いつもの退屈で普通な日常が
「すみれー、ご飯よー」
何の変哲もない、いつも通りの、いつもの母親の声。夜ご飯が出来たことを告げるだけの、そんな声。
明日は月曜日。このご飯を食べて、いつも通りお風呂に入って、いつも通りに寝れば、またいつも通りの月曜が来る。
学校は、まぁ普通に楽しい。普通に気の合う友達もいるし、勉強もまぁ普通にやってる。
普通。普通。普通普通。
普通であることに反発してはいけないと誰かが言ってたな。普通に友達と会話を合わせて、普通に学業を修めて、普通に就職して結婚して……それが一番無難だから?
確かにそうよね。でも……ツマラナイじゃない、そんなの。
普通に過ごしている私だけど、このまま普通で終わりたくないわ。
大体、この『すみれ』って名前からして平凡すぎるのよね……
ひっそりと静かに、道端に咲いてるだけの菫でしょ?私の人生もそうやってひっそりと始まって終わるのかしら?
自分で言うのもなんだけど、私にピッタリの花っていったら……もっと堂々として威厳のある、豪華な香りを纏った……そう、薔薇じゃない?
でも佐久間ローズなんてそんなの、純日本人の私では、ちょっとね……
いや、いや、結構アリじゃない? 佐久間ローズ。私が例えば、そうね……ハーフだったら?
とはいっても、どんなに目を凝らしても、今ここにいるのは佐久間すみれとその母親。
「はぁい」
そう言って私は普通に夜ご飯を食べて、いつも通りお風呂に入って、いつも通りに寝たの。
そして、いつも通りの月曜が来ると思うじゃない?ところがその日は全然違ったのよ。
「え……? 何? どこよ、此処……」
目の前には色とりどりの、様々な花が咲き溢れていて。どこからか静かで落ち着いた曲が流れていて。幸せそうな人々の話し声が響いていて。少し遠くには、何やらお城が見えているし。何これ、テーマパーク? 今日の授業、此処なの?
呆気に取られるしか無かったわよね。それともまだ夢の中?
漫画のようにほっぺをつねる。……痛いじゃない。
「女王様! こんなところにいらしたのですね、探しましたよ」
「は????」
「どうなさいました?」
女王……様? 私が?
「誰かとお間違えではありませんか?」
「な、な、なんと! 女王様は突如記憶喪失になってしまわれたのでしょうか? そんなまさか」
私を女王と呼ぶその小さな男の子?は、冗談であることを祈ってるかのようだったけど。いやいや、私はついさっきまで家で寝ていた、ただの女子高生だし……
「女王様が本当にそのようでは、この王国の危機でございます。さぁ、悪い冗談はやめてお城に戻りましょう」
「え、ちょっと、本当に待って。……私は誰なの? 誰のつもりでそう言っているの?」
「まさか、本当に記憶喪失なのでございますか? リーデ・カサブランカ・ヴァイオレット・オブ・ローズウィンド女王陛下」
「り……な、何ですって!? 長過ぎよ! これは一体どういうことなの? 此処はどこ? 私は誰? ってまるで本当の典型的な記憶喪失みたいじゃない!」
「ここは豪華絢爛な薔薇の香りが吹き乱れるローズウィンド王国で、リーデ女王様はその君主でございましょう。お忘れですか? 私めは家臣のナビビです」
「こんなことがあっていいのかしら……。確かに昨夜、私には菫よりも薔薇が良いわと思ったけれども。いきなり女王だなんて、そんなのちょっとぶっ飛び過ぎだわ。いやちょっとどころじゃないけれど」
そういえば私の服、今気付いたけれどいつものパジャマじゃないわ。いかにもなドレス。いつ着替えたのかしら。もう何もかも分からない……
「あ、ねぇねぇ。もう一回さっきの長い名前言ってくれない?一瞬じゃ覚えられないもの」
「何度でも申し上げますよ。リーデ・カサブランカ・ヴァイオレット・オブ・ローズウィンド女王陛下」
「あ、やっぱり。薔薇と、すみれのヴァイオレットの他に、カサブランカもあったわね。確かユリの女王って呼ばれるくらい、立派なユリなのよね」
「リーデ様が御即位されてまだ一ヶ月弱。リーデ様のその御名に負けないくらい、ご立派な女王陛下になって頂きたいものでございます」
そういう訳で、ってどういう訳かも知らないままだけど、私は知らない世界で女王としての毎日を送ることになったの。




