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後宮に移る


 私は、その後、5日間、王の寝室とその続き部屋で過ごした。

後宮に、私を閉じ込める宮を用意するのに、5日かかるのだそうだ。

王の寝室とその続き部屋は、決して見た目が華美ではなかったけれど、家具や壁のあちこちに、ダイヤモンドが嵌めこまれていた。初めは、クリスタルかと思ったけれど、私の世話をしてくれる侍女が、ダイヤモンドだと教えてくれた。金色の装飾は、純金、銀色の装飾は、白金ということも。


 そして、5日間、私は、毎晩、アレクサンドロスに抱かれた。彼は、決して、優しくはない。

彼は、肩よりやや長めの黒髪、金色の目、精悍な顔立ち、鍛えられた体躯を持ち、非常に美しい男性だったけれど、荒々しく、受け入れるのは、苦痛だった。死ぬのが嫌だったから、必死で耐えただけで。

その時間は、早く終わって、という気持ちだけで、彼を受け入れる気持ちにはなれなかった。


 ここに来た時、身体は15歳くらいまで若返ったけれど、精神的には、45年生きた経験と知識がある。15歳の時、こんな目にあったら、きっと、耐え切れず、心が壊れていたか、自殺していたかもしれないところ、生きていられるのは、そのためだと思う。


 ・・・私は、ここに来るまで、男性を知らなかった。

結婚しようと思ったことは、ある。20歳の時、付き合っていた彼氏がいた。同じ大学のゼミで知り合った彼は、デートで、キスしようとしたり、抱きついて来ようとしたけれど、結婚するまで待って、と拒否するくらい、私は奥手で頑固だった。というのは、父が教会の牧師だったため、貞操観念が、自分で言うのもなんだけれど、非常に強かったから。結婚するまでは触れるのは許さない、的な思い込み。

それが、彼に不信感を持たせてしまった原因なのかもしれない。

 21歳になったとき、彼の束縛がどんどんひどくなっていった。

スマホを見せろと言い、拒否すれば、浮気を疑い、なじられる。

授業中も、休憩中も、自分の隣に座ることを要求し、だんだんエスカレートし、日夜、私を監視するストーカーになっていった。

そして、何かと浮気を疑い、彼への愛情を疑い、暴力を振るわれるようになる。

そこまで歪んだ愛情を向けられて、さすがの私も、彼が怖くなり、大学卒業前に、別れを切り出したところ、「大学を卒業したら、結婚する約束だよな?」と、詰め寄られ、貞操を奪われそうになった。

その時は、幸い、逃げ出せたけれど、彼の目がもう、正常でないことに気付いて、私は、殺されるかもしれない恐怖を生まれて初めて味わった。

両親には心配をさせまいと、内緒にしていたけれど、ここに至って、彼から逃げるため、両親にも打ち明け、内定していた企業を断り、生まれ故郷から出て、全く知らない街に転居した。

その街で、良い会社にご縁がつながり、仕事は楽しく、課長にまで、なれた。

ありがたいことに、その彼に見つかることなく、生きてこられたけれど、男性恐怖症が残って・・・、とうとう、45歳まで独身だった。

 その彼の目・・・。その彼の目を、アレクサンドロス王は、思い出させた。人を多数殺した者の、もっと恐ろしい、冷酷な目の光の中に。





 5日後、私は、アレクサンドロス王に連れられて、後宮に移った。


 後宮は、王の住む宮と屋根付きの廊下で繋がっている。正面に、大きな扉が閉ざされていて、その扉の前には、帯剣し、槍を構えた兵士が、何人も立っていた。

 アレクサンドロス王が扉に近づけば、兵士は、両脇に整列し、扉が、音もなく開く。

扉の向こうには、思ったよりも大きな街が、広がっていて、私は、驚く。


 アレクサンドロス王に手を引かれ、門から少し歩けば、扉に緑色の石が嵌まった邸に連れてこられた。

「・・・この邸だ。・・・約束通り、そなたがここに入ったら、余が、外から鍵をかける。」

 アレクサンドロス王が、服の下から、首にかけた金色の鎖を引っ張り出すと、その鎖に、小さな鍵が付いているのが見えた。

「この鍵を持つのは、余のみ。鍵を壊さぬ限り、誰も、そなたに会えず、そなたも、外には出られぬ。」

 私は、うなずいた。


 邸に私が、入ると、扉が後ろで閉められ、かちゃり、という施錠音が響く。

ほうっと、小さなため息が出た瞬間、奥から、声がかけられる。


「アデラローゼ様。」と。



 この邸には、すでに、私のための侍女と、料理人などが入っていた。

彼女たちも、私同様、王が扉を開けなければ、外に出られないのだと言う。


「この邸は、エメラルド宮と呼ばれています。アデラローゼ様の宮となりました。・・・私は、マアナと申します。アデラローゼ様の侍女頭でございます。・・・こちらにいる3人が、お世話をさせていただく侍女で、右から、アーラ、イーラ、ウーラです。他に、料理人や掃除人などがいますが、彼女たちは、アデラローゼ様が気にする者ではありません。」

 40歳位だろうか。落ち着いたマアナと名乗った女官が、説明をしてくれる。

「あ、ありがとうございます。・・・あの、ごめんなさい。私付きになって、閉じ込められることになって。」

「アデラローゼ様がお気にされることではありません。」


 マアナは、表情を変えることもなく、頭を下げる。


「この宮をご案内いたします。」


 この邸の部屋は、カタカナのロの形に配置されていた。真ん中に、広い庭があり、庭を囲む形で、回廊が造られ、回廊に沿って、部屋が並ぶ。

私の居室、客間、寝室が2つ、書斎、食堂、浴室、化粧部屋、衣裳部屋。そして、見せてもらえなかったけれど、食堂の向こうには、彼女たちの部屋や、調理室、倉庫などがあるらしい。

少なくとも、私にあてがわれた部屋はどの部屋も広く・・・、特に一つの寝室は、5、6人が余裕で寝られる大きなベッドと、小さなテーブルと2脚の贅沢な椅子が置かれ、その部屋の横には、浴室まで付いている。ここは、王が来たときに使うそうだ。

各部屋自体が大きく、部屋数も多かったので、回廊を、ただぐるっと歩くだけでも、10分くらい、かかりそうだった。

ただし、全ての部屋の窓の外には、鉄格子が嵌まっていた。決して人が通れない、優美なデザインだけれど、格子状の鉄格子が。

 私は、巨大な鳥かごに、入ったのだ。




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