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悪役令嬢は次々の出来事に唖然とする

「…奥様…どうして…?」


お母様が持っていた事に、フレッドは顔色を悪くする。


「…この一通だけ…小さい事だけど一言だけわたくしを気遣う言葉が書いてありました。…だから…これだけは残していたのです。」


小さい事だけど、お父様がお母様の事を気にしている。

そう思って捨てられなかったのね?


「見せて頂いても宜しいですか?」


カムはお母様の元に近づき手紙を貰う。


「…。」


カムは息を吐き私たちの方へ目を向けた。


「…やはりこの封蝋は奥様の封蝋で押したものですね。旦那様が持つ封蝋でありません。」


え?何が違うの?


「どうしてそんな事が分かるのよ?」


見た目は同じ形をした物。

掘った模様は違いすら分からない。


「実は、奥様が持つ封蝋の紋章は鷹の形がほんの少しだけ違うのです。この事を旦那様から聞いた時、俺も違いが分からなかったのですが、奥様の封蝋は鷹の紋様がほんの少しだけ違うのですよ?見てください。」


違いをみせる為、カムは父から封蝋を貰い。蝋を使って紙に紋様を作り出す。


手紙に押された封蝋と紙に押された封蝋は一見違いが分からない。

でも…


「鷹の翼が少し違うわ?…もしかしてこれのこと?」


「お嬢様、正解です。」


わたくしが発見するとカムが満足そうに頷く。


「そうだ。王族であった父から受け継いだこの封蝋は何かあった時に不正が分かるよう、わざと少し異なって造られている。これを知っているのは公爵を継ぐ人間だけ…だから妻は知らない。」


成程、封蝋が証拠になるといっていたのは、この事を意味していたのね。


王家から授かったブロッサム公爵家しかない大事な物。

これだけでブロッサム家がどれだけ権力を持っているかを示せる。


だから悪用したい者も必ず出てくるだろう…今みたいに。


「どうしてカムが知っているの?」


だって、公爵を継ぐ者だけしか教えてはいけないのでしょう?


お父様は困った様な顔をした。


「…当初はカムを…いや、その話は今度ゆっくりしよう。」


父とカムが苦笑している。


何?余計に気になるわ?



「…そうか…やはり無理でしたね。」


フレッドは諦めた様に肩を落とした。

そんな彼にお母様は動揺する。


「嘘…フレッド…本当に貴方が?」


「奥様…申し訳ありません。私は貴女を騙していた。そうです。旦那様の名前を使って手紙と毒を渡したのは私です。」


やはりフレッドが犯人だった。


その事にリリーが泣きそうな顔になる。


「どうしてこんな事をしたのですか?」


カムの問いにフレッドは静かに語る。


「…一番の理由は父上と長兄によって多額な借金を抱えたことです。…ここで生活をして半年ぐらいに父上が病に倒れました。その際に借金の事を知ったのです。」


キャンベル伯爵家四男のフレッドは嫡子ではない為、成人になった時に家を出たと聞いたことがある。

その時にブロッサム公爵であるお父様に拾われたそうだ。


「私と同じ様に家を出ていた次兄と三兄もその時に父達の愚かなことを知って、父達をどうするかを考えたのです。結果は父を医院に送り長兄を追放することに決めました。そして3兄弟でキャンベル家を立て直そうとしたのですが…。」


借金が余りにも多くて立て直す事が難しい。

三兄弟はすぐにでもお金を必要した。


「その時、レゼット男爵夫人がアポなしで現れて借金の肩代わりをすると申し出があったのです。…ただ…ブロッサム公爵様と夫人を仲違いさせる事を条件に出して…。」


「やっぱりレゼット男爵夫人が関わっていたのね…?」


フレッドがブロッサム家で働いている。

彼女はそれを利用しようとした。


『乙女ゲーム』の話だとレゼット男爵夫人はお母様が亡くなった後の継妻で、わたくしとリリーの義理の母になるそうだ。

ここまで手を伸ばしていたなんて、なんて狡猾な人だろう。


「そんな…フレッド嘘でしょう?…貴方がわたくしを騙していたなんて…」


「…奥様申し訳ありません…。」


お母様が大きくショックを受けていると、フレッド悲しそうに俯いた。

でも母の問いは終わらない。


「フレッド教えて?メディが言っていたの。グラジオ様はわたくしが持つフェロー家の財産と鉱山の権利書を狙っているから、今のうちに財産の後継人をリリーにした方がいいと…余りにも突然な話だったから不思議でしょうがなかったけど…それも貴方の仕業?」


フェロー伯爵家は一人娘である母しか子供はいない。


『フェロー家の祖父様が親戚から養子を取る事を嫌っていて、嫁いだお母様を財産の後継人にした。…もしかして、お母様だけでもお金が一杯持っているからフレッドは近づいた?』


金が欲しいから母に近づく。

そう考えるととても腹ただしい。


でも、それならなぜ後継人を自分ではなくリリーにしたの?


分らなくてフレッドの様子をみたけど、彼はなぜか困惑している。


「え…奥様、それはどういうことですか?確かにメディには手紙の工作を手伝って貰いましたが、奥様が持つ遺産については何一つ伝えていません。」


「え?…じゃ、じゃあメディは…」


ドンッ!


いきなり大きな音が部屋中に響いた。


何か?と思った時、フレッドの肩から血を流している。

フレッドはそのまま倒れた。


「フレッド!?」


「きゃぁぁぁっ!?」


父と母が声をあげる。


音の方をみると、入り口に片手銃を持った母の侍女メディがいた。


「メディ!!」


お父様の怒声にメディはにっこりと微笑んだ。


「撃たれたくなければ、動かないで手を挙げてください。」


銃口をわたくし達に向けながらメディは近づく。

そして素早くリリーの腕を掴み頭に銃口を向けた。


「リリー!」


「動かないでと言いましたよ?…でないとリリーお嬢様の頭に風穴が開きますわぁ?」


「!!」


リリーを盾にされて手が出せない。

みんなが悔しそうに立ち止まる。


そんな中、メディはお母様に微笑んだ。


「奥様、フェロー家の財産と鉱山の後継人をリリーお嬢様にすると書かれた書類に奥様の名を記入をして頂きましたが?」


「え…?も、勿論、したわっ。だからリリーを離して頂戴!!」


お母様が震えて答えるとメディはいやらしく笑う。


「ふふふっ。ありがとうございます。書類は既に王国領管理室にある。…もう誰も中身を変えれません。…うれしい。」


嬉しそうに笑うメディに鳥肌が立つ。


なぜ後継人をリリーにしただけで喜ぶの?


でも、すぐにその答えはメディ本人が教えてくれる。



「奥様は後継人の書類に書かれていた内容を全て覚えていますよね?あの書類に、万が一リリーお嬢様が亡くなった場合も記載されていました。…だからリリーお嬢様をお返しすることは出来ません。」


「どういうことだ!?」


また父が怒鳴る。

でもメディは怯えない。


「奥様は旦那様と旦那様の味方をしたロザリアお嬢様にご自分の財産を譲らないと言っていましたもの…。その後の財産はフェロー家の親戚へ譲って頂ける。殆どの計画は駄目になったけど、奥様はもう長くない。だから、これだけは絶対に成功させますわ。」


「メディ…?」


メディはいやらしい表情みから、切なげな表情へと変わる。

様子がおかしい。


「…リリーお嬢様には申し訳ありませんが、ここで死んで頂きます。」


メディは銃のトリガーにかけている指を動かそうとした。


リリーが殺されてしまう。


わたくしが絶望したその時、入り口の扉からまた大きな音が鳴る。


何が起きているの?

正直よくわからなかった。


前を向くと、片手銃が床に転がり、メディはお腹を抱え込むように倒れた。


肝心のリリーは、倒れるメディを見ながらへたりこんでいた。


リリーは無事だった。


良かったと思うのと同時に何が起きたのかと、音が鳴った方に顔を向ける。

そこにはバロン騎士達とグレン・マーカスがいた。


「なぜ…ここにグレン様と騎士団が?」


わたくしの問いに誰も応えないまま、騎士達は部屋の中に入ってきた。

騎士団員の一人がお父様に礼をとる。


「無断で立ち入ったことをお許しください。ブロッサム公爵様の緊急事態だと、ハワード宰相閣下の命により参上いたしました。」


お父様は辛うじて頷いたが現状を読めていない様だ。


お父様に挨拶した騎士団員はフレッドとメディに振り向いた。。


「フレッド・キャンベルに告ぐ。偽造罪及び危険物所持罪、偽証の罪により身柄を捕獲する。同じくメディ・メイデンに告ぐ。偽証罪及び傷害罪加えてリリー・ブロッサム令嬢殺害未遂の罪より身柄を確保する!」


騎士団員たちがフレッドとメディを拘束した。

その中でグレン様はリリーに近づく。


「リリー。」


「…グレン様…。」


グレン様はリリーを立ち上がらせて自分の腕の中に抱きこむ。

そしてメディが落とした銃をとり拘束されたメディに銃口を向けた。


「マーカス侯爵子息、お待ちください。彼女は取り調べする…」


「必要ない。その女は死罪だ。」


止める騎士団員にグレン様は冷たく言い放つ。


なに…この人?


凄く冷えた目。震える様な圧迫感を感じさせる空気。


同じ子供とは思えない程、グレン様から恐怖を感じる。


騎士達も同じ恐怖を感じているのか、誰も彼を止めない。


「…グレン様やめて?」


リリーもそんな彼に怯えているのか、青かった顔色は更に真っ青になっている。


グレン様は一度リリーに向き優しく目を細めるがそこに温かさはない。

そして再びメディへ視線を向ける。


「愚かにも俺のものに手を出した。…死んでくれないか?」


トリガーが引かれる…


「駄目です!」


カムがグレン様の腕を掴かむ。


「離せ!」


「なりません!」


グレン様はカムを睨むがカムも負けていない。


「リリーお嬢様の事を思うなら止めて下さい。それに…。」


カムがグレン様の耳に近づいて何かを伝える。


「ん…!?」


グレン様はなぜか酷く驚き、銃をもつ手を下ろした。

そしてカムから視線を外す。


「グレン様?」


リリーも聴こえなかったのか心配すると、グレン様は何も言わない。

ただリリーを強く抱きしめている。


どうやらメディを殺されず済んだ。


カムは安心した様で、騎士団員に向き頭を下げる。


「申し訳ありません。後は宜しくお願いします。」


騎士団員達は頷きメディを連れて行った。


「…終わったの?」


「…そうですね。色々と疑問が残りますが…取り敢えず終わったようです。」


カムが苦笑する。


「終わった、ではありませんよ?これからブロッサム家を陥れようとした者達全員を尋問して、事件の詳細を宰相と公衛大臣に提出しなくてはならないのですから。」


出入口の扉から1人の少年が現れた。


「お前が来たのか?」


グレン様は少年に声をかけた。


「『お前』とは酷い言い方ですねグレン?兄に依頼しときながら勝手に騎士隊を連れて行くなんて、後で貴方のお父上から叱られますよ?」


「知るか。逆に俺が動かさなければ、あいつは宰相や騎士団全員を罰する。有難いと思え?」


反省の色もないグレン様。

こいつ、随分好き勝手に言ってくれるわね?


案の定、少年もやれやれと呆れた表情をしていた。


「流石は天下の英雄様の御子息です。まあ、いいでしょう。ある程度調べがついたので。私が説明に来たのです。」


彼は此方に視線を移し爽やかに微笑む。


この人見たことがある。

お茶会でみたハワード宰相の一人息子…


「皆様ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。シリウス・ハワードと申します。お初にお目に掛かり光栄です。」


お読み頂きありがとうございます。


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