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4 勇者たちの敵情分析

 深夜。


 オティーヌ王国の最高級来賓室のベランダに、虹色の飛翔体が着弾した。


 しゅうしゅうと煙を上げているその飛翔体の正体は、シルヴィア王国から帰還した聖騎士アヤメだ。


 彼は無言でベランダから室内に入り、来賓室をそのまま通り過ごして中央の会議室へ向かう。


 アヤメが会議室に入ると、ラウンドテーブルには豪華な食事の皿がいくつも広げられていた。オティーヌの使用人が出したのだろう、食欲を刺激する良い匂いが一仕事終えたアヤメを誘惑する。


 その内容を見ると、中央の巨大な皿には豚の仲間であろう丸々太った動物の丸焼き、その周りには淡水魚を油で揚げ香辛料をあしらったもの、パスタのような麺にクリーミーなスープをかけたもの、骨付き肉にトッピングでじゃがいもを添えたもの等々、様々なアラカルトディッシュが取り囲む。さらに外周にはカラフルな色味の野菜を綺麗に盛り付けたサラダ、いろんな形をしたパン、それに塗るバターなどが並んでいた。


 よく見ればほとんどが現実世界とはすこし異なる食材だが、ノアのドローンの解析によってすべて人体への害がないことがわかっている。


 深夜にも関わらず大柄な影はがつがつ食べている。小柄な影は最小限ですましているようだ。

 アヤメも無言でラウンドテーブルにつく。近くにあった色鮮やかな果実水を手に取る。軽く口をつけたあと、二人の食事が終わるのを待つ。


「おいアヤメ、こっちの食いモンもなかなかいけるぞ。しかも食い放題だ!!」


 手元にナプキンをたぐり寄せ、口元をぬぐう大柄な影。

 小柄な影も豪華な食事に手を伸ばしていたが、もう満足したのか、果実水を飲み干してアヤメへと視線を移し、


「どうだった?」


 何かしらの成果の確認をした。


「これだ」


 アヤメは懐から過剰なほどの装飾が施された箱を取り出してラウンドテーブルに置いた。


「シルヴィアの地下宝物庫に保管されていた。中に入る扉は厳重に封印されていたが、俺の剣でその封印を破って手に入れた」


「そこにたどり着くまでに、実力行使は?」


「無論やった。守護獣とかいう巨大な虎の化け物と、王直属の親衛隊を排除した。宝物庫までは王に案内させた」


「ならこれでシルヴィアもコンプリートだね」


 ヴィ――――ン、という高い機械音が鳴り、天井付近からドローンが数体降下してくる。アヤメ以外の三人で会議をしていたときのように、ドローンが投影モードに切り替わってラウンドテーブルの直上にこの世界の3Dマップを映し出す。


 そこには、シルヴィア王国の場所も記されている。ノアがポータブルデバイスを操作すると、シルヴィア王国の色が変わった。支配下に置いた証だ。


「これで九一%、と……そして」


 ノアは目の前の過剰な装飾が施された箱を見る。


「これで三つ……か」


「残りもすぐに集めきる」


 目の前の大皿が空っぽになり、つづいて骨付き肉をかじり始めた大柄な影は、


「てかよ、せっかく『アヤメく〜ん』が帰ってきたのによぉ、今度はあの女がいやがらねえ。いつになったら全員揃うんだよ、ったく」


「……それなんだけど」


 小柄な影、ノアが神妙な顔つきでポータブルデバイスをタッチする。

 ドローンが世界マップ投影をやめ、軽く旋回し次の指示を待つ。


「アヤメさんが帰ってくるのを待ってたんだ。二人に見せたいものがある」


「はあ?」

「……」


 訝しむ大柄な影とアヤメ。


「今から映像を映し出す。それを観ながら、ボクの報告を聞いてほしい――あむ」


 小柄な影が、豪華な骨付き肉にトッピングされたフライドポテトのようなものをひょいとつまみ、口の中に放り込む。


「この世界に『魔王』が現れた」


 ポテトを咀嚼しながら、真剣な表情で語るノア。


「リリカさんが、帰ってこないのはそいつに殺されたからだ」


「なにい!?」

「殺された……?」


 大柄な影が骨付き肉を皿に落とす。アヤメも驚きを隠せない。

 二人の反応を待っていたかのように、ドローンから映像が投影される。


 それは、賞金稼ぎギルドの館の中、リリカがユーリィにとどめをさそうとしたところから始まっていた。


   *  *  *  *  *


 ――「――ぶっころす」

 ――「お前にはもう近づかない。遠くから始末する」

 ――「ほんっと、キミって最悪だったわ。キミもわたしと似たような蘇生魔術をかけていたのよね。ほんっと、忌々しい。でもあれって一度がけしかできないし、もううかつに近づかないわ」

 ――「でもでも。念には念を入れて、キミは殺さない。また復活されるとやっかいだし。だから、殺さずに永久にそこへ封印しておくわ。さっきの戦い方を見ても、怪力すごーいとか、瞬間移動ビューンとか、できなそうだし」

 ――「じゃあねー、ばいばーい!!!!」

 ――「永久封印の魔術『えいえんにぬけだせない100』!!」


   *  *  *  *  *


 リリカがユーリィを倒したと勝利宣言をした矢先だった。

 彼女は背後から不意打ちを喰らう。


   *  *  *  *  *


 ――「え……?」

 ――「あ……え……なんで……?」

 ――「私たちは、絶対に、手加減、しない」

 ――「そ、それを返せ……!!」

 ――「地獄で会いましょう」

 ――「返せええええええ!!」


   *  *  *  *  *


 リリカがシャーロットにとどめをさされるまで映像投影は続いた。


 大柄な影が、クリームパスタのようなものを引き寄せようとしていた手を止め、今までの嫌味で軽薄そうな態度を一転させる。集中して映像を確認しながら、


「これ、あれだな。とどめを刺したのは『魔王』とやらじゃなく、そいつのちぎれた腕を持った女のガキのほうだな」


「そうなるね。でもこの『魔王』ってやつが主謀してるのは間違いないよ」


 手を顎にやり、無言で思案していたアヤメが口を開く。


「この、リリカと相討ちになった男は……あれでまだ生きているのか?」


「うん。あのあと息を吹き返したのを確認してる」


 大柄な影が感心したように、


「マジかよ……。ふつーのガキに見えるけどよ……」


「つまり不老不死……アンデッドか?」


 アヤメが再び呟く。


「げぇ、アンデッドの魔王かよ……気持ちわりいな。つーかでも、人を撃っても撃っても死なないってのもそれはそれでアリだな。FPSのゾンビモードみたいなもんだ」


 大柄な影が腕組みをして嘯いた。


「もうわかったと思うけど……この魔王ってやつが、今このタイミングで復活したらしい。そして、ボクたち『影』を探して殺そうとしている。調査したところによると、数日前にリーバイン城付近の関所で目撃され、この世界における『賞金首リスト』にすぐ登録された」


 ノアは片手にポテト、片手でポータブルデバイスを操作しながら続ける。


「ええと……魔王曰く、『愚かな影どもに、真の支配者は誰かを分からせるため復活した』んだそうだ」


「フッ……ククク……真の支配者か」


 アヤメが果実水に口をつけながら、嘲笑した。


「あー、ちょっといいかノア。いまのタイミングだからついでにききてーんだけどよ。そもそもなんだが、オレたちが転生してきたこの『異世界』ってところには、魔王とか普通に存在してたのかよ? そもそも『設定』的にはどうなってたんだよ、そのへん」


 大柄な影は食事を終えたようで、どこからか銃器を手元に出現させて、メンテナンスを始めた。スコープを除いたりマガジンの着脱を試したりと忙しい。


 彼の質問を受けてノアはすらすらと、


「この世界の技術レベルは中世ヨーロッパ程度と考えていい反面、魔族や魔術が当たり前に存在する。だから、神や魔王が存在していてもおかしくない。オティーヌの古文書や吟遊詩人、宰相たちの補完する歴史書によると、『魔王』は五〇〇輪廻……つまり五〇〇年前に姿を消して以来、今まで出現してないみたいだ」


「なるほどな。存在自体、いるにはいたと。そんでつまりこのタイミングで出てきたってことは、やっぱりオレらを狙ってるってことか?」


「狙って現れたのか、それとも偶然タイミングがあったのか……それはわからない」


「この世界の宗教観を知りたい」


 報告するノアを遮るように、アヤメが問う。


「まず、ボクらの元いた世界と同様に、善悪両方の神がいる。善なる神は、天界からやってきたアーシア神という女神がいるらしい。これが最大派閥。アーシア神にはお付きの使徒……つまり天使のような存在も十二体いる。それと別宗派としてマイナーな神様もチラホラいるね。オティーヌが信奉するティルトー神がそれに当たる」


「ふむ……」


「ただ、これはボクらがいた世界と同じだけど、神様を見たことがある人はすくなくとも今の時代にはいないっぽい」


 三本目のポテトをつまみあげ、ノアが続ける。


「次に悪なる神は、魔族を眷属として従えている。地下の奥深くに潜んでいて、この世界に飢饉や災害が起きた時の原因として考えられているようだね」


「その悪の神ってのが魔王なのか?」


 今度は大柄な影がノアに問うた。


「いや、魔王はあくまで魔族の頂点。悪神はその上に位置する高位存在みたいだ」


「ほーう、まぎらわしいな、ひとまとめに『悪いヤツ』でいいんだけどよ」


「どちらにしても問題ない」


 アヤメがノアからの報告に薄い笑みを浮かべながら、


「すべて、叩き潰す」


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