脚本の崩壊~蓮丈院遊月の活躍はこれからだ~
「しょ、勝負はどうなったの?」
「わからない! 遊月さんがカードの発動させた時に、会長が立てたアクシデントとぶつかった途端に爆発が!」
互いが思いを込めて発動させたカード効果のぶつかり合いは、感情の高ぶりに呼応するプリズムストリームを暴走させ、演出を越えた爆発を起こした。
蓮丈院遊月と藤丸エルドとの間で勃発した激闘は、学園のあらゆる場所に被害を与えていた。
内装が乱れたどころか何故か穴ぼこだらけになった生徒会室に始まり、三階から一階にかけて床と天井が吹き抜けになるほど貫通。
エントランスに至っては靴箱が崩壊して床が靴だけで埋まり、遊月の繰り出した一蹴りの波動によって、二階の教室が全て壊滅。
学園の顔となる中庭に痛々しいクレーターが生じ、噴水は原型を止めなくなるほど拉げ、天から雨が降るよりも先に、壊れた水道から天高く吹き出した水柱が、中庭を濡らしてゆく。
同時に、その爆心地のすぐそばで見ていた野次馬達にも被害が及び、戦いに参加していないのにボロボロになっていた。
視界を曇らせる白煙の如く舞い散る粉塵が、降り注ぐ人工の雨に塗れて徐々に晴らしてゆくと、その爆心地でもある場所に、俺とエルドはまだ対峙していた。
〈エヴォルスワンワンピ〉を纏ったままの俺の拳からは炎が消え失せ、その鎮火した拳を〈ミネルオリーヴァワンピ〉を着ているエルドに受け止められて。
その背後には、他の生徒が見ていたとおり、一枚のアクシデントカードが立っていた。
「アクシデントカード〈パラディオン アウロスの笛〉」
佇むカードの名前を口にしたのは、最もエルドのデッキを知るマイリーだった。
「ランドリーにある〈ゴルドアプフェル〉ブランドのコスチュームを復活させ、その後で両プレイやーはその代償として対象コスチュームが持つ元々のAPの半分を支払わせる効果を持つ」
その一枚で状況を把握できたマイリーの隣で、まだ完全に飲み込めていないのか、ティーナが話に入ってくる。
「じゃ、じゃあ、会長さんが、ワンピを着ているってことは、二人ともAPを支払って?」
「遊月が先に会長のワンピを破壊しているから、そうとしか思えないね」
「〈ミネルオリーヴァワンピ〉のAPは1300。その半分の650ポイントを強制的に支払うとすれば、もう500ポイントしかない遊月のAPは――」
マイナスを切っている。
隣に立つフェズが勝敗の結果を口にしかけた時、あれほど奮闘していた蓮丈院遊月の努力も虚しく散ったことにティーナは落胆する。
目の敵にしていたエルドや学園のトップを狙おうとしていたマイリーもまた、複雑な思いを腹に据えながらティーナに肩を添えた。
「――いいや、遊月は負けてない!」
誰もが落ち込む雰囲気に陥りかけた中、明るく声を上げたのはマーサだった。
野次馬達の注目が俺とエルドから彼女に向けられたとき、マーサは俺の腕を指さした。
「あ! あれは〈ブラッデルセン ヒモスタットリボン〉!」
気がついて声を上げたのはセイラだった。
「自分のAPが相手によって削られそうに成ったときにランドリーから追加コーデされて、その効果で下がるAPを0にする!」
「止血する為に飛び出したからランドリーに送られない制約がついてるけど、それでもそいつのAPは150もある!」
「ということは、既に500ポイントしかなかった遊月にそのアクセサリーが追加コーデされたことで、二人のAP差は!」
「ええっと、500足す150は……ゼロにゼロを足してゼロになって……650!」
マーサとマイリーが対戦者に代わって場にでたカードとそれによって変動する数値を声に出して説明する中、わざわざ指を折って計算するティーナが最終数値を告げた。
蓮丈院遊月 AP650 VS 藤丸エルド AP650
結果は引き分け。
もうこれ以上動かせるカードどころか、体を動かせる体力もない。
ゲームエンドによって臨場から解放されたことで張りつめた気が緩んだのか、それとも血がないのに無茶に無茶を重ねて無理矢理動かした体に無理が祟ったのか、俺は膝をついた。
勝利には届かなかった。
だが、もう下を見ない。
そう決めていた俺は、目の前にたたずむエルドの顔を睨むように見上げた。
「もう一度だ、藤丸エルド!」
「――なに?」
今の俺と同じくらい顔が汚れたまま見下ろすエルドの眉が、ピクリと動く。
「お供のジェネともをデッキに入れて、本気のデッキでもう一度俺と戦え! そして、今度こそ貴様を倒してみせる。そうすれば、この蓮丈院遊月の歴史も代わるってもんだ」
作中最強と激闘の末に引き分けた時点で、この世界における強弱関係にも何かしらの変化が生じているのは明白。
だからといってこの程度で満足する訳にもいかない。
野次馬に紛れようとも、直ぐに見つかるレベルの存在感を出している本来の主人公ティーナ・遊館・ジェイデン、回を重ねることによってさらに強くなる親友の藤丸マイリー、完全に記憶から抜けているが後にユニットとして仲間入りを果たすキャラクター達や、正史で遊月が退場した後で現れるであろうまだ見ぬ強敵達。
ティーナ達と結託して強敵のお出迎えに加われなければ、蓮丈院遊月の歴史が終わる。
俺をこの粗悪なレプリカ世界にくる原因となった、犯人を燻し出すためにも。
「――面白い」
エルドが軽く笑った。
「ならば希望通り、その挑戦受けて立とう」
スキャナーからカードを抜き、放出されたプリズムストリームが閉じたことで、エルドの格好が元の学生服に戻った。
「しかし、だ。私の首を狙う者は生憎貴様だけではない。この学園に通う生徒のほとんどが、貴様のように自らの歴史を変えようとしているのもまた事実なのだ。貴様が病み上がり早々に相手をした、我が従妹のようにな」
その返しは俺だけではなく、この場を囲うように集まっていた全校生徒達に聞かせるように、いやわざわざ名指しで例えたマイリーにも視線を送りながら、エルドは聞こえよがしなほど声を高らかにして言った。
そしてクルリと踵を返し、埃のついた制服を軽く叩いて身嗜みをそれなりに整えてから、まるで指導者のごとく起立を正し、改めてこの場にいる生徒達に向けて言葉を放った。
「生徒各員に告ぐ! 生徒会及び経営関係者権限を以てここに宣言する! 来週の火曜日に予定していた遠足を取りやめ、同日に校内エンプリス大会の開催に変更する!
もし、この校内大会で優勝できた生徒には、もれなくこの私――藤丸エルドとの挑戦権を与えよう! 詳細はまた後日だ。確認を怠るなよ」
本当にこの世界の生徒会には謎の権力があるな。
いや、経営者の親族だからという理由も含まれているのか。
自分の気まぐれで学校行事を一声で変更させた後、誰も文句を言わぬまま海を開くモーセのごとく前を遮る野次馬の壁を裂き、エルドは校舎の中へと歩いてゆく。
「ケッ! 一週間も待ってられるか、こっちは今からでもいいんだぞ」
立ちあがって挑発するが、威勢も空しく俺は倒れかける。
前のめりに倒れる前に、すぐさま駆けつけたセイラとマイリーが受け止めた。
「勇ましいな。だが、熱くなる血がなければ元も子もないぞ」
今まで、こちらの強がりからの出た挑発なんて軽くあしらわれる程度だったのに、今の試合でエルドの中で評価が変わったのか、ちゃんと振り向いて買い言葉を返した。
「慌てなくとも私は逃げない。そして、貴様と再び戦えないとも思っていない。楽しみに待っているぞ、蓮丈院遊月」
二本立てた指先で唇に軽く触れた後、エルドはまるで気取った投げキッスのようなジェスチャーを澄まし顔で俺に送る。
「へへ……もう粋な返しが思いつかないや……」
キザな振る舞いにはキザで返そうとするも、もう知恵を巡らせる血もなくなった俺は、全身が訴えてくる疲労によってそのまま意識を失った。
瞼が強制的に閉じられ寸前、俺は最後に目に入ったフェズ=ホビルクに向けて最高のしたり顔を浮かべた。
どうだ? これで、蓮丈院遊月は悪役礼嬢の運命から逃れられただろう。
蓮丈院遊月が世界を救うと信じて……
ご愛読ありがとうございました。
このお話は、いったんここで区切ります
(※打ち切りエンドっぽいオチですみません)
(かなり中途半端ですが)最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!
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