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ネトゲの親友に性癖をぶちまけてたら、オフ会に来たのがクラスの美少女︎︎だった  作者: こうと


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第88話 会えない時間

凛を駅で見送ってから、二日が過ぎた。


 普段なら「夏休み最高!」と、昼過ぎまで寝てネトゲ三昧の生活を送っているはずなのだが、今の俺の心には、ぽっかりと穴が開いたような奇妙な虚脱感が居座っていた。


「……はぁ。やっぱり、静かすぎるな」


 夜、自室で『エターナル・レジェンド』の画面を眺めながら、俺は一人で呟いた。

 いつもならこの時間は、凛からの「カズ、ログインまだー!?」という威勢のいいメッセージが届き、ヘッドセットを付ければあの生意気で愛おしい地声が耳元を占拠しているはずなのに。


 スマホを手に取る。

 凛は今、お母さんの実家。電波が悪いとは聞いていたが、届くのは数時間に一度の短いLIMEだけだ。


凛:【今、お墓参り終わったよ。親戚の子たちに囲まれて大変……】

凛:【一真、何してる? ちゃんと宿題進めてるかな?(笑)】


一真:【宿題は少しだけやった。今はレベリング中】

一真:【親戚の子って、凛は子供に好かれそうだしな】


凛:【そうでしょ! でもね、一真に構ってもらう方が、何倍も楽しいよ】


 ……。

 たったそれだけのやり取りで、心臓が跳ねる。

 これまで三年間、ずっとこうやって画面越しに言葉を交わしてきた。姿も知らない、名前も知らない。それでも「ハル」がいれば、俺の毎日は満たされていた。


 けれど、一度彼女の体温を知ってしまった今は、文字だけでは全く足りない。

 繋いだ手の熱。スムージーを半分こした時の少し照れた顔。ネカフェの密室で肩を預けてきた時の、あの石鹸の香り。

 

 思い出せば出すほど、会えない九日間が、まるでエンドレスに続く高難易度ダンジョンのように思えてきた。


「お兄、またスマホ見てニヤニヤしてる。キモさのインフレが止まらないね」


 ノックもなしに部屋に入ってきた双葉が、冷たい麦茶のグラスをデスクに置いた。


「……。お前、たまにはノックしろよ。あとニヤニヤしてねーわ」


「してる。顔の筋肉が緩みすぎて、もはや佐藤家の恥。……。でも、凛先輩がいないと、お兄って本当にただの『冴えないゲーマー』に戻るんだね。見てて可哀想になるくらい」


「…………うるせーよ」


 双葉はフンと鼻を鳴らすと、俺のベッドに腰掛けてスマホを取り出した。


「凛先輩、お盆の帰省が終わったら、そのままバスケ部の合宿に行くんだよね?一ノ瀬先輩がストーリーに『あとちょっとで合宿だ〜』ってバスケ部で前撮ったであろう写真載せてた」


「……一ノ瀬さんが?見せてくれよ」


 俺が身を乗り出すと、双葉は意地悪くスマホを隠した。


「やだ。お兄には見せない。……。どうしても見たいなら、凛先輩に直接『自撮り送って』って頼めばいいじゃん。彼氏なんでしょ?」


「……言われなくても、そのうち送ってくるわ」


「にひひ、強がっちゃって。……。ま、頑張りなよ。凛先輩、合宿中は男子禁制の聖域にいるんだから。変な虫がつかないように、しっかりバフかけてあげなきゃダメだよ?」


 双葉はそう言い残して、部屋を出て行った。

 変な虫、か。男子禁制なのかは知らんが。

 学校のアイドルである彼女の周りには、俺の知らない場所でも常に誰かの視線がある。

 

 でも。

 俺は、彼女が最後に言ってくれた言葉を信じている。

 『一真を独占させてよね』。

 あの言葉をくれたのは、ハルでも、学校の東雲さんでもない。俺の隣で、俺だけを見ていた凛自身だ。


 その夜。二十三時過ぎ。

 寝る準備をしていた俺のスマホが、突然震え出した。

 

 LIME通話。相手は――凛だ。


「もしもし、凛?」


『――あ、一真……! 繋がった!』


 スピーカーから聞こえてきたのは、少し掠れた、けれど耳に心地よい彼女の地声。

 窓を開けているのか、背景にはかすかに田舎の虫の声が混じっている。


「電波、大丈夫なのか?」


『うん、縁側の隅っこにいたら、なんとか……ねえ、一真。顔、見たい』


「え?」


『ビデオ通話に切り替えてもいい? ……。声だけじゃ、もう限界なんだもん』


 俺が頷くよりも早く、画面が切り替わった。

 暗い縁側に座り、スマホを顔に寄せている凛の姿が映し出される。

 お風呂上がりなのだろう。髪をタオルで拭きながら、彼女は少しだけ潤んだ瞳で俺を見つめていた。


「……一真だ。本物の一真だ……」


「……。なんだよ、そのリアクション」


『だって! 二日も会わないなんて、付き合ってから初めてでしょ? ……。私、おじいちゃんの話を聞きながら、ずっと一真のことばっかり考えてたんだよ。猫カフェの写真、もう百回は見たし』


「……。お前、見すぎだろ」


『いいじゃん、寂しいんだもん! ……。ねえ、一真。……。……好き』


 画面越しの、全力のデレ。

 彼女はスマホに顔を埋めるようにして、赤くなった頬を隠した。

 その姿は、三年前から俺を支えてくれた最高の相棒であり。

 今、俺が人生のすべてを賭けて守りたいと思う、最高の彼女だった。


「……。……ああ。俺もだよ。凛がいないと、ログインしても全然楽しくねーわ。……九日経ったら、一番に迎えに行くから。……。覚悟しとけよ」


『――――っ。……。……にひひ。合格! ……。……うん。……待ってる。……待ってるからね、私の騎士サマ』


 画面越しに見つめ合う。

 触れることはできない。けれど、スマホの熱を通じて、俺たちの心は確実に、あのお祭りの夜よりも強く結ばれていた。


 九日間の空白。

 それは俺たちが「恋人」として生きていくために必要な、最初の試練なのかもしれない。


 俺は、彼女が眠りにつこうとするまで画面越しの静かな会話を続けた。

 夜風はまだ少し熱を持っていたが、俺の心の中には、凛からの『バフ』が、どこまでも深く染み渡っていた。

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