075.爺、事案はシレッと、さり気無く、突然に!
後を任せて、儂はジュゾ少年を背負いキルト少年を伴って村へとのぅ。
ジュゾ少年は良く眠っておるでな、起こすのもはばかるゆえに起こさずに運ぶことにしたのじゃ。
なにせ幼子達を守るために盾となって死に掛けた行為は称えても良かろうてのぅ。
ま、他にもやりかたがあったであろうし、単純に身を犠牲にするのは賢いとは言えぬであろうがな。
最初はのぅ、横抱えにて運ぼうとしたのじゃえ。
したらのぅ…
「あのぉ~…流石に、それは止めてあげていただきたいです…」っとキルト少年に止められたのじゃ、はて?
「何故じゃ?持ち上げるのに楽なのじゃがの?」そう告げたらの。
「うっわぁ~本気で言ってられるよ、この人…」って引かれたぞい、なんか失敬じゃのぅ。
キルト少年が必死に告げるにはな、横抱えは『お姫抱っこ』とやららしいのじゃ。
いや、儂も聞いたことはあるのじゃがな、別に気を失のうた者を運ぶのは良いじゃろうに。
後ろに衛兵を控え、直ぐに村へと到るで腕が使えぬでも問題もあるましいのぅ。
そう考えての横抱えであったのじゃがな、キルト少年との問答する方が時間がかかるゆえに背負うことにしたわけじゃ。
村へと戻りキルト少年の案内にてジュゾ少年を送り届けることにな。
幼子達は既に家へと戻っておるそうな。
何事もなかったように戻っておるゆえに、親達はこたびのことに気付いてはおるまい。
子供達も叱られることを察して告げておらぬであろうの。
なかなかの策士とも言えるがのぅ…真面目なキルト少年のことを失念しておるであろ?
おそらくはキルト少年より、ことは露見していき、最後に大目玉をくらうじゃろうが、儂には関わりがないでのぅ。
ジュゾ少年宅へと彼を送り届けた儂は帰ることにな。
少年宅には誰もおらなんだでのぅ、彼を自室へと運びベッドへと横たえた後で退散というわけじゃわい。
親達からの感謝なんぞ聞いても特にはならぬゆえ、煩わしいことが起こるまえに帰れて幸いと言えようぞ。
午後も遅くなりつつある今、宿へと戻らねば夕餉の仕度に間に合わぬでな。
そうなるとラセヨツラ様に叱られてしまうわえ。
宿へと到るとのぅ…宿前にてゼルフト様とシスター・アンジェリン殿が待ち構えておったわえ。
2人とも、何をしておるのじゃえ?
「あっ、ユウ様!従者たる私を放って行かれるのは酷いですわっ!」などとのぅ。
「いやいや、おぬしは鍛冶場の暑さに負けて教会の奉仕活動へ参加しておったであろ?」
そう指摘するとのぅ、「ユウ様のイケズ…」っと、わけが分らんわい。
そんな彼女に先を越されたゼルフト様がのぅ、彼女を押し退けて不機嫌そうにな。
「何処へ行っておったのじゃ」っとのぅ。
「ちと辺りの散策にですの、良い気晴らしになりましたわえ。
なにせ、儂が幾ら話しかけても放置されて埒が明きませなんだゆえにのぅ。
無為に過すよりは、本来の休暇として時間を使わせていただいたまでですじゃ」
どうどうと告げるとのぅ、己が悪いと察したゆえか…
「フンっ!」っと顔を背け、のっし、のっしっと宿へと戻られたわい。
困ったお方じゃてな。
ゼルフト様が宿へと戻ると入れ替えにラセヨツラ様がニコヤカな笑みを湛えつつ現れてな。
「ユウ、急ぎなさい」っとな。
いや…こちらの方が数倍恐いぞえ。
「はっ!直ぐに用意いたしますぞいっ!」
火急速やかに部屋へと戻ると身支度を素早く済ませて厨房へとな。
そこは既に戦場状態であったわい。
儂も慌てて参戦して調理を次々にこなして行くぞい。
合間、合間に、ラセヨツラ様のチェックやら、課題料理を振られたりのぅ…
一番気が抜けぬ修行が調理修行なのは何故じゃ?
正直、キツさではダリル様の修練もキツイと言えるであろうがな、あちらは己が鍛練であるで、ここまで追われはせぬ。
じゃがのぅ、厨房と言う空間の一員として調理するでな、己がことのみを考えれば良いわけではないでのぅ。
厨房戦場跡にて戦友達と賄いと言う報酬をいただいておるとな、フラリとダリル様と騎士隊長殿が現れたぞい。
食事を終えて茶をしつつ親しくなった厨房仲間と語らっておったのじゃがのぅ…
ダリル様がクィッと首を軽く捻って合図をな。
呼んでおられるようなのじゃが…何かあったのじゃろか?
周りに断りを入れてから席を立ちダリル様の下へとのぅ。
「ユウ、何か報告することはないか?」っと。
はて?なんのことじゃろか?
首を捻っておるとな、ダリル様と騎士隊長殿が呆れたように溜息をのぅ。
幸せが逃げますぞい?
「ダリル様、ここでは…」っと告げる騎士隊長に促されつつ移動をな。
別室へと収まり、2人からお話しと言う名の詰問をのぅ。
儂が何をしたと言うのじゃっ!っと思っておったのじゃがの。
「子供達をコボルトから救ったそうではないか。
ま、そのことは良い」
あ、良いんじゃ。
「それよりも、魔物が現れたことを何故告げぬ」っとの。
「いやいやダリル様、良くはないですからねっ!
ユウ殿、ことは露見して大騒ぎになっておりますよ。
こう言うことは早めにお知らせいただけないと困りますなぁ。
村の領主がユウ殿を招きたいとの使者を送って来て対応に窮しましたよ、全く…」
儂は教練所生徒として修練の身であるため、貴族達との過度な接触は推奨されてはおらぬ。
禁止はされてはおらぬが、基本的に遠慮して欲しいとなっておるの。
建前では。
じゃがな、建前は建前じゃて、基本的に接触を禁じられておると言って良かろうてな。
青田買いのような行為を強引に行う阿呆な貴族が後を立たぬでな、その予防でもあるのじゃ。
まぁ、皇家から出立時に盛大たる唾付けがなされたような気もするが…気のせいとしておこうわえ。
しかし隊長殿が断ってくれたようじゃが、面倒なことじゃてのぅ。
「ふむ、そのような雑事は捨ておけば良い。
そんなことよりも、周辺を巡り魔物や魔獣、ついでに獣を狩りつつ鍛練であるな。
明日は朝餉をいただいたら出るゆえ、準備を怠らぬように」
シレッと告げて立ち去るダリル様。
いきなりのことに、儂と隊長殿はポッカーンっと見送ることに…って!
「いきなりですじゃっ!
って、マジですかいのぅ!」
慌ててダリル様の後を追う儂じゃった。




