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【完結】元最強プレイヤーは【魔法】を使いたいそうです。  作者: 光合セイ
第三章 限界の先を越えて行け

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運気0の真実

 剣と矢がぶつかり合う。火花が散って投射された矢が、カァンッ、と激しい音を立てて弾き飛ばされる。肉薄しようとするジゼルを、そうはさせまいとカナデが抵抗の証として射抜こうとする。

 しかし弓から投射される矢は、尽くをジゼルによって弾き落とされるか切り飛ばされる。


 走る速さは大分落ちているものの、AGI強化付与魔法【スピーダー】のバフ盛りでなんとか元の速さの半分くらいまでは回復している。追いつけるかと聞かれれば不可能に近いが、それでも攻撃に食らいつけるくらいの瞬発力は取り戻している。


「ハァァアア……!」


「クッ……!」


 先程の何もできないジゼルはいない。いるのは剣と鞘を両手に持って、さながら銅羅を叩くように連打を繰り出す二刀闘士だ。

 麻痺毒で優位性を保っていたカナデも、さすがに動くのが楽になってきたジゼルの猛攻には弱いのか、後退しながらジゼルの隙を窺っている。


 隠しパラメータである体力の限界がきて、一瞬だけ猛攻の手が止まる。カナデはその隙を見逃さずに、右手を矢筒へと運ばせる。取り出すのは切り札である『爆発矢』。鏃に仕掛けられている球体の中には、火薬のような粉末が仕込まれており、それが衝撃を受けることで爆発すると言う物騒な代物。

 今の状態から抜け出すにはこれしかない……


 爆発矢を弓に番えて下に向け放つ。

 予想通り爆発して、再びアリーナを砂塵が覆う。


 しかしジゼルは予想していた。窮地に追い込まれたカナデが、もう一度砂塵を起こすことを。すかさずジゼルはスキルを発動する。


「――アルゲントゥム!」


 STR & AGIの両方を強化するスキル『銀剣士アルゲントゥム』。第一回イベントの時に貰ったアイテム『運命の紙片』と言う名称の紙切れ。それに書いてあったスキルには、合計5個のスキルがあり、プレイヤーが選択することによってスキルを無償で手に入れられるのだが、ジゼルは【魔法使いになるため】ではなく『カナデと全霊で戦うため』に使った。


 その能力は『プレイヤーのSTR値&AGI値を2倍』。文脈だけ見れば少し入手困難なスキルと同等なのだが、『銀剣士』の限りはそれだけではない。

 2倍になる対象は『自前のステータス』だけではなく『付与魔法等によって補正を受けたステータス』もなのである。


 すなわち【パワード】や【スピーダー】によって強化されたステータスに掛け合わせれば、それが5倍、10倍、14倍、やろうと思えば3桁も夢ではないだろう。

 常識外なまでの数値的補正が入ることに気づいた。


「うりゃあ!」


 気の抜ける掛け声とともに円を描くように剣と鞘を振るうジゼルは、砂塵を吹き飛ばすほどの力を発揮した。



 闘技場内に、嵐が巻き起こる。



「はああ!?」


 奇想天外、ここに極まれり。ジゼルが使ったのはスキルでも魔法でもなく、スキルや魔法によって超強化されたSTR値のステータス。現実風に言うなら薬物投与によってドーピングされた一時的な超人となった者の腕力だ。

 魔法使いとしてのINT値によって強化された付与魔法を用い、さらに剣士として上げたSTRやAGIのステータスや技量。第一回イベント時での悲劇のような選択スキルを逆手に取ったスキル行使。SFC時代の化物が、ここに再び復活した。


 嵐の中心でくるくると回っているジゼルには、風圧のせいで近づくことが出来ない。弓を射ても吹き飛ばされるだろう。

 前方から吹き荒れる強風から目を守るため、目元を腕で隠したカナデは叫ぶ。


「……腕力で嵐起こすとか意味わかんないだけど!」


 まったくである。普通なら物理的にありえない。そんなことが現実で可能なら、今頃現実世界は人工環境破壊兵器で溢れかえっている筈だ。しかし喜ばしいことに人間の体の強度は、人間の腕で人工的に嵐を起こせるほどの耐久性を得るほど、野生的な進化を遂げていない。

 しかしここはゲームの世界。VRMMOゲーム『ゾディアック・オンライン』と言う、ある種の異世界のような場所である。超人のような力を持つ者、多種の魔法を扱う者、剣を振りかざして無慈悲にモンスターを斬る者など、多くの人外がいる世界観なのだ。

 リリースされてから2ヶ月が経過している今、腕力だけで嵐を起こす者が現れても不思議ではない。その『初めて』がジゼルだったと言うだけだ。


 やがて(ジゼル)の回転力は落ちていき、ふらふらと覚束ない足取り目を回して剣を杖代わりにして地面に突きながらジゼルは立っていた。


「ど、どーだ……!」

「……いや、その体で勝てると思ってんの?」

「問題ない! ……うん。多分」


 なんとも不安が残るジゼルの答えに、カナデの口端がヒクヒクと引き攣る。ダメなやつだこれ。

 カナデは呆れながら唐突に現れた好機を逃すまいと弓に矢を番える。用いる矢は麻痺毒を仕込んだ矢だ。先程の麻痺の効果は消えていないはずだから、重ね掛けで完全にジゼルの動きを封じ込める。


 しかしジゼルはカナデの行動に気付いているのか、はたまた気付いていないのかは分からないがカナデに問いかける。


「……ねえ、カナデ」

「……なに?」

「聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


 くるくると回転したことによる反動を受けているのか、酔っている頭を回復させるために顔を俯きがちに問う。


「やだ。戦闘中でしょ」

「大事な話だから……」

「そう言って回復するつもりでしょ。させないよ」

「酔いならもう回復してるし。なんならその矢を撃ってみなよ。避けてあげるから」


 どうやら矢を投射しようとしていることはバレていたようだ。なら撃っても避けられることだろう。初見で最強プレイヤーを倒してしまったジゼルの反射神経を舐めてはいけない。


「……バレてるならいいよ。何を聞きたいの? アタシの黒歴史?」

「カナデの黒歴史なら全部知ってるからいいや」


 茶化して言うカナデに対して、にへらっと笑って答えるジゼル。朗らかに笑っているように見えるが、目が笑っていない。少しだけ怒ってる時のジゼルだ。これ以上怒らせても自分の戦闘に支障が出ることだろう。カナデは息を呑んで口を噤む。


 それはそれとして、アタシの黒歴史のことに関しては、後で根堀り葉掘り聞き出さなくては。


「知り合いのプレイヤーから聞いたよ。わたしってすごい有名なプレイヤーだったんだね。ジェネシスだっけ? わたしが倒したNo. 1プレイヤーの名前って」


 その言葉にカナデは凍りついた。必死に隠していた情報が何処からかジゼルに流れ込んで露呈してしまった。


「そう言えばアヤメもそんなこと言ってたし……カナデも言ってたよね? ナンパ紛いのことをされた時さ。ねぇ、カナデ。なんでわたしのことを隠してたの?」


 思わず黙ってしまう。知り合いのプレイヤーと言うのが分からないが、きっとおそらくアタシみたいなジゼルをよく知っている人の苦労も知らないで、その人は気にせずジゼルに全てを語ったのだろう。物凄く腹が立った。


「……くそっ。ジゼル、そのプレイヤーって……」

「その人は今関係ないでしょ。今はわたしとカナデの問題だよ」


 言われてしまえばそれでお終いだ。ジゼルも怒っているし、かく言うアタシも怒っている。

 顔を上げたジゼルの瞳は第一回イベントの時よりも、普段から過負荷(オーバーロード)状態を使用する時よりも――そして、かつての一戦の時よりも色濃く緋色に染まっていた。


「……なんでわたしに嘘をついてたのかをさ。教えてよ、カナデ」

「……嘘をさ、吐いちゃダメなのかな?」

「……ぇ?」


 低い声音で睨みつけてくるカナデに戸惑い、無意識のうちに過負荷状態を解く。

 それすらもどうでもいい。今はジゼルに対して何かを言ってやらないと気が済まない。


「アタシは嘘を吐いちゃダメなの? それともアンタに対してだけ嘘を吐いちゃダメなの!? アンタだってわたしに嘘くらい吐いたことあるじゃん! なのになんでアタシは嘘を吐いちゃだめなの!? 不公平だよ! アンタは昔からそうだった! アタシに過度の期待を抱いては希望を突きつけてくる! 本当に……ほんっとうに! いい加減にしなさいよ、この自己中!」

「……っ」


 こんなのは欺瞞だ。そして傲慢だ。それは自分でもわかっている。優しく慈悲深い嘘なんてものでもなく、嘘を吐かれた人が不安になる酷い物。しかし突き通さなければいけない守護の盾。

 言われたジゼルは胸に残っていた怒りの炎を着火させ、瞳の赤を再燃させる。


「わたしだって嘘を吐きたくないし、それに嘘を吐くことが悪いとは言わないよ。でも吐く嘘を間違えたら、それは悪でも何でもない……そんなのは、ただの罪だよ!」


 怒涛の勢いで矢継ぎ早に紡がれる言葉の嵐。怒るジゼルは何度も見たことある。16年間も一緒にいれば、優しいジゼルの怒った顔なんね嫌でも見ることになる。けれど、今のジゼルはまるで噴火した火山のように爆発していた。


 我慢ならずカナデは言い返そうとして――


「それと過度の期待、だっけ。じゃあカナデがいつもわたしに向けてる視線はなに? カナデだってわたしに変な期待を抱いてるじゃん! それでわたしが何かを出来ない度に笑いながら、その実、ぜんっぜん笑ってない! しかも失望したような視線を向けてくる。カナデからしてみれば何が良くて何が悪いのかがわたしにはわからない……だから、()()()()()()()()()()()()!」


 ジゼルの口から放たれた、カナデに向けられた初めての罵詈雑言。出そうとしていた言葉も息も、思わず呑み込んで記憶から抹消されていく。

 良くも悪くも特徴のない容姿、誰に対しても隔てなく接する聖母のような性格、そして優しく慈悲深かったジゼルが一番仲が良いカナデを罵倒したのだ。ショックの他に言いようがない。


「ぅあ……ジ、ジゼ……」

「だから……なんで教えてくれないのか、それだけ教えて? カナデがなんでわたしのことを教えてくれないのか、それが知りたいんだ」


 修羅のように怒り狂っていたジゼルは、今度は聖母のように慈悲深い声音で問いかけてくる。ジゼルは話術が上手い。そして感情のコントロールも。それこそアタシなんかよりも全然上手い。だから乗せられてしまう。理性の残る頭で止めようとしても、助けを求める体が勝手に動いて声を出してしまう。


「……アンタは、アタシの光だから」

「……」

「アタシの通らなきゃいけない道を照らしてくれる、唯一の灯火。だから、向かい風から守らなきゃいけないから……」


 ジゼルは目を見開いて驚いたような表情になる。自分で言ってても恥ずかしいのだ。聞いている当人からすれば気色悪いことこの上ないだろう。

 気持ち悪がって引くどころかジゼルとの絶交まで視野に入れていたカナデは、麻痺によって重くなっている脚を動かして目の前まで近づいてくる少女に気付けなかった。


「カナデ」

「……っ」


 思わず目を瞑る。ジゼルはそれでも怒っているらしく、瞳を赤く染めて感情が昂っていることを示唆させる。良くて引っ叩かれるかと思いながら目を瞑ったが、予想していた痛みはいつまで経っても来ない。

 目を開くと腰を折って礼をしているジゼルが。


「ごめんなさい」

「……え?」


 目の前で謝罪してくる少女に、カナデは困惑する。何がどうなってそうなった? 少なくとも、今怒っていいのはジゼルの方だ。謝るのはアタシの方だ。だと言うのに、何がどうなった?

 思考が加速度的に鈍くなったカナデに気付かずに、それでもなおジゼルは謝り続ける。


「嘘を吐いてごめんなさい。悪口を言ってごめんなさい。嫌なことをしてごめんなさい。信じてあげられなくてごめんなさい。何もわかってあげられなくて、ごめんなさい」

「え、えっと……」

「わたしも人間なんだよ。カナデは昔のわたしを見て、知って、たぶん完璧超人みたいに思ってたかもしれないんだけど、1人の人間なんだ。だから、わからないことだらけなんだ」

「……」

「だから親友で幼馴染みのカナデのことも、全部はわかってあげられない。だから、ごめんなさい」


 言い訳染みた謝罪。目を逸らしてしまいたいほど恥ずかしく、幼気な心からの言葉。しかしカナデの目は、心は、今もなおジゼルに向いている。

 口を半開きにしていたカナデは、ようやく口を開いて声を出す。


「――ジゼル。顔を上げて」


 カナデは頭を下げる少女を呼びかける。とある決意を固め、決心する。――この少女とは、生涯の付き合いだ。そう思ったのは今回で何度目だろうか。


「アタシもごめんなさい」


 ジゼルと同じように腰を折って謝罪する。


「酷いこと、いっぱい言ってごめんなさい。大事なことを隠しててごめんなさい。アタシも、アンタと一緒にゲームがしたい……!」

「……うん。わたしもだよ」


 こうして、1年と1ヶ月に渡る2人の因縁はケリを付けられた。


「――それで、これからどうする?」


 仲直りをしたものの、今回のメインは終わっていない。今は戦闘中だ。途中から口喧嘩が始まってしまったが、先程まで2人は正面切って戦っていたのである。

 正直言って、2人には戦う気力は残っていない。むしろ目の前の少女とは今は戦いたくないまである。


「ぶっちゃけアタシは戦いたくないんだよなー。せっかく仲直りしたのにさぁ……」

「わかる。でも決着はつけなきゃいけないからね」


 白星か黒星か。今回のゲームで付けなくてはいけないのは、そのどちらかの星だ。そんな気分ではないが、ゲームに参加しているからには決着をつけなければいけない。

 早期決着を望む運営からしてみれば、どちらでもいいから早く勝ってくれと言った気分だろうが。無理やりにでも終わらせようとしないのはGM(ゲームマスター)としてのプライドだろう。


「うーん……」と考え込む2人。


「じゃあこんなのはどう?」


 カナデの手には爆発する矢が握られていた。弓に番えていなかったら、ただの爆弾だ。しかし威力は並以上。決して手荒ち扱ってはいけない代物だ。


「これを今から爆発させる。耐え切った方の勝ち。どう?」

「引き分けとかにならない?」

「それはわからない。けど引き分けが通用するんだったら、システムを作ってる運営が許してるってことじゃないの?」


 たしかに。不正は許されない行為だが、カナデが考えたサブゲームは、一応ルールに則っている行為だ。しかし懸念が一つだけ。


「カナデがダメージを負わないって言う可能性は……」

「心配ないよ。自分の物理的な攻撃は自分にも当たるから。魔法を除いてね」

「なるほど」


 それなら安心だ。しかし爆発する矢も、おそらく元は市販品。自分で一から作り出すようなものでもないだろう。


 カナデはこれ見よがしに矢を振り上げる。おそらく前方から来るであろう圧迫感を予想してジゼルは目を閉じる。しかしカナデは、余裕を持った声音で声をかけてきた。


「……ねぇ、ジゼル。アンタに追いつくために、アタシも少しだけ魔法を使えるようになったんだよ?」

「――え?」

「【アースウォール】」


 目を開けたジゼルの視界に飛び込んできたのは微笑んでいるカナデ。口を動かして声には出さずに「がんばって」と言っているのは、読唇術が出来ないジゼルにもわかった。カナデは自らが唱えた魔法によって半球体の土に囲まれる。同時に振りかぶられた矢も見えなくなる。

 半球体の土の中から爆発するような轟音が響き、その次の瞬間には土の壁は砕け散った。飛ばされてくる土の破片は痛くはない。ダメージも入らない。


 人工的に作り出された轟音と爆風が収まると、半球体の中からはカナデだったポリゴンがふわふわと天へと昇って行く。その向かう先には『WINNER Giselle』の英文字が。正真正銘、ジゼルが勝ったと言う証だ。

 2人の少女の大激戦に始まり、幼馴染みの少女達による口喧嘩、謝罪、そして気の抜ける会話を聞いていた観客席の人々は、激闘の勝者に大歓声を上げた。


「……え?」


 その勝者の少女と言えば、その場にへたり込んでぼーっとしている。



 ――ジゼル、本選出場決定。



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