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悪役令嬢は家族の為に動く

善は急げと、わたくし達は急ぎ父の書斎に向う。


コンコンッ


書斎の扉を叩くと父自ら出た。


「ロージィどうしたんだ?それにカムと…リリーまで。」


「お父様にお話があるのです。今宜しでしょうか?」


お父様は娘たちの訪問に驚いていたが書斎の中に入れてもらった。


「…こんな時間にどうしたんだ?もうすぐ夕餉の時間だろう?」


「大事な話があって来たの。とても大切なことだからちゃんと聞いて?さぁリリー。」


リリーに促す。


「…はい。」


リリーは真剣な顔で前に出た。


「…リリー。」


「先にお父様から教えてもらえますか?定期的に来るお母様への手紙にどんなことを書いたのです?」


問われて父は思い出す様に天井を見る。


「手紙?そうだな…いつもどんな風に書いていいのか迷って結局同じことを書いていたな?『元気にしているか?』とか『体の調子は大丈夫なのか?』とか差支えのない内容だが…それがどうした?」


「お父様は、お母様に一度でも『お前がいて恥ずかしい』、『女しか産めないお前に失望した』と書いたことはありますか?」


リリーの言葉にお父様は目を張る。


「何を言っている?私はそんなこと一度も書いたことない。誰がそんな馬鹿なことをかくんだ!?」



やはりお父様は知らない。

憤慨する父にリリーは落ち着いた表情で話を続ける。


「お父様聞いてください。お父様から送ってきた手紙にはいつもお母様を貶す言葉が綴られていました。そのうえ、一度だけ手紙と一緒に毒薬が届いているのです。」


毒と聞いてお父様は真っ青な表情になる。


「そ、それはどういうことだ?毒薬だと?なぜ私の手紙がそのようなことになっている?リリーどういうことかちゃんと説明してくれ?」


父にせがまれ、リリーは送られてきた手紙の内容を父に説明する。



「…ほとんどが貶める内容です。そして初緑の月頃、お父様のお手紙の中から毒薬が入っていました。毒薬と分かったのはフレッドが手紙を疑って発覚したのです。母はとても絶望していました。」


「初緑…なら私ではない。あの女と治療薬を取引した時はその後だ。…まさかあの女がこの家まで?」


「旦那様、確かに関係はありそうですが、その毒薬を送ったのは彼女ではないとマーカス家の御子息が仰っていました。それに関係があっても、手紙にブロッサム家の封蝋を使用されているので彼女の関りある共犯者という可能性があります。」


父はこの家の事と城で起きた事をレゼット男爵夫人の所為と疑うが、カムがグレン様から聞いた話を説明する。

そして封蝋が使用されている事で共犯者がいる可能性を伝えた。


お父様は自分の指にはまっている指輪の封蝋をみる。それはお母様が持っている封蝋と同じものブロッサム家の封蝋だ。


「ブロッサム家の封蝋?まさか…リリーその手紙はあるのか?」


リリーは首を横に振る。


「いいえ。手紙は全てお母様が捨てています。…毒薬もフレッドが処理していて今手元にはありません。」


「…フレッドが?…でも封蝋の指輪はディジーだけしか…」


「旦那様、手紙がない今、急ぎフレッド・キャンベル氏を調べる必要があります。奥様の容態が芳しくない状況で公爵家の重要物を触れるのは彼以外いません。リリーお嬢様、奥様の仕事をサポートしていたのはお嬢様とキャンベル氏だけで間違いありませんよね?」


リリーは無言で頷くが、父の顔を見ながら口を開いた。


「お父様…お父様の本当の心を教えてください。本当にお父様はお母様を殺したいと思っていないのですよね?お母様を…私を…見捨てていないですよね?」


切なげな声。

リリーの想いが詰まった言葉に父は目を見張る。


「当たり前だ!!ディジーもリリーも私の大切な家族だ!ずっと一緒に暮らしたいと思っていた。今更と思うかもしれないが4人でもう一度やり直したいんだ!」


その言葉にわたくしは涙ぐむ。

お父様の口から初めて家族で一緒にいたいと聞けた。

それがどれだけ嬉しいか。


リリーは父の前で祈るように両手で手を握り跪いた。


「…お父様お願いです。お母様を助けてください。お母様はお父様がもう想ってくれないと嘆いていました。どんなに憎んでもお母様はお父様しかいません。…お母様の疑心を救ってください。」



娘のお願いに父は急に動き出す。


「分かっている。カム、妻の元に行くぞ?」


「旦那様!まだこの件には色々と奇妙なことが多数あります。まずはキャンベル氏を調べてからではないと…。」


「それなら猶更だ!まずは手紙の主を私ではないとはっきり妻に伝え誤解を解いておかないと。妻の傍にフレッドが居る今、何かを風聴されてディジーが変な気を起こしたらどうする?行くぞ!!」


お父様はそのまま出ていってしまった。


「ちょっと!カム、どうするのよ?」


先日の件も思ったが普段は冷静なお父様なのに、お母様の事になるとうまく判断が出来なくなるらしい。


「はぁ…親子と分かる瞬間ですね?取り敢えず俺たちも急いで向かいましょう。」


カムは溜息ついて動く。


気になる言葉だけど、今はそれどころではないのでわたくし達も続いて部屋を出た。


・・・・・


「フレッド説明しろ!」


母の部屋に着いた時、お父様の怒鳴り声が響いた。

中に入るとお父様が怒りながらフレッドに詰め寄っている。


「旦那様なにを?言っている意味が分かりません。」


「リリーから私が送る手紙が毎回ディジーを貶める内容だと聞いた。私はそんなもの一度も送った事がない。なのに、そんな手紙が届いている事を知っておいて何故報告をしなかった?」


「て。手紙ですか?」


「そうだ、しかも公爵家の封蝋が押されて届いていると。そんなことが出来るのは私かディジー、そしてお前だけ。お前が偽造しているのか!?」


怒り任せで迫るが、フレッドは分からなそうに首を振る。


「何言っているのですか旦那様、私はそんな事をしていません。」


フレッドは否定する横でお母様は傷ついた表情をする。


「…リリーが言ったの?」


母にとって目に鱗だろう。

でも、今は誤解を解く方が優先だ。


「毒が送られたことも聞いた。どうしてそんな重要な事を隠して…」


「その毒は貴方が送ってきたのでしょう?わたくしを病死にみせかけて殺すために!」


「そんな事、私は絶対にしない!!」


今度はお母様が叫ぶが、お父様は怯まない。


「どうして愛する妻を殺さなければならない?確かに私はお前の苦しむ姿を見ていられなくて逃げた。大臣の位を持っていてもお前を救えない事で、不甲斐なさに目を逸らしてしまったが、でも…いつかお前と娘たちと一緒に暮らせる日を諦めず必死に薬の情報を集めていたんだ。またお前の笑う姿を見たくて…ずっと…。」


そう言いお父様は悲しそうに俯けた。

するとカムが前に出る。


「奥様聞いてください。確かに旦那様は奥様が愛人と思っているレゼット夫人に奥様の病を治す薬があると騙されていました。でも、彼女から毒を受け取る前に彼女は第二王子によって逮捕されています。旦那様は一度も毒を手に入れていません。毒薬を送るなんて無理があります。」


「…え?」


「そうよ?わたくしもそこに目撃したもの!嘘じゃないわ。」


わたくしとカムが証人。

そしてルーベルト様が何より父の無実を証明してくれる。


その事を伝えるが、母は耳を塞ぐ。


「嘘よ!!」


お母様はわたくし達の声を聴かない。


「お母様…。」


「貴方達の話なんて嘘だわ!今までわたくしを無視していた癖に!…リリーそうでしょう!?貴女はわたくしがどんなに辛い思いをしていたのか知っているわよね?なのに、お前までお父様の味方をするの!?」


お母様はリリーを責める。

でもリリーは怯まず静かな声で話し出した。


「…私もその話を聞いて信じられませんでした。お母様をずっと苦しめ続けていたのに、今更戻ってきて何を言っているのだろうって…。」


リリー言葉に母は縋る目に変わる。


「そうでしょう?自分の事を棚に上げて、ずっとわたくしの面倒を任せたフレッドを疑うなんて、どこまでわたくし達を貶めれば気が済むのかしら。」


憎しみに満ちた目をお母様はお父様に向ける。

だけど、リリーがそれを遮った。


「でも、もうお父様は私達を『大切な家族』だと言ってくれました。一度やり直したいって言ってくれたのです!今まで聞きたかった言葉を私は聞けたの!!」


リリーが声をあげる。


リリーにとって一番聞きたかった言葉。


母に訴える強い目は初めて心から父を信じている。


それにお母様は少し逃げ腰になった。


「…貴女は騙されているのよ?」


リリーは首を横に振った。


「いいえ、騙されていません。私は間違っていました。何もしないでただ現状を耐えるだけ。手紙が届いた時に無理にでも父に聞けばよかったのに。毒薬だって、すぐにでも問い詰めていたらもっと早く父を知れたのに何もしなかった。ただ勝手に一人で嘆いて…それでは駄目だったの。」


「リリー…。」


この子は自分の弱さに後悔しているが、何かが変わった。

その変化が分かる。


「私の望みは家族が一緒に居る事。だからお父様を信じたいの。お母様も私と同じ気持ちでしょう?酷い手紙と知っていて尚お父様の手紙を必ず読んでいた。本当はお母様もお父様を少しでも信じていて、ずっと待っていたのではありませんか?」


母の傍に居たリリーなら尚、お母様の気持ちを一番理解している。


怒っていたとしても、お父様を無視できなかったお母様はいつもお父様を待っていた。

心のどこかで違うと否定していたのではないのか?


お母様とお父様はお互いを見つめ合う。

まるでお互いの気持ちを確かめる様に。


「だからこそお母様を騙そうとした御方を知らなければなりません。どうしてお父様達を仲違いさせようとするのかを問い、そして止めさせましょう?」


リリーの説得にお母様は段々と泣きそうな顔になる。


「リリー…でも、手紙は公爵家の封蝋がされていたわ。これを持っているのは私とグラジオ様だけ。これは特殊な素材で出来たもので、決して複製ができないのよ?…だからあり得ない。」


お母様は首にかけている指輪の封蝋を見る。

そこへカムがお母様に声をかけた。


「奥様、今マーカス家の御子息がこの件を調べて貰っています。すぐにとはいきませんが、旦那様を疑うのはもう少し待って貰えませんか?」


「マーカス侯爵様の子が?」


「!?」


カムの言葉を聞いた途端、母の横でフレッドが反応した。


「はい。リリーお嬢様より王城で旦那様とレゼット夫人をみたという奇妙な話をお聞きしましたので、その辺を城の者と調べて下さっています。あ、フレッド様。貴方はリリーお嬢様と王城に行ったそうですね?そこで御二人は旦那様を見たと。その人は本当に旦那様でしたか?」


「…覚えていません。」


フレッドは覚えてないと言い張る。

でもカムは諦めていない。


「覚えていない?では質問を変えます。リリーお嬢様にこの件を内密にしてほしいと言ったそうですね?それはなぜですか?」


「待ってください。確かにリリーお嬢様にお願いされて王城には行きましたが、旦那様を見ただけでそれだけですよ。それが何の問題ですか?」


疑われてあたふたしているフレッド。

もうこの人が犯人しか思えない。


「…そこは問題ないです。でも一つだけ気になっている事がありますね。…フレッド様、毒薬が送られたとき、すぐに毒薬と分かったのですか?」


お母様が毒薬を持った瞬間、フレッドに毒だから触るなと止めたらそうだ。

普通の執事が公爵の毒味係を通さずに分かるなどおかしい。


「…そ、それは、旦那様の手紙がいつも奥様を傷つけることばかり書いてあったので疑っただけです。それに奥様も言っているではないですか?手紙は全て公爵家の封蝋が押されていたので、旦那様を疑うのは仕方ないでしょう?」


「その毒を処理したそうですが、何故王都の執事長に言わず勝手に判断して捨てたのですか?」


「それは当然隠すためですよ。旦那様が毒を送って来たなんて世間に知られたら公爵家はどうなるのですか?奥様はここでしか生きられないのですよ?第一、私を疑っているようですが私がやった証拠はあるのですか?」


「手紙の封蝋ですよ。公爵夫妻以外で触れることが出来るのは領主補佐である貴方だけです。」


そう。娘であるリリーでさえ触れない封蝋。

それを触れるのは母の補佐であるフレッドだけ。


でもフレッドは顔色を変えない。


「手紙の封蝋ですか?手紙は奥様が全て片づけて現物はないのに、確認できないのでしょう?それで私を疑うのはよしてください。」


確かに手紙はない。だから証拠がない。どうしたら…。


「手紙ならありますよ。」


「「え?」」


皆が一斉にお母様を見た。


「手紙ならあります。ここに…。」


お母様はサイドテーブルの引き出しから一通の手紙を取り出した。


お読みいただきありがとうございます。


ロザリアの存在感が…と思いますがロザリアは物語の後半からメインになりますので他の悪役令嬢達の回ではどちらかと言うと存在感薄いかも…。

前半はカムが主役ぽいです。

学園までの大体の話は三人の悪役令嬢のフラグ回避の話になりますのでまだまだ続きます。

こんな物語ですが何卒よろしくお願いします。

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