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駆逐コンビの戦闘②

 ――女神のダンジョン予定地前。


 一人の赤髪の拳士と金髪の剣士が向かい合う。

 彼らは互いの利益を潰すことを目的として立っており、互いを

 ただし金髪剣士の背後には武器を構えたプレイヤーが幾人か立っており、情勢だけをみれば金髪剣士が優勢だ。

 しかし赤髪拳士の正体を知っている金髪剣士は、油断も慢心もすることなく、赤髪拳士の拳ただ一点に警戒を置いて問いかける。


「キサマ、ここに何の用だ?」

「オイオイ。お客サマに対してその物言いはマズイんじゃねェか?」


 不遜な物言いをするジェネシスに、周りのプレイヤー達が苛立たしげに武器を構えるが、しかし言われた当人である金髪剣士がそれを腕を伸ばして制する。


「ハッ、誰がお客様だ痴れ者め。此処は彼の女神を信仰せし唯一にして最大の信仰者ギルドだぞ。キサマのような愚物が来て良い場所であるはずがあるまい」

「神様だとか信仰だとか……こんなサイバーワールドで何言ってんだ。全部8ビットから始まった二次元だろうが。……いや、一応知性は持ってそうだし、ありャ三次元かァ?」

「キサマのその基準は何なのだ……」


 ジェネシスの発言に、本気で困惑するような素振りを見せた金髪剣士。しかし彼の頭の回転は止まっておらず、ジェネシスがどのようにして切通しを抜けて来たのかを探る。


「ふむ。で、どうやってここまで来た……いや、れた? あの一本道には、かなり重厚な罠を貼っていたはずだが?」

「ハッ! テメェにそれを言うかよ!」

「ふん。まあ是非もないな。キサマがどのようにここに辿り着いたのかは、一旦議論を止めておこう。なら次に、何故ここへ来た?」

「オイオイ。そっちばっか質問かァ?」

「不満か?」

「大いに不満だなァ!……まァ、別に俺も聞きたいことなんてねェし良いが」


 「では良いではないか」と話を続ける金髪剣士を、ジェネシスはゲラゲラと大きな笑い声で一蹴する。

 見事なまでの不毛な諍いに辟易したのか、金髪剣士の背後で見ていた修道女が前へと歩み出てくる。


「――カーバック」

「はっ。此処に」

「そろそろやめて」

「御意」

「オイオイ。俺と口喧嘩(遊んで)くれないのか? つか誰だよソイツ。そんなの無視して遊ぼうぜェ?」

「黙れ愚物。キサマのようなノータリンの愚か者が話していいような御方ではないのだぞ!」

「どーでもいい」

「キサマ……!」

「カーバック」

「……申し訳御座いません」


 敵と味方の板挟みにあう男をゲラゲラと嘲笑いながら、スッと目を細めて歩み出てきた修道女を観察する。

 リアルではあまり見かけないが、しかしこのゲーム内で街を歩けばよく見かける格好だ。黒と白であしらわれた修道服。両手の指を組み合わせて、何かに祈るようなポーズをしている。眠たげに細められた目を金髪に向けて、その実此方への警戒を怠っていない隙のない姿勢。


「……まるでアイツと相対しているみたいだな」


 ジェネシスがアイツと呼ぶ者は、いつ如何なる時でも警戒を忘れず、どのような環境にも逆境にも対応してみせるようなプレイヤーだ。

 彼女を最大のライバルと断定し、未だに進化を続ける最凶がいるからこそ、今の自分は此処に立っている。逆にアイツがいなければ、それは自分ではない。ただのNo. 1プレイヤーだ。


 そんな自分だからこそわかる。あの修道女のプレイヤーは、間違いなく()()()()()()()()、と。


「……ケケッ!」


 悪い笑いをするジェネシスを、修道女が睨んだ。まるで細い絹の糸を紡いだような鋭い視線は、悪どい笑顔を浮かべていたジェネシスを易々と貫く。


「『狂拳士』ジェネシス。何故、あなたは此処へ?」

「そりゃそこのダンジョンをクリアするためにな。それ以外にあんのか?」

お一人(ソロ)で?」

「聞いてくれるなよ」

ぼっち(ソロ)なのですね」

「どうかな? もしかしたらこの絶壁の上で待機してるかもしんねェぜ?」


 悪魔でも茶らけて対応するジェネシスに、修道女は、ふふっ、と軽く笑う。


「勇敢な御方なのですね。ですが、此処は通せません。お引き取りを」

「残念だったな。俺が大人しく引き取るわけねェんだよ。俺を退散させたかったら、無理やり退かせるこったなァ!」

「カーバック」


「――御意」


 ドス黒い重低音が響き、ドガンッ! と爆発音と共に砂埃が暗く舞い散る。

 金髪剣士が踏み出す瞬間には、剣士が握った剣の切先は、ジェネシスの鼻先へと届いていた。


 さすがに目を剥いたジェネシスは、いつものジゼルとの攻防で行うように、するりと切先の下を掻い潜る。

 すぐさま次の攻撃を仕掛けてくるが、それをジェネシスは片手で受け止める。カウンターでも決めてやろうかと逆手の拳を握るが、剣士はさらに剣へと力を込めて下へ振るう。


 力を込められた刃の痛みに耐えきれず、思わずジェネシスは剣を離してしまい、その間に剣士とは離れてしまう。


「……クハッ! やるじゃねえか!」

「口を慎め悪魔めが! 元よりキサマの相手をしていられるほど、我々は暇ではないのだ!」

「そうかよ。ならまずは上を見上げなきゃなァ!」


 ジェネシスは指を天に掲げる。

 パラパラと落ちる小石。ゴロンゴロンと落ちる大岩。

 義経の鵯越に及ぶほど、数多くのモノが落ちてくるその様はまさに絶景で、しかし落とされている者達にとっては絶望以外の何者でもない光景だ。


「……に、逃げろぉおおお!?」


 誰が叫んだのかわからないが、その言葉に触発されて逃げ始めるプレイヤー達。精鋭揃いの『女神たま信司隊』は、流星の如く落とされる大岩によって、蜘蛛の子を散らすが如く哀れに逃げ惑った。


 しかし、これだけの数の大岩を誰が落としたのか。沸騰した頭で逃げるプレイヤー達の中で、唯一冷静を保てていた修道女は考える。


 しかし考える必要など、何処にもなかった。何故なら、落とされた先に立っていたのは、一人のプレイヤーだったのだから。


「ご無事ですかジェネシス殿ぉ!」

「ナイスタイミングだ。くノ一!」


 ジゼル唯一直轄のくノ一――アヤメが落ちる岩の後ろに立ち、ジェネシス達を見下ろしていた。



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