終 最後の誤算
なんだかんだで、その後、ロボ研は再び活動を開始した。
理由は、首相がかわったからである。それだけだ。
想像通り、ことなかれ主義である。
そんな国だから仕方ない。
熱血主人公改め、セクシー女スパイの飯田は、路線変更をうまく果たし他のパイロット候補生をいいように操っている。
里中女史は、飯田が近づくと、まるで猫が毛を逆立てるようなそぶりをする。
それにしても、相変わらずまずいコーヒーを入れてくれる。
澤田は経費で、特別製メイドロボを作っていたが、どうやら先日の騒ぎでばれたらしくお偉いさんに怒られたが、あまりに良い出来だったため、経費の補てんのために売り出すことになったらしい。
どんな客に売り出すのかは、蛇の道は蛇である。
桜井といえば、いつも通りお偉いさんに、コックピットの原案について打診したが、玉砕したところである。
脳波ですべての操作が行われるのに、なぜ操作パネルがいるのだと怒鳴られ、自爆スイッチを見つけた時には、呆れて口がふさがらなかったようだ。
まったく、浪漫というものがわかっていない。
その他、大勢の研究員たちは、各々、自分たちの分野で我を通そうとする。
こだわりを持たなければ、いいものは作れないというのに、税金の無駄とは失礼な話である。
こうして、ロボ研はいつの日か来るかもしれない侵略者たちに備えるのだった。
「一週間ぶりだの」
「残業が続いたからな。後処理は大変だ」
電脳空間の祖父は、寂れた庵で煙管をふかしていた。
周りには、子どもがわらわらと遊んでいる。
桜井は、縁側に腰掛け、ポケットのメンソールを取り出す。
「桜井、遅いぞ。ロボ談義しよう」
背中に張り付いてくるのはフジだ。
後ろに他の子どもがふたり、もじもじとこちらを見ている。ふたりとも女の子で、たしか名前はミラノとベルリンだったはずだ。
「おれ、いつかロボットになって合体するんだ。さんにんで一緒にな」
「ははは、その言葉は、弊害を呼び込むぞ」
両手に花を素でやるフジに忠告する。
そういうロボアニメあったなあ、と桜井は思い出した。司令の無駄な熱さが、大変好ましかった。
「それに、おまえは炭素生命体だから無理。金属製になってからでなおせ」
「うわっ。それって、鉱山狙わなきゃだめかな。金属って取り込んだことないから難しくね?」
「んー。それは困るな。今、地球では資源はほりつくされてるから。地面に含まれるアルミでも少しずつ精製してくれ」
「それ、かなり熱量使うんですけど」
フジは胡坐をかいて、腕を組む。
桜井は、にやりと笑う。
「そうだ。大人しく、本来の役割を果たすんだな」
「なにいってんだよ。おれたちは、ロボットになるの。いつか、改造してくれよ。起きだしてからも、光合成してるなんて、気が滅入る」
「いや、もっと他にあるだろ。暴れだしたい十代の欲求とかないのか?」
「別に。十代どころか、桜井より年上だし。下手に手出しして失敗したのは、学習済みだし。それならロボットになる」
フジはふんと、鼻息を荒くすると、茶の間のテレビをつけた。レトロなブラウン管テレビには、砂嵐のまじった白黒アニメが映し出される。少年探偵がリモコンで巨大ロボを操作するやつだ。
ほかの子どもたちも、各々プラモをいじったり、テレビをみたり、ままごとしたり、鬼ごっこしたりしている。
祖父が集めた子どもは、全部で十八体。
彼らの精神年齢を換算して、それぞれの地域の子どもの姿のアバターを与えた。吸収の早い子どもの精神は、かりそめの身を与えられたことでほとんど現実の子どもと変わらないものとなっている。
みな、名前は所在地を示している。
フジは富士、つまり樹海である。
桜井は飯田に嘘は言わなかった、嘘は。
本当のことを言わなかっただけで。
自分でもなかなかの演技ではなかろうか。
あの女には騙されてばかりだったから、このくらい悪くないだろう。
ロケットパンチも巨大な剣も持たない、合体もしない、外装は国産ひとめぼれ百パーセント、背景に爆発はなく、迷彩色の地味な機体に乗るのは、老けたパイロット候補生もしくはセクシー女スパイ。
せめて、敵キャラくらいはかっこつけたいところなのに。
素材は最高なのに、じじいときたらなにのびのびと教育してるのだ。
ロボット製作者の誤算はまた増えそうである。
実験的に書いたものですが、お読みいただきありがとうございます。
ただ、ロボについて語りたかったのと、オチを書きたかっただけです。