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ネトゲの親友に性癖をぶちまけてたら、オフ会に来たのがクラスの美少女︎︎だった  作者: こうと


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第73話 ネトゲの親友に性癖をぶちまけられた

「……。えっと、えたーなる・れじぇんど?」


 一ノ瀬さんは、ストローを咥えたまま、きょとんとした顔でその単語を繰り返した。


 彼女にとってのそのゲームの認識は、その程度のものだ。

 凛が時々、部活の休憩中や放課後にスマホをいじりながら「今日のアプデがさー」とか「レイドのギミックが……」と独り言のように呟いているのを聞いたことがある程度なのだろう。

 一ノ瀬さん自身は運動神経抜群の陽キャの極みであり、画面の中でモンスターを倒すよりも、コートの上でボールを追いかける方が性に合っている。


「凛りんが、なんかすごい難しい顔してポチポチやってるゲームだよね? 中学の時からずっとやってるやつ。……。それが、どうかしたの?」


「一回もやってるとこ見せたことないでしょ?難しい顔か分からないじゃん」


「えー、だっていつもあのモンスターは……とか難しそうな顔で話してるじゃ〜ん」


 一ノ瀬さんは不思議そうに俺と東雲さんの顔を交互に見た。

 俺は、覚悟を決めて、テーブルの上にスマホを置いた。


画面には『エターナル・レジェンド』のマイページのスクショ。重厚な鎧を纏った俺の騎士アバターが、凛とした立ち姿で表示されている。


「一ノ瀬さん。……。俺と東雲さんは、このゲームの中で出会ったんだ。……。三年前から、ずっと」


「え……? ……えええっ!? 佐藤くんもそのゲームやってたの!?」


「やってたどころじゃないよ、咲希」


 凛が、少しだけ誇らしげに、けれど顔を赤くして言葉を継いだ。


「……。佐藤くんが、私の『相棒カズ』なの。……。私が咲希に、時々惚気……じゃなくて、自慢してたでしょ? 『私の言うことを一番聞いてくれる、最高の騎士がいる』って」


「――――っ!!」


 一ノ瀬さんが、持っていたグラスをテーブルに置くのも忘れて固まった。

 彼女の脳内で、バラバラだったパズルのピースが音を立てて噛み合っていくのが分かった。


「……。……。え、待って。……。じゃあ、凛りんが『今日もカズをボコボコにしてやった!』とか言ってた、あの『カズ』って……。……目の前にいるカズッチくんのこと!?」


「にひひ。……。正解。……。……というか咲希、一真のこと『カズッチくん』って呼ぶのやめてくれる?」 


「……え?なんでー?」


「……その、私の『カズ』と響きが似てて、なんか、私だけの呼び名が奪われたみたいで嫌なんだもん」


「ひゃあぁぁぁぁぁ!!」


 凛の不意打ちの独占欲全開発言に、一ノ瀬さんは口元を押さえて椅子の上でのたうち回った。

 だが、俺の心臓は別の意味で激しく脈打っていた。

……まずい。この「すべてをさらけ出す」流れは、俺が最も恐れていた「あの地雷」へと繋がっている。そんな気がしたからだ。


「一ノ瀬さん。……。この東雲凛という美少女は、ゲームの中じゃ『ハル』っていう名前で、しかもボイスチェンジャーを使って男のふりをしてたんだ。……。だから俺も、三年前からずっと、こいつのことを『口の悪い、生意気な男の親友』だと思い込んでたんだよ」


「ボ、ボイチェン!? ……凛りん、そこまで徹底してたの!?」


「だって、女の子だってバレたら、学校と同じみたいに『東雲凛』っていうラベルで見られちゃうでしょ? ……それが嫌で、わざと声を低くして、わざと暴言吐きまくってたんだよねぇ」


 凛は恥ずかしそうに笑いながら、俺のシャツの袖をツンと弾いた。


「…………。でも、カズだけだったんだよ。……。私の暴言を笑って流して、……。マヌケな顔して私の魔法の前に立って、……。三年間、ずっと私の『中身』だけを信じて、守り続けてくれたのは」


 凛の瞳に、宝石のような熱が宿っている、そんな風に見えた。

 

「……。だから、私。……。カズにだけは、本当の私を全部知ってほしかった。……。……たとえ、カズが私に送ってきたチャットの内容が、どれだけ『最悪』なものでもね」


「――――っ!?!?」


 …………来た。最悪の死刑宣告だ。

 凛は俺をジロリと「最低の変態を見る目」で見てから、にやりと、残酷で魅力的な笑みを浮かべた。


「ねえねえ、凛りん! カズっちくん、どんなこと言ってたの!? 咲希、気になるー!」


 一ノ瀬さんが、獲物を見つけたハイエナのような目で食いつく。


「にひひ。聞きたい、咲希? ……例えば――」


「――ちょっと待て」


 あまりの勢いに、俺の生存本能が警報を鳴らした。このままでは俺の尊厳が、ドリンクバーの氷よりも早く溶けて消えてしまう。


「落ち着いて話し合おうか凛。もしお前がその気なら、俺だってお前のあの『深淵の堕天使』な黒歴史ポエムを――」


 一か八かのカウンター。だが、言いかけた俺を見る凛の顔は、変な汗が止まらない俺とは対照的に、どこか余裕たっぷりの微笑みを湛えていた。


「――別にいいよ」


「……!?」


「黒歴史のポエムでしょ? 全校生徒が見える掲示板に流す訳でもないし、咲希に言うくらいなら。むしろ咲希なら、かっこいいって言ってくれるかもしれないしね?」


 凛はふん、と鼻を鳴らして胸を張る。

 ……詰んだ。凛と一ノ瀬さんの間には、俺が踏み込めないほど強固な親友としての信頼関係がある。自分の恥を晒してでも、俺を道連れにする覚悟が今の彼女にはあった。


「にひひ! 二人とも、相変わらず仲良しだねぇ!」


 その様子をニヤニヤと眺めていた一ノ瀬さんが、パチンと手を叩いた。


「よし! そこまで言うなら、平等に『ジャンケン』で決めよっ! カズッチくんが勝ったら凛りんがポエムを音読する! 凛りんが勝ったら、カズッチくんの秘密のログを大公開! ……どう? これなら公平でしょ?」


「……。望むところよ。逃げないわよね、カズ?」


 凛が挑発的に目を細める。

 正直、勝ち目があるかは分からない。けれど、黙って処刑されるのを待つよりはマシだ。俺は震える右手をグーの形に固めた。


「……受けてやるよ。俺の騎士としての運、ここで全部使い切ってやるわ」


「いいよいいよー! じゃあ、いくよ! 最初はグー、ジャンケン……ッ!」


「「ぽん!!」」


 俺が出したのは、渾身のハサミ(チョキ)。

 対して、凛の差し出した手は、俺のハサミを粉砕するグーだった。


「………………嘘、だろ」


「にひひ!! 勝ったぁぁ!! さすが私! カズ、お疲れ様!」


 凛がガッツポーズを決める。一ノ瀬さんは「あはは! 勝負あったね!」と大はしゃぎだ。

 俺は灰になりそうな絶望感の中で、椅子に深く沈み込んだ。三年間、あいつの攻撃パターンを誰よりも近くで見てきたはずなのに、肝心なところで裏をかかれた。


「さあ、咲希。約束通り、こいつの『大罪』を教えてあげるわね」


 凛は勝利の余韻に浸りながら、自分のスマホを操作し、俺がこの世から消し去りたいと願っている「ログ」を表示させた。


「いい? 咲希。一真は去年、まだ私が男だと思い込んでた頃に、こんなメッセージを送ってきたのよ。……音読してあげる」


 凛はわざとらしく咳払いをすると、あの鈴を転がすような地声で、残酷な真実を読み上げ始めた。


『なぁハル、うちの一ノ瀬さんって女の子がマジで絵に書いたような「隠れ爆乳」なんだよ。あの制服のボタン、いつか弾け飛ぶんじゃねーかって心配で夜も眠れねーわw』


「「「――――っ!!???」」」


 本日最大級の沈黙が訪れた。

 一ノ瀬さんは、自分の胸元を両手で隠すようにして、目を見開いて固まった。

 俺は。俺はもう、このまま液晶画面の中に吸い込まれて消滅してしまいたかった。


「……。ボ、ボタンが……? 弾け飛ぶ……?」


「そうだよ。他にもね、『東雲さんの脚も最高だけど、一ノ瀬さんのあの、柔らかそうなラインも捨てがたいよな……。あんな美少女二人が親友同士とか、あのグループは桃源郷かよw』……。……ですって。ねえ、一真。この『柔らかそうなライン』って、具体的にどこを指してるのかな?」


 凛の目が笑っていない。


「…………すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 俺の、魂を削った謝罪が、冷房の効いた店内に空虚に響き渡った。


 俺はテーブルに額を叩きつけた。ゴツン、と鈍い音が響くが、心の痛みの方が一万倍強かった。

 俺の社会的生命は今、このファミレスの冷房の風に乗って、遥か彼方の異世界へと転生してしまった。


「……。……。……ぷっ。……。……。……。……あ、あはは……あはははは!!」


 絶望する俺の前で、一ノ瀬さんが突然、お腹を抱えて爆笑し始めた。


「な、なにそれ最高!! カズっちくん、そんなこと思ってたんだ!? 『隠れ爆乳』だって! にひひ、凛りん、カズっちくんってば最高にスケベな騎士サマだねぇ!!」


「咲希、笑い事じゃないよ……。一真は本当に、私の脚とか咲希の胸のことばっかり考えてたんだから」


 凛は不満げに頬を膨らませつつも、俺の腕をテーブルの下でつねってきた。痛い。けれど、彼女が俺の「彼女」であることを、その痛みが証明していた。そんな風に今では思える。


「でもさ、カズっちくん」


 一ノ瀬さんが、笑い止んで、少しだけ真剣な瞳で俺を見た。


「カズっちくんが凛りんにそんなバカなことを言えたのって、凛りんのことを『東雲凛』じゃなくて、本当に何でも言える、魂の『相棒』だって信じてたからだよね?」


「……まあ、そう、だな。……相手が男だと思ってたからこそ、……煩悩を全部ぶちまけられたのは確かだ。……東雲さんのことも、一ノ瀬さんのことも、……偶像じゃなくて、一人の女の子として……その、魅力的だと思ってたのは、本当だしな」


 俺が消え入りそうな声で白状すると、凛と一ノ瀬さんは顔を見合わせ。

 どちらからともなく、ふふっ、と幸せそうに笑った。


「にひひ。やっぱり二人は、最高にお似合いだよ! ……凛りん。よかったね、そんなに素直に『スケベな本音』をぶつけてくれる相棒がいて!」


「スケベは余計だよ、咲希!! でも、ま。……。……そうだね……。カズの前でだけは、私も『天使』でいなくていいから」


 凛は俺の方を向き、そっと俺の手の上に自分の手を重ねた。


「咲希。これからは、隠し事なし。……。……一真と私は、ネトゲの相棒としても、現実の恋人としても。……咲希と一緒に、もっともっと楽しいことしたいって思ってるの。……。……これからも、私たちのこと、見守っててくれる?」


「にひひ! もちろんだよ! 二人の『桃源郷』に、咲希も混ぜてくれるんでしょ?」


 一ノ瀬さんは俺たちの手をそれぞれ取って、ぶんぶんと振った。


「よし! じゃあ、夏休みの予定、立てよっ! 凛りんとカズっちくんの二人きりデートは咲希がプロデュースしてあげる! もちろん、ボタンが飛ばないように気をつけながらねっ!」


いつまで擦られるんだろう……。


「…………一ノ瀬さん。……一生、頭が上がらないわ」


「にひひ! 相談役、これからもよろしくね、カズっちくん!」


 賑やかな笑い声が、個室の中に響き渡る。

 

 俺は、隣で幸せそうに笑う凛の横顔を眺め。

 そして、俺の黒歴史を「最高の勲章」として笑い飛ばしてくれた最強の理解者、一ノ瀬咲希の笑顔を見て。

 

 この最高にスリリングで、最高に賑やかな夏が、今、本格的に『ログイン』したことを確信した。


 俺は、スマホの裏側に貼られたドラゴンのシールをそっと指先でなぞり。

 明日から始まる、恋人としての新しい日常に、静かに期待のバフをかけ直した。


ご覧頂きありがとうございます!

登場人物についての補足(凛と一真・双葉との関係や矛盾について)を活動報告に書いておきましたので、よろしければご覧下さい!

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