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14 世界樹の書庫

 

「はむ♡ はむ♡ はむ♡」


「さっき、いっぱい食べてなかったっけ……?」


 リリカの食べっぷりに呆然とする。


 両脇のシャルとトカゲさんも同様の表情をしている(ちなみにロラマンドリは、サラどもは『こめかみぐりぐりの刑』に処してやったわ! と得意げな顔で戻ってきた)。


 僕たち四人は、パイを売っているお店の軒先でテーブルを囲んでいた。


 テーブルの上にはバスケットが置かれていて、その中には黄金色をした小型のパイがぎっしりと詰まっていた。ふっくらと焼かれたそのパイからは、たしかに食欲をそそられる香ばしい匂いが沸き立っていた。こんなにたくさんのパイをヴルカン村で買おうとしたら、けっこうな金額となる。


 精霊の里独自の通貨があるらしいが、店主の精霊は僕らの顔を見るなり「お金はいらないよ」と言って注文を受けた。もしかしたら精霊の長が取り計らってくれたのかもしれない。何から何まで、感謝しかない。


「いっぱい食べる女の子のほうが好きでしょ? ユーリィくんも。はむ♡」


「は? いや、そんなこと……あるのかな?」


 たしかに、妹のマリィが口いっぱいにパンを頬張って喜んでいる姿を見て愛らしさを感じたことはあったかな……いやでも、それは好き嫌いという見方じゃないような気もするし……。


 うーん、と顎に手をやり思案する。


 それを見ていたシャルとロラマンドリが、


「わたしもお腹減っちゃったかな。えっと、おかわり」

「偶然じゃな人族。我もだ。二つもらおう」


 バスケットの中から小型のパイをそそくさと手に取って食べ始める二人。


 お腹、そんなに減ってたんだ?


   *  *  *  *  *


 食欲を満たし大満足した僕らは、書庫へと向かった。


 リリカとの約束を果たすためだ。


『影』の情報を教えてもらう代わりに、精霊の知識の源泉ともいえる場所。


 そこは他の建築物と同じく、大木をくりぬいて作られていた。


 しかしその規模がものすごい。世界樹がもっとも大きい植物ではあるが、その半分近くはある。この木の内部に空間をつくり、書籍を格納しているとしたら、たしかに叡智の集大成と言っても過言ではない。


「これは……想像以上だわ……」


 内部の天井の高さも尋常ではなかった。


 唖然となってつぶやく青毛の少女。


 たしかに応接室とはくらべものにならない。中央の空洞を取り囲むように、何百……いや、何千という書架が整然と並んでいる。


 ずらっとならぶ書物、その一番近くの棚に向かい、何気なく数冊引き抜く。


『精霊界に干渉する魔術のすべて』『車輪という革新』『リアード伯爵による英雄史』。


 そのうちの一冊を手に取り、パラパラをめくってみる。精霊文字がびっしりと刻まれている。これは……あとで時間がたっぷりとあるときに読もうかな。うん、そうしよう。


「すごい……。ええっと……これは『新・精霊体解明図 第一巻』か。げ!? 全部で百三十六巻もあるじゃない! いったいどれだけ秘密抱えてるのよ!!」


 リリカは嬉しそうに書架をあさる。その顔は、街の道具屋の売り場一面に自分の好きなおもちゃをみつけた子供のようだった。


 書架の横に備え付けられた植物製の小さな看板のようなものを興味深けに見入ったあと、彼女はやけに無邪気な笑顔をユーリィに向けて、


「ねえ、すごいよ!! 全部アナログな施設だから、目的の本を探すの大変だろうなーって思ってたら、この隣にある板、検索システムになってる! 精霊さんの術式かなんかで動いてるんだ! すごーい!」


 小さな看板からは、樹液のようなものが浮き出て板の表面に文字を記し始めていた。おそらくは声に反応して希望の書籍がどの辺りの書架にあるかを教えてくれているのだろう。精霊にとっては造作もない方式のはずだ。


 僕は興奮しているリリカへ愛想笑いを返す。


 楽しんでいるようで何よりだった。



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