純文学を書いてみました
【はじめに】
本作は2019年11月下旬から12月下旬の間にすべてを執筆し、2020年正月に投稿しました。この「後書き」はその期間にどのように頭をひねって作品を生み出したのかを、美化して、記すものです。「メイキング」、「楽屋話」です。こういう類いが大好きなので、自分の作品にもいつも書いています。これで3回目となります。ご興味をお持ち戴けるようでしたらご覧下さい。
【前作のPV分析を通して本作を書こうと思いつきました】
私は作品を完結投稿したあと、同時期に完結された、同ジャンル、同文字数の作品とPVやptを比較して、自作品の出来を相対的に評価しています。2019年11月に2作目の長編「VRRPG『Re-birth』」を完結したときも、そうした分析を行いました。約30の近しい作品と比較したのですが、たくさんのPVを獲得している作品、PVはそれほどではないけれど多数のレビューが寄せられている作品、読者端末が極端にPCに偏っている作品などなど、よく見ると諸数値にも作品の個性が宿っているものです。
こうした数値を見ていて、2つのことが頭に浮かびました。
1つは「自分はどういう数値を得られると嬉しいのだろう?」ということ。「数より質だよな」などとありきたりなことを考えましたが、本題ではないのでここでは割愛します。
もう1つは「チートな文才を持った作者が『なろう』に投稿したらどんなことが起こるのだろう? 誰か書いていないだろうか? あったら読みたい」ということ。早速検索、いろいろな条件を駆使したつもりなのですが、うまくいきませんでした。書き手向けのエッセイは大量に見つかるのですが、小説は引っかかりません。2つ見つけたところでさじを投げました。この2作はどちらも書籍化されており、片方はアニメ化すらされている読了済みの作品でしたが、「俺TSUEEE」という作風ではありません。そこで衝動的に、自分で書こうと思い立ちました。
【目標のようなものを立てました】
1作目、2作目と小難しい設定の作品を書いたので、今作は「軽い」作品にしたいと思いました。「小説を気まぐれに書いてみたら、『なろう』で累計総合1位になっちゃったよ。てへ」といったノリの作品です。起承転結それぞれ4000文字、計4話で多くても2万文字に納まるくらいの短編を、肩に力を入れずに書こうと目標を立てました。1ヶ月もあれば書けるだろうから、正月に投稿しようと締め切りも設定します。
タイトルはすぐに『なろう無双』が思い浮かびました。すでに存在するのではないかと検索しましたが無くて一安心。次に主人公の名前も「どんどん書ける」をもじろうと決めます。持てるものなら切実に欲しいチートスキルだからです。
【起承転結を検討しました】
次に検討したのは起承転結、特に「転」と「結」です。詳細はともかくとして、「起」は「投稿してみたぜ」、「承」は「人気が出ちゃったぜ」という内容で良いでしょう。ですが「転」は、一本調子に活躍するのか、何か障害にぶつかることにするのか、「結」はどこまで成り上がることにするのか、それぞれ考えどころだと思いました。例えばライバルがいたら「俺TSUEEE」感が弱まるし、小説投稿サイトで1位を獲得するだけでは話のスケールが小さすぎます。
主人公の到達点からのほうがとっつきやすいかと、ノーベル文学賞を受賞する、書籍が聖書を超えるベストセラーになるなどの結末を考えました。……こうして具体的に検討を進めると、どちらも業界知識を仕入れないと、いくらお手軽な話といえどそれなりに筋の通った話に仕立てられない気がしてきます。更にそうして調査をしたところで、例えばノーベル文学賞もつまるところは1年に1人が獲得する賞なので、天才作家のゴールとしてはスケールが小さいです。もっと桁外れな無双ぶりを描きたいと思いました。
並行して「転」も検討しましたが、天才作家が躓くことって何なのでしょう? その内容によってはチート感が薄まりますし、躓かないと「妄想話」としてはいいのでしょうが「小説」にはならないように思います。
このように「転」や「結」をあれこれ数日考えて思いついたのが、主人公自身ではなく日本語のほうが壁にぶつかる展開です。ランキング基準にもよるのですが、日本語は世界で十位に入るか入らないかという位置づけの言語です。いくら主人公に文才があっても日本語で書いている限りは世界でメジャーになれないでしょう。「転」はこれを壁に据えて主人公が打破する展開にしようと考えました。
更には日本語を超え、自然言語の持つ限界も取り上げることにします。数年前、AIに大学入試を解かせる研究の過程で、受験生の文章読解力が低いことが明らかになったと話題になりました。その報告の中でこのような問題も解けないのだと例題が挙げられていたのですが、私はそれを見て「読解力を上げるより、日本語の文法を拡張したほうがいろいろ捗るんじゃね?」と思いました。こうした問題意識をネタにした次第です。
そして日本語の限界を「転」に持ち込むのをきっかけに、「結」の規模感を大きくする方向性も見えてきました。
「天才作家の行き着く先を考えることは、文学の可能性を考えることに等しい」
という着想に至ったのです。さらに踏み込んで「言葉」の可能性を模索してみます。ここでとある文明シミュレーションゲームの発展ツリーをヒントに、政治や宗教への波及も扱うことにしました。ただ言葉や文章の力をこうした分野で行使すると扇動や洗脳行為に見えかねないので、そこには注意を払うことにします。最終的に「結」のスケールは、「地球が星間連盟の盟主になる礎を築く」ところにまで振り切りました。まあ私の作品のいつものパターンなのですが、正月に投稿するのでこれくらい目出度い展開で丁度良いと思いました。
【ジャンルとテーマについて考えました】
起承転結の検討と並行して、本作のジャンルはどこに該当するのだろうかと考えました。書き上げてから決めてもよい話なのですが、過去2作でジャンルには悩まされ、半ばトラウマになっているのです。当初こそ気楽なノリの作品を考えていたので「その他」か「コメディー」かと思っていたのですが、起承転結を検討するにつれて大げさにいえば文学の限界を示す作品になったので、「文芸」も視野に入ってきました。
しかし『なろう』の「文芸」には7つの小ジャンルがあるのですが、どれも当てはまる感じがしません。「歴史」、「推理」、「ホラー」、「アクション」、この4つは明らかに違う。「ヒューマンドラマ」、人間関係を扱う気はありません。「コメディー」、ちゃらける路線ではなくなってきました。残るのは「純文学」なのですが、『なろう』の説明は「芸術性に重きを置いた小説」とされていて、なんだかよく分かりません。そこでどんな作品が投稿されているのだろうと確認したのですが……、深く考えていた自分が馬鹿らしくなり、「純文学」を名乗ることにしました。
曲がりなりにも「純文学」にするならと作品のテーマも検討し、「文学の存在意義、可能性」と据えました。本編に表だって打ち出してはいませんが、「文学の存在意義は『共感』にある」と考えています。
なお「純文学」にするならば、タイトル『なろう無双』や主人公『どんどんかける』はいかにもミスマッチです。しかしすでにこれら名称には愛着を持っていて、変更する気にはなれませんでした。ただ執筆にかなりの労力を投ずる長編であったら、作品の印象に関わる重要事項なので見直ししていたでしょう。その場合でも名ではなくジャンルのほうを変更したと思います。
【視点について検討しました】
視点については迷うというか、どうすれば良いのか分からずに困りました。その要因は2つあります。1つは文学の大天才の内面や思考については、その才能に見合う描写ができそうもないこと。当初は発話すらもボロが出そうなので書かないで済ませようとしました。もう1つは「現代」と「遠い未来」の2つの時代を扱うので、両者に共通する登場人物がいないことです。このため単一人物の視点は、変則的な仕掛けでも用意しないと使用できません。
これら2点をクリアできるのは「内面を扱わない三人称神視点」しかないと思うのですが、これはこれで問題がありました。まず第一にこの視点は「純文学」っぽくなりません。深く考察したわけでも試行錯誤したわけでもありませんが、どうも人間の内面を扱わないと「芸術み」が出ないのです。第二にこの視点は「出来事」を相対的にクローズアップすることになり、社会の仕組みと照らし合わせてそれなりに筋を通さないと興が冷める話になるのです。別の言い方をすると、展開にごまかしが利きません。
詰んでいるとも思いましたが、こうした問題は大抵先人がすでにぶつかっていて解決しているものです。そこで武力ではなく知力系の天才が登場する作品を探してみました。すると名探偵の助手、天才音楽家を妬むライバル音楽家、自由気ままな女子に振り回される男子高校生などなど、天才の側にいる人物を主人公に仕立てる作品が目に入ります。なるほど、これでいこう、と思いました。
もっとも「遠い未来」での視点は解決できていません。更に考えて、「起承転」の話は、「結」の登場人物が見ていた「天才の側にいる人物を視点にした映画」であるという、夢落ちの亜種のような構造を捻り出しました。こうすると全編を通して1人の視点にできます。……一瞬良い案だと思いましたが、話を入れ子構造にするのは前作でやったばかり、発想が同じなのでボツにします。ただ未来人の見ていた映画という展開は、主人公の後世への影響を示すのに良いと思ったので採用しました。
視点については全編通して統一するのは諦め、「結」だけ切り替えることにします。「三人称多元視点」になるのでしょうが切り替えは一度だけなので、「『三人称一元視点』からの『三人称神視点』」としたほうが適切でしょう、この視点を用いることにしました。
【プロットを検討しました】
本作は個人的にもっとも詳細なプロットを執筆前に作成しました。20シーン、計2000文字の箇条書きです。世界観を考える必要がない分、見方を変えると世界観の謎で読者を引っ張ることが出来ない分、従来よりプロットに力を入れました。
これら詳細なプロットがハマったときの効果は劇的でした。執筆が「アイデアが思い浮かばなくて筆が進まない」から「キーボードを叩いても叩いてもプロットを消化できない」へと様相が変化します。表現の修正こそ発生しますが、推敲時の内容の手直しも激減しました。設定に矛盾が出たり、後述しますが文体を試行錯誤したりでこうしたゾーン状態、フロー状態で書けたのは全体の半分にも満たないですが、私にはプロットをしっかりと用意する書き方が合うようです。
一方で課題もあって、詳細を書き進めて初めて思いつくことができるプロットが存在し、それをいかに早期に引き出すかという点です。前作でも同じような経験をしたので、「プロットを発想から引き出すために、部分的に詳細を試し書きする」手法を、今後はもっとうまく取り入れたいです。
【文体について検討しました】
本末転倒ではあるのですが、文体も純文学っぽいものにしようと挑戦しました。純文学には何の馴染みもないので手本を探してみます。ネットを「日本文学 名文 ランキング」などといったキーワードで検索し、記事やブログで紹介されている作品を電子書籍のサンプルで確認していきました。三人称一元視点は少数でしたが、やがて高名な作品に行き当たります。冒頭で汽車がトンネルをくぐるノーベル賞受賞作です。はい、身の程知らずです。
まあこんな日本最高峰の作品の真似が出来るわけもありません。ただこの作品を読んでいて感じる「古さ」に、これは「結」の登場人物が「起承転」の話を大昔の時代劇と思って見ていることを暗に表現するのに利用できると思いました。そこでこの作品の、現在とは異なる表記を掻い摘まんで小手先に利用させてもらいます。「とおるだー。」と鉤括弧内の文に句点を付ける、などが一例です。「……た。……た。」と繰り返すリズムも拝借しました。ついでに私自身のこれまでの姿勢から180度転換し、読点と改行を極力入れないようにしました。
こうしてノーベル賞受賞作の電子書籍サンプル数ページをごくごく表面だけ参考にしたのですが、計算外なことも起こりました。文字数がとても多くなるのです。描写を畳みかけたりするので当たり前ですが、全体でせいぜい2万文字にまとめるつもりが、第1話で1万文字弱になりました。文体を変えてみるだけで、ここまでの影響を受けるとは思いもしませんでした。
【各話を書きました】
第1話「翔、投稿す」は「起」の話、掴みと設定説明を受け持たせています。翔の才能とそうした才能を得るに至った背景を中心に書きました。インプット無くしてアウトプットは不可能と考えたので、6歳児に最大限の、物語に触れる機会と国際交流を経験できる環境を提供しました。『なろう』の累計総合1位を獲得するタイミングについては少し悩みましたが、獲得までの過程を描くつもりも展開上の必要性も無かったので、一晩で取らせることにします。翔の発話は一切記述しないようにしたのですが、そうすると私の筆力では呑々家の人々が幻覚を見ているような描写になってしまい、断念します。天賦の才能が垣間見られるような台詞は難しいので普段の翔の会話は凡庸であるとし、第3話になりましたがその理由を示しておきました。第1話の終わりは、翔は文武両道の完璧超人なのですが「自分の作品を読まない人、満足できない人が存在するはずがない」という通常なら異常な精神構造を発露させて、次話に繋ぎます。
第2話「翔、無双す」は「承」、翔作品への世間の反応を描いています。世界中の歴史上の文豪を足し合わせて1兆倍した以上の才能を持つ天才児が『なろう』に何年も投稿し続けたらどうなるのでしょうね? さっぱり想像がつきませんが、話の展開に必要な世間の反応を逆算してそれを中心にしつつ、思いついた反響を書いてみました。第2話最後は「世界のところどころに翔の作品を読んでいない人々がいる」という通常なら実に当たり前なイベントを発動して、「転」を仕掛けます。
第3話「翔、出立す」は「転」として、翔の戦いを描いています。ここでの敵は「日本文明と日本語の限界」です。翔は16年間にわたって世界を転戦し、日本語に大革命をもたらします。この16年という年数は、各登場人物の成長や老いから逆算して決めました。翔の帰国後しばらくして美久と共のエピソードが始まりますが、ここから物語の構造的には「結」に入っています。これらは翔の戦いの結果であり、翔の能動的な行動は書き表していません。そして撮の死をもって「現代」の話は終わりになります。翔はこの時点で74歳ですが、享年については設定していません。
最終話「翔、名を残さず」は「結」として、「遠い未来」の日常から話を始めました。「どんどんかける」がごく普通の単語として浸透していることを描写するためです。また最終話では呑々翔が結局実在したのか否かを曖昧にしました。これは単純にそうしたほうが名作っぽくなるからです。
そしてこの「後書き」について。過去2作は本編の投稿をすべて終えてから書き始めたのですが、今作は一通り書き終えたあと、推敲と並行して書いています。こうしたまとめを書くと自分の考えが整理され、改善点も見えてきます。それを利用して作品の質を上げようと、「後書き」を書くタイミングを従来より前倒しにしました。結果、狙った効果はあったのですが、混乱も生じました。本編と後書きは文体が異なるのですが、頭の切り替えに支障が出るのです。さらに本作は「起承転」と「結」とでも文体を変えたので、推敲では特に苦労しました。なかなか思うように事は運ばないものです。
【おわりに】
自分の作品がどういうPVやptを得られると嬉しいのか?
私の場合は完結した後もずっと、月に5人くらいの読者さんが読んでくれると嬉しいなと思います。いろいろな作品のPV集計を眺めていると、そうなっている作品とそうでない作品とにはっきりと分かれます。どうも完結後も継続的に読者を獲得するには、例えば「ローファンタジー」、「20万文字台」、「2018年に連載を開始して完結」の作品であれば、100pt以上、できれば200pt以上あるのが望ましいようです。こうした作品はほぼすべて2019年に毎月「話数×5人」以上のPVを獲得し続けています。
この基準pt数値はジャンルや文字数によっても違うでしょう。完結してからの期間によっても異なるはずです。読者は何らかの条件を指定して検索し、その検索結果を前から順にして作品を発掘するでしょうから、要はそこに入れないと作品は死蔵されます。こういうことを言えた義理ではないのですが、読み終えて「読んで良かったと思えた作品」、「他人にも薦められると思った作品」には積極的にptを付与すべきなのかも知れません。その作品の獲得ptが3桁に満たないならば、付与したポイントが「命の水」になることは充分にあり得ます。……えっと、念のためですが本作に「くれくれ」しているわけではありません。
私自身、ポイント制度は実情がでたらめ過ぎるように思えて気にしていませんでした。しかしランキング入りの問題では無く、作品の寿命に大きな影響があるのが見えてくると、そうも言ってはいられません。自分の作品に末永く読者が現れるよう、最低限の100ptは獲得したくなりました(本作については自分の読みたかった話を書けて、これはこれで満足しています)。私は過去60ptが最高、より多くのptを戴くにはかなりの工夫が必要そうです。精進したいと思います。
以上です。
最後は作品とは関係の無い話になってしまいました。
また機会がありましたらお付き合いいただけると幸いです!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。