第六十九話 〜現れた災厄〜
おはようございます!!
波乱の展開です。
恵慈さんが死に瀕してしまいました。
未来は何が起こったのかを理解できていません。
これからどんなことが起こるのでしょうか!?
今後の展開をお楽しみください!!
「盛り上がってますねぇ。私も混ぜてくださいよぉ。」
あまりにも自然に、それでも異常な声が私たちの頭に響いた。空亡は完全に臨戦態勢を整えて私を自身の後ろに隠し盾となった。今まで鳴り響いていた拍手はいつの間にか悲鳴となり、訓練場は騒然としていた。長老も訓練場の中心部から一瞬にして私たちがいる席の付近まで飛んできて警戒をしている。
「あらぁ?どうしてしまったのですかぁ?先ほどまで拍手喝采ではありませんでしたぁ?」
得体の知れないソレは恵慈さんと言う着ぐるみを脱ぐような形で全身をあらわした。
その姿は人間とほぼ同じ。髪は長く背中までありそうな黒髪。サラサラな髪質だ。背丈は180センチ程。色白だが病的ではない細身の体型をしている。現れた時は裸のように感じだが、今は時代劇に出てくるような裃を着ている。真っ黒の服に赤と金のアクセントのある縫い目や刺繍が施されている。
完全に出てきたソレはおもむろに髪を頭の後ろの上の方で縛り、その顔を見ることができた。顔つきも整っているようではあるが、左目だけは瞼がなく、剥き出しの目がギョロギョロとあたりを見渡している。
その物腰の柔らかい言葉遣いに何故か寒気がし、私はずっと震えている。いやでも目に入る、事キレた恵慈さんを見るといろんな感情が渦巻いてしまう。
ついさっきまで一緒に模擬戦を観戦していた恵慈さん。
いい上司だった恵慈さん。
いつも優しかった恵慈さん。
……もしかしたら本当のお兄ちゃんになる可能性があった恵慈さん。
この惨劇をお父さんお母さんが知ったらどうなるだろう。
色々な思いが巡り巡る。瞬時に考えすぎた事、「死」に直面した事。全ての状況を受け入れきれずに気持ちが悪くなり、その場でうずくまって胃の奥から込み上げるものを吐いていた。
―未来さん。落ち着いて深呼吸してください。辛いお気持ちはわかります。ですが、今だけは!今だけでいいです気を強くもってください!―
ソラが話しかけてくれた。多分空亡とソラがいなければ私は自分を見失っていたかも知れない。
「……ぅうん。ごめん……。」
―謝らなくてもいいんです。ただ今は逃げることを優先して考えて欲しいです。―
……逃げる……?
私は朦朧とした思考で、逃げるってどう言うこと?と考えた。この場には空亡もソラも長老も賀茂さんだっている。それなのに逃げることを考える……?
『未来!すまんが、恵慈の亡骸は諦めてくれ!』
空亡の声にソレは反応した。
「んんー?…あぁ!?こちらの方ですねぇ?なかなかにイケメンですねぇ?……まぁ、私も知っていてこの方を殺したのですがねぇ?……厄介なのですよ。この男の能力は。本当はそこのお嬢さんにしようと思ったのですがぁ、厄介な方を先に始末しておきました。」
そこのお嬢さん……私のことを言霊に乗せてソレが言葉に発しただけで、悪寒と震えが増した。
「玉ちゃんが傷だらけで帰ってきた時はびっくりしましたよぉ?なんでも、小娘に負かされたと言うじゃないですかぁ?さらに、実際に傷を負わせたのはその小娘のお友達の空亡くんだと言うじゃないですかぁ!!さらにびっくりしましたよぉ!まぁさぁかぁ!?空亡くんだったなんてぇ!?……いきなり消えてどこ行ったかと思えば、こんなところで油売ってぇ?」
ソレは語り出した。私と空亡のことを知っている。それに玉ちゃんとはおそらく玉藻前の事。つまりは「厄」に関わる妖怪だと確信した。
『何が言いたい?山本?』
山本……?どこかで聞いたことがある気がする。
「いぇいぇ!言いたいことなんてないですよぉ?むしろこちらは聞きたいのですよぉ?……、
何故裏切った?」
この一言には山本と呼ばれる奴の様々な感情が重くのかかっていた。その場にいたものは全員、その一言に身動きが取れなくなった。金縛りのような状態だ。さっきまでギョロギョロ動いていた左目も真っ直ぐに空亡を見つめている。
『ふん。何故もなにも、我は元々お前らの仲間だと思ったことなど一度もないぞ?』
おそらくこの場で唯一動ける空亡はそう答えた。
静寂が場を支配したその場に空亡は言い放った。
「……。そぅ……。それは残念だなぁ。君ほどのものが人間に手を貸すなんてねぇ。
まぁ、よい。仕方がない。まだ私も仲間達も万全ではないのでねぇ。今日は挨拶と宣言をしにきただけです。……あ、ついでにこの男の始末か。」
心の奥底で怒りが込み上げてきた。こいつも根っこからの「悪」なのだろう。恵慈さんの事をついで呼ばわりした山本のことを酷く嫌悪した。知らず知らずのうちに拳を強く握り締め爪が食い込んだ場所から血が滲んでいた。
そんな私の様子を知ってか、山本は私の方を一瞥してから、今までとは違う全体響き渡るような大きな声で言い放った。
―「皆の衆!よく聞け!
私は『山本五郎左衛門』!!
常世を統べる「厄」の長なり!!
今日より半年後!!「厄」による今世の『百鬼夜行』を執り行う!!
これにより現世と常世が入れ替わるだろう!!
足掻け!!!
喚け!!!
我らを畏れよ!!!
貴様等の健闘を祈ってやろう!!!
我らを楽しませろ!!」
そう宣言すると、徐々に姿が薄れて不敵な笑い声を残して姿を消した。山本が姿を消したことで訓練場にいる者達の金縛りに似た緊張感が一気に解れて大多数が腰をくだいて地べたにへたり込む。
私もそうだった。そして、さっきの山本の言葉を反芻していた。
……!?通りで聞いたことがあると思ったけど、「厄」のボスの名前だ!!空亡が言っていた。
半年後に百鬼夜行を執り行うってことは、現世に総攻撃をかけるってことか……!?
いや、そんなことは後で考えればいい!今は恵慈さんだ!!
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
いきなり現れたソレは「厄」のトップでした。
ここでの登場と衝撃を重ねます。
とりあえず、山本は帰りましたが、まだ恵慈さんの安否が不明です。
どうなってしまうのか!?
次回は10/13朝アップします!!




