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その花、萎れて枯れるまで  作者: 岩塩龍
その花、萎れてかれるまで
4/5

×三輪目・その花が萎れて枯れるまで、

「己織、もう一度、気持ちを伝えにきた」

 俺は、そう言った。気づいていたらそう言っていた。

 そうだ、もう一度告白しなくちゃな。

「さ、さいじくん」

「とりあえず、あがっていいか?」

「う、うん」

 ずうずうしいかもしれないが、今回は己織が悪いんだから仕方ないだろうと思い、家に上がる。

「あの、私の部屋、二階だから」

 俺は、己織の部屋に案内されたので、そこに入る。

「己織、家の人は?」

「病院に勤めててなかなか家には帰ってこれないから、基本は一人だよ」

「そうか」

 己織は、やっぱり、寂しかったんだな。

 母さんの話を聞いたときからなんとなくそんな気がしていた。本当になんとなくだが……。

「己織、もう一度言うぞ、俺は気持ちを伝えにきた」

「う、うん」

 己織は元気なくそう呟く。

 やっぱり……。

「なあ、お前、前に言っていたこと、本当なのか?」

 やっぱり、この前の言葉は本当のものとは思えない。少なくとも、今の俺にはそうは思えなかった。

「う、うん……そうだよ……別に……どうも、」

 嘘だな。絶対に。

 そんなの、顔を見れば誰でもすぐに分かることだ。

「それなら俺は今すぐ帰るし、もう二度とお前に付きまとったりはしないさ。でも、それなら、なんでそんなに辛そう顔しながら言うんだよ……それなら、なんで、今泣いているんだよ……」

 そう、己織は泣いていたのだ。

 己織自身も気づいていなかったようなのか、自分の頬に手を当てたあと気づいたように、服の袖で涙をぬぐった。

「なぁ、本当のこと教えてくれないか? 己織」

「………」

「教えてくれ、頼む…己織…」

「………」

「それなら、俺の気持ちから話させてもらうよ」

「………」

「いまから、俺が、思ったこと、そして考えたこと気持ちを話すけど……聞きたくないなら今すぐ、己織が俺のことを嫌いともう一度言えばいい。それなら、俺はもう二度と己織の前に姿を現さないようにするし、己織に話しかけたりしない。でも、それを言うなら、心の底から嫌いだと言ってくれ……その言葉が嘘だと思ったら、俺は帰らないし、いくらでも話しかけるし、振り向いてくれるまで、何度でも!! 何度でも!!! 何度でもっ!!!! 告白をし続けるよ」

「………」

「反応なしなら、話させてもらうよ。俺はね、己織のことが好きだよ。それは、変わらない。でも、己織が俺のことどうしても好きになれないなら、別れてもいいと思っている。あのね俺はね、己織がどっか遠くに行きそうで、だから、俺の気持ちをもう一度伝えに来たんだよ。もう、今回来る気になれないならもう二度と己織に会いにこれない気がしたし、なにより、後悔したくないから、俺は己織に会いに来た。己織、もう一回言うよ。ずっと前から好きでした付き合ってください」

 これ、いろんなところから言葉を引用しただけだな……本当に主人公っぽくないな、俺。

 でも、主人公じゃなくても、できることはあるよな、栽治。

 母さんや先生だけじゃなく、後輩にまで言われたんだ、後悔するなよ、栽治。

「己織、君の今の気持ちだけで言い聞かせて欲しい、どんなにはなれていようと俺の気持ちが変わることは無いだろうし、それに、己織の気持ちをちゃんと聞いておきたい。そうしないと、後悔すると思うんだ、お互い……だから、今日は告白だけじゃない、相談をしにきたって言うのもあるんだよ。ねぇ、なにかに悩むなら、俺に相談してくれよ、俺はそんなに頼りないのかよ、なぁ、己織……」

「………」

「おい、何か喋れよ…おい……俺って、そんなに……頼りにならないのかよ……なぁ……己織……」

「……そんなこと、あるわけないじゃん……でも、今回は、どうにも、ならないんだよ……今回は……」

「それでも、それが、俺にどうすることができないものでも、それでもいいから、相談くらい……してほしいな」

 そう、相談くらいは…ね……。そのくらいはしてあげられる。

 それがまったく解決につながらないとしても、何かしてあげないと、気がすまない。

「己織、お前に何があって、これからどうなるのか教えてくれないか?」

「……わかった……」

 己織はそう言って頷いた。

「私の事、全て話すよ」

 そういった己織は少し決心したようだった。



「己織、俺はお前がどこか行ってしまう気がしてならないんだ」

 場所さえわかれば、また会うことだってできる。

 そう思った俺は、まずはここにいるのか、どこへ行くのか、を聞いた。

「うん、私は、もうすぐ遠くに行くんだ」

 やっぱり、己織は遠くに行ってしまう。

「お前は、どこに行くんだ? 遠くてもできるだけ会いに行きたいから、どこに行くのか、教えてくれないか?」

 そうだ、場所さえわかれば、会いにいける。別に、永遠の別れじゃないだろう。

「さいじ……くん……、栽治くん、私に、会いに、来ないで……」

「な、なんでだよ」

「まず、すぐには会いに来ないことを約束して。そうじゃないと、どこに行くかは……話せない……」

 すぐには、会いたくない?どういう……。

 少し嫌な予感がする。それが何かはわからない、でも、とても嫌な予感がする。

「すぐには……会いに…行かないって……? どういう……?」

「いつか……いつか、また、会えるから、だから……自分から、会いに来ようとしないって私と、約束して」

 また、会える。それは、間違いないだろう。

 今の己織が、嘘をついているようには見えない。

 自分から会いにいけない。でも、また会えるなら。

「わかった、約束する」

「うん、約束だよ。絶対……守ってね……」

「ああ、絶対守る……」

 その言葉を聞いた己織は安心した顔をしてから、さっきより少しトーンを上げた声でこう言った。

「私はね、もうすぐ死ぬの」

「それって、どういう……」

 死ぬ?そんなこと急に言われても、実感がわかない。

『死ぬ』その言葉だけが、頭の中を回る。

「私、少し、珍しい病気にかかっててね。それが原因で来週あたりで、死んじゃうの」

「そ、そんな、でも、なんでそんなこと黙ってたんだよ、己織」

「このことはね、私が小学二年生のときには、もうわかっていたことなんだよ。後ね、栽治くん、私からも、言いたいことがあるんだ」

「何だ?」

「栽治君、ずっと前から好きでした!!」

 えっ、どういうことだ? 俺は、前から、己織のことが好きだった。けど、それは己織も、もしかして同じだったのか?

「それってどういう……」

「そのままの意味だよ、栽治くん。でも、死ぬことがわかっていたから、告白なんてできなかった。でも、栽治くんの告白で、台無しだよ、今まで我慢してきたのに、我慢できなくなっちゃってた。だから、つい、OKしちゃった。私は、小学五年生の頃、栽治くんのこと、好きになったんだ。何でかは、自分でも、よく分からないんだけどね。気づいてたら好きになってた」

「そっか、じゃあ、己織は、俺が己織を好きになる前から俺のこと、好きでいてくれたのか。俺が、己織のことを好きになったのは、中学校に入ったときあたりかな。俺も、気づいたら好きになってた」

 俺も己織も、気づいていたら好きになっていた。恋ってそういうものなのかな?

「じゃあ、話戻すね」

「あ、ああ」

 そう、今問題なのは己織が、来週あたりで死ぬということだ。

「私の病気はFCODSって言うの」

「FCODS?」

「正式名称はfifteen years Countdown death syndromeっていうの。名前のとおり、生まれが時から、15歳まで死のカウントダウンが始まる病気。15歳になった瞬間死ぬわけじゃないけど……長くは生きられない……」

「そうか……だから……来週あたりってことなんだな……」

 今週の土曜日は己織の誕生日である。

 来週から、始まる己織の死のカウントダウン……。あまり考えたくはない。

「でも、この病気は、少し面白いメリットもあるんだよ」

「メリット?」

「この病気は、とっても頭がよくなるの」

「え……?」

「そのままだよ、この病気の人は頭がいいの。この病気は特殊な毒みたいなのを体内にもっていて、その抗体も持ってる。抗体がある間はその毒は頭をよくするだけなんだけど、抗体がなくなったら毒で、体が弱っていっていずれ死ぬ。さっきのさっきまですごくつらかったのに、栽治くんに話したら、少し気が楽になった気がする。私、死ぬこと、少し決心したよ」

 そんな決心はしてはしくない。

 そうは思っても、何もしてあげられない。

 なにかしてあげられないかと思いながらも、そんなものだろうと心のどこかで思ってしまう。

「私、もう、逃げないようにがんばるよ。これからは死ぬまで目一杯楽しむよ。だから、栽治くんも付き合ってね」

 己織はデートのときのようなテンションでそういってから、お茶入れてくると言って部屋から出て行ってしまった。

 元気になってくれたのはうれしいが、その元気は、諦めからくるものなのか?

 諦めからくる元気は、悲しみを生んでしまうかもしれない。

 けれど、その元気すらないようだったらもっと大きい悲しみを生むのだろう。

 己織は、前を向いている。

 生き続ける事を完全に諦めて、あと少しの人生を楽しむことにしている。

 それなら、俺はそれを盛り上げる手伝いくらいになれたならいいな。

 それしかできなくても、何もできないのよりはいいだろう。

 でも本当は、生き続けてほしい。たとえ、それが無理だと分かっていも。

「栽治くんドア開けて。今、両手ふさがってるから」

 ドアの向こうから己織がそう言ったので、ドアを開けてやった。

 そのあとは、俺と己織は楽しく会話をした。俺は内心少し寂しさにとらわれた感じだったがそのときは、楽しかった。それは、本当の気持ちだった。

 結局、8時くらいまでお邪魔させてもらい、泊っていくか聞かれたけど、家の人には何にも言っていないので結局そのまま帰らせてもらった。

 明日から、俺は全力で楽しむことにする。己織と楽しく過ごす。それが、今の俺ができる最大のことだと思う。



「ただいま」

「おかえりーご飯はできてるからねー」

「わかった、てきとー食べとく」

 そう言ってからキッチンに向かう。

 それから、まず、冷蔵庫から飲み物を取ってそれを飲みながら、棚から自分の茶碗を取り出した。そしてご飯を食べようと思い、炊飯ジャーを開くとそこにあるのは赤飯だった。

「おめでとーぅ、さいじ」

 母さんが隣の部屋から入ってきてそういったが、何がおめでたいのか意味が分からない。

「へ? えっと何? これ?」

「何って、妊娠? 己織ちゃんだっけか? その子の」

「あの、どうゆーこと?」

「だって、7時になっても帰ってこないから、急いで足たように明日の炊くための赤飯用意したものの、さっき電話で帰ってくるって言ったから急いでもう出来合いやつを買ってきて、ジャーに突っ込んだんだよ。だって夜まで女の子の家で二人きりだよ。もうこれは法に触れる行為しかやることはないでしょ」

 栽治は少し考えてから、口に含んでいたお茶を吹き出した。

「けほっけほ……そ、そんなこと、や、やるかこの馬鹿親!! けほっけほっ」

「なぁんだ、まぁそれはそれで何も犯してないからいいんだけどね」

 そう言って母さんは去っていった。

 まったく母さんはいつもそうだ。

 しかたないので、赤飯を食べることにした栽治は、それを茶碗に盛ってから、食卓に着いてから食べ始めた。



 俺と己織は、それから毎日のように学校を休んでいろんな所に出かけたりして遊んだ。

 なんか知らんけど毎日俺の部屋に2万円くらい置いていかれるのでありがたく使わせてもらってそれで、楽しんだ。

 そして、今日は卒業8日前の土曜日。己織の誕生日。そう、己織の人生で最後の誕生日だ。

 だからこそ、最高の誕生日にしてやりたい。

 俺は、己織の部屋にノックをしてから入る。

「おはよう、誕生日おめでとう、己織」

「お、おは…ふぇ? 栽治くん? あ……」

 己織は少しの間ぽかんとした顔をしてから、はっとしたようなしぐさをとった。

「お、おはよう!!そういえば泊っていったんだったね、忘れてたからちょっとびっくりした」

 誘ったの、己織なんだけどな。自分で誘っておいて忘れたのか。

 前から思っていたことだが、クラスでもあんまり注目されたことないし、俺って影薄いのか?まぁ別にいいか。

「とりあえず誕生日おめでとう、己織」

「ありがと、栽治くん」

 己織は、、寝起きでテンションは学校にいるときと同じくらいなのだが、元気そうだ。この後、死のカウントダウンが始まるなんていまだに信じきれないほどに。

 でも、己織が嘘をついているようにはまったく見えないし。

 今週一週間一緒に過ごしたけど、その言葉が嘘とはまったく思えない。

 大体、嘘ならば、己織は追い詰められたりしなかっただろう。

「ねぇ、栽治くん」

「なに? 己織?」

「なんか、あんまり死ぬって感じがしないね、これ」

「知らないよ、俺はその病持ってないし」

「あはは……そうだね……」

 己織はまだ、眠そうだ。でも、元気に見える。

 この後、本当に死のカウントダウンが始まるのか?

「でも、俺から見ても、己織はいつもどおりだと思うな……今のところはだけど」

 そう、今のところ……だ……。あくまで今のところというものであろう元気だ。

「うん、ぜんぜん元気だよ、今のところは……かもしれないけどね」

「とりあえずさ、せっかく先日から用意してたんだし、誕生日パーティー初めよう」

「そうだね」

「よし、それじゃあ早速……己織? どうしたの?」

 リビングに行こうとしたが、己織は布団から出てくる気がなさそうに見える。

「あの……先に行ってて……」

「なんで? 一緒に行こうよ。なにかやることあるんだったら待ってるよ」

「えっ……と、とりあえず先に行ってて……」

 何で俺を先に行かせたがるんだ?いくらでも待つのに。

「別に、いくらでも待ってるから一緒に………」


「そ、その……私……着替えたい……」


「そ、そういうことか、わかった、それなら、先に行ってる」

「ど、どうしても、見たいなら……」

「先に行ってる」

「う、うん、そうして」

 このままいたら、本当の変態になってしまうところだった。

 己織も先に着替えたいといってくれればよかったのに。

 こういう風な場面で、女の子の下着姿、もしくは全裸、半裸を見れるのはイケメンだけだろう。

 たとえイケメンでも女の子のそういう姿をあんまり見れるとは思えないが、俺みたいなやつからしたら確立があるだけでもすごいと思う。

 あれ?ちょっとまて、よく考えたら、俺も見れるチャンスあったやん。まぁこういう場面で強く当たれないのも非イケメンだからだろう。

 まぁ、とりあえず先にリビングに行って待ってるか。



「己織、誕生日おめでとう……これ言うのもう三回目だな。というかこれはおめでとうでいいのかな」

「おめでとうでいいよ」

 己織の死が迫る日なので正直に言うとおめでたくはなく、むしろその逆である。

「だって、御誕生日お悔やみ申し上げますとか言われても困るしさ」

 まぁそりゃあ誕生日を弔われてもな。

「結構早い時間帯から、始めたけど何時くらいまでやる?」

 今は、朝の9時だ。

 なぜこんなに早くから始めたかといえば、己織が生まれた時間が十時半くらいだったらしいからだ。

 もし、その時間が来て何かあってからじゃ楽しめないので、最低でも1時間はパーティをできるこの時間帯から始めている。

「まぁ、とりあえず」

 俺はジュースの入ったコップを持ち上げる。

「うん」

 それを見た己織も自分の手元にあったコップを持ち上げる。


「「かんぱーい」」



「なんか長かったようで短かったような気がする」

「なにが? このパーティ? まぁパーティといっても二人だけだったけど」

「もっと人がいたほうがよかったか?」

「いや、二人きりのほうがよかったよ。それより、何が長かったようで短かったの?」

「いや、それは、己織に付き合ってくれって告白したときから今日までの期間だよ」

 たった2週間くらいだった。

 そう考えてみたら、短い。恋人として考えたらとても短い時間だ。

 けど、いろいろとあった。今までの俺じゃやらないようなことをした。

 今まで過ごしてきた中で一番楽しかった2週間だった。

 いやぁ本当にいろいろあったなぁ。

「私は、とっても短く感じた。もっと長く一緒に居たかったなぁ」

「俺も己織ともっと長く一緒で居たいなぁ」

「こういう風になれるって知ってたらもっと早く私から告白してたのになぁ。両思いだったし」

「まさか憧れの尼子さんが俺のこと好きだったなんて思いもしなかったからなぁ」

 そういいながら部屋の壁にかけてある時計を見た後、自分の腕時計を見て、そしてまた部屋の時計をみた。

「もうすぐ……だな……」

「……うん……」


カチ……カチ……


 そろそろ、己織の生まれた時間。つまり死のカウントダウンの始まりだ。



 パーティは終了し少し時間がたった今は、午後2時であった。

「案外、何もないな」

「うん」

「今のところ気持ちが悪いとかないのか?」

「うん、特にないよ」

「じゃあ変わったところところとか」

「それもない」

「そうか……でも、もう、始まってるんだよな……たぶん」

「うん、たぶん」

 結局その日は、己織に変化は現れなかった。

 そして、俺は成り行きで己織の家にもう一泊することになったので、もう一泊した。





「己織、おはよう」

 誰だろう……

「おはよう、体は大丈夫?」

「ん、……はっ!! さ、栽治くん!?」

 目の前にいたのは栽治くんだった。

「己織……それ、二回目……」

「ご、ごめん誘ったのは私なのにまた忘れてた」

 昨日泊ってほしいと頼んだのは私なのにな。なんで起きてすぐは記憶が曖昧なんだろう。

 人間だからかな?

「お、おはよ、栽治くん」

「やっと、目が覚めた?」

「ん~まだ、頭がぽーとする」

「そうか、まぁ今日は日曜だから別に早起きする必要はないけどさ」

 壁の時計を見ると、もう9時だったので、別に早起きではないのだが。

「栽治くん、とりあえずトイレ行ってくるね」

「ん、わかった」

 私は、部屋の扉を空け階段を下りて、トイレに続いている廊下を歩く。

 普段は立って歩けば、この寝起き特有の眠気のような頭のもやもやは無くなるのだが今日は無くならなかった。

 それどころか、頭のもやもやは大きいものになっていき、どんどんぽーとしていって……。


 私は、そこで倒れてしまった。

 気絶とはなにか違う倒れ方。立った状態のまま、眠ってしまったような倒れ方でゆっくり意識がなくなって……最後に手すりをつかんだが最後に見たのは床だった。


 まったく己織は、自分で誘っておいて二回も忘れるとは。

 というか、誘われておきながら二回も忘れ去られる俺の存在は……。

 やっぱり俺って影薄いのだろうか?

 そんなことを考えていると一回から物音がした。


 その物音が気になったので、俺は一階に下りることにした。

 そして、そこで見たのは、倒れている己織だった。

「己織、大丈夫か!?」

 己織の元に駆けつけるが、返事が返ってこない。

 どうやら、意識そのものがないようだ。

 己織の手には、プラスチックの棒を持っていた。手すりの一部だけが壁に残っているところからすると、それは手すりだったものだろう。

 たぶん、倒れるときに全体重がかかり、耐え切れずに棒が折れてさっきの音がしたということか。

 俺は、急いで病院に電話をかけ、救急車を呼んだ。

 己織は、一度病院に運ばれた後、また、別の病院に運ばれた。

 己織の病気は、ゆっくりだが確かに己織の体を蝕んでいる。


 己織、頼む、死なないでくれ。


(そんなことは無理に決まっている)


 もっと一緒に居たい


(無理だろう)


 もっと……


(一緒には居られない)


 分かっている、そんなの……


 無理だってこと……


 でも、でも……まだ、死なないでくれ!! 己織!!


 せめて、せめてあの日までは……一緒に……居たい……

 だから、まだ、死なないでくれ……


 己織が言っていた。人間は花みたいだと。

 そして自分は活け花だと。

 それは、みんなより早く枯れてしまう花だと。

 でも、その花が、萎れて枯れるなら。

 それを、俺は、見届けたい。


 最後の最後の時まで、一緒に、隣に居たい

 そう、その花、己織という名の花が、萎れて枯れるまで。


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