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変人魔術師侯爵







「これこそ運命です!!」

意中の相手もいない、自分の魅了にもかからない相手に出会えた事が嬉しくてリディアーヌはその場でくるくると回った。


「だからお前は何なんだ!…ん?」

クライブはリディアーヌの近くにある自分がつい先程植え替えた魔華が綺麗な薄紫の花を咲かせている事に気が付いた。


「そうですわっ!わたくしとコンラッド侯爵様は運命に違いありません!!」

彼女が楽しそうに笑うと近くの花達はポンッポンッと咲いていく。


どういう事だ…?

クライブは彼女の周りで次々と咲いていく花に眉を寄せた。


この花は相性の良い魔力を大量に与えなければ咲かない特殊な魔華であり、主に精霊の多い環境の良い森に咲くものだ。数ある研究者たちがこの美しく可憐な花を咲かせようとしたものの、誰一人として人工で花を開花させることが出来なかった。

私ですらどうすれば花が咲くか試行錯誤をしていた。



「お前」


「なんでしょう?コンラッド侯爵様」

リディアーヌは誰もが見惚れる笑顔をクライブに向けた。

しかし、クライブは眉を寄せたままリディアーヌの魔力を探る。


「…何だお前のその出鱈目な魔力は」

クライブはその漆黒の瞳を大きく見開いた。


正直驚いた。

きょとんとした表情をする彼女は事の重大さに全く気付いていないらしい。この国にここまでの魔力量をもつ者が居たとは…彼女の魔力は特に精霊が好む純粋な泉のような穏やかなものだった。その魔力量はエリートと言われる宮廷魔道士の3倍は超えているだろう。国は何をしているのだ。これは国宝とも呼べる。国に囲われるべきものだ。


「魔力…ですか?そうですね、わたくしの魔力は凄いと昔魔道士様に言われたことがあります」


「ならなぜお前はここにいる。それ程までの魔力があるなら国がお前を保護している筈だ」


「…まさか、わたくしにそこまでの力はありませんわ。でもそう言えば昔、宮廷魔術師にならないかと言われた事はありますわ」


「ならなぜ…!!」


「お断りしましたもの」


「は?」


「わたくしは魔術師よりも、素敵な殿方と結婚しても幸せな家庭を持つ事を昔から望んでいるからですわ」

実際にリディアーヌは魅了という力もあり、彼女がNOと言ったらそれまでなのだ。宮廷魔術師に勧めたという者ですら彼女の魅了に掛かりリディアーヌが嫌と言った事を強要はできなかった。


「そんなことの為に?」

素敵な家庭を夢見るリディアーヌに対してクライブは魔術一筋の人間だ。彼が何よりも優先する魔術を二の次だと言う彼女にありえないと思うと同時に少しばかり苛立ちを覚えた。


「そんな事とは失礼な!わたくし貴方と愛を育むのだとたった今決めましたわ!!」

リディアーヌはビシッとクライブを指差す。


クライブは少し考えた。彼女の魔力を私が有効活用すれば研究が捗るのではないか…?クライブは魔術を好んだが、魔力量は中の上と言うところで自分の魔力だけではできる研究に限りがあった。そんなクライブは魔力を溜めると言われている植物、魔華や魔物の核である魔石を使って魔力を貯蓄して研究に使っていたのだ。魔華も魔石も希少で高価なものであるが、それの数倍の魔力をリディアーヌは持っている。これだけの魔力があればどれだけ研究しても余りあるだろう…まだ手を出していなかった大魔術の研究もできるかもしれない…。


結婚など時間と金が無駄になる面倒な物だと思っていたが、彼女の言う幸せな家庭作りに協力して大量の純粋な魔力が手に入るなら安いものだろう。


「いいだろう。お前の申し出を受けてやる」

ニヤリを笑みを浮かべたクライブにリディアーヌは少し身震いをした。









「こ、ここには使用人は…」


「そんなものいらん。使用人を雇うくらいなら魔石を買う」

そう言うお屋敷の中はとても貴族のお屋敷とは思えないほどのガラクタ屋敷だった。

所狭しと並べられた魔術道具の数々、大量に飾られた魔石や魔華、リディアーヌが見たことない物が研究施設のように並べられている。


「ここは…何かの研修施設…のようですね…ひぃっ」

隣のビーカーにはドクドクと脈打つ赤黒い魔石が何かの液体に付けられていた。


「そいつはナイトドラゴンの核だ」


「ま、まぁ…何だか生きてるみたいですわ」


「そうだろう!!」

クライブは一気にリディアーヌに詰め寄ると、隣にあったナイトドラゴンの核が入ったビーカーを大切そうに持ち上げた。


「核は通常死んだ魔物から取り出すが、このナイトドラゴンの核は生きたまま核を取り出して特別な液体につけたからまだ核は生きたドラゴンの中にあると思い込んで動き続けているんだ。すごいだろう!!」

クライブは子供のように目を輝かせてリディアーヌに説明をしたが、内容は公爵令嬢であったリディアーヌは今まで関わりのなかったグロテスクな話に思わず身を引いた。


「そ、そうなのですね」

い、いけません。この方の妻になると決めたからにはこれしきの事で引いていてはだめですわ!!

リディアーヌはそう思い止めると引きそうになっていた足をグッと堪えて近くに並べられていた琥珀色の魔石に手を伸ばした。


「この屋敷には触れたらいけないものもたくさんある。不用意に物に触るんじゃないぞ…っておい!!」


「え?…きゃあっ!!」

リディアーヌが触れた魔石は黄色く発光して勢い良くパンッと弾けた。


「な、何が起こりましたの!?」


「お前っ!!だから不用意に触るなと…」

座り込んだリディアーヌにクライブは怪我がないか確認すると手を差し伸べて起き上がらせようとした。


「…おい」


「こ、腰が抜けました…」

リディアーヌが立ち上がれないのを見てクライブは眉を寄せて溜息をついた。


「少し待てばすぐに立て…なななな!!何をしますの!?」


「立てない女を放置できるか…それにここにいたらまた余計なものを触るだろう要するに邪魔だ」


「し、心外ですわっ!!」

リディアーヌを軽々とお姫様抱っこしたクライブはそのまま立ち上がってメアリーに目配せすると廊下へと歩き出した。


「は、恥ずかしいですわ!!重いでしょう!!下ろしてください!!」


「確かに重い、腕が折れそうだ」


「まっ!!」

リディアーヌは顔を真っ赤にさせた。

嫌がる素振りを見せつつも初のお姫様抱っこに内心少し喜んでいたが、クライブの発言でそれどころではなくなる。

た、確かに最近は贔屓にしてる洋菓子屋の新作マドレーヌにハマって食べ過ぎたかもしれませんが…レディに向かってそんな正直に言わなくてもいいではございませんか…!!

リディアーヌは泣きたいのか怒りたいのかわからなくて口をパクパクさせた。


「だからせめて大人しくしていろ」


「リディアーヌ様…」

クライブとリディアーヌの少し後ろで、同じ女として同情の視線を向けるメアリーであった。








登場人物


クライブ・コンラッド

コンラッド侯爵家当主。

20歳でリディアーヌより5歳年上。

この国では珍しい黒髪、黒目の美青年だが、魔法以外はあまり興味がなく髪も伸ばしたままで素顔は常に隠れ気味。

収集癖がある。魔術の研究に没頭するあまり、変人魔術師侯爵と呼ばれている。

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