奪い屋師範と《同期組》
翌朝のことである。
集まった頭数は3人だが、
問題はその内訳であった。
「これはお寝坊かな?」
「これはお説教だねっ!」
「これは処刑ですね」
三者三様に述べたのは順に
チヒロさん、スズカ、僕だ。
部屋は同室なので、話を聞いた
チヒロさんがスズカについてきた形である。
あのくせ毛の馬鹿者は寝坊というわけだ。
「おーおー皆さんお揃いで」
「おはようございます。リロイ先生」
校舎からでてくる人は、
彼一人ではなかった。
「誰が寝坊だって?」
後ろ髪をかきながら歩いてきたのはホタルだ。
「あ、呼びに行ってくれてたんだねー」
「ありがとうホタル君」
「ちっ」
「ミズシお前あとで覚えてろよ……」
そんなことをいちいち覚えているほど
僕は暇な人間ではないつもりだ。
さて、全員が揃ったところで、
これまでの経緯をリロイ先生、
チヒロさんと共有する。
疑惑をかける形となるが、本人は
とりあえず遠慮せんといってみろや。
全部聞いてからこたえっから。
とのことだった。
「なるほどねぇ。それで《封魔原典》を。
しかしわりーが俺は出張前に
そんな疲れるこたぁしねえよ」
すべてを聞き終えたあと、
心底げんなりした顔で「つかれるこたぁ」
を発音した表情は、嘘でないと語っているようだった。
「そもそも俺はあの朝、
お前さんにあってないだろうが。
覚えてねーのか、って、
忘却術はそういうもんか」
めんどくせーなぁとあたまをかく。
「でかけてくっから何かあったら頼む
って話はウララに話しておいたんだが」
「僕はウララさんに聞いて、
修行場に探しに行きましたよ」
まいったねどうもともらすリロイさんに、
チヒロさんが同調する。そういえば、
彼女は「ここにいると聞いてきたんだけど」
という話で修業場にきたのだったか。
ということは、スズカも
先にウララさんと会っていたことになる。
そう思って視線をチヒロさんから移すと、
横合いのスズカも考え込んでいるようだった。
「それも覚えてないんです?」
「んー。ホタル君やミズシ君と
すれ違ったのは覚えてるんだけどねー」
ゆっくりと首を振られた。
「寝ぼけてたんじゃねぇか?」
「どこかのホタルじゃあるまいし」
「ミズシは後で面貸せ。
そういえば、ちょうどいいとか
なんとかいってたよなぁお前?」
ホタルはそういってスズカを見た。
「あー、それはほら、
二人ともいないなら
調べ物もしやすいかなぁって」
「……俺部屋に鍵付けようかな」
「僕もその方がいいとおもうよー」
ため息をつくホタルに、
うんうんとうなづくチヒロさん。
防犯。大事。絶対。
「しっかしすっきりしねー話だな、おい」
腕を組んだリロイさんはそうつぶやいて首をかしげる。
だが、僕の予想の範囲内ではあった。手がかりはまだある。
そのためには、少し調べてみなければいけないが。
「まあ覚えてない以上は仕方がないでしょう」
僕はそろそろ、と言おうとしたところで、
そういえば、とチヒロさん。
「色々あって忘れてたんだけど、
スズカちゃんにお客さんが来てたよー。
保護者みたいなものっていう女の人だったけれど」
そういえばそんな話もあった。
「あー、心当たりあるから大丈夫。
たぶん保護者みたいなものだよー」
このあたりの頭の回転は速いところをみると、
彼女の記憶能力がうんぬん、ということでもなさそうだ。
「用事がないなら会ってきたらいいんじゃないか?
今日は俺も出かけるから修行つけてやれんし」
リロイ先生はそう勧めた。
彼女は少し考えたそぶりをみせたが、
結局会いに行くことに決めたようだ。
「じゃあそうしてみます!
朝早くからありがとうございました。
みんなもまたねー」
「おう、じゃあ俺も出かけるとするよ。
またなんかわかったらおしえてくれや」
《奪い屋》師弟はそのまま校門の方へ歩いていく。
チヒロさんは大きく伸びをすると、
「僕はメイ先生に会ってくるね」
と切り出した。
「あ、じゃあ僕も」
「お前は俺と屋上だろうが」
立ち去ろうとしたら、
左腕をむんずとつかまれた。うわ。
「何の告白ですか気持ち悪い」
「ちっげーっつってんだろ!?」
あはは、仲良しだねー。というチヒロさんに、
「そんなわけないです!」「そんなわけねーだろ!」
と返す言葉が唱和し、ホタルとにらみ合いになる。
こうなれば、単細胞への対策はひとつである。
「……はぁ。いいですか。
僕はあなたをかまってあげられるほど、
暇ではないんですよ。やることありますし」
「お、俺だって暇じゃねーし!」
よしよし。売り言葉に買い言葉である。
「では、こうしましょう。
先に用事を終わらせた方が、
試合は勝ちということで」
「おっしゃー!やってやろーじゃねぇか!」
こうなってしまえばこっちのもんである。
試合に負けようが勝負に勝てばよいのだ。
「うっぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
すごい勢いで走り去っていくやつを見て、
正真正銘の馬鹿とはいっそ清々しいものであると悟った。




