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黒衣の角刈り男  作者: XX
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第2話:一生のお願いの魔法

一生のお願いを何度もするヤツの話。

「姉ちゃん! 一生のお願いだから10万円貸して!」


「アンタ一生のお願い何回使うつもりよ!」


 ……俺の借金の申し込みは、そうやって一刀両断で却下された。


 俺の姉ちゃんは何でも持っていた。

 学校の成績は常に1番。

 運動も出来て。


 ルックスも最高に良かった。

 高校の時は「学園の女神」とまで言われていたよ。

 大学教授をしている母ちゃんに似たんだと思う。


 対して俺は、ヒモ同然のクズ親父に似たせいで。

 頭も運動もパッとしない。

 顔も並。


 ……絵にかいたような凡人だ。


 で、そんな凡人が、常に完璧超人と比較され続ける。


 結果生まれたのが、凡人以下のクズ人間だ。

 太陽の輝きの前では、星の瞬き程度の小さな光は掻き消されてしまうんだよ。


 どうせ頑張っても本心で褒めて貰えない。

 そう思ったら勉強も運動も真面目にする気無くなって。


 まったく頑張らなかった。

 その結果だ。


 クズ親父が「頑張ること自体が尊いんだ。やれることをやってみようよ」なんて、ナヨナヨした戯言を掛けて来たけど。

 Fラン大出で、ブラック企業の万年ヒラ社員に言われてもね。


 響かんのよ。

 お前が、母ちゃんを誑かしてハイスペイケメンとの結婚を阻んだからこうなってるんだが?

 母ちゃんほどの完璧な女なら、ハイスペイケメンと結婚できたに違いないのに、なまじ経済力があるもんだから、気の迷いでお前みたいな劣等種と結婚してしまって、今それで俺が迷惑してるんだ!


 そう言ってやったら、クズ親父はそれきり俺に何も言わなくなった。

 クソが。


 そうして今は


 俺は高校中退のフリーター。


 姉ちゃんは超一流企業で社長室の秘書をやってる。

 年収は俺の10倍以上あるんじゃないか?


 結婚するまで持ち家を持つと、その家の処分でひと面倒が起きるからと、姉ちゃんは未だに実家住まいだけど。

 その気になればいつでもマンションを買えるし、家だって建てられる。


 俺は逆立ちしても無理だけど。




「……血を分けた姉弟なのに、10万くらい貸せっての」


 そうブツブツ言いながら、夜にコンビニ前でストゼロロング缶を2本目空けていたとき。


「何を腐ってるんだい?」


 いつの間にか。

 俺の傍に角刈りの男性が居たんだ。

 全身黒タイツ、背中に亀の甲羅のようなアーマーを背負い。

 スニーカーを履いた姿の男性が。


「話を聞こうか」


 彼はそう俺に言った。

 なんだか、俺はその言葉を素直に受け入れてしまい。


 俺の境遇を話したんだ。

 彼はウンウンと頷いて聞いてくれて


「辛かったね」


 同情してくれて。

 そして


「……お願いって、それを拒絶することは相手の助力を今後期待しないって意思表示なのにね。何故簡単に却下できてしまうんだろうか」


 悲しそうに、遠い目で。

 彼は呟くように言った。


「……今度から、一生のお願いをする前に『僕の力が今後も欲しいなら』って言ってごらん。きっと、通るから」


 とても優しい目だった。

 ……マジか?


 この男性のことは信頼できると俺は思っていたけど。


 彼が俺に言ってくれたことは、正直半信半疑だった。




「僕の力が今後も欲しいなら、一生のお願い! 10万円貸して!」


 ……と言いつつも。

 金がどうしても必要だった俺は、ツレの1人にその言葉を使ってしまったんだ。

 通るわけない、って思いつつ。


 前に断られたからな。


 だけど


「……しょうがないなぁ。ちょっと待ってろ」


 言いながら、そいつは肥満した身体を揺らしながらATMに行って10万円を引き出し。


「ほらよ」


 ……貸してくれたんだ。


 あの角刈り男性の言葉は真実だった!


 


 その後。

 俺は他のツレに同じ手で10万ずつ借金をし。


 キャバクラで遊ぶ金を工面した。


 そしてキャバクラで目当ての女の子と楽しく酒を呑んで。

 彼女との絆を深めた。


 やったぜ!




 これは最高の魔法を教えてもらった!

 いくらでも借金できるなんて!


 しかも、証文なしでいけるから、踏み倒すのも自由!

 証拠ないんだから「返せ!」って言って来たとしてもとぼければいい!




 そう思っていたんだ。


 その後、10万借りた相手に遭遇するまでは。




「一生のお願いだけど、こないだ貸した10万円返して」


 その男は、そんなことを言って来た。


 俺は返すつもり何て最初から無かったから


「今度ね」


 と返そうとした。

 ……そのときたまたま財布の中にバイトの給料と、こないだのキャバクラの残り金がおそらく10万円以上入っているのを自覚しつつ。


 だけど


「はいはい」


 ……!


 俺の身体が、勝手に借金を返したんだ。

 財布の中身がほぼ空っぽになるのを構いもせずに


「ありがとう」


 借金を返してもらったそいつは、俺にそう礼を言って去って行った。


 俺は呆然とした。

 これは……なんだ?


 俺はパニックに陥りそうになったけど。

 ギリギリで踏みとどまり


 そういうことか……!


 悟った。


 ようはあの魔法。

 一生のお願いが通るようになる魔法が原因だ。


 一生のお願いを聞いてもらったら、相手の一生のお願いも聞かないといけない。

 多分、こういう仕組みなんだ。


 ……どうしよう?


 あの方法で、俺はあと10人くらいに借金してるのに。

 そいつらに出くわしたら、俺はどうなってしまうんだ?


 ……今ので俺はスカンピン。

 これ以上借りるなら、もう闇金しかないんだよ。


 普通のところはもうブラックリストに載ってるからな。

 俺には無理なんだ。


 ……最初のデブに金を借りたとき、アイツATMにわざわざ行ったんだよな。

 だとしたら、金を返せって言われたら、俺が闇金に自発的に行って借りてくる可能性は大いにある。


 なんてことだ……

 もう、外に出られないじゃないか……


 震えた。


 そのときだ


「なぁ」


 聞き覚えがある声。

 ゾッとしつつ振り返った。


 そこには、最初に俺に10万貸したデブがいた。



 どうしよう……!


 逃げなきゃ……!


 一生のお願いをされる前に、逃げる。

 そう思って行動に起こす寸前に


「一生のお願いだから、お前の姉ちゃんにボクを紹介して」


 キモイ笑顔を浮かべたそいつに、俺はそう言われたんだ。


 ……ホッとした。

 これなら俺は闇金に行かなくて済む!




 そいつ曰く。

 俺の姉ちゃんが前から好きで、結婚して欲しかったらしい。

 なので、結婚を前提の交際を申し込みたいらしい。


 ……楽勝だ。


 俺は姉ちゃん相手にはまだ魔法を使って無いからな。

 それを使えば、デブの願いは叶えられる。


 ……念のためだ。

 姉ちゃんに「デブの嫁になって、デブの子供を産んで欲しい」って頼んでみるか。

 そこまで頼めば、あいつの一生のお願いを確実に聞いたことになるよな。


 俺はそう今後の計画を立てながら、身を隠しつつ帰宅した。

 これからは外に出られない。


 ……引き籠ろう。


 可能なら、全然別の街に引っ越すのも良いな。

 とにかく、もうこの街には居られない。


 ……何とか誰にも会わずに帰宅。


 自室で姉ちゃんの帰宅を待った。


 姉ちゃんは、夜7時過ぎに帰宅。

 いつも通りの時間だ。


 待ちに待ったときだ。

 俺は部屋を飛び出して、玄関先廊下で姉ちゃんを迎えた。


「おかえり姉ちゃん」


「ただいま」


 俺の言葉に、靴を脱ぎながら事務的に答える姉ちゃん。


 姉ちゃんは俺のことを嫌っている。

 昔はそんなことなかったのに。


 ……正直、ずっとムカついていた。


 だから、俺は全く何も思わなかった。


「姉ちゃん! 僕の力が今後も欲しいなら、一生のお願い! 俺のツレのデブと結婚して子供産んで!」


 すると靴を脱ぐ姉ちゃんの動きが止まった。


 そして振り返り


「……分かったわ。その人の連絡先を教えて」


 平然とそう返して来た。


 俺は大笑いしてしまった。

 なんだか、これまでの劣等感を解消できた気がしたんだ。


 笑顔で俺はデブの電話番号を教えた。


 姉ちゃんは普通の顏でスマホにそいつの番号を登録し。

 そして次に俺のスマホを要求。

 俺のスマホでそいつに電話を掛け


 こう言ったんだ。


「ああ、はじめまして。九津夫くずおの姉の恵理子えりこです」


 特に嫌悪も悲壮感も無い顔で


「……あなたが良いなら、私と結婚して欲しいです。ええ。突然なのは分かってます」


 ……やった!


 俺はガッツポーズ。

 俺の上で偉そうにふんぞり返っていたクソ女が、デブの嫁になってデブの子供を孕むんだ。

 最高に気分が良いぜ!


 ……通話が切られた。

 姉ちゃんは平然としている。


 おそらく、撤回はしないはずだ。

 だって「一生のお願い」だもの。


 そう、ニヤニヤしつつ見ていたら。


「九津夫」


 姉ちゃんが俺の名前を呼んで来た。

 嬉しそうな笑顔で俺を見上げながら。


「なんだい?」


 スマホを返してくれるのかな?


「一生のお願いよ。……死んで」


 満面の笑みだった。

これで私は一人っ子。

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― 新着の感想 ―
[一言] 朗読をさせていただきました。 奇妙な男から貰う、奇妙な能力。 使う人が使えばとんでもない能力なのに、軒並みクズな主人公なせいで、能力が自分へと降りかかっていくバッドエンド…。たまらないです(…
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