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ネトゲの親友に性癖をぶちまけてたら、オフ会に来たのがクラスの美少女︎︎だった  作者: こうと


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第84話 デートのお誘い

午前8時。


 普段なら夏休みで深い眠りの中にいるはずの時刻だが、俺は、室温が上がり始める前の静かな部屋で、枕元のスマホが震えるのを待っていた。


 ピコン。


 待ちわびた通知音。画面を点灯させると、そこには世界で一番愛おしい名前が表示されていた。


【凛:一真、おはよ】

【凛:今、駅に着いた!これから地獄の朝練開始です】

【凛:暑すぎて、すでに溶けそう。一真、私に『バフ』ちょうだい!】


 メッセージと共に送られてきたのは一枚の写真だった。

 駅のホームの鏡を使って撮った自撮りだろう。ポニーテールを高い位置で結び、真っ白なTシャツに短いスポーツパンツ。

肩にはエナメルバッグをかけ、少しだけ眠たそうに、けれど俺に見せるためだけのハルらしいイタズラな笑みを浮かべていた。


「…………っ」


 心臓が、朝一番の強烈なビートを刻む。


 俺たちは恋人になった。そしてギルドへの報告もしっかりと済ませた。

けれど東雲凛はゲームの中でのハルであると同時に、学園のアイドルであり、女子バスケ部のエースでもある。

夏休みの前半は強化練習が詰まっており、俺たちが並んで街を歩く時間は、まだそれほど多くは取れていなかった。


【一真:おはよ。今日も早いな】

【一真:はあああああ!】

【一真:バフ、送信完了。熱中症に気をつけろよ、凛】


 俺がそう送ると、すぐに既読がつく。


【凛:何そのバフ笑 受信完了!】

【凛:よし、これで今日も無双できそう!】

【凛:頑張ってくるね】

【凛:一真、大好きだよ】


 スマホを胸の上に置き、天井を仰ぐ。

 「大好き」という四文字。文字で見るだけでも、顔が沸騰しそうなくらい熱くなる。

 学校ではあんなにクールで完璧な彼女が、俺に対してだけ、こんなにも惜しみなく好意をぶつけてくる。その事実がいまだに現実味を帯びないまま、俺の脳内を甘い痺れで満たしていた。






******





 昼間は妹の双葉に「お兄、またニヤニヤしてる。キモい」と一蹴されながらも、適当に宿題を片付けて過ごした。

 そして、練習が終わったであろう二十二時。俺のスマホに、凛からのLIME通話が届いた。


「もしもし、凛? お疲れ」


『――ふぅ、お待たせ一真。やっと一息つけたよ』


 スピーカーから響く凛の声。

一日の疲れをすべて吐き出すような、少しだけ掠れた無防備なトーン。


「おかえり。練習、大変だったか?」


『んー、もう全身バキバキ。顧問の先生、絶対にサディストだと思うんだよね。今日もダッシュ百本させられたし。今、お風呂上がりでパックしてるから、あんまり喋れないかも。にひひ』


 衣擦れの音。そして、彼女がベッドの上に倒れ込むような「どさっ」という音が、通話越しに生々しく伝わってくる。


「しっかり休めよ。明日はオフなんだろ?」


『うん、明日は一日オフ。……ねえ、一真』


 凛の声が、少しだけ真面目な響きに変わった。


『私さ、最近練習がキツくなると、決まってやってることがあるんだよね』


「なんだよ。イメージトレーニングか?」


『ううん、猫の動画を見るの』


「…………は?」


 意外すぎる告白に、俺は思わず動きを止めた。

 東雲凛と、猫。クールで知的な彼女と、自由気ままな小動物。その組み合わせが、俺の脳内でうまく結びつかない。


『にひひ。驚いた? 実は私、昔から猫が大好きで。ショート動画で「子猫の癒やし動画」を、一時間くらい無心で見ちゃうんだよね。あぁ、あのプニプニした肉球とか、ふにゃふにゃした鳴き声とか。思い出すだけで、HPが回復する気がする』


 凛の声は、いつになく熱っぽかった。

 学校での凛とした彼女でも、ネトゲで俺を煽り倒すハルでもない。

 ただの、大好きなものを語る時の一人の女の子としての、最高に可愛い熱量。


「へぇ。お前、猫好きだったのか。初耳だわ」


『だって恥ずかしいもん! 私が猫動画見てニヤニヤしてるなんて、咲希にバレたら一生弄られちゃうでしょ。……でも、一真には知っててほしかったの。私の「回復アイテム」のこと』


 俺は、彼女の信頼に応えるべく、少しだけ勇気を出して提案した。


「じゃあさ。明日、オフなんだろ?」


『うん、何?』


俺はたまたま双葉伝いに得た情報をここで使うことにした。


「隣町の駅ビルに、新しくできた猫カフェがあるんだよ。もし凛が嫌じゃなければ、明日そこ行ってみないか?」


 誘った瞬間、心臓が痛いくらいに跳ねた。

 凛は、数秒の間、沈黙し。


『――――っ!! 行く!! 絶対行く!!』


 スマホが震えるほどの、弾けるような喜びの声。


『一真、最高! さすが私の騎士サマ! あぁどうしよう、本物の猫に会えるなんて。しかも一真と一緒に。楽しみすぎて寝られないかも!』


「死ぬなよ。じゃあ明日、十一時に駅前でな」


『うん! ……ねえ、一真』


 通話を切る直前。凛が囁くように言った。


『明日、たくさん甘えてもいいかな? 猫さんに。……あと、一真にも』


「…………っ!!」


 俺の心臓は、本日何度目かわからないオーバーヒートを起こした。


『にひひ。おやすみ、一真。大好きだよ。……彼氏くん』


 プツン、と通信が切れる。

 静まり返った部屋の中で、俺は自分の胸を掌で押さえ、荒い呼吸を整えた。

 

 明日。初めての、目的地の決まったカップルになってからのデート。

 猫を可愛がって蕩ける彼女の姿。

 そして、俺に「甘えていい?」と聞いた彼女の本音。


 夏休みは、まだ始まったばかり。

 けれど、この掌の中にある「秘密の約束」が、俺たちの物語をさらに眩しい場所へと運んでいこうとしていた。


「よし。明日、最高のバフ、かけてやるからな」


 俺は、彼女とのデートに向けて、猫カフェの情報を改めて検索し始めた。


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