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スローライフ 押しつけられました  作者: 夜昊
本編

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95/113

お腹の皮が突っ張れば瞼の皮が弛むのは必然

 

 結論から言えば宴は盛況で、ハバリー肉はとてつもなくおいしかった。イノシシ肉を食べたことがないから比べることはできないが、豚肉よりは旨味が強くしっとりして柔らかかった。

 魔術で血抜きをしたからか臭みはまったくないし、バラ肉には適度に脂がのっていて、ぷりぷりの肉は甘味が感じられた。脂で胸焼けすることもなく、十代かよってくらいにモリモリ食べまくってしまった。

 まぁ、いまは十代なんだけれどもね。

 バラ肉とモモ肉は二キロ位ずつ準備したのだけれど、それをすっかり跡形もなく食べきってしまったのだ。


 塩のみでも旨かったけれど、米と焼肉のたれがあったら、おいしさは五倍くらいになったと思う。なぜ私は米を買っていなかったんだ!

 ニンニクと塩コショウが一番人気で、スイートチリソースが二番目、そして塩のみのものにはレモンを搾るとさらにおいしいことがわかった。

 先生やおっちゃんは肉を食べなかったし、ガウターも全部の味をひとくちずつ試しただけで、あとはすべてアルトさんたちのお腹に収まった。ディオ君も子どもながらかなりの量を食べていたから、お腹を壊さないか心配したけれど、獅子人の子どもならこれくらい平気だと言っていた。


 アルトさんたちがおみやげに採ってきたキノコは、シイタケとマッシュルームみたいなキノコと、見た目が薄紫に黄色の水玉模様でバタタというキノコだった。

 バタタは、いままでも森の中でよく見かけていたけれど、その色合いから絶対に食用じゃないと思っていた。黄色の水玉だなんてどう見ても毒を持っていそうだったからだ。

 けれど焼いてみたバタタの味はサツマイモだった。中身は黄金色で丸焼きにするとそのまま食べることができ、完全に焼き芋味だったのだ。


 これには女性や子どもが大喜びしていた。

 ただ似ているのは味だけだから、これでスイートポテトは作れないと思う。食感がどうしてもキノコっぽいんだよね。

 屋台で甘芋を売っているから、サツマイモが存在しているのはわかっている。そのうち購入できるだろう。サツマイモの収穫は秋だっけ?


 リス君たちと食べた貝と魚のスープも、これでようやく鍋が空っぽになった。

 中身が減るごとに充電しながら鍋のサイズを小さくしていたから、最後には小鍋サイズまで縮んでしまったけれど、みんなに一杯ずつ配ることができた。

 食後のデザートには果実をカットして大皿に並べておいた。リンゴをウサギとペンギンの形に切ったら、ディオ君が喜んでくれた。

 フルーツカービングができたら自慢できたと思うけれど、残念ながらそこまでの技術はない。

 もしかしたらエメリコさんができるかもしれないから、会ったときに話をしてみようかな。


 アルトさんたちがお酒とパンを提供してくれたので、器に氷を出して魔素で包み、溶けないように温度を下げておいた。アルコールが入ったからか、あたりが暗くなっても話は尽きなかった。

 アルトさんたちが提供してくれたパンは、ミッシュブロートのようにライ麦と小麦が半分ずつ使われていた。

 丸パンではなく、ずっしりと重い長めの楕円形をしたパンを、二センチ弱の厚さにスライスして鉄板で焼くと、肉につけたニンニクの香りが移り、さらにおいしく食べることができた。


 それでも夜が深まりお腹がふくれると睡眠欲の方が勝り、テーブルの脇に作っておいた巨大なエアベッドに、寝てしまった人から順番に転がされていた。

 先生は雨は降らないと言っていたし、結界をはっているから問題ないだろう。トイレは家のを使えばいいし、毛布は皆さん自分のものがあるから問題ないらしい。

 家のベッドはレアンドラさんと赤ちゃんに譲って、私たちは外でごろ寝を楽しんだのだ。




 まだ薄暗い東雲(しののめ)のころ、いつもの時間に起きた私は、自分を含めたニンニク臭い人たちに浄化をかけてから身支度を整えた。となりに転がっていたガウターは、まだヘソ天で眠っている。昨日は久しぶりの毛皮に埋もれて熟睡できた。

 アルトさんは仰向けで大の字になっていて、その脇にはディオ君が丸まっていた。

 カラさんは翼が潰れないようにうつ伏せ寝だし、カルタモさんは寝ているのに気をつけの状態だった。ラムスさんとルファさんは、ユラユラ揺れる椅子でそのまま眠ってしまったようだ。


 ダンジョンで依頼を熟してすぐに長距離を移動し、帰ってみればレアンドラさんたちは行方不明だ。無事だと聞かされていても眠れなかったのかもしれない。

 昨日はレアンドラさんたちの無事な姿を確認できたし、おいしいものをお腹いっぱい食べて力尽きたのだろう。

 ピタリと閉じた瞼は、そう簡単には開かないみたいだ。


 防音の魔術でその場を離れて日課の水遣りを行うと、ピョップンたちも心なしか寝不足のように見えたので、刺激しないように手早く済ませてしまう。

 畑の薬草は動物たちにイタズラされた様子もなく、ツヤツヤした葉に水を受けてとても元気そうだった。

 顔を上げると川の近くに二頭のカヴァリオが佇んでいるのが見えた。なんだか立っているだけで神々しい生き物だな。見事な青毛の長いたてがみが風になびいていて、馬なのにイケメンだ。脚回りも長い毛に覆われているのが、フリンジのようでおしゃれである。


「アリ、きょうはちゃんと起きたのね」


 水をかけ終わる頃にプリ先生が裏口から出てきて、朝の挨拶とともに私の肩に舞い降りた。

 ふんわりとした羽が頬に当たるのも久しぶりの感覚だね。全力でスリスリしたら、わりと本気で頬を突っつかれてしまった。


「先生、おはよう。もうちょっと優しくしてよ! 一昨日も夜中まで移動していたから寝坊しちゃったんだよね。でもよくわかったね」


「朝になっても魔素が移動しなかったから寝てると思ってたわ」


「その魔素ってどうやって感じればいいのかな。私にはよくわからないんだよね」


 神殿で神様と話した内容を伝えながら、盗まれた魔石を感知できないか聞いてみた。


「アンタの扱える魔素が大きすぎるから、ほかの小さな魔素には気がつかないんでしょうね。魔術を使うときも使っている魔素が多すぎるときがあるくらいだし」


「えっ! 私って魔素のムダ遣いをしているの?」


 それはなんだか悔しいな。にわかでもエコロジストとしては看過できない問題だよ。


「必要以上に使っている感じね。少ない魔素を効率よく使えば、そのうち魔素の感知もできるようになるでしょう」


 魔術を使えるようになってからまだ十日も経っていないんだから、焦る必要はないとプリ先生は言うけれど、母親になにかあったら申し訳がないんだよね。申請書が入れ替わらなかったら私の母親になっていたはずの人である。

 顔も知らないけれど健康でいてほしいとは思っているのだ。


 プリ先生を肩にのせて話しながら、私は川の近くで作業中だ。

 シソとセリを植えつけして、クルミの実を腐らせるために地面に埋めておく。場所がわからなくならないように小石と木の枝で目印をつけておいた。

 シソも増えすぎると困る植物だったはずだから、周りは岩で囲むとしよう。


「ベェ~、ベェ~」


 家畜小屋からチボたちが出てきて、南側に歩いていく。入るところは気がつかなかったけれど、家畜小屋を気に入ってくれたようだね。


「枯れ草とかを敷いた方がいいのかな?」


 子チボたちが母親のお乳を探っているのを見ながら、家畜小屋の中を確認してみると、中にはトントが二羽うずくまっていた。


「あれっ? トントは物置小屋を使ってたよね」


 だから扉は開けっ放しにしているのだが、この二羽はどうしたのかな。ケンカでもしたのだろうか。

 確認のために物置小屋を覗いてみると、トントが四羽とおっちゃんが寝ていた。

 おっちゃんの寝相は、丸まったうえに自分のしっぽが巻かれていて、しましまの団子みたいになっている。


「トントもこちらに引っ越しするのかもしれないわね」


「下見してるってこと?」


 なんのことはなかった。これはモデルハウスの宿泊体験なのか。


「気に入れば自分たちで巣作りすると思うけど、卵が孵ってからかしらね」


「それもそうか、温めるのをガウターに丸投げされても困っちゃうからねぇ」


 もしかしたらガウターは喜んで温めるかもしれないけれど、トントの卵が孵ったときにガウターを親だと思ったら、今後のおでかけが大変だよ。チコさんにトントのヒナまで乗せてもらうことになってしまう。


「先生、トントには刷り込みって起こるの?」


「そうねぇ。群れで育てるからそれほど強くはないけれど、初めて見たもののあとを追いかける習性はあるわね」


 ガウターのあとを追うトントかぁ。成体が残念でもヒナはかわいいんだろうか。クリーム色の羽毛がふわふわだったらどうにかなるのかもね。卵の色は自然に溶け込めそうもないんだけど、これはどんな意味があって紅色なんだろうね。

 そう思って先生に聞いたら、暗いところではこの色は目立たないらしい。

 トントの巣は洞穴や木のうろに作られるから、外敵に見つからないように白くはないらしい。

 不思議な色合いもちゃんと考えて進化したんだなと納得しかけたけれど、カモメのことを思い出してしまったので、保留しようと思う。


「身体の中で遊色効果を持つ卵殻ができるなんて、なにを食べればそんなことになるんだろうね」


 卵の殻というよりも貝殻に近いのだろうか? オパールみたいって話だったから、真珠層みたいな卵だと思うんだけど……。いつかカモメの卵を見つけてみたいね。


「さてと、みんなが起きる前に朝ごはんの支度でもしようかな」


 昨晩はテーブル全体に浄化をかけるだけで寝てしまったけれど、特に問題はないはずだ。

 最後まで起きていたのはカルタモさんだろうか、それともカラさんだったのかな。

 ネコ科の人たちは夜行性ではないのか、思ったよりも早めに寝ていた。

 クオッカたちの姿が見えないけれど、彼らはいったいどこで眠っているんだろうか? 


「おはようございます。アリ殿、なにか手伝いましょうか?」


「おはようございます。お早いですね」


 チボミルクを入れるためのバケツを片手に、藍染のローブを着たレアンドラさんが家から出てきてそう言うので、朝ごはんを一緒に作ることになった。

 赤ちゃんが夜明け前にミルクを欲しがるので、いつもこの時間に起きるのだそうだ。昨日あたりから母乳が出るようになったので、チボミルクは一日一、二回で足りるのだが、チボたちが乳を搾ってもらわないと病気になるので、朝夕二回搾っているらしい。


「ああ、そういえば瓶が何本か置いてあったもんね」


 昨日貯蔵庫で大瓶に入った白い液体を三本ほど見ているが、あれはチボミルクだったようだ。

 赤ちゃんとレアンドラさん、そしてガウターが飲んでも消費できなかった分が貯まっていくのだろう。

 テーブルの上を軽く片づけているあいだに、レアンドラさんはなれた手つきで乳搾りを終わらせた。

 家に入ろうと階段に足をかけると束石(つかいし)床束(ゆかつか)の影に動くものが見えたので、しゃがんで床下を覗き込むと、そこにいたのは集団で眠るクオッカたちだった。


「どうかしましたか?」


「いや、クオッカってここで寝るんだなと思って……」


「穴は掘るなと言い聞かせているから大丈夫よ」


「クオッカってネズミの仲間なのかぁ?」


「ニェジュミですか?」


「前世で住んでいた国にいた生き物だよ」


 レアンドラさんのリアクションでわかった。この国にはネズミがいない。そして私の滑舌も悪いようだ。さしすせそが訛り気味なのは生まれ変わっても同じなのだろうか。

 やるせない気持ちを押し隠して階段を上りきった。たった三段だけど……。

 手を洗ってうがいをしていると、先生はパーティションにとまって赤ちゃんを見ていた。面倒は見れないと言いつつも、かわいいとは思っているらしい。

 ぐっすりと眠っていて泣きそうにはないので、さっそく料理を始めよう。


「レアンドラさんは普段どんな朝食を食べているんですか?」


「そうですね……パンにゆで玉子、ソーセージかベーコンを焼いて、サラダにお茶といった感じでしょうか」


 季節によって多少の変化はあるが、基本的にはこのような朝ごはんが一般的らしい。

 卵は露店でも売っているから希少ということはないらしいが、チーズやバターは両親が亡くなる前や王都での学生時代に食べたことがあるていどで、毎日口に入るものではないらしい。

 だからチーズやバターの作り方をレアンドラさんは知らなかった。私も職場での旅行で行った牧場でのチーズ作りしか経験がなかったが、レモン果汁でどうにかできるはずだ。

 時間がかかるし作ったのは牛乳からで、しかもレンネットがないけれど、似たようなものができるのではないだろうか。


 つまり余り気味のチボミルクを使って、魔素頼りでカッテージチーズを作るのだ。乳清は再加熱してリコッタチーズにも挑戦してみよう。


「私はチボミルクでチーズを作ってみます。レアンドラさんはベーコンとマルマゴを焼いてください」


 それにトマトとカッテージチーズを合わせて、なんちゃってカプレーゼにしようかな。それを丸パンに挟めば朝食の一品になるだろう。

 バジルもモッツァレラチーズもないけれど、オリーブ油と塩コショウで味つけすれば近いものになるだろう。

 本物のカプレーゼがこの国で食べられているのか知らないけれど、おいしかったら許されると思う。そのためにはチーズ作りを成功させなければいけないのだ。


 時間があったらバターも作ってみたい。あれは分離したクリームの部分をひたすら撹拌(かくはん)するだけだ。

 ペットボトルでのバター作りは、友だちの子どもが夏休みの自由研究にしているのを手伝ったから覚えているのだ。

 いろんなメーカーの生クリームと牛乳をひたすら振った。牛乳だけでなく成分調整、低脂肪、乳飲料も振らされたが、結果は言いたくない。

 私が必死に振った結果を友人の子どもが乳脂肪の率とともに表にして完成させた研究資料は、担任の『よくがんばったで賞』というハンコが押されて返ってきた。よく頑張ったのは私である。


「貯蔵庫から材料を持ってきますね」


 気を取り直してレアンドラさんにそう言うと、貯蔵庫へチボミルク、ベーコンとマルマゴを取りに行く。

 これで貯蔵庫のマルマの実は青だけになったから、木箱に入った青のマルマの実をそのまま鞄にしまった。

 貯蔵庫の食料はレアンドラさんの狩りの成果もまとめて、鞄に入れておくことにした。

 また食材がなくて落ち込むことがないようにしたいし、エクトルさんにお土産があった方がいいだろう。愛する妻が解体した熊をぜひ召し上がっていただきたい。


 部屋の中にベーコンが焼ける香ばしい香りが拡がってしばらくすると、アルトさんたちが入れ替わり立ち替わりで朝のあいさつとともにトイレや洗面所を使用し始めた。

 そとはすっかり明るくなっているけれど、アルトさんによるといまはまだ六時すぎらしい。

 アルトさんの懐中時計を見せてもらうと、ウィル様のものより少し大きめで、上蓋に吠え猛る獅子の意匠が彫られていた。

 懐中時計はシンプルなものだと一万オーロ前後で買えるらしい。それに魔石や宝石、彫り物を加えると、値段はドンドンあがっていくのだそうだ。


 初代の懐中時計はシンプルでもいいような気がするね。使いなれてから好みの装飾を施した、長持ちするものを買った方がいいだろう。

 王都に行ったら魔道具屋さんを探してみよう。


 加熱したチボミルクにレモン果汁を大さじ二杯入れて固まるのを待ち、そこから乳清を抜く。時間がかかる作業は思いっきり魔素様にお願いした。

 スライスしたトマトにカッテージチーズを挟み、オリーブ油とマルマジオ、コショウで味をつけた。

 丸パンは屋台で二十個買ったのをそのまま出したので熱々だから、ベーコンや目玉焼きもお好みで挟んで食べたらいいと思う。


 料理は大皿に乗せておき、それぞれ小皿に取り分けて食べてもらえば、苦手なものを食べずにすむだろう。

 レアンドラさんが言うには授乳期に禁止されている食べ物はないらしいが、水分だけは多めにとることが推奨されているらしい。

 友人はアルコールやカフェインをとらないように気をつけていたけれど、この世界ではそれも問題ないと言うから驚きである。


 そとのテーブルに料理を運ぶのを手伝ってもらい、ピッチャーにはチボミルクと搾りたてのオレンジを準備した。

 ベーコンも玉子焼きもたっぷりあるから、量が足りないことはないだろう。

 食事がすめばいよいよコンバの街に帰ることになる。そう、目的地はブレソではなくコンバの街だ。レアンドラさんたちはエクトルさんと一緒にブレソの街に帰るつもりなのだ。

 食事をしながら最終の打ち合わせを行って、忘れ物がないように支度を終えると、留守番組にあとを任せてカヴァリオを従えて走り出した。


「ガウター、畑のことも頼んだよ」


《はやくかえってきてね》


《アリっちは気にしねぇで行ってきなぁ》


 そうなのだ。おっちゃんもここに住むことになってしまった。こんなところまでハンターが来ることはないのだが、ここでの生活が気に入ったらしい。そしてあんなに泣き叫んでいたガウターからは、一緒のお出かけをお断りされてしまった。

 私は寂しさと哀しみを振り払うかのように駆けだしたのである。


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