第二一話 初めての人里
遅くなってすいません…(なお次回も未定)
草原を発って三日目。
今日も今日とてBRUTE FORCE 750に跨り森を走り抜け時々魔物を蹴散らし…日が西に傾き始めた頃。
ついに、俺はこの世界に来て初めて「家」を見つけることとなった。森に最も近い集落に辿り着いたのだ。
即ち、遂に森を抜けたのだ。
ここまで長かった。というかよくぞ人里まで来れたものだ。まず人に出会えたのが奇跡だし、闇雲に人里を探すにしてもマルグレーテさんに会えたにしても、もしあの豚顔の大オークへの対応策を用意する機会がなくいきなり逃走不能の状況で遭遇していたら詰みだった。本当に運が良かったなんてもんじゃない。マルグレーテさんには感謝しかない。いろいろと、本当にいろいろとよくしてもらった。
この集落には特に何もないらしいので、面倒なことにならないようにBRUTE FORCE 750もアイテムボックスに入れ、徒歩で通り過ぎる。
「あれまぁ学者さん、よく無事だったねぇ」
「おお、これはどうも。ええ、おかげさまで無事に帰ってこれました」
通りがかった母娘が声をかけてきた。どうやらマルグレーテさんとは行きに会っているらしい。
「こんにちは学者さん、戻ってきたんだね!ところでそっちのは…」
「ああ、彼はね、遭難者らしいんだ。だからこのまま町まで送り届けることにしたんだよ」
「へぇ、それは大変だね!」
俺も、少しかがんで娘さんのほうに目線を合わせて挨拶する。
「こんにちは」
「こんにちは!」
素朴で眩しい笑顔と共に元気な返事が返ってきた。
良かった、マルグレーテさん以外にも言葉はちゃんと通じるようだ。
マルグレーテさんはその後、集落の井戸で水を汲み、空間魔法から取り出した樽に入れてまた空間魔法に放り込んだ。もしいろいろと妙なものを持った俺がいなかったら必ずやった行動だそうで、怪しまれないようにということらしい。
「ま、あって困るものでもなし」
とは彼女の弁である。なんというか、マルグレーテ女史なら攻撃用途にも使いそうな気がするんだよなぁ…
そんなこんなで集落を通り抜け野原へ出た。本当に何もなかった。
考えてみれば当然の話だ、なにせここはド辺境なのだから。マルグレーテさんからの情報やこの集落の様子を総合するにどうやら正しい意味での「剣と魔法の世界」であるらしいこの世界、即ち振れ幅はあるが中近世頃の水準、その未開の地の縁にある小さな集落という辺境の流通などたかがしれている。
そういうことで集落から少し歩いたところの木の影でTERYXを取り出そうとした、その時だった。
「…む?あれは…?」
「どうかしましたか?」
「カイ、あれをどう思う?」
そう言うとマルグレーテさんは、集落の北側には高原から途切れることなく続いている森との境、ここから2キロほど西のあたりを指さした。
そのあたりを見てみると、なにやら人影が見える。遠いな…初めての戦闘の時と似たような状況だな。双眼鏡を出しておくべきだったか…
しかし若返ったおかげで回復した(?)視力によって、なんとかここからでも目視できた。ゴブリンの集団、その中には…複数体のオーク。少なくとも例のアイツ以外の個体も混じっていることになるし、ゴブリンとの体格差からいって恐らくハイオークではないのではないかと思う。赤いマーカーが乱立する。ユニークスキル『状況把握』が発動した証拠だ。よって敵で間違いない。全部で20体以上はいる。
「ゴブリンとオーク…大オークではなさそうですね」
「ああ。通常の豚顔のオークだろう。しかし、だ…」
「なんかあるんですか?」
「そこそこの規模の群れだ。とすると統率する個体がいるかもしれない」
そいつはまずいな。奴が近くにいるかもしれないのか…
「まぁいたとしても例の個体ではないだろう。手負いの身体でここまでこの速度で来るのはまず無理だ。おそらく別個体だ」
「それはそれで面倒な話ですね…」
あんなのが複数いるとか気が滅入る。
「ま、いずれにせよもう私は魔法を使えるし、ここならあの大きな車両を出して戦える。特に不安に感じることもあるまい」
「そういえばそうでしたね。それじゃあ早速出しますか」
取り出すものをTERYXからMAVへ変更。革のトランクからMAVを取り出した。
「こっちへ来られても西へ行かれても人里が近い。ここで始末しておきたいしね」
「確かに」
そう言いながら乗り込み、車内でPIATとシュツルムピストルを取り出す。Ak 5Cと…一応FALも出して兵員室の座席の銃架に置いておく。ついでにM24型柄付手榴弾数発。
FALを含めそれぞれの弾薬はあまり並べると散らかるし危険なので、少しだけ出しておいてあとは開けっ放しの革のトランクから戦闘中に適宜取り出すことにする。本来人が乗るスペースを使っているに過ぎないが、その本来であればその歩兵それぞれが今俺が身に着けている弾薬を持っているようなものなわけで、こうしてみると本当に装甲車というのは戦いやすいな。
「さて、それじゃあ行きますよ!」
「ああ、急ごう!」
マルグレーテさんに合図し、俺はMAVのアクセルを踏み込んだ…




