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【完結】元最強プレイヤーは【魔法】を使いたいそうです。  作者: 光合セイ
第二幕 虚数の先に待つのは何か

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運気0の虚数魔導書庫⑨

 緑の悪夢再来。


 ジゼルが苦戦を強いられた大きな緑の影は、酸性の高い溶解液を撒き散らしながら、暴力に頼るかのように屋敷を破壊していく。

 古代中華の武将『項羽』の歌った歌に『垓下の歌』という『力拔山兮(ちからやまをぬき)氣蓋世(きはよをおおう)』から始まる有名な歌がある。己の力を鼓舞して自身の士気を上げるための歌だ。


 ボスゾンビの立ち振る舞いはそれの上位互換だ。

 本能のままに凶暴に振る舞うボスゾンビは、自分の力を過信してさらなる凶暴性を纏っていく。しかもその自信過剰がSTRの増強に繋がっているのか攻撃力は増すばかりだ。少なくともジゼルが当たれば即死だろう。

 この緑の悪魔を召喚したマジュリティーと言えば、ボスゾンビの後ろで千にも等しい数の魔法を、炎の雨の如く常に撃ち続けてくる。



 ――もうこれがラスボスでいいんじゃない?



 そう思えてしまうほど、ボスゾンビとマジュリティーのコンビは強すぎる。

 対してジゼル・リィアンコンビはと言うと、リィアンが『虚数魔導書庫』でマジュリティーの魔法に対抗して、ジゼルは懐に入れるタイミングを読みながら逃げ惑っているだけだ。

 致命的な攻撃が出来れば、今の状況から脱却出来るのだが……


「隙なんて無いんですけど……」


 圧倒的な防御力を誇るボスゾンビの背後に隠れている、圧倒的な魔法連射力を誇るマジュリティー。チームプレーと言うよりも個々人の力が強すぎるが故に、自然と波長が噛み合っているようにも見える。


「……!」


 そこまで考察して跳躍すると、ボスゾンビが屋敷の瓦礫を手に取っているのが視認出来た。


「リィアンさん!」

「え、ジゼ――」


 ボスゾンビは大きく振りかぶって屋敷の瓦礫を投げる。予想だにしていなかった場所から投球された大きな破片は、反応が遅れたリィアンへと飛来し――


「【パワード】【パワード】【パワード】ォオオオ!」


 ジゼルは筋力増加バフを惜しげもなく使い、剣を握って壁を蹴り、飛来した瓦礫とぶつかった!


「ぐ、うぁ……!」


 衝突したジゼルと瓦礫は、互いの接点に生まれた衝撃力によって吹き飛ばされる。勢いよく壁へとぶつかったジゼルは地面へと横たわって動かなくなった。


「……ッ!」


 残されたリィアンは力なく倒れるジゼルを見て、己の心中に生まれた黒い渦に飲み込まれた。



 ――自分の判断の遅さのせいだ。

 ――自分の判断の鈍さのせいだ。

 ――自分の無力のせいだ。

 ――自分のせいだ。



 募りに募る罪悪感。無力感。絶望感。募っていた負の感情が、ここに来て爆発し、溢れ始める。



 ――こんなことなら、もう迷わなくていい。



 この場に他のプレイヤーがいなかったことが幸いした。……否、災いとなった。リィアンの目は赤く染まり『リィアン』というアバターに負荷がかかり始める。蒸気を発しプレイヤーではない、アバターが悲鳴を上げている。

 ――負荷がかかって空いた感情の穴に、明確な【死】の概念が癒着した。


「『レメゲトン』」


 それは魔法の名前か、あるいはスキルの名前か。否、そのどちらでもない。何故なら、リィアンの頭上には一つの()()()が禍々しく光っていたから。

 

「【テウルギア・ゴエティア】」


 リィアンの柔らかい声によって紡がれる魔法名。突如として魔法陣から放たれる紫電を纏った魔力光。一つの形を作っていく魔力塊。


 片方が斬られた牛の角。獣のような凶暴性を持った獰猛な顔。逞しく肩幅の広い筋肉質の体。指の太い手に握られているのは、牛人の身の丈に合った巨大な戦闘斧ハルバード

 本来ならば迷宮の奥で待っていなければいけない存在(ボス)が、リィアンの命令を待つように立っていた。


「あれを殺りなさい――ミノタウロス」


 ――魔牛が吠えた。



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