幕間 ロザリアの誕生日
怒涛の日から数日たった後……。
「お嬢様おはようございます。起きてください。」
「…。」
アリアが呼んでいる…でもまだ眠い…。
「お嬢様!起きてください。今日は大事な日です。」
「大事な…日?何なのよ…。」
天蓋のカーテンを開け必死に起こすアリア
折角ゆっくりしているのだから、もう少しゆっくりさせて欲しい。
「皆様すでに起きて食堂へいらっしゃいます。早く起きてください!」
「分かったわよ…。」
眠いけど何とか起き上がる。
アリアに急ぎ身支度をして貰い、食堂へ向かった。
「「ご誕生日おめでとうございます!」」
扉を開けると大きな声で迎えられる。
「なっ、なに!?」
食堂にはお父様とお母様、リリーだけじゃなく公爵家の上級使用人一同が集まって一斉に拍手をしている。
誕生日……そうか。
わたくしは今日で13歳になったのね。
「お姉様おめでとうございます。さあ、お席におつき下さい。」
リリーはわたくしに微笑む。
みんなに祝福され照れながら席についた。
「ロザリアお誕生日おめでとう。」
お父様とお母様にも祝福され嬉しいのだけど、朝からこの恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
「ありがとうございます。でも、こんな朝からお誕生会なんてどういうつもりですの?」
その言葉にお父様が少し苦い顔をする。
「…それは、本来なら盛大な誕生パーティーを開きたかったのだが、私が謹慎している最中だから大きくできないので…こういう形になったんだ。」
お母様はおどおどするお父様を軽く睨め付ける。
「…それだけではないでしょう?聞いてちょうだいロザリア。お父様ったら娘の誕生日だっていうのに、午後から領地の視察の予定を入れなさったの。それで午前中だけでもお祝いしようと誤魔化しているのですよ。…まったく!」
「ディジー!それは…言わない約束…」
焦るお父様に娘たちは容赦しない。
「まぁお父様、ひ・ど・い。」
「最低です。」
妻と娘たちに罵られて父はしょんぼりと落ち込んだ。
それをみて盛大なため息を吐くお母様。
そして両親のやり取りをみて笑う妹。
温かい家族の光景。
まさかこんな日が来るなんて夢みたい。
お父様も幸せそう笑う。
あれからお父様は謹慎期間だけ領地にいるはずだったが、出来るだけ領地から王城に通う事を決意した。
少しでもお母様と一緒にいる為に。
お母様も誤解が解けたお陰なのか、発作が緩やかになったと医師から話があった。
ほとんどお母様はベッドから離れられなかったけど、今はお父様に抱きかかえられて
こうして家族と一緒に食事をしたりしている。
二人が一緒に居る姿を見るのはとても嬉しい。
お母様の余命は正直短い…だから少しでも長くこのまま続いてくれることを願っている。
「お姉様、受け取ってくださいませ。」
リリーが小さな包み箱をわたくしの前に出した。
「何かしら?」
妹からのプレゼント。
開けてみると綺麗なハンカチが出てきた。
「綺麗なハンカチね?あら刺繍されているわ?」
“R,R”と綺麗に刺繍されている。
「ルーベルト殿下と婚約されましたから、お姉様と殿下の頭文字を刺繍したのですよ。時間がなかったので大したものではありませんが、婚約祝いと一緒にお祝いしたいと思いまして。」
受け取ってください、とリリーは微笑む。
…婚約…婚約者ね…。
妙に複雑な気分になった。
正直、ルーベルト様とあまり接点がないため実感が湧かない。
あんなに焦がれていたのに…何故だろう?
そういえばカムが言っていたわ?
ルーベルト様は婚約者であるわたくしに興味がなく、何かと理由つけて王立学園まで会わなかったそうだ。
わたくしは王子と会えずに不満だったらしいが、王子様から定期的に高価なアクセサリーなど贈られていた為、文句は言わなかったという設定だそうだ。
王子妃教育も学園卒業後で良いとお父様から言われている。
これもゲームの設定どおりとカムは言っていた。
「ロージィ、私たちからのプレゼントだよ。」
お父様はメイドに声をかけてプレゼントを持ってきてもらった。
メイドが持ってきたものは、細い黒革に小さな金の飾りが付いたブレスレットが二つ。
飾りにはブロッサム家の紋章が彫られていた。
「お父様これは?」
「これはね。ブロッサム家の紋章を入れた特注品だよ。私が家族全員の為に用意したんだ。ロザリアとリリーは学園卒業後に婚姻をして家を出てしまう。だから離れていても家族が一緒という意味でこれをにしたのだよ。」
離れていても家族と一緒…。
お父様とお母様の腕にこれと同じブレスレットがあった。
残りはわたくしとリリーの分。
「…ありがとうございます。大切にしますわ。」
どうしてかしら?こんな小さなプレゼントなのに、今まで貰った物よりもずっと嬉しい。
ブレスレットを一つ取り腕につけた。
リリーも泣きそうになりながら腕につける。
きっとわたくしと同じことを思っているのだろう。
「ふふ…ロザリア、実はルーベルト殿下からプレゼントが届いていますよ?」
「ルーベルト様から?」
お母様に促されメイドが大きな箱を持ってきた。
アクセサリーには大きすぎる…なんだろう?
箱を開けるとそこには……。
「……猪?」
大きい猪の縫いぐるみがあった。
高価なアクセサリーじゃない。
何故…猪?
「まあ、可愛らしい縫いぐるみですこと?」
お母様は縫いぐるみをみて嬉しそうに笑う。
「素敵なプレゼントで良かったな?…ああそうだ、言い忘れていたが、陛下からルーベルト殿下とロージィの婚約パーティーを王立学園に入る前に行うから準備をしていて欲しいと言われていた。」
「婚約パーティー?」
「そうだ。王家とブロッサム家が縁を結んだ事を貴族達にお披露目するそうだ。」
へぇ…まだ先の話だけど、王立学園入学の前にルーベルト様と会う事になりそうね?
「あと、ロージィとリリーに知って欲しい事がある。この封蝋の秘密をカムが知っていた事について話しておきたい。」
「そういえば、その事は気になっていましたが、カムが知っていたのはどう言う事ですの?」
あの時はそれどころじゃなかったけど…どうしてカムが当主しか知ることが出来ない事を教えて貰ったのだろう?
「実は、ロザリアが殿下に見初められなかった場合、カムがお前の婚約者になる予定だったんだ。」
え?寝耳に水…
「カムは私の仕事の補佐としてよく勉強してくれているから、ロザリアと一緒にブロッサム家の跡を継いで欲しいと思ったのだ。だが、お前がルーベルト殿下と婚約することになってその話は無くなった。」
「で、でも、お父様はわたくしにルーベルト様の婚約者になれと言っていませんでしたか?」
この話を切り出すとお父様は苦笑いになる。
その横でお母様が初耳だわと言わんばかりにお父様を睨みつけていた。
「…お前が7歳ぐらいだったかな?その時にあの御方と結婚したいって言っていたから、私が王家に頼んだが…覚えていないか?」
そうなの?
「そんなの覚えていませんわよ?誰かとお間違えでいません?」
「…そうか。ロージィはあの時の事を覚えていないのか…。」
お父様は急に真面目な顔をして何かを呟いた。
でも聞き取れない。
「?」
「いや、何でもない。話を戻そうか?」
お父様は取り繕う様に微笑む。
「この先いくら殿下が臣下となってもこの公爵家を継ぐかどうかがまだ分からない。万が一、彼が王太子になればロザリアが王妃になる場合がある。だから今度はカムをリリーの婿として跡を継がせるべきと考えた。」
カムをどうしても後継者にしたくて次女であるリリーの婿。
でも…
「でも、前々からマーカス侯爵から御子息とリリーの婚約話があって…その、まぁ…色々と理由があるのだが、二人は仲がいいし、グレン殿はリリーを大事にしてくれるだろうと思って婚約を許した。それでその話もなくなった。」
それ、一番大きな間違いだと思いますわよ?
グレン様にリリーを預けるなんて、リリーを処刑台に連れていくつもりかしら?
それならまだカムと婚約した方がいい。年の差はあるが許容範囲だろう。
・・・チク・・・
あれ?胸の奥がチクッと刺さった様な気がする…。
「それで私はまた考えたんだ。カムをブロッサム家の養子にして、後を継いで貰おうかと思っていている。」
カムが養子?という事は、わたくしたちの兄になる?
「既にクラベル家から了承も貰っておりカムから返事はまだ貰っていないが、その方向で話は進んでいる。二人もそのつもりでいてくれ?」
「ではカムさんを『お兄様』と呼んだ方が宜しいですね?」
リリーはカムが兄として納得している様だ。
カムが『お兄様』。
・・・チク・・・
あれ?また…何かおかしいわ?
カムの事なのに、何故か胸が痛いような気がする。
そういえば、朝から彼をみていない。
「…カムはどこ行ったのですか?朝から姿が見えないですけど…?」
「カムなら朝一で王都に出掛けていて昼前には戻ってくると言っていたぞ?」
居ない理由は父の仕事ではないそうだ。
何ですって?わたくしの誕生日にいないなんて…。
薄情な従者に苛立った。
さっきから胸がチクチクするし最悪な気分だ。…気分転換に庭に行こうかしら?
「すぐ戻ってくるから、今はお父様とゲームでもしよう?」
「少しお庭に出ていますわ。」
にこやかにお父様がチェス盤を持ち出しだけど、わたくしはそれを無視して食堂をでた。
場が静かになる。
「残念でしたね?グラジオ様。」
固まっている父をお母様が呆れてみていた。
・・・・・
「お姉様。」
庭のベンチに座って心を落ち着かせているわたくしの元にリリーが来た。
「リリー…。」
「急にどうかしたのですか?」
心配そうに見ているリリーから目を背ける。
「別に何でもないわ。」
そう、何でもない…。
カムとリリーの婚約話があったとしても、既に話は終わったことだし。
養子になってわたくしの兄になるといっても、まだカムは了承していない。
…あれ?どうしてこの事に、わたくしは拘っているのかしら?
「カムさんの話になって急にお姉様は顔色を悪くされていたので気になりましたが…。何か気になる事がありましたか?」
この子は鋭い。
わたくしの事をよく見ている。
「何もないわ!それよりもリリー、貴女本当にグレン様と婚約で良いの?」
あいつはヤバいわよ?断罪されるわよ?…と言いたい。考え直してほしい。
でもリリーは迷わず頷いた。
「はい。私はグレン様をお慕いしています。」
…本気でそう思っているの?
今のリリーが彼に恋しているように思えない。
どちらかと言うと、まだ兄妹愛のような関係だ。
リリーはにっこりと微笑む。
「そうですね…まだお父様達みたいな気持ちではありませんが、それでもグレン様は私にとって大切な人です。…それに…今度は私が守ってあげたいの…。」
リリー…?
リリーは一瞬だけ憂いた表情をしたけど、すぐに微笑む。
「お姉様、お兄様がお戻りになったようですよ?」
リリーに言われて周りをみると、カムが此方に向かって歩いている。
「カム!」
わたくしも立ち上がり、カムの方へ向かっていった。
・・・・・
「お嬢様…13歳になったのに淑女としてなっていませんよ。むやみに走ったりしてはいけません。」
会って最初の言葉はそれなの!?
「なんで居ないのよ?」
今日はわたくしの誕生日なのに!!
文句を言ってもカムは動じない。
「少し王都に戻っていただけですよ?お昼には戻ると旦那様にお伝えしましたが、聞いていないのですか?」
「聞いたわよ!」
ムカムカが溢れてきて、カムの胸をポカポカ叩いた。
「お父様に聞いたわよ?カムがわたくしの兄になる話!」
「ああ…その話ですか。」
「ねぇ本当なの?」
「俺が養子になるのは、あくまでルーベルト殿下が公爵家を継がない場合ですよ?基本はルーベルト様とお嬢様がブロッサム家を継ぐのですから、俺は補欠のようなものです。」
「…それって…カムはそれでいいの?」
補欠扱い。
カムがなんだか可哀相だわ。
「はい。ブロッサム家には恩がありますから。でも一応、養子になる返事はお嬢様が無事卒業出来るまで待って欲しいと旦那様に伝えています。…まずはお嬢様の破滅を回避することが大事ですからね?」
「むむ…。」
そうだわ。わたくしが悪役令嬢として断罪されてしまえばブロッサム家は破滅。
だから無事に学園を卒業しなければならない。
この先の事を案じる必要があると納得していたわたくしに、カムは衝撃な事を口に出す。
「それにお嬢様が王子様と婚約解消になった場合は、お嬢様と婚約するとお約束していますからまだこの先の事は分かりません。」
「…え?」
ルーベルト様と婚約解消になったら、カムと婚約…。
どうしてだろう?さっきまでのイライラが治まっていく…。
「…そ…そうなの?」
「まだ分かりません。とりあえずお嬢様の破滅を先になんとかしましょう?」
カムだけ澄まして何故か狡く感じる。
「破滅なんてするわけないわ!」
わたくしだって簡単に終わったりしない。
「当たり前です。ああ…そうだ。お嬢様、これをどうぞ。」
カムが手に収まるぐらいの白い箱をわたくしに差し出した。
「…何これ?」
「誕生日プレゼントですよ?」
プレゼント…。
箱を開けてみるとそこには髪留めが入っていた。
「今日、これを取りに行っていたのです。柄を指定して作って頂きましたから、完成に時間が掛かってしまったのです。遅れてすみませんでした。」
確かにデザインがとても凝った形の髪留め。
本物の花の様な形をした飾りはとても繊細で美しい。
カムがわたくしの為に?
「その花はカーネーションなのですよ?特殊品種の一つの花で『ロザリア』という名がついています。…受け取って貰えますか?」
…ズキン。
胸がいたい…だけど凄く温かくて嬉しい。
「あ、ありがとう…。」
「どういたしまして」
ニッコリと笑うカムの顔を見て段々泣きそうになる。
駄目…きっとこの気持ちは知ってはいけない。
わたくしには婚約者がいるから。
「…カムのくせにっ」
舌をべーと出して悪態をついた。
「お嬢様…段々幼児化していませんか?」
何ですって⁉︎
この後はいつもの様にカムに噛み付いた。
これ以上はこの痛みを知っていけない。
きっと抑えられなくなるから…
この気持ちを…知ってはいけない。
お読みいただきありがとうございます。
年齢について少し説明をさせて下さい。
ロザリアが婚約したのは誕生日を迎える前なので12歳、その時のルーベルト、グレン、シリウスは13歳
リリーは12歳という設定です。この4人はもうすでに誕生日はきています。
今回の誕生日の話は入れたかったので…。
次の話は一年たった後ロザリア13歳(14歳)からスタートになります。
多数のアクセス、ブクマ、評価頂きありがとうございます。
凄く活力になります。
本当にありがとうございます。




