしに詰め寄り、目をキラキラさせて見つめてきた。


「ナディル、失礼よ!?」


彼はナージャ様に叱咤されて一歩下がり礼を取った。


「ああ、申し訳ありません。僕はナディル・カレントスと申します。お会いできて嬉しいです。」


綺麗な作法をとるナディル。

侯爵家の男子として立派だ。


「ロザリア・ブロッサムです。初めまして。」


見た目、とても賢そう…と思いきや、突然手を掴まれてしまう。


「さすが姉様、ブロッサム公爵令嬢と知り合うなんてこんな素晴らしいことはありませんよ!?」


……ん?


キラキラ目を輝かせて手を握ってくるナディルに腰が引ける。


利発的な子…と思ったけど、違う?


「ナディル、そのような事言って失礼でしょう?離れなさい!」


ナージャ様が叱る。

しかし彼は姉の叱咤に気にしていない様で話を続けた。


「しかも王家の縁がある公爵家!後ろ盾になって下さればハワード家など足元にも及ばないですよ?ぜひカレントス家と仲良くしていただきたい。」


…ミーハーな子…否、こういう子は今まで何度も見ているわ?


だって公爵家の繋がりが欲しい貴族なんて星の数ほどいる。


やはり子供でも貴族は貴族よね?


呆れた目で見ている中、ナージャ様がナディルを強制的に剥がした。

でも彼は反省してなさそう。

その証拠に、


「ロザリア様、今後とも姉と仲良くしてくださいね?では僕はこれで失礼します。夕餉にまた会いましょう?」


そう言って、ナディルは笑顔のまま立ち去った。


「…」


「弟が申し訳ありません…。」


まぁ相手は子供だから仕方あるまい。


「気にしていないわ?特に害はなさそうだし素直な子じゃない?」


普通はオブラートに包むけど、あの子はまだ分かりやすく伝えてくる。


でもナージャ様は首を振った。


「とんでもございません。あの子は父に似て家に利害があるか考える策士です。」


成程…素直でも裏があるという事ね?…油断は出来ないわ。


呆れているとまた誰かがわたくし達を呼ぶ。


「ナージャ、ロザリア嬢、こんな廊下(ところ)にいつまでいるんです?」


シリウス様だ。


「シリウス様!」


ナージャ様を連れ出して誤解を解いたけど、少し時間を掛けてしまったよう。


「あら、申し訳ありませんわ。あまりにもシリウス様の性格が悪いので、ナージャ様にどこがいいのか聞いていましたの。」


「おや?そうでしたか、それは失礼しました。でも性格の悪さで言うならロザリア嬢も負けていませんよ?」


悪魔の笑みを浮かべるシリウス様にカチンとくる。


それ、どういう意味よ!?


「ふふっ、それはどういう意味かしら?」


分からないわ?と可愛らしい笑顔で首を傾げる。

でも、この男にわたくしの魅力は分からないようだ。


「ご令嬢が紳士の足を踏みつけるという行為が悪いというか…いえ、悪いというより思考が幼児ですね?いや、すみません。僕が間違っていました。ロザリア嬢は性格が悪いと言うよりお子様令嬢ですね。」


爽やかな笑顔で返すシリウス様。

その笑みは悪魔の様に質が悪い。


「それも間違っているわよ!!」


この嫌味男!!


「ふふふっ」


二人が睨み合う中にナージャ様が笑う。


「面白くないわよナージャ様!」


「す、すみません。つい…。でも…ふふふっ。」


ナージャ様は笑いが抑えられず楽しそう肩を震わせていた。


「…楽しそうね?」


誤解が解けたから素直に楽しめるのだと思うけど…複雑だわ?


隣にいるシリウス様もわたくしと同じ様に呆れていると思って顔をみると、これがまた驚いた。


シリウス様は嬉しそうに口を綻ばせている。


「…会わせて正解でしたね?」


優しくナージャ様を見るシリウス様はまるで別人の様だった。


お読みいただきありがとうございます。



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