最強剣士と金髪剣士
ギィンッ、ギィンッ、と剣が鳴る。
刃を交え、拳を打ち、互いに互いの命を狙い合う殺し合いの渦中で男が二人。拠り所もない武器を振るう。
身体はもはや思考に寄っておらず、感覚……いや、己の生存本能のみを信じて剣を振る惨状へと化していた。
二人の剣戟、あるいは拳戟は大気を揺るがすまでに昇華され、二人の攻防が重なる度に透明の波紋が弧を描いて草木を揺らす。
留まることを知らない。
逃げることを知らない。
故に、二人は殺し合う。
「ハァアアアアア!」
「ラァアアアアア!」
何合目かの攻撃が衝突する。
金髪剣士の体力は、すでに限界を迎えそうになっていた。息を途切れ途切れにして、ジェネシスの拳に剣で応戦する姿は、さながら魔王に拮抗する勇者のようだ。
しかし悲しいかな。ジェネシスを魔王と定義するには、金髪剣士はあまりにも実力が低すぎた。
剣と拳を撃ち合う度に、己の剣が押されていることに気づき始める。そしてそれは焦り始める事と同義であり、金髪剣士は得体の知れない焦燥感に駆られていた。
つまるところ、余裕がなくなっていたのだ。
最初ならまだ、ジェネシスに対して勝ち筋を見出せる余力を残していた事だろう。しかし時が経つにつれて体力は擦り減り、ゲームの中だと言うのに息を途切れさせてしまっている。
「どうしたどうしたァ! そんなもんか雑魚がァ!?」
「……クソッ! 言わせておけば!」
「ケケケケッ! 当たんねェな、オィイッ!?」
「チッ!」
だとすれば、ジェネシスは体力のバケモノなのだろうか。
彼は自分とは違い、一切息を詰まらせることも、途切れさせることもしていない。
疲れていないのだ。これだけ激しい打ち合いをしておきながら、まったく慣れたことのようにケロリとしている。
そもそも。こんなヤツと真正面から、それも正々堂々と戦いに挑み、二度も勝利を勝ち取ったジゼルとやらは何者なのだ?
正真のバケモノなのだろう。双方の敗者であるジェネシスがこれなのだ。きっと人間の域を超越した何かなのだろう。そうに違いない。
「……ぬぅんッ!」
「っとと! よーやく順応し始めたかよクソ遅ェなァ! ほらほら、当ててみやがれよォ!」
「シィッ!」
袈裟斬り。そして薙ぎ払い。
正確にジェネシスを狙った攻撃は、他ならぬジェネシスの回避によって当たらない。
「そんなんじゃ蠅が止まるぞォ。剣ってのはなァ――」
――いつの間にか、だ。
握っていた剣は金髪剣士の大きな手から抜け出して、ジェネシスの両手の内に収まっている。
「こーやって、振るんだよォオオ!」
悪魔のような笑いを浮かべる男が、無力化された金髪剣士に猛攻を始める!
まるで鎌鼬のような斬撃の嵐。
脚を、胴体を、腕を。身体の下から余すことなく叩き切るそれは、金髪剣士を戦闘不能にするため、的確に仮初の肉を切り刻んでいく。
「これで終いだ――あばよォ」
――最後に、頭から下へとかち割られる。
心には不思議と後悔もなく、ジェネシスの笑顔への苛立ちだけが、未練がましく残ったのだった。
 




