前途多難過ぎる恋 26
「あぁ、その言葉は聞いたことある。じゃあわかった、後ろ向いてるから遠慮なく着替えて。んで、俺の話聞いてくれ」
「……まぁ、いいやもうそれで。めんどくさいし」
ロットーは顔を洗いながらフィニアの話を聞くことにする。フィニアはロットーに背を向け、また自分の話をはじめた。
「さっきイシュとコハクが二人っきりで、庭で剣の稽古をしてるの目撃したんだよ」
「へぇ。コハクちゃん、いつの間にか王子と結構な仲良しになってますね」
「うん。それでコハク、イシュに剣を習って俺をいつか殺そうとしているんじゃないかと思って、もう俺怖くて怖くて」
「ありえる話ですもんねー、それ」
暢気に「あはは」と笑うロットーが憎らしく感じ、フィニアは「お前、笑ってる場合じゃないって」と文句を言う。洗面所から出てきたロットーは、「大丈夫ですよ、ちゃんとフィニア王女が危険な時は俺が盾になりますから」と返事してフィニアを驚かせた。
「え!?」
「え!? って、なんですかその反応」
フィニアは大真面目に「あの心が氷結してるロットーが、俺に優しい事を言った……」と呟く。ロットーは呆れて朝からどっと疲れを感じた。
「あの、俺王女の相談役とか保護者じゃないですよ? そりゃ王たちから『同性として王女の話し相手になってやってくれ』とは言われてますけど、俺は本来はあなたを守る護衛で……」
ロットーはそこまで言葉を言いかけて、思い出したように「そう言えば」と気になる一言を呟く。フィニアは「どうした?」とロットーに聞いた。
「あ、いや……俺も王女に報告しとかなきゃいけないことがあったのを今思い出しまして……」
「へぇ、何々?」
フィニアはロットーに背を向けたまま、興味津々といった様子で問う。ロットーはちょっと迷いながら、しかし話しはしておくべきかなと思い話し始めた。
「レジィって方、王女覚えてます?」
「レジィ? あぁ、勿論覚えてるよー」
フィニアは「なんか俺に似てちょっと頼りないウィスタリアの騎士だろ?」と答える。間違って無いが、フィニアがその覚え方をするのはどうなんだと、ロットーはちょっとそんなことを思った。
「まぁ、そうですね。……で、彼がちょっと恐ろしい……あ、違う。困ったことになってて」
「?」
ロットーはいつもの皮製の上着とズボンを身につけて、「彼、王女の事好きなんですって」とフィニアに告げる。フィニアは数秒考えた後、「そっかー」とわりと普通の反応で返事をした。
「そっかーって、それだけ?」
意外に反応薄かったフィニアにちょっと驚いて、ロットーは着替え終わったので彼女の方を振り返って問う。フィニアはまたロットーに背を向けたままだ。
「あ、勿論嬉しい! だってぶっちゃけ友達っていうか普通に話し出来る人、ロットーくらいしかいなかったから。そっかー、俺もレジィのこと好きだよー」
「……」
フィニアがなんか勘違いをしていると、ロットーは直ぐにそれに気がつく。彼は先ほどの話をこういい直した。
「王女、ごめんなさい。そうですよね、男だった時は悲しいくらいモテなかったですもんね。普通にそう考えて当然ですね。でも今回のレジィの”好き”は『お友達』としてじゃなくて、恋愛感情的な意味で好きらしいですよ」
「えっ!」
今度はフィニアも理解したようだ。驚いた彼女は思わず「それって俺が好きってこと?」と、ロットーに確認をした。
「だから、そうなんですって」
「えぇ~……俺、レジィのことは嫌いじゃないけど……それはちょっとなぁ」
お気楽なフィニアでも、さすがにちょっとそれは困るらしい。フィニアは難しい顔になり、うんうん唸りながら悩み始めた。
「好意持ってくれんのは嬉しいけど、でも俺イシュ一筋だからさぁ……」
「王子には現時点で異性として全く意識してもらえて無いですけどね」
「う、うるさい!」
フィニアは意地悪く笑うロットーに「とにかく!」と強い口調で言い、こう言葉を続ける。
「レジィのことは、友人としては好きだよ! でもそれだけだから! で、ロットーに相談。俺これからレジィとどう接すればいいんだ?」
予想通り自分に相談するフィニアに、ロットーは「今までどおりの態度で接すればいいと思いますよ」と答えた。
「え、それでいいのか?」
「それでいいんですって。これ以上ややこしい事になると、俺も困るし。王女は王子と見合い中ってことは彼も勿論知ってるし、王女に告白したいとかそういうことは彼も思ってないみたいですよ。ただ王女とお話し出来るだけで嬉しいみたいなこと、彼言ってました」
「ふーん……」
今までどおりでいいのかと、フィニアはロットーの言う事なのでそれを信じることにする。それにしてもなんだか色々と厄介な事になってきたなと、さすがのフィニアも今後が果てしなく心配になってきた。スタートの時点ですでに厄介な恋だったが、それにしてもこうトラブルが多いと神様が意地悪しているんじゃないかという気持ちになってくる。
「なんか……俺、このままイシュに告白とか出来るのかな……予想外のこととかトラブルがいっぱいすぎて、ものすっごく不安になってきた……」
「大丈夫ですよ。多分」
「ロットー、お前……適当すぎるよその言い方……」
フィニアは珍しく疲れきった重い溜息を吐く。ロットーはそんな彼女を励ますように、「初恋なんでしょ? 王子に想いが正しく伝わるように頑張りましょう」と声をかけた。
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