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■ エピローグ

■ エピローグ



 居酒屋特有のざわめきが聞こえた。


「……大丈夫?」


 麻里の。……マリエッタではなく麻里の声に、我にかえる。


「あ、うん。疲れてるのかな。ちょっとぼーっとしちゃって」


 生ビールの泡がいい感じに残っているうちに、慌てて口をつける。


 ……。

 …………。

 ………………。


「ていうか、さ」


「うん。ていうか、だよね」


 違和感があったのは一瞬。すぐにゲーム世界のヒロインであるローズではなく、茨田由紀の自分に戻った。さすがにこっちのほうが歴史が長いだけある。そして冷えたビールがうまい!


「……麻里も夢みてた?」


「夢っていうか……うん、夢、かな……妄想っていうか、ね?」


「ああ、そうね。妄想だね。白昼夢よりそっち」


 さぐりさぐりで会話をする。

 だって違っていたら痛いじゃない。さっきまでゲームの世界で会ってたよね、なんて。


 しかし私たちの付き合いの長さは伊達じゃない。


 言いたいことが同じだとニュアンスで分かったので、一気にはじけた。


「妄想上等。ていうか何あれ。なんなの。白昼夢でもいいんだけど……ちょっと破壊力ありすぎ!」


「狼様の筋肉マジサイコー。あと唇柔らかかった」


 等々。

 ひとしきり、ボリューム抑え気味にしつつ興奮して言いたいことをいう。会話というより独り言の応酬だけど、それがいい。


 興奮が落ち着いたのも、特大のため息をついたのも同時だった。


「……なんだったんだろう、あれ」


「…………さあ」


 何故、ゲームの世界に入り込んでいたのか。

 それも二人同時に。


 何故、何事もなかったように戻っているのか。

 日本での時間は、生ビールの泡がほとんど残っているぐらいの時間しか経過していない。


 何故、何故、何故。


 考えても答えなんて出ない。


「とりあえず、帰ってこれて良かったわ」


 さっぱりとした表情で言い切った麻里をみて、少し複雑になった。


「どうかした?」


「いや、うん。帰ってこれて良かったんだけど……ただ、あの後どうなったのかなぁって」


 マリエッタから麻里がいなくなった後のことを、簡単に話した。

 簡単にというか、攻略対象者しか麻里時代のマリエッタのことを覚えてなかったということを話した。


「……そう」


 目指すエンディングまで辿り着きました。めでたしめでたし。

 ……それだけではなかったんだよという話は、麻里も考えるところがあったのだろう。


「後がどうなるか分からなかった麻里と、知ってしまった私の、どっちが良かったのかわからないや」


 それでも、あの世界での出来事はしょせん夢や作り事だろう、気にする事はないなんて思えなかった。

 実時間ではほんの一瞬のことであっても、体感としては相当長い間、あの世界にいた。攻略対象者もそうじゃない人も、選択肢ではなく会話をする相手で、感情があって、生きていた。


 学校の卒業式を経たような、なんともいえない寂しさ。

 いや、卒業式とは違う。

 もう私たちは彼らの世界に関われない場所にいるのだ。


「どっちもどっちよね」


 うん、と頷く。


「それにしてもさぁ。私たち、これから先大変よね」


「何が?」


 麻里は首をかしげた。

 そうかまだ実感ないか。では伝えておこう。


「……ワタクシ、恋愛できる自信がございません」


「あー……」


 元々乙女ゲームの攻略対象者なんて、いろんな夢が詰まった存在なのだ。

 二次元ではなく三次元に存在していた彼らを知ってしまった今、どうしろと。


「比べる、ね。絶対」


「デスヨネー」


 ひと昔前と比べて、腐女子にもオシャレな人は増えたし、恋愛や結婚をする人もかなり多くなった。

 そうは言っても私は縁遠いんだろうなと思っていた。

 でも。



 恋はした。


 ただし、ゲームの中で。



 ……ヴォルフ様を超える誰かに出会えるのだろうか。……無理だろうなぁ。

 あんなに素敵で懐が広くて誠実な人間は、そりゃあ世界のどこかにはいるだろうけれど、身近にいて、しかも私とご縁があるとか到底思えない。


 ヴォルフ様。


 あなたはああ仰ってくれましたが、わりと私の人生、詰んでます。



蛇足、兼、タイトル回収。

長い間お付き合いありがとうございました。

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