第九十九話 手の外側
翌日。
先生は。
白い石を三つ持ってきた。
昨日も見た。
魔素に反応して光る石。
一つ目を。
机の上へ置く。
二つ目は。
そこから手の幅ほど先。
三つ目は。
さらに腕一本分ほど先。
一直線。
「今日は外放です」
やっと。
外へ出す。
でも。
火を出すわけではないらしい。
風も。
水も。
光も。
まだ作らない。
「石を光らせる?」
「触れずに」
先生が答える。
最初の石へ手を伸ばす。
「まず触れてください」
触れる。
魔素を手まで通す。
昨日覚えた。
足。
腰。
体。
肩。
腕。
手。
全部は必要ない気もする。
でも。
途中を切らない。
石が淡く光った。
「これはできる」
「石に魔素を渡しただけです」
次。
手を離す。
石との間は。
指一本分くらい。
近い。
「同じ石を光らせてください」
手の中へ魔素を集める。
手までは分かる。
そこから先。
出す。
石は光らない。
もう少し。
押す。
まだ光らない。
さらに増やす。
急に。
石が強く光った。
同時に。
隣の石も。
少しだけ光った。
「二つ光った」
「広がりましたね」
「届いた」
「届きました。ただし、狙った形ではありません」
一つ目だけを光らせるつもりだった。
でも。
二つ目にも届いた。
距離は。
手の幅ほど離れている。
それなのに。
「どこを通った?」
空気を見る。
見えない。
手から出た魔素が。
どんな形で。
どこを通ったのか。
分からない。
昨日は。
体の中だった。
足。
腰。
肩。
腕。
場所が分かる。
少しなら。
流れも感じられる。
でも。
手を離れた後は。
急に感覚が薄くなった。
「なくなったみたい」
先生が聞く。
「何がです?」
「出した魔素」
石は光った。
だから。
なくなってはいない。
届いている。
でも。
俺には。
途中が分からなかった。
「外へ出た魔素は、体の中ほど明確には感じられません」
「先生も?」
「距離が伸びれば。細くすれば。動かせば。それだけ難しくなります」
自分の体なら。
目を閉じても。
手がどこにあるか分かる。
でも。
投げた石が。
飛んでいる間の重さは分からない。
見れば分かる。
当たれば分かる。
音でも分かる。
けれど。
手の中にある時とは違う。
「外放は、見えないものを投げる?」
「投げる形もあります」
形も。
一つではない。
押し出す。
伸ばす。
広げる。
留める。
細くする。
それぞれ。
外放の使い方。
「今の俺は?」
「広げて押し出しました」
「一つ目だけにしたい」
先生が。
三つの石の間隔を少し広げた。
「では、量を増やす前に向きを決めましょう」
手のひらを一つ目へ向ける。
内循で。
肩から手までつなぐ。
その先に。
石がある。
昨日の道を。
手の外へ一本だけ伸ばす。
そんなつもりで。
魔素を出す。
光らない。
細すぎた?
少し増やす。
光らない。
さらに。
一つ目が光る。
二つ目は。
光っていない。
「できた」
「今の形を覚えてください」
形。
目では見えない。
手応えも薄い。
それでも。
さっきとは違う。
何が違った?
量。
向き。
広がり。
出す時間。
全部かもしれない。
「もう一度」
消す。
静流へ戻す。
外へ向けない。
そこから。
内循。
体の内側を通す。
最後に外放。
一つ目の石へ。
光る。
今度も。
一つだけ。
「順番がある」
「崩さないためには大切です」
静流。
内循。
外放。
別々の技術。
でも。
使う時にはつながる。
外へ出すためにも。
最初から外だけを考えるわけではない。
出さない状態を作る。
体の中を通す。
向きを決める。
それから外へ出す。
「外放だけできても駄目?」
「何をしたいかによります」
一瞬だけ。
大量に出すなら。
できるかもしれない。
でも。
狙う。
続ける。
同じ量を保つ。
動きながら使う。
そうなると。
前の二つも必要になる。
先生が。
一つ目の石を片づけた。
次は。
手の幅ほど離れた石。
「さっきより遠い」
「距離だけを変えます」
手を向ける。
同じ形。
同じ量。
同じ時間。
石は光らない。
「足りない?」
「何が足りないと思いますか?」
量。
すぐ浮かぶ。
でも。
昨日。
強くすればいいわけではなかった。
今日も。
最初に増やしたら。
魔素が広がった。
「道が届いてない?」
先生が頷く。
量ではなく。
距離。
近い石までの形を。
そのまま長くする。
手の外へ。
見えない線を伸ばす。
石まで。
届いたと思う場所で。
魔素を送る。
石が。
淡く光った。
弱い。
でも。
隣は光っていない。
「届いた」
「はい」
「量は同じ?」
「ほぼ」
遠くへ届かせることと。
強く出すことは。
同じではない。
水を大量にこぼしても。
遠くへ届くとは限らない。
細い管なら。
少ない水でも。
離れた場所まで運べる。
ただし。
管はない。
魔素だけ。
だから。
形を自分で保つ。
「外に道を作る?」
「その考え方でも構いません」
先生は。
最後の石を示した。
腕一本分ほど先。
さっきより遠い。
俺は手を向ける。
石まで線を伸ばす。
出す。
光らない。
もう一度。
光らない。
魔素を増やしたくなる。
でも。
止める。
線が。
途中で広がっているのかもしれない。
手元は細い。
先は。
分からない。
「外へ出た後をどう見る?」
「結果を見ます」
石。
光らない。
なら。
届いていない。
あるいは。
届いても反応する量ではない。
「二つある」
「そうですね」
届かない。
届いたけれど少ない。
石が光らない結果は同じ。
原因は違う。
「分けられない?」
先生が。
小さな石をもう一つ置いた。
手と目標の。
ちょうど中間。
「これなら?」
途中の石。
目標の石。
二つを見る。
外放。
途中だけが光った。
そこで。
流れが止まっている。
「途中までは届いた」
「はい」
次。
途中を越えるように。
線を伸ばす。
両方が光った。
「二つ光る」
「今はそれで構いません」
遠い石まで。
道は届いた。
でも途中の石にも触れている。
細くできていない。
先生が途中の石を。
少し横へずらす。
もう一度。
外放。
二つとも光った。
横へ広がっている。
さらに横へ。
今度は。
遠い石だけが。
一瞬。
淡く光った。
「今」
すぐ消えた。
でも。
見えた。
「届いたね」
「ええ」
もう一度。
同じ場所。
同じ向き。
同じ量。
今度は光らない。
「さっきできたのに」
「一度届いたことと、同じ形を作り直せることは別です」
静流もそうだった。
三呼吸できても。
歩けば漏れた。
内循も。
一度うまく押せても。
次は腰で切れた。
できた。
それだけでは。
まだ使えるとは言えない。
同じ条件で。
何度も。
同じ結果を出す。
そこまで必要。
昼まで。
石を光らせる。
消す。
また光らせる。
遠い石だけ。
一瞬。
次は失敗。
二回続く。
その次は広がる。
三回続く。
また途切れる。
先生が記録する。
距離。
回数。
隣の石が光ったか。
光の強さ。
俺が感じた手の状態。
「外なのに、体も記録する?」
「出口が同じでなければ、外側だけ比べられません」
手までの流れが違えば。
外へ出る形も変わる。
外放を見たいなら。
内循を揃える。
一つを調べるために。
他の条件を揃える。
研究と同じ。
最後。
遠い石だけが。
三回続けて光った。
四回目。
途中の石も光った。
「三回」
先生が書く。
「四回目は?」
「別の結果です」
成功に混ぜない。
三回。
昨日より小さな数字。
でも。
昨日より遠い。
部屋へ戻る。
帳面を開く。
『外放』
その下へ。
『体の中では流れを感じられるが、外へ出ると急に分かりにくくなる』
次。
『届かないことと、届いても少ないことは、結果だけでは同じに見える』
『途中に石を置けば分けられる』
さらに。
『遠くへ出すことと、大量に出すことは同じではない』
最後に。
『一度できることと、同じ結果を繰り返せることは違う』
筆を止める。
手を見る。
昨日は。
手まで届く道を見つけた。
今日は。
その先へ道を伸ばした。
でも。
体の外には。
骨も。
筋肉も。
決まった通り道もない。
だから。
自分で形を作る。
結果を見て。
切れた場所を探す。
広がったなら細くする。
届かないなら長くする。
強くする前に。
何が足りないかを分ける。
外へ出す力は。
自由だった。
自由だから。
形が崩れる。
俺はまだ。
火も出せない。
風も起こせない。
それでも。
手の外側に。
自分の力が届く場所を。
少しだけ作れるようになった。




