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その花、萎れて枯れるまで  作者: 岩塩龍
その花、萎れてかれるまで
3/5

×二輪目・後悔はいま?思い出はまだ……

ー月曜日 卒業20日前ー


「おはよーございます」

 俺は委員会所属が高校入試の評価に入るだかなんだかと先生に聞いて、なんか楽そうだった風紀委員に入っていた。

 この三立中学の風紀委員は朝に校内を歩き回って挨拶をするという謎の仕事がある。もちろんそれは俺も例外ではない。

「おはよーございます」

 もちろん栽治は面倒くさがり屋なので、かなり雑に挨拶をしている。

「………」

 もちろん、目も合わせずに適当に挨拶しているだけなので、返事なんかは返ってこない。

「おはよーございまーす」

「おはよー」

 たまに返ってくる返事も元気の無い、適当なものが多い。

「あ、己織、おはよう」

「……おはよう」

「じゃあ、また後でね」

「ん……わかった……」

 今日は、あまり元気じゃなさそうだったな。

 昨日、いろいろ歩き回ったから疲れたのかな?

 あ、そうか校内なのにあまりにも話しかけるテンションが高すぎたな。己織、目立ちたくないって言ってたのに……ごめん。



 そして、一限と二限の小休憩時間

「己織、さっきはごめん?」

「う、うん」

 己織はそう言って、スタスタと歩き出してどこかへ言ってしまった。

「しもうた、やらかした!」

 謝るために話しかけたのにテンションが高いままだった。

 なんかもうすでに避けられてるし。


ー 昼休み ー

「なぁ己織、どうしたんだ?」

 今日一日、明らかに避けられている気がしたので、直接聞いてみることにしたのだ。

 原因俺だが……。

「べ、べつに……」

 スタスタスタ……

「あ、ちょ、まっ……」

 やっぱなんか避けられてる気がする。

 いや、絶対避けられている。

 しかも、またテンション高いままだったし。


ー 放課後 ー

 結局、今日はほとんど話してもらえなかった……。

 俺、嫌われたのかな……。

 うーん……。

 ちょうど前を歩いているし聞いてみよう。

「己織、あのさ…」

 そのまま言葉を続けようとしたが、

「さ、さよなら!!」

 走って帰ってしまった……。

「うーん、やっぱ怒らせちゃったかな?とりあえず追いかけよう」

 よくわからないが逃げられたので、とりあえず追いかけることにした。

 階段下りて廊下を歩き終え、玄関から外に出る。ただそれだけの簡単なお仕事です。

 栽治が追いかけてきてることに気づいた己織は、走り出して道路を走っていた。

 栽治が靴を履き替えているうちに、己織は道を曲がり栽治の視界からは消えてしまった。

「ってもう見失った……」

 でも、なんかここまで来るとちょっと悔しいので、できるだけ追跡してみよう。

 そう思い栽治は、見失う直前の道までとりあえず行ってみた。

 そこは、長い道にたくさんの曲がり道がくっ付いたような道だった。

 これでは己織がどこに行ったかわからない。

 ここで諦めたら負けだろうという謎の気持ちに押されて、栽治はその辺にいた後輩に聞いてみることにした。

「ね、ねぇ……ちょっといい?」

「先輩、ナンパはお断りです」

 いきなりなんだ?これ?と、思ったが意味不明な返答に対して乗って言葉を返してしまえば、向かう先が変な方向になることは見えているのでここはあえて普通に言葉を返す。

「いや、ナンパじゃないし」

「じゃあ何ですか?」

 制服の名前の色からして、二年生だろう。

 それにしても、ナンパ以外に思いつかんのか普通。

 まず、なぜ中学生なのにナンパなんだという疑問は置いといて、己織がどこいったかを知っているか聞いてみるとしよう。

「えーと、西条さん……」

「あ、告白も結構です、間に合ってますので」

「いや、告白でもないし!!」

 というか、間に合っているんだ。まぁ、俺も間に合っているけどね。一応。

 名前は西条小衣さん。

 それにしても、なぜここで告白だと思うんだ?意外とモテるのかな?

 とりあえず、それも置いといて、さっさと質問しよう。タイムロスは命取りだ。

「えーと、じゃあ何ですか? 用件は的確に伝えてくださいよ先輩」

 的確にってこんなに話が曲がりくねったのは誰のせいだと思っているんだよ。

「あのさ、尼子己織さんはどっちに行ったかな」

「うーん、尼子先輩ですかー」

 特徴ではなく名前で聞いてしまったが、どうやら己織のことは知っているようだった。

「うん、どの道に行ったかわかるかな」

 さっき、うーんといっていたので、たぶんどこにいったか知っているだろう。

「でも、そんなの聞いてどうするんですか、先輩?」

 今度はちゃんと俺の意図も伝わったようだ。

「いや、追いかけないと」

「ストーカー?」

 いや、やっぱり今回も意図は伝わってなかったようだ……。

「いや、違うし……」

 なぜ、ストーカー……今の俺の行動だけだとそれっぽいし完全に否定はしきれないが。

「まあ、いいですけど。尼子先輩はそこの駄菓子やの右の道に行きましたよ」

「ありがとうね」

 そう聞くと栽治は走っていった。

 二年生は栽治が走っていったのを見届けてから「もう、いいですよ」といい、それを聞いた己織が塀の陰から出てきた。

「ありがとうね小衣ちゃん」

「いえ、それより己織先輩」

「ん、なに?」

「なんで追いかけられてたんですか?しつこい告白とか?」

「いや、そういうわけじゃないよ」

「ならいいですけど。またなんかあったら言って下さいね」

 そういって小衣は帰っていった。

「私も……帰ろう……」


 一方栽治は......

「あっれ? おかしいな……もしかして……」

 たぶん…いや、確実に騙された……。

 そういえば、西条さんは己織の同じ部活だったような気がする。

 ……あいつら、グルか……。

 これはどうもならないな。

 今日は帰ろう。

 そういえば己織はもう帰ったんだろうなー。

 でも、今日一日避けられてた理由は何なんだろうな。

 そんなことを考えながら栽治は帰路についていた。





 あの後、己織はゆっくり歩いて自宅に帰っていた。

「ただいまー」

 家には誰もいないので、もちろん返事は返ってこない。

 己織はご飯も食べず自分の部屋に入り、鍵をかけた。

 そして、ベットの上で体育座りをしている。

 その姿勢のまま少し時間がたって、己織は顔を腿と腿の間に埋めて少し震えている。

(なんで、今日逃げちゃったんだろうな)

 知っていた、知っていたけど、知らないふりだ。

 それは、逃げるといることなのだろうか。

 私が、いまやっているようなこと。

 もし、これが原因で栽治くんに嫌われたなら……そう考えると、後悔が重くのしかかる。

 別れてしまったら、終わってしまうと知っていた。お互いは、正反対の道を行くことになるだろう。これは予想ではなく確信だ。

 この際このまま……どうせ、高校に入ったら忘れるんだろう。

 だろう。

 それでも、文末に『だろう』はどうしてもついてくるが。

 もし、本当に嫌われていたのなら……。

 私は……私は……。

 後悔は本音を呼び、さらに自分で自分を苛めることになる。

 それはつらい。

 諦めから生まれた希望は後悔を呼び、後悔は自分の本音を呼び、本音は諦めをかき消してしまう。

 そんな連鎖の行き着く先は……もう分かってる。

 諦めきれなくなれば、現実はいままで我慢してきた分重くのしかかってくることになるだろう。

 中途半端が一番嫌だ。

 少しだけ、少しだけ泣いてしまおう。

 そう思って泣いたはずなのに、一度泣き出した己織はいままで我慢していた涙をすべて流したよう、とても少しだけとはいえない量の涙を流していた。

 部屋は己織の泣き声だけが響く。

 その環境は、己織を余計に寂しさで包み、己織は泣き続ける。

「……けて……じ…く……また、……けてよぉ……」

 己織は泣きながら眠りについた。





 ー火曜日 卒業式19日前ー


 「おはようございまーす」

 「………」

 今日も返事は返ってこない。

 「あ、己織、おは……」

 スタスタスタ……

 栽治がおはようと言い切る前に、己織はどこかに行ってしまった。

 マジでどうしたんだ、これ。

 俺、そんなに嫌われることしたっけ?

 ま、まぁ、朝の出席確認もあるしそろそろ教室に戻ろう。



「きりーつ、れーい、お願いしまーす」

 一限は国語だ、俺が地味に点を取れる教科で、この教科のおかげで俺は高校に受かったといっても過言ではない。いや、過言だった。

 そんなことは無いが、まぁ、それなりには得意だ。

「先生、すいません」

 ぼやぼやと何か考えていると。

 己織が手を上げ先生を呼んでいた。

「何ですか? 尼子さん」

「体調が優れないので保健室に行かせてください」

「ああ、はい、わかりました」

 大丈夫なのだろうか?

 でも、しかし、体調が優れないのは心配だが、テンションが低いだけで嫌われたわけじゃないということを知れたので一安心だ。

 ひょっとして、あれか? 女の子の日っていうあれか?

 とりあえず授業が終わったら保健室行こう。



「失礼します」

「はい、どうしましたか? ってなんだ栽治君か」

 とりあえず、俺は保健室に来た。

「あの、尼子さんは?」

「ああ、尼子は早退したよ」

 今日は早退したのか。

 女の子の日ってそんなにあれなのか?

 まぁ、それも仕方ないかもしれない。なら、明日にしよう。

「で、栽治君は尼子さんの恋人ってところかな?」

 俺が教室に戻ろうとしたら、小倉先生はそういってきた。

「ま、まぁそんなところです」

「ふーん」

「ふーんって……」

 それにしてもこの人は、いつもからかってくるな。

「じゃあやっと恋人できたんだね~先輩も喜んでると思うよ」

「いや、まだ母さんには知らせてませんよ」

「そう、あ、そっか!!」

「なんです?」

「高校に行ってからしばらくたって安定してから知らせるんだね。高校は別の高校だった気がするし、知らせたものの、高校に上がって会えなくなって、仲が終わったら悲惨だもんねぇ」

「まぁそんなところです」

「お、珍しく否定しないねぇ」

 実際そんなところだから否定のしようが無い。

「それにしても、先生はなんでいつも俺に絡んでくるんです? 母さんと同じ学校に通っててその後輩だったってだけでしょ」

「まぁまぁいいじゃないか少年よ」

「はぁ……」

 いつも通りの返しにため息が出る。

 あの台詞を言ったってことはいつも通りの返しがくるんだろう。

「君の恋人が出来た祝いだ、今日は教えてやろう」

 ほら、また教えてやるって……えっ?マジで?教えてくれんの?

 いつもは「秘密だ、教えないぞ少年」の一言で終わるのに、なぜに急に。

 でも、気にはなっていたことだしこの際聞いておこう。

「いやな、私はな、高校時代に実は言うと先輩しか友達はいなかったのだ!! はっはっはっ!!」

「それ、誇れることじゃないですよ。先生」

「まぁ聞け少年よ」

「はいはい」

「私はある日いつも通り一人で寝てたんだ」

 一人で寝てたって、本当にボッチのやることじゃん。この先生に友達がいなかったなんてこと自体あんまり信じられないことなのにな。

 いや、案外一人だったのかもしれない。

「でも、その日は少し違ったんだよ」

「何かあったんです?」

「ああ、服に塩酸がかかった」

「へぇ、塩……酸?」

「服に塩化水素水溶液がかかった」

「いや、それ、同じですから。というか、それ……やばくないです?」

「ああ、やばかったよ、事故なんだけどな」

 どういう経緯で、塩酸がかかったかは気になるが、なんで塩酸がかかったかを聞くと、長くなりそうなのであえて聞かないでおこう。

「その塩酸をかけたのは何を隠そう君の母さんだったんだよ」

 本当に何があったんだよ、どうやったら寝てる人に塩酸がかかるんだ、母さん。

「まあ、そのときは困ったんだけどさ、制服とかをそれから数日貸してもらってさ。それから時偶(ときたま)に話すようになったんだ」

 すごく普通の先輩と後輩の関係だ。

「でも、それだけじゃ普通の先輩と後輩の関係ですよね? 何でここまで、うちの母さんと仲がいいんですか?」

「ああ、けどな、昼休みに私はいつも通り一人で寝ていたんだけど」

「いつも寝てたんだ……」

「ああ、あのころは毎日寝てた」

「続けてください」

「ああ、わかったじゃあな話を元に戻そう」

 元に戻すほど脱線はしてないけどこのままだと、脱線した後に話の線路が爆発して、話の列車が脱線したまま全速力で走ってどっかに行ってしまうだろう。この先生のことだし。

「寝てたらな、坂下先輩が声をかけてきたんだ。お前いつも一人で暇じゃないのか?ってな。確かに暇って言えば暇だったけどさ、いつも通りだから別にって答えたんだけどな。坂下先輩はお前暇だろって言ってきたんだよ。」

 うわぁ、母さんそのときにはもう、強引な性格だったんだ。

「坂下先輩はその日から、毎日昼休み私と一緒にいたんだ。いろんなことして遊んだりしてな。放課後もずっと一緒にいたんだぞ。お節介だったけどさ、嬉しかったんだよ、そっから結構仲良くなっていてよぉ、今や私と先輩は親友ってことよ!!あっはっはっはっ!!」

「なるほどそんなことがあったわけですか」

「まぁそんなとこよ」

キーンコーンカーンコーン……

「あ、チャイムだ、じゃあ教室いってきます」

「おう、いってらっしゃい」

 先生のいつもの挨拶に、背中を向けて教室向かって走った。

 長話をしていたせいで、俺は次の授業に遅れた。

 でも、先生の意外な一面を聞けたし、別によかったかな。



ー水曜日 卒業18日前ー


 今日、己織は来ていない。欠席だった。

(今日、相談するつもりだったのになぁ)

 そんなこと思いながら、学校内を目的も無くうろつく。

「あ、先輩」

 暇だな…何しよっかな

「先輩!! 反応してください」

 ん? この先輩って俺のこと指しているのか?

「坂下先輩!! 返事してください!!」

 どうやら、俺のようだ。

「ん? 何? 俺になんか用でもあるの、えっと、湊さん」

 名前は、湊 咲実さん。二年生のようだ。

「えっと、小衣から聞きましたよ、ストーカーもどきだって」

 ストーカー擬きって……あの子、なんてことを言い広めてんだよ。

「いや、だから、ストーカーじゃないって」

「でも、己織先輩は学校来なくなったじゃないですか」

「俺たちは、ほら、自由登校だし」

 3年生は、今は自由登校で別に来なくても特に問題は無い。

「自由登校とか名前だけじゃないですかー、基本みんな登校してますよー」

 うっ、痛いところを突いてくる。

「な、なんか気が変わったんじゃないのか? 急に学校に行きたくなくなったとか」

「学校に行きたくなくさせたのは坂下先輩のせいじゃないんですかー ほら、考えてみてくださいよストーカーに遭っているのに、学校に来たいなんてよっぽどの変態さんじゃなきゃそんなこと思いませんよふつー」

 まぁ確かに、ストーカー被害に遭っていれば学校なんか行きたくならないだろうな。

 でも、俺、ストーカーじゃないし。

 俺の所為じゃないし。

 というか、俺はいつまでストーカーだと思われてるんだ?

「だから、俺はストーカーじゃないって」

「じゃあ何なんですか?」

「俺は、己織の」「ストーカー」「じゃねぇってつってんだろうが!!」

 人の台詞に入ってきてまったく別のものにする技術は認めるが、やめろ、俺はストーカーじゃない。

「だって、女子の帰り道をつける男性とかー、完全にストーカーじゃないですかー」

「違うっていってるだろうが、あの日は己織がなんか逃げるように走っていったから、気になって追いかけていっただけだって」

「ふーん、そうなんだぁ~ あの日は、かぁ~ ということは、坂下先輩は己織先輩に付きまとう変質者だったんのかなぁ~?」

「………」

「無言ってことは、肯定と捕らえても結構なのですね?」

 「ちげぇよ」と言いたいが、ここまでの会話からして、何かいえば何かで罵倒される。

 意外とサディスティックな性格してるな、こいつ。

 とりあえずこのままいい気にさせたままだと誤解も解くにも解けんし、黙らせないとな。

 舐められないように言葉だけでも脅しておくか。

「じゃあ肯定として捕らえますよ、犯罪者さん」

 あ、そうこうしてる間に悪いほうに話進めているし……。

 えっと、えっと、脅し文句脅し文句……。

 とりあえず脅すには……。


 脅し法その一、【人気の無いところまで連れて行く】


「違うっていってるだろ、ちょっと来い」

「え、ちょ、まっ」

 栽治は咲実の腕をつかんで、人影の無いところまで連れて行く。

 それもかなり強引に腕にを引っ張って連れて行った。

「え、あの、何ですか?」

 人気の無いところまで強引に連れて来るだけで、かなり怖がられる。これで脅しの下準備はいいだろう。

「そ、その、大声出しますよ、へ、変質者さん。も、もうこれは、こ、己織先輩のストーカーか、確定じゃないですか」

 少し怯えているのか、罵倒にさっきほどの勢いは無い。

 とてもいい感じである。

 なんかそそられるものもある。


 脅し法その二、脅し文句。


 しかし、まぁ、脅し文句が出てこない。早く何とかしないと本当に大声を出されて、ちょっとした事件になってしまうだろう。

 『卒業取り消し!? 後輩を強猥……』などと書かれた校内新聞が頭に浮かぶ。

 さて、なんて言おうか……。

 そんなこと考えながら咲実の様子を見ていると、咲実が息を少し大きく吸っている。やばい、これは、大声を出す前のあれだろう。このままだと大声を出されてしまう。

 そう思い焦ったのか脅し文句も無いまま、咲実の口を手で塞いでしまう。

「だれか、ふむぅんぅ」

 誰か、助けてなどと言おうとしていたようだったが、出だしの言葉がそれほど大きな声じゃなかったのもありあまり響かせずに済んだ。

「んんぅ、んっ、うぅんぅ」

 なにか、ここで脅さないと。また叫ばれる。

 次、叫ばれたらとめられないだろう。

 栽治は少しあせる。

 焦った俺の頭にはどこかで読んだ漫画に書いてあった台詞が浮かんでた。

 そして、それを、無意識で、言っていた!!

「だまれ!!、次騒いだら犯すぞてめぇ!!」

(うわぁ!!!! なに言っちゃてるんだよ俺!!!!! これじゃ、ガチの犯罪者じゃねーか!!!!!! ていうか、これ、薄い本の台詞じゃねーか!!!!!!!)

「は、はい……す、すいません……」

 栽治は自分自身が言い放った言葉に戸惑って咲実の口から手を離している。

 しかし咲実は震えて、かなり怯えたようにそう言ったあたりからしてかなり効いていた。

(と、とりあえず脅せたみたいだし、伝えたいことだけ伝えてさっさとここから退散しよう……普通に事件になる前に!!)

 先ほどの校内新聞のイメージがよりはっきりと頭に浮かぶ。

「まず、俺は己織のストーカーじゃない」

 コクコク...

 咲実は無言で首を縦に振っている。

「己織を俺はいま、付き合っているんだよ。わかったか?」

「は、はいわかりました」

 よし、とりあえず伝えたいことは伝えた……後は、逃げる!!

「じゃ、じゃあ、それ、西条さんにも言っておけ」

「わ、わかり、ました」

 俺はそこを足早に立ち去った。それにしても、何故その脅しだ、栽治よ。

 とりあえず、この話が表立たないことを祈ろう。

 いや、まじで。



ー金曜日 卒業16日前ー


 己織は学校に来なかった。

 昨日一昨日と二日続けて休んだし、今日も己織の席は誰も座っていなかったので欠席かと思ったが、どうやら遅刻して来るそうだ。

 己織がきたのは、六限の途中だった。一日の終わりのほうだ。これくらいなら来なくてもいいはずなのに来た。

 あくまで、勘だが俺に話があって来たのではないだろうか。

 謝罪とか。

 なんか、俺への話だけのために己織が学校に来ると考えてるのは、かなりのナルシストみたいだ。

 だって謝罪だし。

 自分でもそう思いながらも、やっぱり自分に話があってきたんじゃないか?という思いは心にあった。

 謝罪とか。

 そして、放課後になってから、己織に屋上に来るようにいわれた。

 俺の勘の通り、話があるのだと思う。

 謝罪とか。

 しかし、そのときの栽治は話の内容が全てを変えてしまうものだとは思わなかった。

 せいぜい謝罪だろうと思っていた。

 


「己織、最近何か悩み事でもあるのか? よかったら相談に乗るぞ」

「あのさ、別れようよ」

 なぜ? なぜ、ここでこんな話を……。

 別れる?どういうことなんだ?

「い、いきなりどうしたんだよ」

 俺は動揺した口調で己織にそう言った。

 だって謝罪じゃなかった。

「ま、まだわからないの?」

「な、なにをだよ」

「あなたには先週の土曜日に十分貢いでもらったからもう結構って意味だよ。栽治くん」

 どういう意味だよ……。

 己織は、俺から金だけ巻き上げたってことなのか?

 でも、俺にはそんなようには見えなかった。だが、なぜだ?

 ど、どっきりか?

「先週の土曜日どうだった? 私、演技うまかったでしょ? 高校で演劇部入ろうっかな~。さ、さよなら」

 あ、あれ、もしかして、ドッキリじゃ……ない?

 まさか、こんなことになるなんて、思えなかった。

 なぜ、別れることになるのか。

 そんなことは、わからない。

 そう、ドッキリならどれほどいいことか。

 それは、本当の別れの告白だった。





 気づかないうちに、涙が一粒流れている。

「さよ……なら……グスッ……、さい……じ……くん……」

 ごめんね……栽治くん……

 本当に、ごめんなさい。でも、これが、これしか私には……できなかったの……本当に、ごめんなさい。

 私、最低だな。

 私、こんなに、酷かったんだな。

 私、こんなに、醜かったんだな。

 私、私……本当に最低だよ……。

 なんで、一週間我慢できなかったかなぁ。そしたら、私も、栽治くんも傷つかないですんだのにな。なんで、告白してくるかなぁ、そんなの、我慢できるわけないじゃん。

 私の、わたしの片思いだと、ずっと思ってきたのになぁ。

 片思いなら、我慢できたのに……なんで告白してくるかなぁ……わたしの初恋の人は……。

(いっつも)

 涙がまた、一粒出てくる。

(いっつも)

 涙は二粒、三粒と次々と出てくる。

(なんで、余計なことをしてくるかなぁ……)

「いっしょにいたいよ……さいじくん…」

 自分で突き放しておいて一緒にいたいなんてわがままだな、私。

 けど、これで、いいんだ…これで……。

 もうすこし、一緒にいれたなら、よかったのにな。あの日、思い出なんて欲張らなければ、ずっと一緒に入れたのに。

 最後まで、一緒に入れたのに。

「死にたく……ないよ……」

 死にたくない……いまさら……なんで、こんなこと思っちゃうかな。

 もう、あきらめてたはずなのに。

 ああ、デートなんてしなかったらよかったかのかな。

 いまさら、後悔するのか。

(もう、家に帰ろう……学校にも、もう行かないようにしよう)

 もう栽治に会わない。そういう覚悟を決めた。

(さよなら…もう、会うこともないね。今までいろいろありがとう。ごめんね、栽治くん。さようなら、私の好きな人。)

 己織は泣きながら、一人歩いて帰った。

 そのときの、己織の涙を流しながらも微笑んだ顔は、とても悲しそうであった。





(なんで、何で何だ……)

 栽治は、一人自分の部屋で悩んでいた。

(俺は、金だけの存在だった?)

 部屋は静かだった。

 そこで、ただ一人悩む。

 金だけの存在なら、それならそれでよかった。

(でも……でも……それなら、なんであんな悲しそうな顔をしていたんだよ)

 栽治には、己織が立ち去る前の顔が、とっても悲しそうに見えた。

(なんで、あんなにつらそうな話しかたをするんだよ)

 栽治には、己織がその話をするのはとってもつらいことのように見えた。

(何で…なんで…)

 考えても考えても答えは出てこない

(なにも、わからない……なにが正しい? それがわからない。普通ならわかるかもしれないことなのかもしれない。でもそれが、俺にはわからない)

 なにもわからない。どうすればいいのかも。

(わからなくでも、行動くらいは出来たはずなのに。不器用でも、なにか出来たはずなのに、それもすらできていない。やっぱり…やっぱり…)

 何も出来なかったことも悔やむ。

(やっぱり… 俺は、俺は物語の主人公にはなれない。そういう人だったんだ。何をしたらいいか、わからない。行動も出来ない。所詮は、そんなやつだったんだよ、俺は)

 コンコン……

「栽治ごはんできたよ」

「あとでで、いいよ」

「ねぇ、ちょっと入るよ」

 そういって母さんは、部屋に入ってきた。

「なに、そんなしけた顔してんのさ」

「いや、別に…」

「ふーん…なるほど、女の子がらみの悩み事みたいだね。それなら私に話してごらんよ。絶対力になれるからさ」

 母さんはいつもどおり強引に物事を進めてくる。

 それにしても、なぜ毎回俺の考えてることがわかるんだろう。

「ん? 何で考えていることがわかるかって? そりゃ、あんたが私の息子だからだろうが」

 どこまで人の心理を読むのが好きなんだこの母親は。

「まぁ、人の心理を読むのは楽しいから結構好きだよ」

(…………)

「で、何に悩んでいるんだい?」

「ちょっとね……」

 栽治は今まであった事、考えたこと、思ったことをすべて話した。

「そっか、そういうことがあったんだね」

 すべて話した、俺の気持ち以外は。

「その子は、きっと強がってるだけかもね」

「え?」

「だから、強がってるだけなのよ、きっと。たぶんあんたたち、両想いよ」

「でも…」

 あの、今日の言葉が気になる。

「ちょっと長いお話いいかな? 栽治」

 栽治はゆっくりうなずく。

「今日屋上で聞いた言葉はたぶん嘘ね。栽治もどことなく気づいている見たいね。まぁ、まだ迷ってる様子だけどさ。私が思うには、その子、あまり長くあなたとは一緒にはいられないだろうよ。どっか行っちゃうとかで、たぶん会えなくなるから、別れようとしたんじゃないかな?」

「で、でも、どこに行っても会おうと思えば、会えるじゃ……!!ないか……なんで…別れようなんて…」

「まぁ、聞きなさいな。たぶん、かなり会いにくいところに行くんじゃない」

「でも、それでも、会えなくたって俺は、好きでいつづけるつもりなのに」

「だから、聞きなさいって。たぶん、その子は会えなくなっても栽治が自分のことずっと愛するのをわかったんじゃないかな? だからこそ、そんな別れ話をしたんだと、私は思う。きっと、別の女の子と付き合って欲しかったんだと思う。でもね、栽治、この話を聞いて、まだ、まだ付き合い続けたいなら、自分の気持ちを伝えるんだよ。そりゃ、告白はしたけどさ、それだけじゃ全部気持ちを伝えられるわけないじゃない。だから、次にあったらすぐにその話しをしなさい。もし、気持ちが変わらないならの話だけど、さ。栽治、後悔すんなよ」

(……これは、母さんの考えだ…けど、これが本当に己織の気持ちな気がする。もし、そうなら……、もしそうならば、もう一度、俺の、俺の気持ちを伝える!! そして、なにより謝罪の一つや二つくらいしてもらわないとな)

「それでよし、さ、ご飯食べるよ」





ー日曜日 卒業14日前ー


 己織は、三立特殊病専門研究病院に来ていた。

「ふーん、やっぱり薬は……すまない、作れなかった。本当にすまん、己織」

「わかりました……お父さん…」

(やっぱり、だめなのか)

「やっぱり何度試しても、体外に出てから3時間くらいで無害な状態なってしまうみたいで、研究のしようがないんだ」

「そうなんですか……」

「それが体外に出ると急激に性質が変化し始め、その結果無害なものになるみたいなんだ。でも、そこまでしかわからなかったし、抗体の存在もまだ不明なところが多くて、あと一週間では、たぶん……無理だろう…本当にすまん」

「わかり…ました……」

 助からないこと、それはもうわかっていることだった。そういうものなのだろう。

 今日のところは安静にしてればいいんだろうか?

 いくら安静にしていたってこの病気は治らない。

 助けてくれる人もいない。

 それでも、私は、死ぬのを怖がるわけにはいけない。

 なぜなら、なぜなら、最後に励まし手もらったから。

 栽治くんが、すきだといってくれたから。

 最後まで、両思いでいたかったけど、それは無理な話。

 あそこで、突き放しておいてよかったんだ。

 そう思い込もうと何度も何度も心の中でリピートするが、心にぽっかり穴が開いたような感じはなくならない。

 私、にげてるだけなのかな?

「じゃあ、また来週来てくれ、己織」

「はい…」

 どうしたらいいんだろう?どうしたら?逃げなきゃいいのかな?でも、でも、

 どうしたらいいんだろう?

 私は、悩み続ける。でも、悩むことに意味なんてあるのかな?私なんかに意味はあるのかな?

 こんなことなら生まれてこなければよかったのかな?

 わからない?でも、逃げたい。

 なにもかにもを投げ出して、すべてから逃げたい。

 このままじゃ、何も変わらないのはわかっているけど、でも、逃げ出すしかない。

 私にはそれしかできない。それしか、私自身を守る方法はない。

 私自身って何なんだろう?

 わたしって、何なんだろう?

 私は、わたしからも逃げてるのではないだろうか?

 でも、もう、わからない。

 このまま、逃げたい。

 この病気から、この世界から、この体から、こんな私から。

 もっと強い人だったら、逃げないですむのかもしれない。

 この、弱い自分から逃げ出したい。

 いまさら、死にたくないという気持ちが押し寄せて、その想いに潰されそうになる。

(やっぱり、諦めきれてなかったのかなぁ、私)

 人間は皆、花のようだ。

 色々な花があるように、人間も色々な人がいる。

 皆、花壇できれいに咲いてたり、力強く咲いていたりする。

 でも、私は、わたしは花壇にはいない。

 私は、そこでは咲いていない。

 皆が花壇の花だとしたら。

 わたしは、生け花だ。

 花壇の花より少しだけ、きれいに見えるけど、すぐに枯れてしまう。

 少し、ほかの人より頭がいいだけ、けど、けど、死ぬくらいならこんなに頭なんかよくなくったっていいのに。

 わたしはただ、生きたい。

 生きていたい。

 そんなことさえも、かなわない。

 当たり前のことなのに、そんなことさえ、叶わない身体。

 どうたらいいのかわからない?

 わたしは、迷い続ける………



ー月曜日 卒業13日前ー


 今日、学校に己織はいなかった。いつもどおりだ。

 もう、会えないのかもしれない。

(いや、ここであきらめるべきじゃないよな、栽治)

 今日ところはうちに帰ろう。

 俺は、帰り道をいつもどおり歩いていると、後ろから誰かが声をかけてきた。

「坂下先輩、ちょっといいですか」

「何か用でもあるのか? 西条さん?」

 声の主は西条小衣さんだろう。いろいろとやってくれたので、記憶に残っている。

 せっかくだし少し説教してやるかな。

「ちょうどいい俺も話があるんだ」

「そうですかそれはちょうどいいです、ちょっとついてきてください」

 俺は西条さんに連れられ、カラオケボックスに入った。もちろんお金は俺持ちで。

 昨日、西山に返してもらった金があるから、あるにはあるけど……こんなんだったら、金持っているか聞かれたときもっていないっていえばよかった。

 栽治がお金を持ってると答えたら、西条さんが「学校に持ってきちゃだめですよ、先輩。とかなんとかいってチクられたくなかったら少し金払ってください」とか言ってここに連れ込まれたのだった。

 と、いかにもお金持ち込みがいけないことのように言うものだからついつい払ってしまったが、よくよく考えてみて、学校にお金持ち込むのが駄目ということはないのでチクられたところでどうということはないことに気付いたのだが、後の祭りであった。

 しかも、部屋取るとき、後で人が来るとかで3人分の料金だったし。湊さんでも連れてくるんだろうか?

「先輩、話があります、けど、結構大切な話のつもりなので、先輩のどうでもいい話からどうぞ」

 どうでもいいって、お前は先輩の話を何だと思っているんだ。そこも含めて、説教してやろう。

「おまえなぁ、勝手に俺がストーカーとか何とかいう根も葉もない噂を広めないでくれ」

「ああ、それですか。それなら別に広めてませんよ、特に」

「はぁ、それなら何で湊さんが俺にストーカーとか言ってくるんだよ」

「咲実から話し聞きましたよ、ストーカーじゃなくて、あの、そういう人だったんですね。すいません私は、犯さないでください、お願いします」

 うわっ、なんかもっとひどい勘違いされてる。

 しかも、「私は犯さないで」って俺は誰も犯してないし。

「いや、俺、何もしてないし」

「あ、いや、別にいいです、本当に、あの、そういうのやめてください。本当に通報しますよ」

 ああ、これはやばいな。事情説明だけだと、どう考えても俺が不利だな。うん、このことは水に流そう。忘れてしまおう。

「ま、まぁ、ストーカーだと言ったことについてはこれくらいにしてやろう」

「で、話は終わりですか?」

「いや、まだ話は……」

「言っておきますけど、これくらいの話なら、もういいです」

「な、なんだよ」

 というか、おまえが先に話しろって言ったんじゃないか。そうでしょうよ西条さん。ねぇ。

「今から話すことは、ほかの人には内緒にすると約束してくださいますか?」

 西条さんの話し方が、急にまじめなものに変わる。

「あ、ああ」

「それなら、話します」

「でも、なんでそんなことを俺に話すんだ?」

「あなた達が付き合っていると聞いたんですけど、たぶんこのままじゃあなた達が後悔する結果になって終わりそうだったので」

 湊さんは、西条さんにちゃんと話したことを伝えていたようだった。

「私も、好きな人がいます。今はその人と付き合っているんですけど、私たちもそれまでにいろいろとありました」

 なんで、お前らカップルののろけ話をまじめに聞かなきゃいけないんだ。


「ある日、私たちの両親は死にました」

 両親が、って二人の親が同時にってことは、事故?

「えっ……事故かなんかでもあった…のか…?」

「はい、母は仕事の帰りに車に轢かれました」

「……お、お父さんは……?」

「私たちの父は、川に転落して死んだ事故死ってことになっています」

 川に転落して、事故死……でも、なっているって……。

「なって…いるって……どういうことだ…?」

「本当は私が、落としたようなものです」

 ど、どういうことだよ。そ、それじゃ、殺人じゃねーか……。

「そ、それは、川で遊んでいたら、おぼれて、それを助けに来たってことか? それとも川で一緒に遊んでいるときに出来心で押したのか?」

「いえ、水の流れが早く、落ちたらあがれないような、上流付近の川で、事前に私は渡れるけど、成人男性が渡ったら折れるような木の橋をかけておきました。まぁ、木の板みたいなものですが。それを先に私が渡り、その先で、こっちに来るように呼びかけました。そして、橋の真ん中辺りまで来たところで、バキリッっという感じに橋は真っ二つに割れ、父は川に転落、死亡しました」

「そ、それって、完全な殺人目的で落としているじゃねーか!!」

「はい、そうです。父は酒で酔っていたので、その橋を疑いもせず渡りました。そのおかげで、見事に死んでくれました。そしてその日の前日は雨なのでいつもより水量が多く、父は流れて行き下流付近で見つかりました。私と父は、別なところに行くと家族には伝わっていたので、私は怪しまれませんし、父は酔っ払っていたので、中流付近で川に落ちたものと判断され、事故死となりました」

「な、何でそんなこと、したんだよ……なんで、お前は父親を殺す必要があったんだよ」

「それも、聞きたいですか?」

 な、何だよ、さも殺したのが当たり前だったかのように話せるんだよ。

「あ、あたりまえだろ、何があって実夫を殺すんだよ!!」

「はぁ、カラオケボックスにつれてきて正解でしたね…」

 小衣はため息をついてから、そういった。

 確かに、こんな大きな声でこんなことを言ったら、人が来て大問題になっていただろう。

「私は、父から、性的暴力を受けてた。簡単に言うと、強姦されてた。だから、その日は、私から誘ったの、今日は外でとか、どう?って。そしたら、私の父は案の定乗ってきた、そして、見つかりづらいちょっと山入った所に呼び出して、橋を渡ったところで、父に見せるように自慰行為をしたら、見事に引っかかって死んだよ。最後まで、嫌な人だったよ。私は今でも許せない」

「じゃ、じゃあ彼氏さんの父親は? なんで死んだの?」

「え、今言ったじゃないですか」

「じゃあ、同じ方法で?」

「ええ、同じ方法で、というよりどうやって別の方法で殺せるんですか? 命が二つもあったら人間じゃありませんよ」

「ん? 命が二つ? どゆこと?」

「どういうことも何も、私たちの父は同一人物ですよ」

 ん?どういうことだ?

「あれ、言っていませんでしたっけ。私の彼氏は、お兄ちゃんですよ」

 うん、まぁそうなるな。同じ父親なら弟か兄だよな。

「え……あの、それは従兄とか義理の兄とか…だよね」

 実兄だったら、もうこの人いろいろとおかしいよ……。いろいろと。

「いえ、実兄です」

 実兄だった。この糞重い過去に、実兄の彼氏って……これ、なんてエロゲ?……って、こんなこと考えるのはかなり失礼だな。実際はかなりひどい過去なのに。

「私はね、お兄ちゃんが、ちょっと怖かった、本当は、もっと仲良くしたかったけど、少し、怖かった。お父さんと同じ事されるんじゃないかと思ってしまう。だから、少し、距離をとってた。本当は信じたかったのに、それを、信じきることができなかった。でも、ね、お兄ちゃんは私に優しくしてた、ずっと、ずっとやさしくしてくれた。そして、私達は仲良くなった、でも、ある日、私は、路地裏に連れ込まれて犯された。犯人は私の膣から採取した精子から、特定されて捕まったけど、その日、私は、お父さんのことが頭の中で、なんていうか、ずっとフラッシュバックして、私は、すべてから逃げ出した、そう、今の己織先輩のように、でも、お兄ちゃんは、私を探して、見つけだした、そして、ちょっと強引に手を引いて、私を家まで連れ帰った。そしてね、お前が、すべてが嫌になって何もかもから逃げ出すならなんどでも、俺が慰めてやる、だから、俺からは、俺からだけは逃げないでくれって言ったんだ。そして、気づいたの、私は、全てから逃げるのと同時に、みんなを裏切っていたんだって。だから、そこで、もし、お兄ちゃんが強引にでも、私を連れ戻していなかったら、きっともっと後悔する結果になっていたと思う。あのままじゃ、どうなるかもわかんなかったしね。だから、坂下先輩、絶対に己織先輩をこれ以上、後悔させないようにさせてくださいね。そして、坂下先輩もこれ以上後悔しないように」

 うーん、あの、これなんてエロゲ?

 かなり失礼とは思ってはいるものの、その言葉が頭の中でさっきからループしてる。

 こんな、話聞いて何でこんなことを思ってしまうのだろうか?謎だ?

 でも、後輩にここまで言われたらな………もう、諦めるわけにはいかないじゃないか!!

「そうだな、もうこれ以上後悔しないようにがんばるよ」

「はい、そうしてください!! 先輩!!」

 よし、これでいい話は終わり。

 それと、言いたいことがまたひとつできたので言っておこう。

「まぁ、いろいろ話してくれてありがとう。おかげで、少し悩みから吹っ切れた気がするよ」

「そうですか、それはよかったです。それなら、話した甲斐がありました」

「あと、一言いいか」

「はい、どうぞ」

「えっと、実兄はさすがにまずいと思うんだが、道徳的にも、法的にも、あの、せめて、Bくらいまでで、やめておけよ」

「………」

「………」

 少しの間、沈黙の時間が流れ、その後に小衣の口が開いた。

「えっ、と、あ、あのう、も、もう、Cまで、やっちゃっているんです、けど……」

 ………

 …………

 ……………おい、

「……あの、それ、別の法的にもまずい気がするんだけど……」

 だって、中二だし。未成年だし。

「え、えっと、あの、こ、この、ゲームの登場人物はみんな18歳以上です☆彡」

「……え、っと、それ、なんてエロゲ?」

「……」

「……」

「あ、IDえ……な、なんでもないです……」

 あいでぃーえ…なんだったんだろう?

 まぁいいか。

「と、とにかく、そういうことをいえるのは、己織先輩を何とかしてからです。文句はそれから言ってください」

「はいはい」

 栽治はそういって部屋を出た。

 フロントに向かう途中すれ違った男性が、すれ違いざまに俺の耳元で「小衣の話、どうだった?」と呟いてから、微笑みながらちょっとだけ振り返った。

「後悔、しないようにな」

 歩きながらそう言って、その後、その人はさっきまで俺がいた部屋に入って行った。

 あいつ……西条(兄)かよ……。



ー火曜日 卒業12日前ー


 己織は欠席のようだ。

 会えない、このもどかしさはどうにもならない。

 己織の家に行くにも、家が分からないので行こうにも行けない。

(俺、彼氏っぽくないなぁ)

「おい、坂下」

「なにかようか?」

「いや、俺は用はないが、先生が用事あるみたいで、教室の外で待ってるぞ」

「わかった」

 俺に用事って、誰だろう?

「やあやあ、栽治君」

 小倉先生か。

「何ですか? 先生?」

「聞いたよ、困ってるみたいだねぇ、栽治君」

 母さん、言ったのかよ。

「とりあえず、この紙もってきなさんな」

 俺は、プリント用紙を押し付けられる。

「じゃあね」

「じゃあね、って…」

「後悔、しないようにね」

「……はい…わかりました、先生…」

「あ、あと、そのプリントにさっき硫酸零したから、それ触った手で目とか触んないほうがいいと思うよ」

 そのプリントの、裏には己織の家の場所が書いてあった。

 たぶん、母さんに頼まれて、調べたんだろう。

(母さん、先生、ありがとう。それと、先生、保険室に化学薬品を置いて実験するのやめてください」

 二人の行為を無駄にするわけにもいかないし、この気持ちを確かめない訳にもいかない。

 なにより、己織の気持ちを確かめないと気が済まない。

 どうしても、それだけはやっておかないと、後悔することになる!!

 もういい、後悔は、もういい。

 後悔なんて、塵屑より、役に立たないことなんだろう。

 俺は、己織に気持ちをもう一度伝える。

 俺にも、飾りなんかいらない。

 自分で、自分が会いに行くんだ。

 かっこつけなくてもいい。ありのままの自分で、もう一度、

 もう一度会いに行くんだ!!

(だから、まっててくれ、己織!!)





 己織はベットの上で体育座りをしていた。

 最近の己織は家にいるとき、ベットで寝ているかずっとこうして体育座りをしていた。

 ピンポーン...

 玄関チャイムの音が家に鳴り響く。

 最初は出ようと思ったが、その気になれない。

 来た人には悪いけど、居留守をしよう。

 ピンポーン...

 二度目のチャイムが鳴る。

(早く帰ってくれないかなぁ)

 己織は、自分の足を抱いている腕に力を込め、丸まったような姿勢になる。

 ピンポーン...

 二度目のチャイムから少し時間が経ってから、またチャイムの音が鳴る。

 最初のチャイムから、5分は経っている。よほど大切な用があるのだろうか?

 仕方が無いので、出ることにした私は、ゆっくりとした足取りで、玄関に向かって行く。

(いったい誰なんだろう?)

 靴を履いて玄関の覗き穴から、外の様子を確認してみる。

(っ!!!!! さ、栽治くん!!)

 ピンポーン...

 もう一度、音が鳴り響く。

(なんで、来ちゃうの? 栽治くん)

「……誰も居ないのかな? 誰かいませんか-」

 大好きな人の声が聞こえる。

 この人に、会ってはいけない。

 自分は、この問いかけに答えてはいけない。

(栽治くん、なんで、なんで。せっかく我慢してたのに、何で、来ちゃうの? とりあえず、部屋に戻ろう)

 そう思いゆっくり後ずさるが、ちゃんと結んでいなかった靴紐を踏んでしまいこけてしまう。

「いてっ」

 腰を床にぶつけた痛みで、思わず声を出してしまう

「こ、己織!? いるなら、あけてくれ…己織……」

「さ、さいじ…くん…」

「頼む……開けてくれ…」

 栽治は、静かで力強い声で、そう言った。

「己織、そこに居るんだろ。話したいことがある、開けてくれ」

 もう、居留守は使えないので、玄関の戸を開けるしかない。

 それも、理由のひとつになったが、実際は気づいていたら、もう鍵を開けていた。

 会いたかった...その思いは、自分で思っていたより大きいものであったようで、考えるより先に体が動き、玄関の鍵を開けていた。


 ガチャリ...

 ガチャ...


 鍵をかける音と共に、扉が開かれる。

 そこに立っているのは、

 自分が傷つけてしまった人……

 憧れであった人……

 初恋の人……

 ずっと、ずっと好きだった人が立っていた。

「己織、もう一度、気持ちを伝えにきた」

 栽治は何一つ迷いの無い顔で、そう言った………



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