9 魔王の復活 その③
リーバインの都市部に続く街道、そこを守る関所。
惨劇から一夜明けた早朝。
「な……んだ、これは……」
リーバイン城から訪れた兵士の一団は騒然となっていた。
関所一帯が、焼け野原と化していたからだ。
関所の衛兵から定期連絡便がないことに不審を抱いた近衛騎士団は、数十人の調査隊を即席で派遣した。
いま、王都リーバインは『影』による襲撃でほぼ壊滅状態ではあったが、生存した騎士団の兵士たちが城下町の自警団と協力し、治安の回復に勤しんでいる。
衛兵の報告が無かったのも無理はない。
関所の人間は全員燃やし尽くされ、乗り合い馬車の乗客も逃げてしまっていたからだ。
「おーい、そっちに生存者はいたか?」
「いや、まだだ!」
兵士の一団が、戦場跡のようになっている焦土を調べ始めた。生存者の有無や犯人の痕跡を探るだ。
焼け野原は広範囲に及んでいたため、一団は手分けをすべく散会して手がかりを探す。
そのうちの一人。
すこし離れた場所まで歩いてきた若い青年兵士が、依然広がる焼け野原を見て、
「この辺り一帯、地獄の業火でも浴びたのか……ん?」
――灰の中から、人の手のようなものが飛び出している!?
兵士は急いで駆け付け、灰に埋まった人を掘り起こそうとして、
灰の中から飛び出すその手が。
青年兵士の腕を掴んだ。
「うわあああああ!!!!」
戦慄した兵士は、無我夢中でその手を振り解き、慌てて数歩後退りする。
ざばあ、と灰から身を起こしたそれは、目深にフードを被り不気味な黒鉄の仮面をつけた黒いぼろ布姿の――
「ば、化物……!!」
若い青年兵士は、右手で剣を構え、即座に斬りかかる。
「無駄だ」
不気味な鉄仮面はボソリと呟いた。
「……へ? な、なっ熱っ! あぢいいい!!」
気づけば兵士の右腕から、黒い炎が噴き出ていた。その部位はボロ布の仮面に先ほどつかまれた箇所だ。
苦痛の表情で右手の剣を放り捨てる。
「ひいっひいっ……!」
左手で燃える右腕をパンパンとはたき続けるが、いっこうに火の気配は収まらない。
黒鉄の仮面は無言で兵士に近づき、ドン! と肩を押す。
武器を失い、右腕を燃やしたまま、兵士は尻餅をつく。
炎を必死で消そうとする青年を見下しながら、鉄仮面はローブの隙間から指を出し、パチンと鳴らした。
すると、青年兵士を蝕んでいた黒い炎は鎮火する。
「ひっ……! あ……?」
事態が飲み込めなかった青年もようやく悟った。
「まさか、お前が関所を焼け野原に――」
「黙れ。もう一度燃やされたいか」
「!!」
「お前を焼き殺す前に、伝えておく」
フードを目深に被り直しながら、仮面は冷酷な態度で、
「僕――いや、余は、魔王だ」
「ま、魔王……!」
「そうだ。数日前に現れた愚かな『影』ども。貴様も知っているだろう。あの愚者どもに、真の支配者は誰かを分からせるため、余はここに復活した」
さらに続ける。
「このことを、貴様の所属する組織、家族、知り合い全てに広めろ。この国に魔王が現れたとな。さもなくば――」
仮面は、ローブの隙間から自分の指を少しだけだし、器用に仮面の下に入れ、噛んだ。
すると、その噛んだ指先から黒い炎が生まれた。
「ひっ!」
「鎧と帷子を脱いで、腕を出せ」
「え……?」
「腕を出せ!!」
「は、はい!」
言う通りにした青年兵士の腕、その皮膚を炎の指でなぞる。
じゅううう、と音がして、不気味な刻印のような火傷ができた。
「あっじじじっ……!?」
「今、貴様を呪い殺す魔術を打ち込んだ。さきほど言ったことを覚えているな? その通りにしないと、貴様を必ず殺す」
伝説の悪の存在を匂わされ恐れおののく兵士は、ただコクコクと縦に首を振り続ける。
「いけ。他の兵に知らせろ」
「は、はいっ……!」
一目散に走って逃げる兵士。
姿が見えなくなると、ボロ布は仮面を――黒い炎で加工した鉄製の鍋を――脱いだ。
「……そんな魔術、あればいいけど」
ユーリィが自嘲気味に笑った。




