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15 最強の魔術師 その②

 建物の中は、殺伐という言葉がぴったりの雰囲気だった。


 身体中に傷のあるいかつい男や、様々な武器を斜め掛けした痩身の青年、でっぷりと太っているが眼光鋭く一筋縄ではいかなそうな中年など、腕に覚えのある人々がこちらをギロリとにらんでくる。


 そう、ここはクリーンな冒険者ギルド(仕事斡旋所)ではなく、お尋ね者を探して殺し、報奨金をもらう『賞金稼ぎギルド』だ。当然その方法は手段を問わないことの方が多いため、違法すれすれ、もしくはお尋ね者よりも悪意をもっている輩もいる。


 ヴルカン村にいたころは、街の出稼ぎから戻ってきた大人たちからそういう噂を聞くたびに、興奮して夜も眠れなかったことを思い出す。


 実際に、僕がそこに足を踏み入れることになるなんて……。


 僕と幼馴染の少女は、入った途端に店内の無頼漢たちから訝しい目で見られていることに気づく。顔を隠し、すっぽりとローブで覆った怪しいぼろ布姿と、年頃の可憐な少女が二人で賞金稼ぎギルドの門をたたいたのだ。無理もなかった。


「(周りの目は気にしないで。受付までまっすぐ歩こう)」

「(う、うん!)」


 シャルを鼓舞させながら、僕らはギルド店内の右手前、受付に向かう。


「いらっしゃい。……何の用?」


 受付に立つ妙齢の女性も、怪訝な表情で用件を訊く。


「賞金首の一覧が見たい」


「……はいよ」


 商売だから仕方ないわね、といった感情まるだしのしぐさで、渋々手帳をよこしてきた。

 羊皮紙に書かれたそれは、いまお尋ね者として掲げられている人物がまとめられている。


「(ユーリィ、これ)」

「!」


 さすがは、情報が命の賞金稼ぎギルドだ。すでに最新情報として、『復活した魔王』がお尋ね者として記載されていた。


『魔王曰く、「愚かな影どもに、真の支配者は誰かを分からせるため復活した」』とある。


 あの青年兵士は律儀に一言一句広めてくれたらしい……。しかし、そこ以外は曖昧なもので、『情報求む』と書かれている項目がほとんどだった。


 引き続き、人物表一覧をめくっていく。


「見つけた」


 リーバインを襲った『影』の記載も当然、あった。


 僕は受付の女性に向かって、


「あの、この賞金首の情報はありませんか?」


「……あんた、本気?」


「ええ。わかる限りすべてのことを知りたいんです」


 じろじろと僕を品定めするように見たのち、フー、とため息を吐く受付の女性。


「あのね、うちも暇じゃないの。常連でもない一見(いちげん)のあんたにそこまでしてあげる義理はないわよ。どうせ一攫千金狙いで田舎から出てきて職にあぶれた若い衆かなんかでしょ、あんた。腕がありそうにもみえないし。他を当たんな」


「いや、でも……」


「おい! 館主の姐さんが困ってるだろうが! ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ!!」


 すぐ近くの丸テーブルで酒を飲んでいた男の一人が、聞き耳を立てていたのだろう、話に割り込んできた。館主ということは、受付の女性がこのギルドの責任者なのだ。


「そこまで強く言わなくてもいいわよ、ダイアン。ほら、わかったなら帰んな」


 どうする!? ここまで来て収穫無しは……。


 と、悩む僕の横に立つ幼馴染の少女が前に出て、誰からも見えないように、こっそりと女館主に小さな袋を差し出す。


「……?」


「開けてみてください」


 女性が開けると、中にはリーバイン銀貨が三枚入っていた。


「!!」


「(シャル、これ……!)」


「(私が今まで奉公をして稼いだ全財産。今使わないでいつ使うの? そうでしょう)」

「(そんな……!!)」


「(もうユーリィが近衛騎士団の試験に挑むこともないし、私がそれについていくこともなくなった。それより何より、リーバインにもう来ちゃってるわ)」


 ――貯めたお金は、いざというときに使うためにあるのです。


 まだヴルカン村が健在だった頃。アーシア神さまの降臨祭の終わり際、シャルは照れ隠しのようにそう言った。


 確かに、もう僕が近衛騎士団の入団試験を受けることはないし、それにシャルがついてくることもない。だからって、あのお金がこんなかたちで使われるなんて……。


「(復讐が終わったら、利子付けて返してね)」


 そう軽口をたたく彼女だが、その約束は果たすことはできない。

 なぜならシャルは僕らの復讐が完遂すれば、闇の神との契約で、命を失ってしまうからだ。


 僕が様々な感情を巡らせながら言葉に詰まっていると、

 女館主は機嫌良く銀貨をしまいながら、小さな声で耳打ちしてくる。


「そうね……今から話すことは誰にも言ったことないからよく聞きな。リーバイン城から逃げ延びたメイドから死に際に仕入れた情報さ」


「はい……!」


「どうもやつらは、オティーヌ方面から来たらしい。そして、リーバイン城で何かを探していたそうよ。おそらく王家の秘宝、オリジンセルを狙ってた」


 オリジンセルとは、太古の昔、アーシア神さまが天地を創造されたさい、基にした万物の根源のことだ……と、教会の創世記の授業で習った。


 リーバインには、世界に七つあるオリジンセルのうちの一つが秘宝として祀られているという。その秘宝をアーシア神に仕える天竜から授かったからこそ、古きリーバイン卿はこの地を平定できたともいわれている。


 しかし、そのオリジンセルが狙いだとしても、『影』は他にもあらゆる土地を破壊しつくしたはずだ。ほかならぬ僕の村も。だとすれば、それだけが目的ではなかったということだろうか。


 引き続き、女館主の話に耳を傾ける。


「あいつらは、どうやら秘宝を手に入れたみたいよ。そうして、メイドが言うには、その次に―――ぐっ!!」


 が、その瞬間、女館主が白目をむいて倒れてしまう。


「!! ど、どうしました!?」


 僕は受付に乗り出すように様子を窺う。


 しかし女館主は口から血を流したまま、ピクリとも動かない。……どうやら事切れているようだ。


 大きな音を立てたため、ギルドにいた男たちも受付に注目する。


「な……!」

「おめえ、いったいなにやったぁ!?」


 騒然とするギルド内。いっせいに男たちが立ち上がる。

 僕がなにかやったといわんばかりの顔つきだ。


「違う、僕じゃ――」


「箝口封殺の古代魔術か」


「へ? わっ!?」


 いきなり、僕の懐から声が!?


 驚く僕を尻目に、懐から小さな四足歩行の小動物が飛び出してきた。


 僕の肩まで移動したそれは――。


「トカゲさん!? まさかずっとついてきてたの!?」


「話はあとだ。『影』に察知された。くるぞ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] この切り方はずるいw 格好良すぎる。 ド正面から必殺技を決められた気がして、つい書き込んでしました。大変、coooooooolでした。 主人公・勇者勢ともにまだ能力の全容が見えていない…
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