悪役令嬢は望んだ夢をみる
どうやらリリーとグレン様は庭に出て話をしている。
塀の裏でわたくしは二人の動向を見守っていた。
本当はすぐにも止めに行きたい。
けど、後ろからカムがわたくしのドレスの裾を持っていて飛び出さないように捕まえている。
身動きが出来ない。酷い扱いだわ!
因みにシリウス様も帰らず横で覗き見をしている。
この人は面白がって覗き見をしているのだけど…。
そんな中、庭のベンチに座っているリリーとグレン様は2人の世界に入っている。
「…リリー、もう大丈夫?」
「はい。グレン様聞いて?私ね、お父様と話が出来たの。お父様が私達と一緒にいたいと言ってくれて凄く嬉しかった。ずっと…ずっと家族が一緒に居る事を夢みていたの。」
「リリーの願いが叶って良かったよ。」
グレン様が微笑むとリリーは笑って頷く。
「…私…ずっとこんな辛い思いをするのは、みんなお父様の所為としか考えていなかった。私は何もしないのに、ただ勝手に憎むだけ…そしてずっとグレン様に甘えていたわ。」
「…。」
「でもね?お姉様に言われたの。『大切なものを守りたいなら強くなれ』と。まだお母様はお父様を許すかどうか分からないけど、それでも私は家族と一緒にいたい。私は逃げずに立ち向かいます。皆で幸せになる為に…」
リリー…。
迷いのない笑顔の妹に目頭が熱くなる。
そんなグレン様は切なそうにリリーをみている。
「君は変わった…なら、きっともう大丈夫だろう。…リリー、俺はもういらない…?」
「そんなことないわ?私にとってグレン様は今でも大切なの。今までずっと支えてくれた…だから今度は私がグレン様を支えられるように強くなりたいの。」
リリーはハッキリと答えるが、グレン様はまだ辛そう。
「…あの従者にある事を言われたよ?…だけど俺は君を離せない。離したくない!!」
「グレン様?」
グレン様は思いっきり拳を椅子にぶつける。普通に痛そうだわ?
その拳にリリーがそっと手を触れると、グレン様はリリーの手を引っ張り抱きしめる。
「…君が全てを捨てて俺だけを見てくれたらいいのに。…そうしたらずっと俺だけのもの…リリーはずっと俺だけのものだ…。」
怖い発言。
空しい望みを吐くグレン様に恐怖する。
「ちょっとカム、これまずいんじゃないの!?」
ひそひそとカムの耳もとで言うと、カムも難しい顔をしている。
「確かにそうですが…この状況で飛び出して行ったら、今度は俺たちがグレン様に射殺されますよ?」
「そ、そうだけど…。」
メディに銃を向けた時の恐怖はまだ覚えている。
あの殺気が今度はわたくし達に向けられると思うと流石に躊躇してしまう。
「……。」
そんな中、一緒に覗き見をしていたシリウス様が去ろうとしている。
「ちょっとシリウス様、どちらに行かれるの?」
「…グレンに伝えておいてください。先戻っています、と。」
そう言ってシリウス様は屋敷へと戻っていった。
先ほどまで面白がっていたのにどうしたのだろう?
でも疑問に思う同時に、グレン様達に動きがあった。
「リリー…俺の婚約者になってくれる?」
「…本当に私でいいの?…いくら侯爵様が望んでいるからって、グレン様にはもっと素敵な人がいるでしょう?」
よく言ったリリー。
わたくしはガッツボーズをした。
そう、貴族の世界に子女は沢山いる。
その中で選んで欲しい。
でも彼は…
「言っただろう?俺は君を離せないと。君が嫌がろうと拒否はさせない…。」
グレン様は抱きしめている腕を緩めリリーの顔をみる。そしてそのまま顔に近づき…
「ちょっと待ちなさい!」
「お嬢様!?」
つい見ていられなくて飛び出してしまった。
カムが青褪めている。
「お…お姉様…?」
妹もこんなわたくしにきょとんとみていた。
「え…と…その…。」
出てきたのはいいけどうまく言い訳が出来ない。
カムに助けを求めるが、彼は「お嬢様はド阿保ですか!?」と小声で叫んでいた。
驚いたリリーとは反対に、グレン様は白い目でこちらを見た後ため息を吐く。
そして…
「リリー。」
「はい?」
呼ばれたリリーが返事した瞬間、グレン様はリリーの顎を挙げて唇を重ねる。
まるでわたくしに見せつけるように。
「!?」
「これで婚約成立だ。」
リリーを離して立つグレン様は不敵な笑みを浮かべた。
「む…む、無効だわ!!」
「リリー、また来る。今日はよく休んで?」
無効と叫ぶわたくしと真っ赤になって固まるリリーを置いて、グレン様は歩き出した。
彼が去る途中、カムに視線を向ける。
「…貴方が何と言おうと、俺はリリーを離す気はない。」
グレン様は速足で立ち去った。
「…闇が深そうですね…?」
カムはため息を吐く。
そんなカムを知らずに、わたくしはリリーの両肩を掴み問い詰める。
「リリー、本当にあんな奴でいいの?絶対にやめなさい!貴女にはもっといい人がいるわ?お姉様が何とかしてあげる。だから婚約を破棄しなさい!!」
「…えっとそれは…その…。それはそうと、お姉様たちはもしかしてずっと見ていたのですか?」
一方的に捲し立てるが、妹は冷静だ。
「う゛っ!?それは…。」
「ロージィ、リリーそんなところにいたのか?」
「お父様…と、お母様!?」
声をかけられて振り向くと、そこにはお父様とお母様。
その光景に目を張った。
病気で伏せて殆ど部屋から出てこられないお母様がここにいる。
それも、お父様を許せなかったお母様なのに、そのお父様に支えられている。
今まで離れていた二人が寄り添って私たちをみている。
その事実にこれは夢なのかと思えるほど驚いた。
リリーもその姿に驚いている。
「ロザリア。リリー。」
顔色はよくないけど優しく微笑むお母様が私たちを呼んでいる。
笑顔をわたくしに向けている。
「お母様!」
嬉しくなってリリーの手を取り、急いでお父様とお母様の所へ向かった。
そんなわたくしとリリーの頭をお母様は優しく撫でる。
「お父様と沢山お話しました。今までの事を正直まだ許せない事もありますが、わたくしもグラジオ様とやり直ししたい。…ロザリアとリリーと一緒に家族で…今度こそ一緒に暮らしましょう?」
「お母様…。」
「ディジー、ロザリア、リリー、今まで寂し思いをさせて済まなかった。これからはずっと一緒だ。」
「お父様。」
感極まって二人に抱き着く。
お父様とお母様は二人の娘を優しく抱きしめ返してくれた。
「ハッピーエンド…ですかね?」
ブロッサム親子をみるカムは嬉しそうに笑った。
こうして領地に入って怒涛の一日が終わるのであった。
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