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最終話(第10話) ありがとう

★ この作品は忠実を元にしたフィクションであり、実在の人物、出来事、団体名などは一切関係ありません。

★ 誠に勝手ながら「あらすじ」は省略させていただきます。

 深い霧が少しずつ晴れてきた大河。その大河の両岸に、織田信長が率いる織田軍と、美濃みの(※現在の岐阜県)の国主で信長の宿敵でもある斎藤龍興さいとうたつおきの両軍が激突した。

 織田軍は数えられるほどの船数だが、斎藤軍は向こう岸が見えないほど大船団。私たち織田軍は元々、信長の妹のおいちさんを、近江おうみの国主である浅井長政あざいながまさへ送り届ける為、兵力は通常の戦の半分以下。それに対し、相手の斎藤軍は、あれだけの大船団なのだから、おそらく全兵力を使っているのだろう。数などで見れば、明らかに私たち織田軍が劣勢だ。

 【足立裕輔あだちゆうすけ】「あ~、どうしよう!!」

 【中村若菜なかむらわかな】「あれだけの大軍、絶対に勝てっこないわ~。」

 裕輔や若菜たちは弱気になっていた。いくら戦術を勉強して身につけたとしても、この戦が彼らにとって本格的なデビュー戦となるし、そもそも私や彼らはこの時代の人間ではない。弱気になるのも当然だ。

 【森下藍もりしたあい】「ねえ、逃げましょ。今なら逃げられるわ!」

と、藍ちゃんが私に言ってきた。

 【神宮寺紗耶】「私は、逃げないよ。」

 【森下藍】「え?」

 【中村若菜】「な、何を言っているの?」

 【足立裕輔】「あ、相手は大軍だよ。いくら戦術を勉強して身につけたからって、あ、あの数相手じゃ無理だよ!」

 【神宮寺紗耶】「じゃあ聞くけれど、私たちは今なんでココにいるの? お市さんを守りぬく為に、ココにいるんでしょ? 若菜たちが言うように逃げても良いけれど、それではお市さんは誰が守るの?」

 【森下藍】「けれど、あの数には…。」

 【指宿健斗いぶすきけんと】「別に、俺達があの数全員を相手するワケじゃないだろ? あの数を全員相手する、って思ってしまうからダメなんだ。俺達は、お市さんを守れば良い。ただ、それだけだ。」

 【中村若菜】「じゃあ、健斗も…。」

 【指宿健斗】「ああ。俺も逃げないぜ。」

と、健斗は力強くビシッと言った。その顔は、なんだか頼もしくみえる。

 【楠山太陽くすやまたいよう】「僕も紗耶さんの意見に賛成だな。僕らの大将は、あの織田信長だよ。この時の為に、この状況を大きく覆す作戦を用意しているハズさ。だから絶対に負ける、って決め付けるのは早い。」

 【森下藍】「太陽君まで…。」

 【神宮寺紗耶】「みんな、弱気になっちゃダメ! ここに来る前にやった“アレ”を思い出して!」

 “アレ”とは、皆で円陣を作って全員の掛け声と共に士気を高める方法のこと。この方法を学校の運動会の最後の種目であるクラス対抗リレーを行う前にクラス全員でやったら、なんと優勝してしまったのだ。それ以来、何か大きな事がある度に、それがクラス伝統の行事にもなっている。

 【神宮寺紗耶】「私たちは絶対に負けない。 みんなで戦って絶対に勝って、みんなで家に帰るの。だから、弱気にならないで! みんなで力を合わせて戦えば、きっと乗り越えられる!!」

 【裕輔たち】「・・・・。」

 【神宮寺紗耶】「大丈夫! 必ず勝つ!!」

 その私の一声が、弱気になっていた裕輔たちの心に響いた。

 【明智光秀あけちみつひで】「そうですよ、皆さん。」

 【神宮寺紗耶】「光秀さん…!」

 隣で私たちの様子を見ていたのか、光秀さんがやって来て言った。

 【明智光秀】「私たちは皆さんとお会いする前にも、数々の戦をしてきました。もちろん、その中には苦戦を強いられたものもあります。けれど、私たちはお互いの力を合わせ、それを乗り越えて今がある。私たち織田軍を信じて下さい。なぜなら、私たちは絶対に負けない織田軍なのですから!」

 それを聞いて、裕輔たちは口を閉ざして何か考え始めた。そして、しばらくして、

 【中村若菜】「…分かったわ、紗耶。」

 【森下藍】「私たち、逃げない。みんなと一緒に戦うよ!」

 【足立裕輔】「勝てば良いんだよね、勝てば!」

 弱気になっていた裕輔たちだけれど、今はもうそれが消えて、すっかり前向きに見える。私は嬉しくなった。光秀さんもクスッと笑顔を見せた。

 【お市】「良かったですね、紗耶さん?」

 【神宮寺紗耶】「はいッ!」

と、私は笑顔で力強く応えた。

 【????】「茶番は終わったか?」

と、私たちの背後で、すごく聞き覚えのある声がした。振り向くと、そこに相変わらず鋭い目つきで私たちを睨みつけるように見ている織田信長がいた。

 【明智光秀】「信長様…。」

 【織田信長】「・・・・。」

 その眼差しは、いつ見ても怖い。戦で逃げ出すよりも、ある意味、コチラの方が余計に逃げ出したい気分になりそうだ。

 信長は私たちを睨みつけるように見た後、自らの剣を抜き、鋭い矛先を斎藤軍がいる方向に差し示した。

 【織田信長】「敵は目の前だ。全軍、直ちに戦の用意をせよ! この戦…、決戦ぞ!!」

 【全員】「ハッ!」


 その頃、斎藤軍の大船団では、斎藤軍の総大将である斎藤龍興が望遠鏡を使って、織田軍の様子を眺めていた。その隣には、音羽おとわ城戸きど百地三太夫ももちさんだゆう、そして“美濃三人衆みのさんにんしゅう”の唯一の生き残りでもある稲葉一鉄いなばいってつの姿があった。いずれも強豪だ。

 【百地三太夫】「どうじゃ、織田の様子は?」

 【斎藤龍興】「・・・・。」

 なかなか口を開こうとせず黙って望遠鏡を使ったままの龍興を横目で見た音羽は、チッと舌打ちをした後、ついに龍興が手にしていた望遠鏡を横から奪い取り、自ら使って織田の様子を見た。

 【音羽の城戸】「…おっ! どうやら、逃げもせずにコッチに向かってくるようだねぇ~。この我ら音羽・百地・斎藤の強豪連合軍に、敵軍のぶながは全軍で立ち向かうようですぜ。」

 【百地三太夫】「ワシら軍は6千、対して相手の兵数はワシらの半分以下…。いかに全軍で立ち向かうとしても、ワシらの勝ちは見えたも当然じゃな。」

 【斎藤龍興】「さあ、どうする。織田信長?」

と、龍興はニヤリと笑った。

 【百地三太夫】「じゃあ、そろそろワシらは自分の船に戻るとするかの。龍興、お主が総大将じゃ。見事な戦術、見せてやってくれ。」

 【斎藤龍興】「承知!」

 そう言って、百地と音羽は龍興の船から離れ、それぞれ自分達の船に戻った。戻りながら、音羽は誰にも聞こえないように小声で言った。

 【音羽の城戸】「ヘッ! アイツが総大将だって!? 笑わせるな。織田に自分の居城を取らせてしまったくせして…。でも、アイツからの命令が無い限り、俺らの好きに行動させてもらいますぜ。」

 戻っていく2人を横目で見送りながら、すぐ傍に控えていた稲葉一鉄が龍興に声を掛けた。

 【稲葉一鉄】「大丈夫で御座りますか、あの2人は?」

 【斎藤龍興】「安心しろ。俺様は、あの2人は信用しておらん。」

 【稲葉一鉄】「え? では、何故…。」

 【斎藤龍興】「あの2人の軍は、ただ織田を倒す為の“道具”しかならんよ。」

 【稲葉一鉄】「…!」

 【斎藤龍興】「一鉄、持ち場に戻れ。オマエの本当の強さ、思い知らせてやれ!」

 稲葉は、何か言いたい事があったが、寸前で我慢した。そして、悔し顔を隠しながら、そのまま自らの持ち場に戻った。


 【前田利家まえだとしみつ】「左右に広がる斎藤の大船団、正面突破は無理、か…。で、どうする、サル?」

 織田軍の一番先頭の船に乗船している前田は、船の先端から身を乗り出して斎藤の様子を見ている木下藤吉郎きのしたとうきちろう(※後の豊臣秀吉とよとみひでよし)に言った。

 【木下藤吉郎】「そんなの決まっておろう! 道が無かったらワシが作るまでよ!!」

と、藤吉郎はニカッと前田に笑顔を見せて心強く言った。

 【前田利家】「そうか。」

 すると、何を思ったのか、前田は背後に控えていた多数の兵士に顔を向けて言った。

 【前田利家】「皆の衆、聞いたか? サルは、あの大船団に“1人で”突っ込むそうだ。」

 【兵士たち】「おお~! (さすが、サルと呼ばれた男だけの事はある!!)」

 【木下藤吉郎】「んな事を言ってねぇだろ! 例えで言ったんじゃ、例えで!!(怒)」

 【前田利家】「でも…、そのオマエの考え、嫌いじゃないぜ。」

 【木下藤吉郎】「ありがとよ!!」

 そう言って、藤吉郎と前田は、前方に少しずつ近づいている斎藤の大船団を見た。

 【前田利家】「…行くか?」

 【木下藤吉郎】「大船団など見掛け倒しじゃ! ワシらで正面から切り崩し、突破口を造るんじゃッ!!」

 【兵士たち】「ハッ!」


 【伝令兵でんれいへい】「伝令! 先頭にいる木下・前田の両隊、正面から突破口を作る模様です!!」

 戦の状況などを総大将などに逐一報告する伝令でんれいが、織田信長の下にやって来て報告した。

 【織田信長】「全船を散開、柴田しばた丹羽にわの両隊は側面から先陣を支援せよ、と伝えろ。」

 【伝令兵】「ハッ!」

 【織田信長】「龍興、戦いはコレから…ぞ。」


 固まっていた織田の船団が左右に散開していくのを見た斎藤軍の音羽の城戸は、手に持っていた白色の扇子をバッとかざし、それを織田の船団に向けて叫んだ。

 【音羽の城戸】「れ。目指すは織田の首ぞ!!」

 その声と共に、音羽の船にいた兵士らが一斉に織田の船団がある方向へ弓を構えた。

 【音羽の城戸】「射て~ッ!!」

 弓を構えた兵士らは一斉に弓を放った。

 音羽の兵士らが放った多数の弓矢は大きく空を飛び、木下藤吉郎の船へ雨のように容赦なく降り注いだ。

 数多くの弓矢は問答無用で藤吉郎の兵士らを次々と倒していく。

 【木下藤吉郎】「ひるむな~! 船の屋根に一時いちじ身を隠せ~!!」

 藤吉郎の指示のもと、兵士らは弓攻撃をかわす為に、次々と弓が当たらない屋根などに身を隠した。

 その間に乗じて、音羽の船が藤吉郎の船に近づいていく。

 【音羽の城戸】「フッ!」

 【木下藤吉郎】「船に近づかせるな~。射ち返すのじゃ~ッ!!」

 屋根の下に身を隠していた藤吉郎は、自ら単身屋根の外に出て、己の身軽さをもって雨の弓矢を次々とかわし、船に突き刺さっていた相手の弓矢を抜き、自分の弓矢に構えた。そして、音羽の船に弓を射ち返した。その矢は、音羽の船の弓兵士の1人の胸に見事突き刺さった。

 【音羽の城戸】「サルの悪あがきか…。面白い!」

 すると、音羽は藤吉郎が射ち返して倒れ死んだ兵士に近づき、次の瞬間、誰もが驚く不気味な笑顔をしながら、兵士の胸に突き刺さっていた弓矢を強引に引き抜いた。

 藤吉郎の船は目前。音羽の視線の先に、藤吉郎が待ち構えている。

 音羽は倒れた兵士が手にしていた弓を手にし、藤吉郎に目掛けて再び射ち返した。同時に、音羽は船の先頭に向かって走り、藤吉郎の船に飛び移った。その手には鋭い刀を手にしていた。

 藤吉郎に、音羽が放った弓矢と音羽本人が一緒に襲い掛かる。

 音羽には考えがあった。仮に放った弓矢がかわされたとする。しかし、そこに一瞬のスキが生まれる。その隙を狙って、自分の刀で藤吉郎を倒そうというのだ。逆に、弓矢をかわさなければ、藤吉郎は弓矢で倒れる。いずれにしても、藤吉郎に勝ち目は無い。

 【木下藤吉郎】「!」

 【音羽の城戸】「覚悟ーッ!!」

 藤吉郎のすぐ目の前に、弓と音羽の刀がほぼ同時に迫った。藤吉郎は、ピクリとも動こうとしない。それどころか、諦めたのか両目を閉じ、自分の刀を手にしたまま静かに立っている。

 【音羽の城戸】(貰った!)

 ザクッ…!

 【音羽の城戸】「フッ!」

 【木下藤吉郎】「・・・・。」

 【音羽の城戸】「・・・・え?」

 気がつくと、音羽の額から真っ赤な血がゆっくりと流れていた。藤吉郎は無傷。しかも、刀を振り下ろしたような動作をしている。藤吉郎の足元には、自分が放った弓矢だが、真っ二つに割れて落ちている。そして、音羽の体にも頭から股にかけて、縦に真っ二つに切り裂かれ、そこから真っ赤な血が出ていた。

 そう、あのザクッと言う音は、藤吉郎に当たったものではなく、音羽が藤吉郎に切られた音だったのだ。

 実は、藤吉郎が目を閉じたのは、飛んでくる弓矢と音羽の気を感じる為であった。この2つが藤吉郎の刀の攻撃範囲に入ったのを感じたと藤吉郎は、瞬時に自分の刀を縦に振り下ろし、弓矢と音羽を同時に斬ったのである。

 予想外の出来事に、思わず音羽は自分の刀を落としてしまった。

 【音羽の城戸】「な、何故だ…。」

 何故、自分が斬られているのかまだ分からない音羽は、自分の額に流れている血を手で触りながら藤吉郎を見ている。すると、藤吉郎はそれを鋭い目つきで睨みつけながら音羽に言った。

 【木下藤吉郎】「…サルをなめんじゃねぇッ!」

 【音羽の城戸】「く…、クソぉぉぉぉぉ~ッ!!」

 音羽は、大量の血を流しながらも最後の力を振り絞り、落ちていた自分の刀を拾い上げ、藤吉郎に攻撃しようとした。しかし、次の瞬間、力尽きて音羽はその場に倒れた。

 それを藤吉郎はフッと微笑して見ていた。その姿は、周りにいた藤吉郎の兵士たちには、なんとも勇ましく見えた。…が、

 【木下藤吉郎】「痛ぁ~いッ!!」

 先程まで勇ましかった藤吉郎だったが、その数秒後に今度はサルがウキャ~と大声で泣き叫ぶかのような姿を見せた。

 【藤吉郎の兵士A】「な、なぜ突然、泣き出す!?」

 【藤吉郎の兵士B】「アレだよ。」

 【藤吉郎の兵士A】「アレ?」

 よく見ると、藤吉郎の左手の小指に小さい切傷があった。どうやら、あの2つの攻撃を完全にかわしたワケではなかったようだ。

 しかし、小さな軽傷を大声で泣き叫ぶ姿は、サルと言うより、まるで子供だ。あの勇ましい姿は、どこに消えたのだろうか。

 【藤吉郎の兵士A】「少しでも藤吉郎様が勇ましく見えた自分がバカじゃった…。」

 【藤吉郎の兵士B】「右に同じく…。」

 【木下藤吉郎】「血、血が出ているよ~ッ!!(泣)」

 兵士らは、ハァ~とため息をついた。

 【音羽の兵士】「城戸様の敵じゃ~!! かかれぇ~ッ!!」

 そう言って、倒された音羽の敵を取るために、音羽の船に乗っていた兵士らが、一斉に藤吉郎の船に乗り込んできた。それを見た藤吉郎や兵士たちは、つい先程までの顔を戦の顔に戻して迎撃を開始した。


 【百地三太夫】「…音羽は倒されたようじゃの。じゃが、本当の戦いはコレからじゃよ。」

 同じ頃、織田信長やお市が乗っている船では、四方に大勢の兵士らを並べていた。すると、突然、その兵士の1人が足をつかまれ、一瞬の内に河に引きずり落とされていった。それを皮切り、次々と同じような事が立て続けに起こった。それらを見て、兵士たちが慌てだした。

 【神宮寺紗耶】「な、なに? 何なの?」

 【明智光秀】「船の端に近づくな! 内側に戻れ!!」

 兵士たちは混乱の中、次々と船の端から距離を置いていった。

 【森下藍】「きゃあッ!」

 突然、藍が悲鳴を上げた。紗耶達はすぐに藍を見た。すると、藍の片足の足首が黒くて太い手のような物体に船の外からつかまれていた。そして次の瞬間、藍はバランスを崩し倒れ、そのまま河に引きずり落とされそうになっていた。

 【楠山太陽】「藍!」

 すぐに紗耶や太陽たちが藍の助けに向かったが、この間にも藍は悲鳴を上げながら“見えない何か”によって河に引きずりこまれている。それは、まるでアリ地獄に謝って入ってしまったアリのようだ。

 【森下藍】「助けて!」

 【指宿健斗】「俺の手に掴まれ!」

 健斗が藍に手を差し伸べ、藍がそれに掴もうとしたが掴めれなかった。

 【指宿健斗】「クソッ!」

 健斗達の中に最悪の2文字が浮かんだ。しかし、次の瞬間、藍の手を誰かがパシッと掴んだ。

 【足立裕輔】「…クッ!」

 藍の手を見事にキャッチしたのは裕輔だった。裕輔は必死の顔で藍の手をギュッと握り締めていた。

 【森下藍】「…ゆ、裕輔?」

 【足立裕輔】「うわッ!」

 しかし、裕輔が手を掴んだとしても、スピードは遅くなったが、藍は未だに河へ引きずられている。とんでもない強い力だ。このままでは藍の他に裕輔も危ない。何とかしなくては…。

 【中村若菜】「藍から離れなさいよ!」

と、若菜が藍の足首を掴んでいる黒太い手を離そうとしたが、一向に離そうとしない。たまらず、若菜は足でガンガンとその手を踏みつけたが、それでも離れなかった。

 【神宮寺紗耶】「若菜、どいて!」

 【中村若菜】「え?」

 気がつくと、紗耶が弓矢を構えていた。その先には、藍の足。その直後、紗耶は弓を射った。放った弓矢は藍の足首を掴んでいた黒太い手首に見事命中した。すると、その手が藍の足首を離し、河の中へ消えていった。同時に、太陽と健斗が、藍と裕輔を船の端から放した。

 【中村若菜】「何なのよ、あの手…。」

 その直後、急に船が左右に大きく揺れだした。船に乗っていた全員はすぐに四方を警戒した。

 【足立裕輔】「ウェッ! 酔っちゃいそう…。」

 【指宿健斗】「そんな事を言っている場合か!周りを警戒しろ。たぶん、何かいるぞ。」

 【森下藍】「何がいるのよぉ~!?」

 その時だった。船の外から、現代で言う力士のような太った男が何人も乗り込んできた。いずれも手が黒太いので、おそらく先程の手首はこの力士たちのような男の誰かだろう。

 それほど大きくない船に、とても大柄な男たちが何人も突然現れたかと思うと、信長たちはすっかり周囲を取り囲まれてしまった。相手は、ニヤニヤと信長たちに攻撃的な目をしている。

 【足立裕輔】「な、なんだぁ~。この暑苦しいドスコイ野郎たちは!?」

 【明智光秀】「どうみても、我々の味方ではない事だけは確かのようですね。」

 ドスコイ野郎たちは、紗耶たちをニヤニヤ顔をしながら、ゆっくりノシノシと近づいてくる。すると、1人のドスコイ野郎が目の前にいた織田の兵士を大きな片手で掴んだかと思うと、次の瞬間には、軽々とその兵士を川へ投げ捨ててしまった。それを見た紗耶たちは、思わず怯んでしまった。

 【織田信長】「怯むな! 雑魚に臆せず、戦え!!」

 突然、信長が大きな声で怒鳴った。

 【織田信長】「うぬ達は、これまで何をしてきた? これぐらいで怯むくらいならば、うぬ達に用は無い。とっとと、この信長の前から消え去るが良い!!」

 それを聞いた紗耶達は、言葉を失った。

 【明智光秀】「信長様! それは言い過ぎかと・・・。」

 【織田信長】「黙れ、光秀。うぬも、これくらい弱い男だったのか? うぬの力、これほど弱きものだったのか?」

 【明智光秀】「う・・・。」

 光秀は、悔しそうな顔をした。その時、紗耶が横から顔を出して笑顔で光秀の顔を見た。

 【神宮寺紗耶】「大丈夫ですよ、光秀さん。」

 【明智光秀】「紗耶、さん・・・?」

 すると、紗耶の横から、次々と彼らが前に出た。

 【指宿健斗】「ヘッ、ずいぶん俺たちもナメられたものだぜ。なあ?」

 【楠山太陽】「ああ。そこまで言われたら黙っていられないな。」

 【中村若菜】「女だからってナメていると、きっと後悔するよ!」

 【森下藍】「私、負けない!」

 【足立祐輔】「みんなに言われちゃって、俺の決めセリフが無い!!」

 【神宮寺紗耶】「行くよ、みんな! 殿様を守って!!」

 彼らは、強く頷いた。そして、自らの武器を手にし、ドスコイ野郎たちに立ち向かった。光秀は、しばらく彼らの勇敢な戦いぶりに見とれてしまった。そして・・・、

 【明智光秀】「・・・フッ。あんな幼き彼らに教えられるとは、私もまだまだ青二才ですね。」

 光秀は、改めて自分の刀を強く握りしめた。

 【明智光秀】「私達も彼らに負けるな!武士の誇りを持て!!」

 その声と共に、織田の兵士たちは「オーッ!」と力強く声を上げ、一斉に敵に突進した。

 【織田信長】「フッ・・・。」

 

 【伝令兵】「伝令! 織田の船に侵入した部隊、壊滅の危機!! 至急、救援を!!」

 【稲葉一鉄】「すぐに向かう!それまで持ちこたえろと伝えろ!!」

 【伝令兵】「ハッ!」

 一鉄は、そのまま斎藤龍興の元へ向かい、伝令の内容を龍興に報告した。

 【稲葉一鉄】「殿! それがしは、救援に向かいます!!」

 【斎藤龍興】「その必要はない。」

 【稲葉一鉄】「は?」

 すると、次の瞬間、龍興は思いも寄らぬ行動をとった。


 織田の船上では、紗耶の活躍により、敵は壊滅状態に陥っていた。それを少し離れたところで、信長とお市が見ていた。

 【お市】「兄上、試したんですね? あの者達を・・・。」

 【織田信長】「・・・・。」

 【お市】「でも珍しいですね、兄上が異国の者達を認めるなんて・・・」

 【織田信長】「笑止・・・。この信長が認めぬ者など、初めから我が城には居らん。」

 そう聞いて、お市はクスッと笑った。

 【織田信長】「!」

 その時、信長は何かを感じ取った。

 【織田信長】「市、せろ!」

 【お市】「えっ?」

 次の瞬間、織田の船に、大砲が一発直撃した。

 予想外の攻撃に、船上にいた誰もがバランスを崩した。

 【神宮寺紗耶】「今度は何!?」

 この時、紗耶はドスコイ野郎の1人を相手にしていた。大砲が直撃した時、敵も一瞬怯んだが、紗耶にまだ隙が残っていたのを狙って、紗耶の肩を掴もうと大きな手を差し伸べた。

 【明智光秀】「危ない!」

 【神宮寺紗耶】「えっ!?」

 敵に捕まれる寸前、光秀が自分の体を出して紗耶を守った。紗耶を捕まえ損なった敵は、次の瞬間、再び放たれた大砲が直撃し爆音を上げたかと思うと、一瞬で2人の前から消え去った。2人は何が起こったのか分からなかった。


 その大砲は、織田の船から離れた場所にいる斎藤龍興の船から発射されたものだった。しかも、その大砲は2発とも龍興自ら発射したのだ。

 【稲葉一鉄】「何をしているんですか、殿!」

 【百地三太夫】「何をしておるか!!」

 【斎藤龍興】「見てのとおりだよ。」

 【稲葉一鉄】「まだ、あの船には我々の仲間がいるんですよ!?」

 【百地三太夫】「見殺しにする気なのか!?」

 次の瞬間、龍興は自らの剣を出したかと思うと、その剣で思いきり百地の胸に突き刺した。百地の背中からは剣が貫通しており、言葉を発する事者無く、その場に倒れ息絶えた。

 【斎藤龍興】「黙れ、クソジジイ! ワシの目的はただ1つ! あの信長をこの手で葬り去ることだけだ。敵だろうと、仲間だろうとワシには関係ねぇ!!」

 龍興は、一鉄の胸ぐらを掴んだ。

 【斎藤龍興】「どうだ一鉄、大砲の玉の代わりにならんか?」

 【稲葉一鉄】「・・・!」

 その時の龍興の顔は、まるで狂った化け物のようだった。それは、一鉄も初めて見る顔だった。

 龍興は狂ったような笑いをしながら、一鉄をそのまま力強く投げ飛ばした。投げ飛ばされた一鉄は船に壁に激突し、そのまま気を失った。それに一切構わず、龍興は更に大砲を撃ち続けた。

 放たれた大砲の雨は、容赦なく信長達の船に命中。至る所で爆発が起こり、その度に兵士などが次々の船外へ飛ばされていった。

 【斎藤龍興】「ア~ハッハッハッハ・・・! 死ね、死ね、死ね~ッ!!」

 龍興は、大声で笑い叫びながら、遠慮なく次々と大砲を撃ち続ける。それを斎藤軍の兵士達が、少し離れた場所からビクビク震えながら、龍興の行動を黙って見ていた。それに気がついた龍興は、

 【斎藤龍興】「貴様ら、何をしているのだ!? とっとと撃ち続けんかい!! ・・・それとも、何か? 貴様らも、この哀れなクソジジイのようになりたいか!?」

 龍興の視線の先には、既に息絶えた百地の死体があった。それを見た兵士達は、ビクッとして直ちに周囲にあった大砲に移動し発射準備をしたかと思うと、次々と信長達の船へ向けて一斉に発射した。

 【斎藤龍興】「ウハハハハハ・・・! そうだ、殺れ! 皆殺しだ!! 今度こそ、この俺様が勝つんだー!!」



 【広沢美咲】「ハッ!」

 その時、広沢美咲ひろさわみさきは、何か嫌な予感を感じた。

 紗耶と同じく現代から来た1人で、紗耶たちの担任教師でもある美咲は、信長の命令で、僅かながらの兵士や武将と共に、墨俣城すのまたじょうで、いわゆる留守番させられていた。どうやら美咲は、戦いに出ている紗耶達とは違い、あまりいくさが上手ではないらしい。なので、ここに残されたようだ。

 【帰蝶きちょう】「どうかなされましたか、広沢殿。」

 帰蝶は、信長の妻。帰蝶も美咲と同じく、城に残っていた。

 【広沢美咲】「・・・何か今、嫌な予感がしました。」

 【帰蝶】「あの子達のことですか?」

 美咲は黙って肯いた。

 【帰蝶】「彼らなら大丈夫ですよ。殿や光秀が、彼らを守ってくれています。ご安心なさい。」

 【広沢美咲】「・・・ですが、私はあの子達の担任教師です。あの子達を守らなければなりません。・・・帰蝶さん、私をあの子達の元へ行かせて下さい!」

 【帰蝶】「それは、なりません。・・・貴女の気持ちもよく分かります。ですが、もし貴女があの子達の元へ行ったとしましょう。その時、貴女に何か不幸があったら、今度は彼らが希望を失ってしまいます。」

 【広沢美咲】「それは私も同じです。あの子達に何か不幸があったら、私はどんな顔をして生きていけば良いのでしょう。私に出来ることが何もないなんて・・・、すごく自分がみじめです。」

 【帰蝶】「貴女にも出来ることがあります。」

 【広沢美咲】「え?」

 【帰蝶】「彼らの無事を祈ることです。彼らを信じて待つことです! 私は戦のとき、常にそれをしてきました。そして、今があるのです。信じれば、きっと帰ってきます。」

 帰蝶の手は握り拳で、少しブルブルと震えていた。

 【広沢美咲】「帰蝶さん・・・。」



 一方、信長らの船では、敵軍からの大砲の雨攻撃をかわすのに精一杯だった。一瞬の行動の誤りが死へと直結している。しかし、この攻撃を止めることは出来ない。紗耶達もなんとか避けているが、これがずっと続けられるワケではない。すぐ横にいた兵士が次々と消えていくのだ。このままでは、全滅するのは時間の問題だ。

 【指宿健斗】「みんな、信長とお市を守れ!」

 【足立祐輔】「今は、それどころじゃな~い!!」

 【お市】「兄上、このままでは・・・!」

 と、その時、信長に目掛けて一発の大砲が直撃しようとしていた。

 【神宮寺紗耶】「殿様、危ない!!」

 【明智光秀】「信長様!!」

 しかし、2人が助けに行こうとしても、もう間に合わない。

 その瞬間、信長は自分の腰にあった刀を手に取り、一瞬のうちに飛んできた大砲を目の前で真っ二つに斬り落とした。

 【神宮寺紗耶&明智光秀】「!?」

 何もかもが一瞬の出来事だったので、2人は何が起きたのか瞬時に理解できなかった。気がついた時には、信長に命中するハズだった大砲の玉が、綺麗に真っ二つに割れて信長の足下に落ちていた。

 【神宮寺紗耶】「まさか、そんな・・・。」

 【明智光秀】「・・・ありえない。」

 普通の人間ならば、目の前に飛んでくるモノを、綺麗に真っ二つに斬り落とすなんて事は簡単には出来ない。しかし、信長はそれを目の前でやってのけたのだ。

 【神宮寺紗耶】(・・・いったい何者なの、この人!?)

 紗耶の横では、光秀が言葉を失っていた。そして、何を思ったのか、信長の前に行ったあと、その場にひざまづいた。

 【明智光秀】「信長様・・・、ご命令を!」

 【織田信長】「・・・是非も無し。」

 この時、光秀は悟っていた。

 普通の人間では不可能な事を、信長はいとも簡単にやってのけた。それは、信長が不可能を可能にする男であり、同時に光秀自身だけでなく誰もが信長には到底勝ち得る事が出来ないと示された瞬間だった。

 【明智光秀】(・・・不可能を可能にするこの御方ならば、私が望んでいる事が達成できるかもしれない。そして、この危機をも脱することができるかもしれない!)

 そう思って、光秀は信長の前に跪いたのだ。

 【織田信長】「光秀・・・、この状況、うぬならばどうする?」

 【明智光秀】「私が・・・、ですか?」

 【織田信長】「この信長を超えてみせよ!」

 【明智光秀】「!」

 信長の言葉に、光秀はハッとした。その間にも、敵の攻撃は一方的に続く。なのに、光秀は突然目を閉じ、何か考え事を始めた。

 【神宮寺紗耶】「光秀さん!」

 我慢できなくなった紗耶は、とうとう光秀に向かって強い声を放った。その瞬間、光秀の両目が勢い良く開き、周りにいた皆に聞こえるように大きな声で叫んだ。

 【明智光秀】「皆の者、聴け! 今すぐ、船から飛び下りろ!」

 【お市】「船を捨てろ、と言うのですか!?」

 【明智光秀】「信長様は、この窮地をいかに脱するか、私に託された! 信長様は、この状況を窮地とは考えておられない。きっと、まだ何かあるハズです! さあ、早く脱出を!!」

 そう言われても、皆は動こうとしなかった。言っている意味が分からないのだ。紗耶達も動こうとしなかった。

 【明智光秀】「皆、何をしておられるのですか! 早く脱出しないと、このままでは負けてしまいます!!」

 だが、やはり皆は疑問に思って動こうとしない。我慢できなくなった光秀は、とうとう大声で一喝した。

 【明智光秀】「主を・・・、そして、仲間を信じろ!!」

 すると、その言葉で、1人の人物が動いた。それは、紗耶だった。

 紗耶は、船の手摺に足を乗せ、今にも船から飛び下りそうだ。

 【足立祐輔】「お、おい! 何しているんだよ!?」

 すると、紗耶は皆に背を向けたまま言った。

 【神宮寺紗耶】「・・・正直、私、光秀さんの言っている事がよく分からない。でも、私、信じるよ。だって、私は殿様や光秀さん、そして皆の“仲間”だから! 仲間が言っている事を信じられなきゃ、それは本当の“仲間”じゃないわ。」

 そう言って、紗耶が船から川へ飛び下りた。

 【楠山太陽】「お、おい!」

 【指宿健斗】「クソッ! どこまでも世話の焼けるヤツだ!!」

 そう言って、健斗も紗耶を追いかけて船から飛び下りた。続いて、若菜たちも船の手摺に駆け寄った。

 【足立祐輔】「えっ?」

 【お市】「貴方達・・・。」

 【森下藍】「私達の大切な“仲間”が飛び込んだんだもの。」

 【中村若菜】「その“仲間”を見捨てて、ここに残るワケにはいかないでしょ?」

 若菜と藍はクスッと笑顔を見せた。

 【お市】「・・・・。」

 【足立祐輔】「ね、ねえ! ホ、ホントに行くの? 行っちゃうの?」

 【楠山太陽】「オマエも男だろ。グズグズしない。」

 【足立祐輔】「そ、そんなぁ~!」

 そう言って、太陽は祐輔の手を強引に掴んで、一緒に船から飛び下りた。少し遅れて、藍や若菜も飛び下りた。

 船には、お市や光秀、信長、そして生き残った兵士らが残された。

 【お市】「・・・まったく。彼らには、いつも驚かされてばかりですわね、兄上。」

 【織田信長】「・・・フッ。」

 【お市】「さあ、皆さん。私達も彼らに負けてはなりません。きっとすぐに勝機がやって来るでしょう。それを信じて、彼らの後に続きなさい!」

 【兵士たち】「ハ・・・、ハハッ!!」

 こうして、次々と兵士達も船から脱出した。別の船にいた兵士達や武将も、続々と船から脱出している。

 【兵士】「さあ、姫様。私達も!」

 【お市】「待って。」

 お市は、光秀のそばにやって来て言った。

 【お市】「光秀・・・、私達の未来、貴方に託します。」

 そう言って、お市は兵士と共に船から脱出した。

 残るは、光秀と信長だけになった。

 攻撃され続けた船は、至る所から火が出ていた。船には大砲などの火薬が積まれている。このままでは、いずれ爆発するのも時間の問題だ。

 【明智光秀】「信長様・・・、これで良かったのでしょうか?」

 すると、信長はまっすぐ光秀に近づき、そのまま光秀の横を歩いて通り過ぎた。その通り過ぎる瞬間、信長は黙って光秀の肩をポンと叩いた。

 【明智光秀】「えっ?」

 振り向くと、もうそこには信長の姿はない。どうやら、信長も飛び下りたようだ。少しポカンとしてしまった光秀だったが、すぐにフッと微笑し、そして光秀も船から脱出した。


 船から飛び下りた紗耶達は、船の沈没から逃れるため、一生懸命に泳いだ。

 【足立祐輔】「ま、待って。お、俺、泳げないの~!!」

 【中村若菜】「あのバカ、どこまで足を引っ張るつもり!?」

 【足立祐輔】「あ、呆れていないで、少しは、た、助けて・・・。ブクブク・・・。」

 【楠山太陽】「・・・足、つくだろ?」

 【足立祐輔】「えっ!? ・・・あ、ホントだ。」

 川は予想していたよりも浅かった。と言っても、腰から下は川の中だ。だが、背の低い健斗だけは、首ギリギリだ。

 【指宿健斗】「紗耶、無事か?」

 【神宮寺紗耶】「健斗こそ大丈夫? あと数センチ小さかったら、全身川の中よ。」

 【指宿健斗】「余計なお世話だ!(怒)」

 紗耶は振り返って、先程までいた船を見た。まだ容赦ない大砲の嵐が続いている。

 【神宮寺紗耶】「・・・みんな、大丈夫かな?」

 【指宿健斗】「・・・大丈夫だろ。」

 【神宮寺紗耶】「え?」

 【指宿健斗】「俺はオマエを信じて自ら飛び込んだ。他の奴らも、オマエを信じて脱出していると思うぜ。」

 【神宮寺紗耶】「健斗・・・。」

 【指宿健斗】「うっぷ・・・。」

 健斗の口に川の水が入った。それを見て紗耶が笑いながら言った。

 【神宮寺紗耶】「ホントに大丈夫?」

 【指宿健斗】「ほっといてくれ!(怒)」

 と、その時だった。紗耶たちが乗っていた船をはじめ、織田軍の船が次々と大爆発を起こしたのだ。そして、次々と船の瓦礫や破片などが紗耶たち目掛けて空から一斉に飛んできた。

 【楠山太陽】「みんな、逃げろ~ッ!!」

 紗耶たちは、それらから逃れるため、岸に向かって必死に泳いだ。



 【斎藤龍興】「ワ~ハッハッハッハ・・・。ついに、ついにやったぞ! あの信長を!!」

 大喜びする龍興の目に、爆発を起こした織田軍の船から泳いで脱出している兵士らの姿が目に入った。

 【斎藤龍興】「おい、一鉄・・・。」

 【稲葉一鉄】「ハッ!」

 【斎藤龍興】「あの蟻のように泳いでいる織田の兵らを大砲で撃ち殺せ。」

 【稲葉一鉄】「え?」

 【斎藤龍興】「聞こえなかったか、一鉄・・・。織田を皆殺しにせよ、と言っておるのだ。」

 【稲葉一鉄】「し、しかし・・・!」

 一鉄は反論しようとした。しかし、瞬時に龍興がギロッと一鉄を無言で睨みつけた。それを見た一鉄は怯み、一礼してその場を去り、自分の持ち場へと戻った。そして、大砲の傍にいる兵士らに言った。

 【稲葉一鉄】「打ち方、用意ッ!」

 その声と共に、兵士らは大砲発射の準備を始めた。しかし、この時、一鉄は葛藤していた。あの光秀が言った言葉が脳裏に走った。

 【明智光秀】『龍興は、自分の味方を、どんな風に扱っているのですか?』

 【稲葉一鉄】「・・・いや、違う。殿は、殿は・・・。」

 必死で違うと信じ続けたい。だが次の瞬間、一鉄は龍興が言った言葉を思い出した。

 【斎藤龍興】『敵だろうと、仲間だろうとワシには関係ねぇ!!』

 【稲葉一鉄】「!」

 一鉄は、ハッとした。そして、ついに決心した。

 【稲葉一鉄】「皆、聞け!! 狙うは信長の首あらず、斎藤龍興の首じゃッ!!」

 【斎藤龍興】「何!?」

 一鉄は抜刀して龍興の元へ駆け寄り、そして矛先を龍興の目の前に突きつけた。思わぬ一鉄の言葉に、その場にいた兵士らに動揺が走った。


 【柴田勝家】「・・・おい、敵の様子が何かおかしいぞ。」

 【木下藤吉郎】「今が好機じゃ。斎藤の船に乗り込め!」

 船の爆発から逃れた織田の兵士たちは、次々と斎藤の船に向かっていった。


 【斎藤龍興】「・・・貴様、何をしているのか分かっているのだろうな?」

 【稲葉一鉄】「見てのとおりですよ、殿・・・。いや、もう貴様は我が殿ではないわッ!!」

 一鉄は、手にしていた刀で、そのまま龍興目掛け刀を大きく縦に振った。龍興は、瞬時に自分の刀を抜き、一鉄の刀を寸前で受け止めた。

 【斎藤龍興】「主に向かって謀反か、一鉄ッ!!」

 龍興は己の力で一鉄を押し返して遠ざけると、続けざまに龍興も手にしていた刀で応戦した。

 【斎藤龍興】「何故じゃ・・・。何故じゃあッ!!」

 【稲葉一鉄】「自分の胸に聞いてみるんだな。」

 【斎藤龍興】「なんだと?」

 何度か互いの刀が弾きあった後、2人は矛先を相手に向けたまま睨みつけた。

 【柴田勝家】「うぉりゃぁ~ッ!!」

 と、その時、龍興目掛けて、柴田勝家が2人の間に飛び込んだ。そして、勝家は己の長槍で龍興を攻撃しようとしたが、龍興は刀でそれを受け止めた。次の瞬間、今度は木下藤吉郎も現れ龍興を攻撃したが、こちらも刀で受け止められてしまった。

 【斎藤龍興】「・・・なるほど。そういう事か・・・。」

 柴田勝家と木下藤吉郎という織田軍が目の前に現れた事により、龍興はやっと気付いたようだ。

 【斎藤龍興】「だが、こんな策をしても、貴様らは俺には勝てん! さあ、3人まとめて、かかってこんかッ!!」

 その言葉通り、柴田勝家と木下藤吉郎、そして稲葉一鉄が3対1で龍興に次々と攻撃を仕掛けた。だが、次々と攻撃をかわされ、なかなか相手にダメージを与えることができない。逆に、勝家たちが少しずつ疲労感を増していった。

 【斎藤龍興】「どうした、貴様ら? 貴様らは3人、俺様を倒すことも出来ぬのか? それに、此度の戦で疲れが出て居るようだ。・・・どうだろう、この俺様が貴様らを今すぐ楽にして進ぜようか?」

 【柴田勝家】「ほざけ、糞がぁッ!!」

 勝家が死に物狂いで、再度、龍興に攻撃を仕掛けようとした、その時だった。

 【????】「待て。」

 勝家たちの背後で聞き覚えのある声がした。振り向くと、そこには織田信長の姿があった。

 【木下藤吉郎】「信長様!」

 【柴田勝家】「殿!」

 【斎藤龍興】「信長・・・だと?」

 信長は、ゆっくりと歩いてきて、勝家達の前で立ち止まり、龍興をあの鋭い眼差しで睨みつけた。

 【斎藤龍興】「信長・・・、生きておったか。死に損ないの青二才が・・・。」

 【織田信長】「この程度では、貴様はうぬを倒せぬ・・・。」

 【斎藤龍興】「なるほど・・・。それで、わざわざ貴様の方から出向いてきたのか。」

 【織田信長】「龍興・・・。決着をつけよう、ぞ。」

 【斎藤龍興】「正々堂々、1対1での真剣勝負か・・・。良いだろう。」

 どうやら信長と龍興は、この場で一騎打ちをするらしい。

 【木下藤吉郎】「信長様、それはなりませぬ!」

 【織田信長】「黙れ! 誰も手を出すでない、ぞ。」

 そう言って、信長は自分の刀を抜いた。龍興は、矛先を信長に向けて構えた。

 【斎藤龍興】「この時を待っていたぜ、信長!」

 【織田信長】「来い!」

 その声と共に、龍興の顔が変わった。そして、信長目掛けて突進、刀を振った。

 ぶつかり合っている信長と龍興の刀。そのスピードは、凄まじいものであった。それを勝家達は、ただ黙って見守るしかなかった。

 【斎藤龍興】「てやぁーッ!!」

 【織田信長】「フンッ!」

 間一髪で攻撃をかわし、回転移動しながら信長に攻撃をする龍興。信長はそれを全て刀で受け止めた。それでも、龍興と信長のぶつかり合いは続く。

 そして、2人は鍔迫つばぜいになった。しばらく両者睨み合っていたが、龍興の回し蹴りで、信長の腹を蹴った。初めて攻撃を喰らった信長は、ガクンと足が崩れた。

 【柴田勝家&木下藤吉郎】「殿ッ!!」

 蹴りが強かったのか、信長はハアハア息を漏らしている。

 【斎藤龍興】「痛いか、信長。これは、貴様が俺に仕掛けた策の、ほんのお礼だ。」

 そう言って、龍興は一鉄を見た。すかさず、一鉄は龍興から目を背けた。それを見た龍興は、激しい怒りに包まれた。

 【斎藤龍興】「何故なぜだ。何故、貴様は俺様から目を背ける。貴様の新しい主は、俺様の蹴りで崩れるような弱い男だ。俺様の方が力があると言うのに!」

 【稲葉一鉄】「貴様、ホントに何も分かって居らぬな。力だけでは国を治める事は出来ぬ。己の仲間や民を愛し信じる事で、この乱世を治める本当の力となるのだ。この男にはそれがあると見込んだ。龍興、それが分からぬ以上、もう貴様にの元へは戻らぬ!!」

 それが一鉄の本音だった。愛すべき仲間達をも信じること、それが龍興には無かったのだ。

 【斎藤龍興】「・・・くっ、くっ。ふふ・・・ふはははは・・・!!」

 突然、龍興が大笑いしたかと思うと、

 【斎藤龍興】「ふざけるな!」

と、一変して大声で怒鳴った。

 【斎藤龍興】「この男を倒すのも、この乱世を治めるのも、この俺様だッ!!」

 そう言って、隠し持っていた小刀を取りだし、一鉄目掛けて投げ飛ばした。

 【稲葉一鉄】「ぐふっ!!」

 その小刀は、一鉄の胸に命中した。その直後に、胸と口から血が流れ、前のめりに崩れた。

 【織田信長】「!」

 【木下藤吉郎】「一鉄!」

 藤吉郎と勝家は、すぐに一鉄の元へ駆け寄り、手で支えた。勝家が一鉄の胸に刺さった小刀を抜こうとした。

 【斎藤龍興】「ムダだ。その刀には、強力な猛毒が塗られている。本当は貴様ではなく、信長コイツに使うハズだったんだかな。」

と、ニヤけた顔で言った。

 【柴田勝家】「貴様~! 仮にも今まで仲間だった男だぞ。その者を簡単に殺すのか!?」

 【斎藤龍興】「ああ、当たり前じゃないか。使えない“物”は始末する。当然だろ?」

 【柴田勝家】「貴様、正真正銘の糞野郎だ!! お主に、国を治めるどころか乱世を治める資格も無いわッ!!」

 【斎藤龍興】「言いたい事はそれだけか、勝家? 安心しろ、その裏切り者の後を追わせてやる。信長コイツを倒した後でな・・・。」

 そう言って、龍興は信長を見た。その瞬間、龍興は一瞬怯んだ。信長の顔が先程までとは違う。更に鋭い目つきで、信長は龍興を無言で睨んでいたのだ。

 【斎藤龍興】「・・・その目だ。その目が、俺様は気にくわなかった。だが、その目を見るのも、これが最後だ。立て、信長!!」

 信長は、ゆっくりと立ち、そして自分の刀を構えた。その時も、目は龍興をジッと睨んだままだ。龍興は少し怯えた顔を隠し平然としながら、刀を構えた。

 次で決着がつく。

 その場にいた誰もが、2人の戦いを黙って見守っていた。

 2人は、刀を構えたのは良いが、すぐには動かず、ずっと相手の目を睨みつけていた。おそらく、どちらも相手が動き出すのを待っているのだろう。2人の気力は凄まじかった。

 【斎藤龍興】「いくぞ、信長ーッ!!」

 先に動いたのは、龍興だった。龍興は、刀を構えたまま、信長に突進した。信長も龍興に向かって突進。すれ違い様に斬り合った。その瞬間、誰もが息を呑んだ・・・。


 【斎藤龍興】「うぐっ・・・!!」

 この戦い、敗れたのは龍興だった。龍興は、膝を突いて崩れ落ちた。しかし、龍興から血は流れていない。それを見て、誰もが目を疑った。信長は、龍興を背に、刀を握りしめたまま無言で立っている。

 【斎藤龍興】「・・・な、何故だ。なぜ、俺様を・・・、斬らぬ!?」

 信長は、あの時、龍興を斬ってはいなかった。一瞬のすれ違い様に、刀のつか部分で、龍興の腹に当てたのである。だから、龍興は腹を殴られただけで、血は出ていないのだ。

 【斎藤龍興】「・・・応えろ、信長!! ・・・何故、斬らぬ!! 情けのつもりか!!」

 【織田信長】「・・・無価値。」

と、信長は龍興を背にしたまま言った。たった一言だったが、その一言には幾つもの意味が込められていた。

 【斎藤龍興】「・・・クッ!」

 龍興は、その意味を知ったのか、信長から顔を背けた。

 【木下藤吉郎】「・・・勝った。信長様が、勝ったぞーッ!!」

 2人の決着がついて信長が勝利したことに、喜びの余り藤吉郎は大きな歓声を上げた。周りからも大きな歓声が上がった。しかし、ある者の次の一言で、それは一瞬で治まった。

 【稲葉一鉄】「・・・まだだ。まだ・・・終わっては・・・おらぬ。」

 猛毒で大量の血を流し、ハアハア息をしながら、一鉄が精一杯の声で言った。

 【柴田勝家】「何じゃ? どういう事だ!?」

 次の瞬間、遠くの方で大砲が2発放たれた音がした。信長と龍興と一鉄以外、誰もがその方向を見たが、霧がまだ深く何も見えない。

 【斎藤龍興】「・・・ククク。ようやく来たか、援軍が!!」

 【柴田勝家】「援軍じゃと!?」

 【織田信長】「・・・。」

 龍興は片手で腹を押さえながら、ゆっくり立ち上がった。

 【斎藤龍興】「まだだ。まだ戦いは終わっておらぬぞ! ・・・さあ、援軍たちよ。信長どもを叩き潰せ!!」

 柴田達は、再び音がした方角を見た。すると、霧がゆっくり晴れてきて、ようやく見えてきた。

 そこには、4隻ほどの船団が、コチラに向かってきているのが分かった。それを見た柴田達は一斉に刀を構えた。だが、信長は船団に黙って背を向けたままだ。

 【斎藤龍興】「どうした、信長。さすがの貴様も、俺の最後の策まで見破れなかったか?」

 【織田信長】「・・・。」

 【斎藤龍興】「・・・フッ。この勝負、俺様の勝ちのようだな。」

 依然として、信長は黙っている。それを見た龍興はチッと舌打ちをした。

 【斎藤龍興】「さあ、援軍たちよ。総攻撃だ!!」

 しかし、向かってくる船団は、一向に攻撃を開始しない。

 【木下藤吉郎&柴田勝家】「・・・?」

 【斎藤龍興】「何をしているんだ! 総攻撃と言ったら、総攻撃だ!!」

 【????】「悪いが、貴方あなたの命令には従えない。なぜなら・・・。」

と、向かってくる船団から男の声が聞こえた。

 【斎藤龍興】「!」

 【????】「それがしは、信長様あにうえと市を迎えに来たのだから。」

 向かってくる船団の先頭の船の先端に、1人の鎧を着た若い男の姿があった。その鎧には、見覚えのある家紋が記されていた。

 【斎藤龍興】「・・・き、貴様は、まさか!」

 【織田信長】「・・・ようやく来たか、浅井長政あざいながまさよ。」

 若い男は、近江おうみ(※現在の滋賀県周辺)の大名で、信長の妹であるおいちを妻にもらう浅井長政だった。そして、彼の背後には、大勢の浅井軍の兵士達、お市、そして紗耶たち全員の姿もあった。


 彼らはあの後、なんとか対岸にたどり着いた。その時、浅井長政率いる浅井軍と出会ったのだ。

 【浅井長政】「貴方達は?」

 【神宮寺紗耶】「え、ええと、私達はですね・・・。」

 【足立祐輔】「ダメだ、殺される!!」

 【中村若菜】「黙ってろ、このボケナス!(怒)」

 若菜は、ポカッと祐輔の頭を叩いた。

 【指宿健斗】「俺たちは敵じゃない。織田の・・・。」

 【浅井長政】「まさか貴方達が、兄上がおっしゃっていた“未来から来たと申す7人の者達”か?」

 それを聞いて、紗耶達はビックリした。

 【楠山太陽】「俺たちの事を知っているのか?」

 【浅井長政】「ああ。兄上からのふみや、市から貴方そなた達の事は聞かされていたからな。」

 【森下藍】「兄上? それに、市って・・・。」

 【浅井長政】「ああ、申し遅れてしまったな。それがしは、近江の大名、浅井長政と申す。兄上は織田信長。市は、兄上の妹だ。」

 【紗耶たち】「浅井長政!?」

 思わぬ人物の登場に、紗耶達は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

 【浅井長政】「どうした、貴方達?」

 【紗耶&藍&若菜】「かっこいい~!(※両目がハートマーク)」

 【浅井長政】「へ?」

 【足立祐輔】「ケッ!!(怒)」

 【指宿健斗&楠山太陽】「・・・(苦笑)」

 【神宮寺紗耶】「ところで、浅井長政さんは、どうしてこの場所へ?」

 【浅井長政】「長政で良いぞ。」

 【神宮寺紗耶】「い、いえ、そんな・・・。おそれおおくて・・・。」

 【浅井長政】「構わぬぞ。見たところ、そなた達とそれがしは年が近い。遠慮するな。」

 【神宮寺紗耶】「そう言われても・・・。」

 【足立祐輔】「じゃあ、“なっくん”!(笑)」

 その瞬間、祐輔は紗耶達全員にフルボッコにされた事は言うまでもない。それを長政は、苦笑しながら見ていた。

 【浅井長政】「つい先日、兄上から文を貰ってな。いちをそれがしに届けるとあったが、道中に不穏な出来事があるかもしれぬから兵を連れて迎えに来い、と書かれておってな。来てみたら斎藤軍の軍団らしきものを見掛けて、急いでやって来たと言う次第なのだ。」

 【浅井軍家臣】「まあ、その軍団もワシらで倒してしもうたがの。」

 【神宮寺紗耶】「じゃあ、信長はこうなる事を最初から知っていたのね。」

 【指宿健斗】「何もかもお見通しって事か・・・。さすが、天下の信長だ。」

 【浅井長政】「それよりも、いち、市は無事なのか?」

 紗耶たちは互いの顔を見合わせた。

 【中村若菜】「そ、それが・・・、ここへ来る途中、斎藤軍の襲撃にあって、市さんはあの船に・・・。」

 そう言って若菜は、ある方向を指さした。その先には、川の上に浮かぶ炎上した織田軍の船団があった。

 【浅井長政】「ま、まさか、あの船に!?」

 紗耶たちは申し訳ない顔で、黙って肯いた。それを見た長政の顔から先程までの明るさが一瞬で消えた。

 【浅井長政】「そ、そんな、まさか・・・。」

 【森下藍】「ごめんなさい! 私達が傍についていながら・・・。」

 紗耶たちは、長政に深く頭を下げた。

 【浅井長政】「・・・おのれ、斎藤め!!」

 長政は深い悲しみと怒りをこみ上げ、炎上する船に向かって単身走っていった。止めようとする家臣たちの声にも耳を貸さなかった。しかし、次の思わぬ人物の一声で、長政は立ち止まった。

 【????】「長政様!」

 声がした方向を見ると、紗耶たちがいる岸から少し離れた場所に、びしょ濡れではあるが綺麗な着物を着た美少女が長政を見て立っていた。その美少女には見覚えがあった。市だった。そして、その後ろには明智光秀の姿もあった。

 【浅井長政】「市・・・。」

 【神宮寺紗耶】「市さん!? それに光秀さんも!」

 紗耶たち、そして長政は急いで2人の元に駆け寄った。一番に辿り着いたのは、長政だった。

 【浅井長政】「無事か、市!」

 【お市】「ええ、私は無事です。ちょっと濡れてしまいましたが・・・。」

と、市は長政に微笑みを見せた。それを見た長政は、

 【浅井長政】「市!」

と言って、市をギュッと抱き締めた。

 【お市】「な、長政様!?」

 【浅井長政】「・・・良かった、ご無事で。貴女そなたに何かあったら、それがしは・・・。」

 それを聞いて、市はビックリしながらもクスッと笑顔を見せた。そして、市も長政を優しく抱き締めた。

 【神宮寺紗耶】「光秀さん!」

 少し遅れて、紗耶たちも市達の元へ辿り着いた。光秀は紗耶を見ると、すぐに駆け寄った。

 【明智光秀】「ご無事でしたか、皆さん。そして、紗耶さんも・・・。」

 【神宮寺紗耶】「えっ!? ええ・・・。」

 【指宿健斗】「・・・・。」

 【浅井長政】「光秀殿。」

 長政が市を連れて、光秀に横から声を掛けた。

 【浅井長政】「市から話を聞いた。光秀殿が、市を助けてここへ連れてきてくれたのだな。何と礼を言ったら良いか・・・。」

 【明智光秀】「それには及びませんよ、長政殿。私は姫をここに連れてきただけ。それに、船から脱出するよう真っ先に教えてくれたのは、そこにいる彼らですよ。彼らの勇気ある行動が無ければ私達は全滅でした。お礼をするのは私ではなく、彼らです。」

と、光秀は紗耶達を見て言った。それを聞いて、紗耶たちは照れた顔をした。

 【浅井長政】「初めて会ったばかりだと言うのに、貴方達には大きな借りが出来てしまったな。改めて、浅井家の当主として礼を言わせてもらう。」

 【神宮寺紗耶】「礼なんか良いですよ。それに、まだ戦いは終わっていません!」

と、紗耶は川に浮かぶ斎藤軍の船を指さした。

 【浅井長政】「・・・そうだな。市や貴方達に与えた“礼”をたっぷりやらなければな。」

 そう言って、長政たちは自軍が用意した船に乗って、龍興や信長達がいる船を目指したのだった。


 遠くから、紗耶たちを乗せた浅井軍の船が向かってくる。それを、勝家と藤吉郎が視認した。

 【木下藤吉郎】「信長様、みな無事じゃ! お~い、姫様~! 紗耶殿~!!」

 藤吉郎は喜びながら、紗耶たちに向かって大きく手を振った。

 【柴田勝家】「やめんか、サル! 市様の前で!!」

 【木下藤吉郎】「あ? サルじゃと!? そう呼んで良いのは信長様だけじゃ。」

 【柴田勝家】「じゃあ、小ザルだな。」

 【木下藤吉郎】「こ、小ザル!? そう言うお主は、老いぼれたクマじゃ!」

 【柴田勝家】「な、なんだと!?」

 【木下藤吉郎】「やるか?」

 そう言って、2人は醜い争いを始めた。その様子は紗耶達がいる船からでもハッキリ分かった。

 【お市】「あれでも、2人は仲が良いんですよ。(笑顔)」

 【神宮寺紗耶】「あははは・・・(苦笑)」

 【柴田勝家】「コ、コホン・・・。・・・で、どこに援軍が来るのだ、斎藤?」

と、ニヤリと笑いながら、横目で龍興を見た。龍興はチッと舌打ちをして、勝家から眼をそらし、信長を睨みつけて言った。

 【斎藤龍興】「信長! 貴様、こうなることを初めから予測しておったのか!?」

 【織田信長】「・・・。」

 【斎藤龍興】「応えろ、信長!!」

 【織田信長】「我は信長ぞ!!」

と、信長は逆に鋭い目つきで睨み返した。その信長のたった一言に、答えが込められていた。自分は信長であり、このような場所に何も策無しには来ない。そういう意味だ。それを、龍興は悟った。

 【織田信長】「・・・うぬの負けだ。」

 【斎藤龍興】「・・・クッ!」

 龍興は、悔しそうな顔をして、頭に身につけていた赤いかぶとを自ら外し、その場に座り込んだ。信長は自分の刀を持ち、龍興の首に矛先を向けた。

 【斎藤龍興】「チッ、いらつくぜ! この俺様が尾張の弱卒に、負けるとは・・・。」

 【織田信長】「・・・。」

 【斎藤龍興】「斬れ。」

 【織田信長】「さっさと斬れ!!」

 信長は、龍興に止めの一撃を食らわそうと、刀を勢い良く振り下ろした。

 【斎藤龍興】「ッ!」

 【織田信長】「・・・。」

 【斎藤龍興】「・・・?」

 信長の刀は龍興の首寸前で止まっている。信長は、龍興の首を切り落とさず、刀を自分の鞘に収め、龍興にくるりと背を向けた。

 【斎藤龍興】「・・・斬らぬのか?」

 【織田信長】「・・・無価値。」

 そう言って、信長は黙った。

 龍興は、悔しそうに歯を食いしばりながら、怒りを込めていた。しばらくして、フッとため息をつくと、ゆっくりとその場に立ち上がり、信長を見て言った。

 【斎藤龍興】「覚えていろ、信長。貴様を倒すのは、この俺様だ。」

 すると、龍興は船から川に自ら飛び込んだ。

 【木下藤吉郎】「あ、逃げた!」

 すぐに藤吉郎たちが後を追いかけようとしたが、信長に止められた。

 【柴田勝家】「良いんですか、殿。2度も逃がす事になりまするぞ!」

 【織田信長】「かまわぬ・・・、捨ておけ。」

 【柴田勝家】「・・・承知。」



 それから、2週間の月日が流れた。その短い間に色々な出来事があった。

 織田信長はお市を無事に浅井長政の元へ送り届け、同時に浅井軍との同盟を結んだ。これにより、織田または浅井のどちらかが戦で援軍要請をすることができたり、またお互いに争うことも無い。

 お市は長政を心から愛しており、また長政もお市を愛しているので、同盟が簡単に破れる事はないだろう。

 この同盟後、信長は墨俣すのまた城から、稲葉山城に居城を移した。つい最近まで、斎藤軍が居城していた城である。城の広さも墨俣城より遙かに大きい。移城したとき信長は、未来からやって来た紗耶たち7人に「稲葉山城を綺麗に掃除しろ」との命令を下した。彼らは手分けして掃除し3日後にようやく終わったが、7人はかなり疲れ果てておりバテていた。

 戦いに敗れた斎藤軍は城から立ち退き、各地を点々としていたが、次第に勢力が弱まり、最終的に斎藤軍は消滅した。

 これにより、ここのところ戦続きだった織田軍に、ようやく一時の平和がやって来たのである。

 しかし、織田軍は安心している場合ではなかった。いつ他国に攻め込まれるか分からない戦国時代の世、常に戦の準備には手を緩めなかった。

 織田軍の兵士達や武将達は暇を見つけては毎日、刀や剣など武道の練習をしていた。紗耶たちも柴田勝家らの指導のもと、過酷な練習に加わっていた。足立祐輔だけが毎回弱音を吐き、その連帯責任として稲葉山城内を3周以上必ず走らされる日々だった。しかし、この日は紗耶たち6人の前に祐輔が先陣を取る形で走っていた。だが、実際は・・・。

 【紗耶たち】「またオマエは~ッ!!(激怒)」

 【中村若菜】「今日という今日は許さないからね!!(激怒)」

 【足立祐輔】「ゴメ~ンッ!!」

 【柴田勝家】「ほう・・・、まだ早く走れる力があったのだな。明日からは10周にしてやろう(笑)」

 織田の武将達のなかに、稲葉一鉄の元気な姿もあった。一鉄は、もともと斎藤軍の仲間であったが裏切り織田の家臣となった。だが、龍興の攻撃にあり瀕死の状態であったが、かろうじて息を吹き返した。その際、森下藍が意外にも大きな病院の娘であり、なおかつ医学知識も多少あった為、その知識を使って治療し助けたのである。

 【稲葉一鉄】「森下殿、そなたに仕官させてくれ。」

 【森下藍】「えっ!?」

 仕官とは、浪人していた武士が大名などに召し使えられ仕えることを意味する。つまり、一鉄は藍の召使めしつかいになりたいと自ら願い出たのだ。

 【森下藍】「ちょ、ちょっと、何で私に!? 貴方には、信長という殿様がいるじゃない。」

 【稲葉一徹】「それは承知しておる。しかし、森下殿に命を助けられた。この命、殿だけでなく貴女の為に使いたい。」

 【森下藍】「そ、そんな事を、きゅ、急に言われても・・・。」

 【中村若菜】「良かったじゃん、召使いが出来て。守ってもらえば?」

 【森下藍】「ちょ、ちょっと、若菜!」

 【足立祐輔】「ダ・メ・だ!! 藍ちゃんは俺が守る!(怒)」

 【森下藍】「ゆ、祐輔・・・。」

 【足立祐輔】「こう見えても、藍ちゃんは家で寝るとき、クーちゃん(※藍のお気に入りのクマのぬいぐるみ)を抱いて寝ているんだ。そんな事も知らないアンタが藍ちゃんを守れるか!」

 【森下藍】「なんで貴様がそれを知っとんじゃ~!!(激怒)」

と、藍は赤面しながらも祐輔を勢い良く蹴り飛ばした。そのまま祐輔は、空のお星様となった。

 【広沢美咲】「あんな力強い蹴りが出来るんだから、常に守る必要は無いんじゃない?」

 【稲葉一鉄】「そ、そのようですな・・・(苦笑)」

 ちなみに、クーちゃんを祐輔に教えたのは、若菜だったりする。

 同じ頃、紗耶は光秀と共に、城内の見回りをしていて、祐輔たちの様子を少し遠くから目撃した。それを見ながら、光秀が紗耶に言った。

 【明智光秀】「彼らも、すっかり我が軍の一員として馴染んできましたね。」

 【神宮寺紗耶】「そうかな? 私には、まだまだだと思うけれど・・・。」

 【明智光秀】「そんな事はありませんよ。貴女や彼らの助けのおかげで、我が軍は斎藤に勝利することができたのです。家臣や家来たちの士気も高まることでしょう。」

 【神宮寺紗耶】「・・・。」

 【明智光秀】「どうかしましたか?」

 【神宮寺紗耶】「ふと思ったの。私達、いつまでココにいるのだろう、って・・・。」

 【明智光秀】「え?」

 【神宮寺紗耶】「私達はこの時代の人間じゃない。存在してはいけない人間なの。」

 【明智光秀】「・・・元の時代に、戻りたいのですね。」

 紗耶は、悲しそうな表情で黙ってコクリと肯いた。それを見た光秀は、突然、紗耶をギュッと抱き締めた。

 【神宮寺紗耶】「み、光秀さん!?」

 【明智光秀】「私は、貴女がずっと傍にいて欲しい。貴女と出会った時から、ずっと思っていました。私はもう、大切な人を失いたくないんです!」

 【神宮寺紗耶】「光秀さん・・・。」

 光秀は、今にも涙を流しそうな表情をしていた。そんな表情は、今まで見たことがない。その表情をしばらく見ていた紗耶だったが、

 【神宮寺紗耶】「・・・でも、ダメ!」

と言って、自ら光秀から離れた。

 【神宮寺紗耶】「貴方の気持ちは凄く嬉しい。私も、貴方やここの皆が好き。でも・・・、でも、帰らなくちゃ。私の本当の居場所に!」

 【明智光秀】「・・・そうですか。貴女にそこまで気持ちがあるようなら、私も協力しましょう。」

 そう言って、光秀はクルリと紗耶に背を向けた。そして、そのまま静かな声で紗耶に言った。

 【明智光秀】「残念です・・・。」

 そう言い残し、光秀は紗耶の前から立ち去った。それを紗耶は黙って見送った。



 翌日、紗耶たち7人は稲葉山城の中にある大広間にいた。織田信長をはじめ、家臣一同が勢揃いしていた。大広間の一段高い場所の中央には信長、その両端には森蘭丸もりらんまる、信長の妻である帰蝶きちょうが座っていた。

 【織田信長】「・・・巻物を見せろ?」

 【神宮寺紗耶】「はい。太陽君達が私達の前に現れた時に持っていた、あの巻物を見せて欲しいんです。」

 【織田信長】「その巻物で、どうするつもりなのだ?」

 【指宿健斗】「その巻物に、俺たちが未来へと帰る手がかりが隠されていると思うんだ。」

 【織田信長】「帰る・・・だと?」

 その一言に、家臣達にざわめきが走った。

 【木下藤吉郎】「帰っちゃうのかい!?」

 【柴田勝家】「もしや稽古から逃げ出すつもりではなかろうな!」

 【稲葉一鉄】「オマエの稽古はキツイからな。逃げ出して当然だ。」

 【柴田勝家】「なんだと!?」

 【前田利家まえだとしいえ】「光秀、黙っているけれどオマエは良いのかい?」

 【明智光秀】「・・・彼らが考えた末の結論です。私が反対する権利はありません。」

 【前田利家】「ふ~ん・・・。」

 【織田信長】「・・・うぬらが帰ると言うことは、この信長に対してどういうことか、分かるか?」

 紗耶たちが帰る、それは織田軍からも離れるということである。今まで世話や助けてきたのに、紗耶たちは自ら帰ると言った。信長が怒りの表情をするのは当然だ。下手をすれば自分たちが信長に殺されるかもしれない。だが、紗耶たちはそれを覚悟の上でのことだ。

 【神宮寺紗耶】「はい、分かっています。覚悟の上です。」

 信長は怒りを込めたような鋭い目で、紗耶や他の6人の目を睨みつけた。けれど、彼らは信長の目には屈しなかった。全員が決意を込めた目だったからだ。それを見た信長は言った。

 【織田信長】「蘭!」

 【森蘭丸】「ハッ!」

 蘭丸は突然部屋を出て行った。しばらくして紐で結ばれた木箱を持って戻ってきて、紗耶の前に置くと、再び蘭丸は静かに定位置に戻った。

 【神宮寺紗耶】「・・・これは?」

 【織田信長】「開けてみよ。」

 言われるがまま、紗耶は紐をほどき木箱を開けた。その中には、あの巻物は封をされた状態で入っていた。それを見た瞬間、再び家臣達にざわめきが走った。

 【帰蝶】「宜しいのですか!?」

 【織田信長】「・・・。」

 信長は巻物を預かったとき、この巻物を調べた。だが、あの絵以外には何も描かれておらず、信長には手がかりなどを見つけることは出来なかった。

 巻物が入った木箱の周りに、紗耶たち7人が取り囲むように集まった。

 【神宮寺紗耶】「・・・開けるよ、みんな。」

 その言葉に、6人は黙って肯いた。

 紗耶は、恐る恐る巻物に手を伸ばし、ゆっくりと巻物を開けた。その中身は、彼らにとって予想していなかったことだった。

 【広沢美咲】「・・・え?」

 【楠山太陽】「ど、どういう事だよ!?」

 【中村若菜】「そんな・・・。」

 7人は驚きを隠せなかった。

 【木下藤吉郎】「どうしたのじゃ?」

 【神宮寺紗耶】「そ、それが・・・。この巻物、何も描かれていないの。」

 【家臣全員】「えっ!?」

 【織田信長】「!?」

 この事は、さすがに信長も驚き、すぐに紗耶から巻物を奪って自分の目で確認した。周りにいた家臣たちも集まって覗き見た。

 確かに、この巻物には紗耶と光秀の姿が描かれていた。だが、その絵がどこにもなく、真っ白な状態だったのだ。まるで新品の巻物を見ているかのようだ。

 【織田信長】「・・・!」

 信長も、これには声を失った。

 【前田利家】「・・・あれ?」

 ふと、利家が何かに気付いた。

 【柴田勝家】「どうした?」

 【前田利家】「アイツら、どこに行ったんだ?」

 【織田信長】「!?」

 またしても不可思議な現象が起きた。なんと、つい先程まで目の前にいた紗耶たち7人の姿が、一瞬のうちに忽然と姿を消したのだ。

 すぐに家臣や家来たち総勢で城内などをくまなく探したのだが、彼らの姿は見つからなかった。彼らの痕跡もなかった。

 【帰蝶】「これは、いったい・・・。」

 【織田信長】「夢、か・・・?」

 混乱に満ちていた城内だったが、光秀だけは落ち着いていた。そして、静かに空を見上げた。

 【明智光秀】「7人の若き勇士たちよ・・・。さらば・・・。」



 耳を澄ますと、蝉の鳴く声が聞こえる。

 【神宮寺紗耶】「う、う~ん・・・。」

 紗耶は、ゆっくりと目を開けた。目の前には、大きな棚に沢山の木箱などが置かれている。どうやら、どこか倉庫のような建物の中にいるようだ。その場所の床に、紗耶は倒れていた。

 紗耶は頭を手で押さえながら、ゆっくりと起きあがり辺りを見回した。何が起こったのかハッキリしないが、この場所には見覚えがある。紗耶にとっては、すごく縁のある場所だ。そして、その部屋の至る所に、6人の男女が床に倒れていた。それに気付いた紗耶は、すぐに6人全員に駆け寄った。

 【神宮寺紗耶】「健斗! 若菜! 祐輔! 藍ちゃん! 楠山君! 先生!!」

 6人とも気を失っていたようだが、紗耶の声で全員が気がついた。

 【森下藍】「何があったの?」

 【足立祐輔】「俺、死んだの? ついに死んじゃったの!?」

 【楠山太陽】「うるさい! 耳元で騒ぐな!!」

 【広沢美咲】「ここは・・・どこなの?」

 まだ意識がハッキリしない6人の前に、紗耶が立った。そして、部屋の唯一ある扉に手をかけた。

 【神宮寺紗耶】「みんな、見て驚かないでよ!」

 そう言って、紗耶は勢い良く扉を開けた。

 その扉の先には、大きなやしろ、その社の境内けいだいと思われるような場所。そして、遠くには空まで続くような大きな建物が幾つも見えた。どれも、彼らにとっては見覚えのある場所だ。

 【中村若菜】「もしかして、あれは・・・。」

 【指宿健斗】「・・・帰ってきたのか?」

 【神宮寺紗耶】「そう! ここは戦国時代じゃない。私達の時代よ!!」

 6人は互いの顔を見合わせたが、しばらくして彼らは喜びのあまり飛び上がった。

 そう彼らは、元の時代に帰って来れたのだ。彼らがいた倉庫は紗耶の家の蔵。大きな社は、紗耶の家の敷地内にある由緒代々続く神社。遠くに見えた大きな建物は、高層ビル群だ。

 喜びに溢れた彼らだったが、どうして現代に帰ってくることが出来たのか誰も分からなかった。しかし、現代に帰って来れた事で、その理由などどうでも良くなった。

 【????】「・・・紗耶? 紗耶なの?」

 後ろから誰か呼ぶ声がした。紗耶は、その声に振り向いた。

 【神宮寺紗耶】「・・・お母さん。」

 【神宮寺杏子じんぐうじきょうこ】「紗耶!」

 杏子は、紗耶の姿を見るや否や一目散に掛けより、抱き締めた。その目には涙が溢れていた。

 【神宮寺杏子】「無事で良かった・・・。2日も留守にして・・・」

 【神宮寺紗耶】「ゴメンなさい、お母さん。」

 【楠山太陽】「2日? 2日しか経っていないのか!?」

 【広沢美咲】「もしかしたら、コチラと戦国あちらでは時間の進みが遅いのかも・・・。」

 【神宮寺杏子】「もう心配したんだから! どこに行っていたのよ!!」

 【神宮寺紗耶】「話したら長くなるけれど、きっと信じてもらえないよ。」

 【神宮寺杏子】「とにかく、無事で良かった!」

 杏子は、再び紗耶を温かく抱き締めた。微笑ましそうに美咲はそれを見て言った。

 【広沢美咲】「さて、私達も家に帰りましょうか。家族が心配しているわ。」

 抱き締められている紗耶を見ながら、5人の少年少女達は微笑んで肯いた。そして、紗耶に背を向けて、自分たちの家に向けて歩き出した。

 【中村若菜】「もう色々ありすぎて疲れちゃったわ。」

 【森下藍】「ホント、ぐっすりベッドで眠りたいね。」

 【足立祐輔】「クーちゃんと一緒でしょ?(笑)」

 【森下藍】「それを言うなーッ!!」

 ボコッと、藍は祐輔を殴った。

 【楠山太陽】「・・・ったく、どこに行ってもオマエら元気だな。」

 【広沢美咲】「あ、そうだ! みんな、忘れないでよ。補・習・授・業♪」

 【若菜&藍&祐輔&太陽】「げっ!」

 【広沢美咲】「ゲッ、って何よ~! ・・・って、逃げるな!!」

 美咲は、走って逃げる4人を追いかけた。それを、健斗はクスッと微笑して歩きながら追いかけた。

 【????】「健斗!」

 【指宿健斗】「ん?」

 振り向くと、紗耶が走ってきた。そして、紗耶は健斗の前に立つと右手を差し出した。

 【神宮寺紗耶】「ありがとう、健斗。助けに来てくれて。」

 【指宿健斗】「ああ、そんな事か・・・。」

 そう言って、健斗も右手を差し出し、握手した。

 【神宮寺紗耶】「ツンデレ?」

 【指宿健斗】「バ、バカ! そ、そんなんじゃねえよ!!」

 【神宮寺紗耶】「ホントに~?」

 【指宿健斗】「み、見んじゃねえよ。」

 2人は互いの顔を見合わし、笑い合った。

 【指宿健斗】「じゃあ明日、学校で待っている。」

 【神宮寺紗耶】「うん、またね!」

 そう言って、2人はその場を別れた。


 セミが鳴き続けている。

 紗耶は、家までの帰り道、ふと立ち止まって晴天の空を見上げた。


 【神宮寺紗耶】「ありがとう、戦国のみんな・・・。」



 ≪ 戦国乙女~第1章~ 完 ≫


 そして物語は、『戦国乙女~第2章~さらば愛しき人よ』に続く・・・。

 『戦国乙女~第1章~』いかがでしたでしょうか?

 最終話の公開、大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。


 これにて、全3部作にも及ぶ「戦国乙女」シリーズの第1弾は、ひとまず終了です。


 引き続きシリーズ第2弾『戦国乙女~第2章~さらば愛しき人よ』にご期待下さい。なお、今のところ公開予定日は未定です。


 本作『戦国乙女~第1章~』に関して感想やレビューなどがありましたら投稿して下さると幸いです。


 次回作ならびに新作の公開や情報にご期待下さい。


 なお、情報に関しましては随時、“活動報告”にてお知らせしていきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。


 長い間、最後まで閲覧して下さり、誠にありがとうございました。


 2011年7月30日

 原作者:カナザキケイスケ(keisuke_genso)

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