後宮と異世界人
マアナは、後宮について、教えてくれた。
「この後宮は、王の妃と、その妃のための使用人が住んでいる街です。現在、1500人ほど住んでいると言われます。
王の妃は、宝石の名前を冠する宮に住みます。王妃が、ルビー。第二夫人が、エメラルド。・・・この宮でございます。以降、サファイア、トパーズ、アクアマリン、アメジスト、ペリドット、ラピスラズリ、ヒスイ、・・・と続きます。邸の大きさも、下位に行くにしたがって、小さくなります。
それぞれの邸の建具、家具には、宮の名前を冠する宝石が飾られます。この邸は、エメラルド宮なので、家具などに、エメラルドが使われております。
ちなみに、アデラローゼ様が昨日まで滞在された、王の宮は、ダイヤモンド宮と言われております。
現在、王には、第8夫人までおられますが・・・。」
そこで、マアナは、眉をひそめた。
「王が夜、後宮に来られることは、ここ2年ございませんでした。・・・王妃のところにも、です。
王には、お子がおられませんので・・・。大臣達が、お気に入りの娘を後宮に入れようと、激しい競争をしている最中でございますね。
・・・アデラローゼ様は、ダイヤモンド宮で、お召があったとか?2年ぶりでございます。そのため、アデラローゼ様に、後宮の皆は、注目しておりますので、王しか入れないこの邸は、ある意味、御身を護る最高のご配慮かもしれませぬ。」
「あの・・・なぜ、2年、後宮に泊まられなかったのでしょうか?」
「つい、数か月前まで、王は、戦場によく出かけておりました。そのため、女性どころでは無かったのでございましょう。・・・アレクサンドロス陛下は現在、28歳で、即位されてから、13年。15歳の時、先王陛下が戦死された後は、自ら戦地に赴き、20国以上を征服しました。今もなお、他国に侵略をされています。最近は、ご自分で戦場に立つことは、少なくなっておりますが、全く出ないわけではありません。」
「侵略・・・。」
「アレクサンドロス陛下は、世界征服を目指しておられます。我がサンドロス王国は、この世界で、最も古く、最も大きく、最も強大な国です。アレクサンドロス陛下の御代で、この世界は、サンドロス王国ただ1国となるでしょう。」
誇らしげに、マアナが胸を張る。
「それから、アレクサンドロス陛下は、我が国の女性しか妃に迎えておりません。先王陛下は、各国の美しい王女に手を出していましたが。アレクサンドロス陛下の御代で、この国の女性以外が、邸を賜るのは、アデラローゼ様が初めてです。・・・アデラローゼ様は、異世界人なので、特別に迎え入れられたのでしょう。」
「異世界人、だと何か違うのですか?」
「異世界人を抱く男は、神の加護を得る。と言われております。」
「神の加護?」
「詳細は存じません。ですが、異世界人は、数百年に一度、こちらに姿を現しております。全員、後宮に入った記録もございます。・・・しかし、全員が、王に愛されたわけではありません。王に殺された者の記録もございます。・・・アデラローゼ様も、くれぐれも、アレクサンドロス陛下の逆鱗に触れませんように。この国の王は、神の加護など無くても、王ご自身がお強いのです。神の加護を必要とはしていません。あれば、便利だ、くらいにしか、考えていらっしゃらないでしょう。」
「ただ、そのような素晴らしい王ではありますが、くれぐれも、逆鱗に触れないように、ご注意なさいませ。苛烈な方です。彼の怒りに触れれば、その場で命を落とすことは、決して珍しくありません。女子供であっても。です。また、王が、例え誰を殺しても、王の判断には誰も逆らえません。王を熱烈に支持しているのは、軍です。世界で一番強いと言われる軍を、王は、完全に掌握しています。」
ごくっと私は唾をのんだ。「ヤバい奴」という直感は正しかったようだ。
「ところで、アデラローゼ様は、・・・本名でしょうか?」
「え?いえ。本名ではありません。陛下に、今後、その名前を名乗るようにと命じられました。」
「なんと!陛下が!?」
「あの?」
「・・・後宮で、王の寵愛を受ける予定の娘は、後宮に入る前に、王に拝謁します。その時、娘が望むのは、王に、新しい名前を賜ることです。・・・王が名前を与えるのは、その娘のもとに通うことを約束することだから、です。・・・現在、アデラローゼ様以外に、7名の妃がおりますが、誰も、名前を賜りませんでした。・・・王妃でさえも、です。」
「え・・・?」
「アデラローゼ様は、陛下の寵愛を受けるということです!・・・これは、すばらしいこと。」
くくく、と、マアナから、初めて、笑い声が聞こえた。
「このこと、トランシャナ王妃が聞いたら、どんな顔をするかしら。」
そして、マアナは、私に微笑みかける。
「アデラローゼ様・・・。その御名は、この国では、『高貴なバラ』を意味します。・・・バラは、この国の国花。だから、アデラローゼという御名をいただく女性は、『王の最愛』と言われるのです。」




