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ネトゲの親友に性癖をぶちまけてたら、オフ会に来たのがクラスの美少女︎︎だった  作者: こうと


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第57話 連れ出す決意

どうすれば、この関係を「正解」に導けるのか。


 自室のベッドに横たわり、天井の木目を眺めながら、俺は、昨日からそればかりを考えていた。


 三年前、電子の海で出会った俺とハル。


 最初はただのゲーム仲間。

次は、背中を預け合える唯一無二の相棒。


そして今は――「東雲しののめりん」という一人の女の子の温度を知ってしまった、名前のない関係。


 妹の双葉の言葉が、呪文のように頭の中で反芻される。


『曖昧な関係に甘えてるのは、ただの逃げでしょ』


 その通りだ。俺は「相棒だから」という免罪符を盾に、彼女の隣という特等席を無賃乗車し続けてきた。

けれど、昨日の校舎裏での告白を見て、その特等席がいつ奪い去られてもおかしくない、危ういものであることを、嫌というほど思い知らされた。


(……終わらせなきゃいけないんだ。……この、「ただの親友」っていうぬるま湯を)


 覚悟を決める。

それは、三年間積み上げてきた「ハルとの絆」を一度壊し、新しい形に作り直すということだ。

失敗すれば、隣に座ることすら許されなくなるかもしれない。

 その恐怖で、胃のあたりがひりひりと焼けるようだった。





******






 翌日、火曜日。


 七月の陽射しは昨日よりもさらに容赦なく、登校するだけで制服のシャツが肌に張り付くような暑さだった。


「――おい、一真。さっきの物理の授業のノート、白紙だぞ。……お前、マジでどっか具合悪いのか?」


 二時間目の休み時間。隣の席の海斗かいとが、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


「……いや。……。ちょっと考え事をしてただけだ。……。心配するな」


「考え事って……お前、球技大会からこっち、ずっとフワフワしてんなぁ。もしかして、また新しいレイドボスのギミックでも解析してんのか?」


「……まあ、そんなところだよ。……。……。超難問なんだわ、今回のは」


 俺が力なく答えると、海斗は「へぇー、頑張れよ。俺には分かんねー世界だけどさ」と能天気に笑った。


 その時だった。

 教室の入り口付近で、華やかな二人の声が響いた。


「ねえねえ、凛りん! 次の土曜日の夜、予定空いてるよね!?」


 一ノ瀬さんの、透き通るような元気な声。

 俺は反射的に、そちらへ意識を向けた。

 東雲さんは、自分の席で次の授業の準備をしながら、一ノ瀬さんを見上げていた。


「来週の土曜日? ああ、例の『七夕夏祭り』のこと?」


「そうそう! 凛りんと一緒に浴衣着て、屋台巡りしたいなーって思って! 咲希、もう可愛い浴衣買っちゃったんだから! 二人で行こっ!」


「……。……。ああ。いいね!楽しみ〜」


 東雲さんはふわりと微笑んだ。

 一ノ瀬さんが「やったぁ! 二人きりで女子会デートだね!」とはしゃいでいる。

 

 その光景を見た瞬間、俺の胸の中にあった焦燥感が、冷たい氷水のように全身に広がった。


 一ノ瀬さんが誘った。東雲さんも承諾した。

 仲の良い親友同士の、楽しそうな夏祭りの計画。

 それを横から眺めているだけの、ただのクラスメイト、あるいはただのネトゲ仲間。

 

 ……嫌だ。

 

 心の中で、小さな、けれど否定しようのない声が響いた。

 

 一ノ瀬さんに連れられて歩く彼女。

 人混みの中で、俺ではない誰かの袖を掴む彼女。

 それをただ「良かったな」と笑って見送る自分。

女の子同士だから……そんなことは関係なくて。

東雲さんの歩く隣に俺がいない未来を想像するのが嫌なのだ。

 

 そんな未来を想像するだけで、呼吸が苦しくなる。

 俺は、机の下で拳を強く握りしめた。





******






 その日の放課後。


 いつも通り帰宅し、課題やお風呂を済ませ部屋でログインの準備をしようとしていた時、スマホに一通の通知が届いた。


【凛:カズ、ごめん! 今日はお母さんの買い出しに付き合わされることになっちゃって。夜のログイン、できないかも。また明日、学校でね】


 ……。

 一通の、短いLIME。

 普段なら『了解、パシリ頑張れよw』と返して終わるはずのやり取り。

 けれど、今の俺には、その「空白の時間」が、自分に与えられた最後のチャンスのように感じられた。


 自室のベッドに腰掛け、俺はスマホの画面をじっと見つめる。

 そこには、一ノ瀬さんの連絡先がある。

 

 彼女は俺たちの「秘密の相談役(?)」であり、東雲凛の唯一無二の親友だ。

 彼女が親友である東雲さんを誘った場所に、俺が割り込むなんて、普通に考えれば筋違いもいいところだ。

 

 けれど。

 誰かの「プロデュース」に乗っかっているうちは、俺はまだ、相棒ハルの本当の隣に立つ資格はない。

 

「…………やるか」


 俺は震える指で、一ノ瀬さんへのメッセージを打ち込んだ。

 もう、隠すのは終わりだ。

 俺は、俺自身の意志で、彼女を――ハルを、誘いに行く。


【一真:一ノ瀬さん。明日、放課後ちょっと時間ある? 前に三人で話した、あの校舎裏の場所に来てほしい。一人で。大事な相談があるんだ】


 送信ボタンを押した瞬間、指先が熱くなった。

 数分後。

 既読がつくと同時、弾けるようなスタンプと共に返信が届く。


【咲希:にひひ! カズッチくんから呼び出しなんて、咲希、ドキドキしちゃうなぁ!(๑>◡<๑) 】


【咲希:いいよ、了解! 明日、楽しみにしてるねっ!】


 ……。

 心臓が、耳元で鐘を鳴らしているかのようにうるさい。

 

 明日。俺は一ノ瀬さんに、すべての「ワガママ」を打ち明ける。


 東雲凛を、一人の女の子として誘いたいという、エゴの塊のような願いを。

 

 彼女が大切にしている「親友としての二人」の時間を、俺のワガママで壊してほしいと頼むのだ。

 呆れられるかもしれない。

 「カズッチくん、そんなキャラだったの?」と笑われるかもしれない。

 

 けれど。

 

(……ハル。お前に、最高の景色を隣で見せてやるために)


 俺は、ネトゲのログイン画面ではなく、窓の外に広がる、今にも降り出しそうな夏の夜空をじっと見つめた。

 

 親友という名の、安全な檻。

 その扉を自ら蹴破り、俺は明日、初めて「本当の自分」として戦場へと足を踏み出す。

 

 一ノ瀬咲希という最強の「観客」を前に。

 俺の、終わりの始まりを告げる夜が、もうすぐそこまで迫っていた。


「……ふぅ」


 俺は深く息を吐き出すと、明日のために、クローゼットから制服を取り出し、丁寧にシワを伸ばした。


 相棒の手を取り、自分だけの場所へと連れ出すための、不器用な決意。

 俺は今、その熱を胸に、静かな夜を越えようとしていた。


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