070.爺、調理に鍛冶に、おおわらわじゃて。
朝の日課を何時ものように終えて宿へと戻りシャワーにて身を清める。
なにせ今から調理じゃてのぅ。
日も昇らぬ内に日課を済ませたゆえに、厨房にはラセヨツラ様と見習いしかおらなんだわえ。
見習い達は朝食の下拵えに追われておるようなのじゃがの、ラセヨツラ様を気にして緊張しておるようじゃわい。
それも仕方あるまいてのぅ…何せ皇国1である宮廷調理師のトップであるラセヨツラ様がおられるのじゃからのぅ。
儂が厨房へと入るとのぅ、さらに見習い達に緊張が走ったような…
いや、きのせいじゃろうてな、儂も見習いみたいなものじゃての。
まぁ、ラセヨツラ様に色々と無茶振りな扱かれ方をしてはおるがのぅ。
「儂も下拵えを手伝うでな」っと告げ、見習い達が行っておる下拵えへと参加をのぅ。
「そ、そんな、恐れ多いっす!」っと見習いの1が震えながら言ってくるのじゃが…はて?
「いや…儂も見習いみたいな者じゃてな」っと告げるとの、「何言ってんの?」っと言った顔でポッカァーンっとのぅ。
どないしたんじゃろうかい?
ま、時間は有限じゃてのぅ…ラセヨツラ様が目を光らせておるで、急いで下拵えをせねば。
素早く根菜類の皮を剥いでいくぞい。
皮は捨てぬように別に取っておくのを忘れぬようにのぅ。
見習い達が捨ててしもうた物も回収するぞぃ、全く、勿体ないことをするものじゃてのぅ。
勿体ないお化けが現れたらどないするのじゃ、まったく…
野菜の皮には栄養が含まれておるでな、これで出汁を取ると良い味が出るのじゃぞぃ。
野菜の下拵えを終えると野菜屑と言われる代物を綺麗にした処理した後で軽く炒めてから出汁をのぅ。
その出汁へ屑肉や骨なんぞを加えてコトコトと煮つつ灰汁を除去して行くのじゃ。
だがのぅ、悠長に煮ていては朝食に間に合わぬでな、ここで裏技をのぅ。
魔力と氣を出汁へと注ぎ煮出し易くしつつ錬金術にて、さらに出汁を強制的にの。
ここまでするとのぅ、出し殻は、ほんに完全な出涸らしになってしまうぞい。
流石に、ここまですると何の味もせぬでのぅ、捨てるしかなくなってしまうのぅ。
食物繊維を含む部位として処置しても良いのじゃがな、他の下拵えした代物で十分じゃて。
実はのぅ、醤油や味噌なんぞは伝わっておったと言うに、肝心の出汁文化の伝来が不十分じゃったのじゃよ。
いや、昆布や鰹から出汁を取ることはラセヨツラ様も知られておったぞい。
むろん、骨なんぞから出汁を取ることものぅ。
なにせコンソメなんぞの出汁を取る文化は東方文化が伝わる前から存在したようなのでのぅ。
じゃがのぅ、野菜屑から出汁を取るやりかたは知らなかったようなのじゃ。
以前に野菜屑より出汁を取っておった儂を見てラセヨツラ様が不思議そうにのぅ。
「ユウ…何をしておるのです?」っとのぅ。
じゃから出汁を取っておると告げるとな、大層驚いておられたものじゃて。
今では普通に野菜屑より出汁を取ることを容認されておられるがな。
野菜屑なんぞの放る物を使用して作った出汁を元に数品ほどのぅ。
賄いとしても出したところじゃ、見習いを含め全員が驚いておったわえ。
「あの捨てる部位で、これほどに味の深みが…」っとな。
まぁ、これからは野菜屑なんぞも無為に扱わぬようになるだろうてのぅ。
朝食を終えるとじゃ、ゼルフト様が待ち構えておられてのぅ、引き摺られるように村の鍛冶工房へとのぅ。
呆れたことにゼルフト様はゼルダ婆様の所から人工晶石を分けて貰うて来ておったわえ。
「ゼルダには人工晶石の使い方を教えたそうだの。
でだ、儂らにも教えて貰えぬかとのぅ。
天然晶石を砕いて混ぜることで属性付与されることは知られてはおる。
じゃがな、確率的に低いことも有名でのぅ…人工晶石なんぞでは成功例なんぞ聞いたこともない有様だてな。
しかしじゃ、調薬に人工晶石を用いる術をユウが編み出したと聞いてのぅ、鍛冶にも転用できぬかと考えたのじゃよ。
ちゅうわけで、人工晶石の扱いを教えて貰えぬかえ?」
そんなことを言い始めたぞい。
いやいや、ゼルフト様には様々な金属に対する扱い方なんぞを教わりはしたのじゃがのぅ。
儂からしたら製錬や精錬なんぞの冶金に対する技術に不満がある状態なのじゃよ。
いやのぅ、鍛冶場に据えられた炉では十分な冶金が行えとるとはな。
これは設備的な問題であるでな、仕方ないとも言えるのじゃが…
「そうは言いましてものぅ、不純物混じりのインゴットに対して加工は無駄じゃと思いますぞい」っとのぅ。
儂が告げるとな、プライド高い鍛冶師達が不機嫌になってしもうたわえ。
「これ以上の物を、おぬしは造れるとでも?」っとな。
ゼルフト様が苦笑して憤る鍛冶師達を見ておられるのぅ、鍛冶師として彼らに同意なのじゃろうがな、儂の裏技をご存知じゃからな。
「ええ、できるぞい」っと告げたらの「なら、やってみせい」っとのぅ。
売り言葉に買い言葉ではないのじゃが、やらねば収まらぬであろうの。
ゆえに鉱石から錬金術にて金属別に液状化させて分離させて見せたぞい。
いや、そがぁにアングリコっと大口開けんでものぅ。
虫入るぞい、いや、入ったかえ?美味いのかのぅ…
「ぐぇっ、ぺっ、ぺっぺっぺっ、カァッぺっ!」
ふむ、不味かったようじゃわえ。




