第一九話 据え膳
サブタイからしてお察し()
お姉さんの台詞、あんな感じでいいんだろうか…(男女の機微など知らぬ人間並みの感想)
今日は大変だった。
光学迷彩と魔力欺瞞を発動しぜったいあんぜんカプセルと化したMAVの中のリビングで、風呂上りにソファにふんぞり返ってキンキンに冷えた牛乳を飲みながら、しみじみとそう思う。
恐らくだが、とりあえずは逃げ切れたのだろう。しかし明日の朝にもいないとは限らないし、このまま遭遇しないとも限らない。
最悪なことに、もし生きているとするなら今の奴は手負いの獣だ。とどめを刺せなかった。死亡確認ができていない。これほど怖いことはない。出血多量と臓器の損傷と火傷で死んでいればいいのだが、どうもそう上手くいくようには思えない。
その上で…だ。移動の足について、再検討したいと思う。今日の反省だ。
TERYXはどんなに小さいと言っても4輪の自動車だ。座席と屋根があるのは比較的快適ではあったが、この森を抜けるにはやはり少々大きい。
やはり小さく走破性も高いバイクを使いたい。だが俺は自転車はともかく、自動二輪の扱いは自信がない。二人乗りでここを抜けるのは怖すぎる。
より小型で、バイクより安定している都合のいい乗り物があるだろうか。
と…ここでいいものが目に留まった。
クアッドバイク。これもATV、全地形対応車の一種だ。だが乗り方は自動車のそれというよりはむしろバイクのそれ、跨って乗るスタイルだ。これもまた不整地走破性は極めて高い。そしてTERYXのような一般的な自動車っぽいタイプのATVより一回り小型だ。その代わり屋根なんかはないし、快適さやペイロードも比較にならないだろう。だがこの状況には向いているはずだ。
一台目のTERYXを破壊されてしまって申し訳ないので、同じカワサキのBRUTE FORCE 750を選択。リビングから広大なトレーニング施設へ移動し、召喚する。これもTERYXと同じく日本が誇るバイクメーカーであるカワサキが日本国外向けに販売しているものだ。別に俺はこのあたりの車種に詳しいわけではないのだが、カワサキのATVは皆日本国外向けであることは知っている。ぶっちゃけそれだけだ。あと日本のミリオタ的には聞き慣れた国内兵器メーカーである川崎重工はやはり少し贔屓してしまう。
軽く乗り回す。「運転」スキルが働いているのもあるのか、初めて乗った種類の乗り物だがそれなりに運転しやすい。しばらく練習すれば慣れるだろう…が、これについてはお姉さんとの二人乗りを想定した練習としないと意味がない。後で…それか明日、ここを経つ前に練習しよう。
そういえば、俺は着替えがあるけどお姉さんはその辺どうなんだろう?今ちょうどお姉さんは風呂に入っている。もし着替えがないのなら、用意しておいて差し上げるべきなんだろうか?
いやいや何を考えている俺。落ち着け、ローブですら汚れた様子が全くないじゃないか、恐らく洗浄する魔法かなんかあるはずだ。第一無尽蔵に召喚できるのに貸すだけというわけにはいかないし、そうなるとどこまでその服が維持されるのかという問題…が…
そうだ、召喚したものが消える仕様について調べないといけないんだった。早速説明書を漁る。…うん?…ああ、なるほど。そうなるのか。
読んだ。要約すると、基本的には、俺から一定以上の距離が離れると消えるというのと、消費または破壊されたら消える、という二つの形になるらしい。
おそらく前者は俺が召喚した物品が異世界に広まらないようにするための措置だろう。それは同時に、俺がこれを使って金儲けする手段をある程度制約してもいる。まぁおそらく、そういう意図の規制だ。俺が放棄したものを拾われて、俺や他の人に危害を加える目的で使われるのを阻止する意味もあるだろう。
後者についても同様だろうが、こちらは純粋な資源としての意味合いが大きいかもしれない。薬莢を大量に拾い集めれば真鍮を用意できるかもしれないしな。おそらくはそれを念頭に置いたものだろう。…あとはこの異世界で処理できないゴミを大量生産しないための措置か。
例外はこのMAVと、MAV内に出現する食料品と飲み物、そして「俺が一定以上に親しくなった人間に譲渡した場合」だ。MAVについては拠点だからだろう。食料については「腹の中で消える」みたいな七面倒くさいバグを引き起こさないためだろう。消化吸収した栄養素が消えるとか言われたらクッソ面倒だし理解に苦しむ。
問題は最後のだ。条件が曖昧すぎる。冒険者的なパーティのことなのか、好感度的なマスクドパラメータがあるのか、あるいは…まぁ、「一つにつながる」ような関係を結ぶことか。よくわからない…が、どうも最後のではない気がする。そうだとするなら男には物を贈れないことになる。…いや贈れなくはないが俺にソッチの趣味はない。
おそらくだが、二番目、というかこれらすべての複合的なものなのだろう。冒険者パーティを組んだり、寝たりすることで上がるなんらかのパラメータがあるのだろう。人間関係なんてどう計るんだと思うが、神様の手元には数量化された何かがあるのだろう。
まぁ情報がないものうだうだ考えてたってしょうがない、わからんものはわからん。
しかしそうするとお姉さんに衣服をあげた場合はどうなるのか…まさか一定の距離離れた瞬間服が光の粒子になって消えるなんてことに…
「ふう、上がったよ!」
「ミ゜ッ」
お姉さんに事情を説明して、二人乗りの練習に付き合ってもらっている。
「ふぅん、それでぇ?私に服をプレゼントしてくれるつもりだったのかぁ。嬉しいねぇ」
「ぐぬぬ…」
風呂上りのお姉さんに対する反応を散々揶揄われながら何をしていたのかと問い詰められ、最後の部分以外洗いざらい白状してしまった俺は、揶揄われつつも二人乗りの練習をしていた。
だいぶ慣れてきた、と思う。トレーニング施設内に再現された森の環境で乗り回している限りでは、TERYXよりは進みやすいと思う。もう少し開けた場所か、馬車が通れるようなそこそこ広い道があるなら断然TERYXを選ぶが。それでも馬が一頭通るのがやっとだとか、そのくらいの道ならこれだな。もっと通りの悪い森の中なら尚の事だ。
で、だ…それはいいんだ、それは。もうぼちぼちBRUTE FORCE 750にも慣れてきたし、二人乗りでも問題はなくなってきた。だが…
背中に当たっている柔らかさの権化、どうにかならないものか。
ちょっとね、これはあまりにもあまりですよ!基本はバイクの二人乗りと変わらないわけでして、お姉さんは俺にしがみついているわけですよ。そうするとね、嫌が応にも当たるわけですよ。当ててんのよ…じゃねーんだよ!こっちは大変なんですよいろいろと!俺の背中に押し当てられ潰れている二つのメロンがですね…ですね…!!
いやこんなん無理やろ!!わかっちゃいた、わかっちゃいたけどこれは無理!!辛抱堪らんけしからん!!この身体中坊相当なんだぞ、あのエロしか考えられない中坊相当だぞ!!精神的にはもっと老成しているとはいえ肉体と精神は密に関係しているから精神が身体に引っ張られるんだよ!!理性が無理、理性が無理!!
( ゜∀ ゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!
「ふふっ、どうした少年。耳まで真っ赤だぞ?」
「ぐぬぬ…いやそうは言いますがねお姉さん…」
「そういえばまだ名乗っていなかったっけ。私の名前はマルグレーテ・フォン・エルリッヒ。マルグレーテと呼んでくれたまえ」
「…?そりゃどうも、マルグレーテさん。けど、俺に名乗る名は…」
「もしよければ、私が仮の名前を付けてしまってもいいかな?」
「え?ええ、構いませんけど」
「『カイ』ってのはどうだい?」
ふむ…偶然なのかどうなのか、日本人っぽくもあっていい感じだ。
「『カイ』、ですか。いいですね、いいと思います。ありがとうございます、マルグレーテさん」
「うん、気に入ってもらえたなら何よりだ。ところで…」
そう言うとお姉さんは、不意に俺の身体にしがみついている腕に力を込めてきた。やめーや、名前イベントで多少落ち着いた股間がまた健康になるだろうが!!
「この体勢ではまぁ、少々辛かろう。主に背中と股座のあたりが」
どちきしょうめ、いろんな意味でそうだよ!!というか明らかに当ててきてるだろ!!
「ぐう…」
ぐうの音しか出なかった。いやその原因8割お姉さんだよ!!
「そんなわけでだ。今日はここらへんにして、もう寝ないか?」
正直言ってこれ以上は辛い、主に理性が。
「うーん…そうしますか」
「うん、それでだね」
なんだ、まだ何かあるのか。これ以上生殺しにしないでくれ。殺せ、いっそ殺せ…!
「君にはいろいろと助けてもらっているし、世話になってる。そんなわけで、私のことをお姉さんと言ってくれた君には…少し、サービスしてあげると言ったね?」
そういえば、言われたような記憶はある。
「だから、君にサービスしてあげようと思ってね。ふふっ、なにしてもいいよ。なんでも」
ん?それはつまり…
…そこからの記憶はない。
ないったらない。




