十一話
本堂の大きな扉はすべて開放されていて中は大きな板の間と護摩壇のある一段高くなっている板の間で構成されている。護摩壇の奥の中央には高い天井に届きそうな立派な不動明王の立像があった。
不動明王像は真っ赤な姿をしてその右手には邪悪を断つ為の長い剣を持ち剣先は上に向けられ、左手には慈悲を表すと云う綱を持ち、その両脇には脇侍の矜羯羅童子像と制吁迦童子像を従い訪れる信者や観光客を出迎えている。
三体の立像は護摩の煤で真っ黒になって、その色と表情を見て取る事は難しい。
お賽銭箱の手前には蝋燭と香炉にお線香が置かれている。お線香に火を灯しお賽銭箱に穴の開いた銭を投じると、乾いた音が薄暗い堂内に響いた。
新年の祈願を済ませ、偉いお坊さんがお加持をしたと言う甘酒をすすり寒さを凌いだ。寺の人達の好意で初日の出までの短い時間を石油ストーブの前で待たせて貰う事になった。
この寺の留守を預かる責任者の説明で、この寺が九州の西鹿児島にある寺の別院であり密教の寺である事が分かった。初日の出は寺院の庭先から拝ませて頂く事になった。
起伏のある枯れた芝の庭は朝霜に覆われ、その上部には長いフェンスが張られている。フェンスの奥は雑草で蔽われ、そこに存在している断崖を隠している。フェンスの網に攀じ登り初日の出を待った。
雲の隙間から顔を出した太陽の後光が扇状に光の束を広げ人々の頭上に降り注いだ。




