10 勇者たちの異世界攻略 その①
現代日本、とある中学校の休み時間。
隣同士の男子と女子の会話だった。
「あの……プレイヤーの音、漏れてますよ。たぶん鞄の中」
「え? あ! ほんとだ、ありがとう。よくやっちゃうんだよね、プレイヤーの止め忘れ」
「今の曲……『ジュディー・アンド・マリー』?」
「え!? まさかキミ、いまの聴いただけでわかったの?」
「う、うん。だって――」
「だって?」
「(その曲、過去の名作アニソンで有名だから)」
「……?」
「な、なんでもない。たまたま、ちょっと、ね」
「ちょっと古いバンドだし、なかなか知ってる人が私の周りにいなんだよね! なんかこんな偶然、嬉しいね!」
「そ、そうかな」
「もしかして、他にもそういうの詳しかったりする?」
「ど、どうだろう。人並み程度かな……」
「そうなんだー。ね、メッセアプリ交換しよ?」
「え? メッセアプリ?」
「そう、入れてない?」
「い、いやあるけど……」
「へー、東雲アヤメくん、か。よろしくね。私、宗像日葵」
* * * * *
「――――」
ハッと意識が覚醒する。
「夢、か……」
巨大なキングサイズのベッドの中で、声の主は目覚めた。
まるで中世ヨーロッパ、貴族が住む宮殿の如き高級さを感じさせる一室。
その気品高き部屋の中央にベッドは置かれていた。
オティーヌ王国が誇る、最重要人物のみが滞在を許される特別な来賓室だった。
しかし、声の主――銀髪碧眼の見目麗しい青年姿のアヤメは、寝心地の良い豪華な寝具とは裏腹に機嫌が悪かった。
枕元に置いていた、ひび割れたスマートフォンを手繰り寄せる。
夢に出てきたあのメッセアプリを起動させる。登録しているユーザーリストをスワイプでスクロール。元気の良さそうな笑顔を見せる女子生徒の顔のアイコンが見えたところで指先が止まった。
『ヒマリ』というユーザーネームだ。
青年はそのアイコンをタップする。
最新のメッセージが表示されている。アヤメから送ったものだ。
『いきものがかりの「ブルーバード」いいよね』
しかし、そのメッセージに既読マークはなかった。
それも当然ではあった。アヤメはすでに異世界へと転生してきているのだ。現代日本と通信が繋がるわけがない。
アヤメは豪華なベッドから降りる。
サイドに備え付けられた、ゴシック様式めいた装飾の椅子に座り、テーブルに置かれたフルーツ――黄金色の林檎――を手に取る。おそらくこの果実も最高級品なのだろう。
「……」
逡巡したのち、手元のスマートフォンを操作する。
『アピアランス 解除』
虹色の光が身体から放たれ、アヤメの姿が東洋の日本人に戻る。前髪を長く伸ばしているため、しっかりと顔を見ることができない。これが、本来の彼の姿だ。
少し根暗そうだが、至って平凡な高校一年生に戻った彼は、ため息を一つだけ吐いた。
飼い主から許可された犬のように、黄金色の林檎へ夢中でかぶりついた。




