前途多難過ぎる恋 25
「え、あれって……」
フィニアは何故かまず植木の陰に隠れる。そしてそこから見える庭の片隅で、なんか勇ましく細身の剣をブンブンと振るう逞しく恐ろしい妹の姿を目撃した。凄まじく真剣な表情で凶器を振るう妹の気迫は、遠く隠れてみているフィニアを『俺、殺される!』と、一瞬で震え上がらせる程のものだった。そしてその側には、何故か イシュタルの姿が。
(なんでコハクとイシュが朝早くから一緒に? いや、それより二人でなにしてるんだろう?)
フィニアが好奇心で二人の様子を眺めていると、イシュタルは「うん、なかなかいいよ」と笑顔でコハクに声をかける。コハクは一旦手を止め、こちらもパッと笑顔になってイシュタルへ振り返った。
「本当ですか?!」
「うん、コハク王女は筋がいい。覚えも早いし、もう基礎の構えとかはほとんど私が口出すことは無いね」
「うふふ、私剣にとても興味を持っていましたので。マリサナの練習などをよく観察していましたの。それが役に立ったのでしょうか」
イシュタルに褒められて嬉しいらしく、コハクは愛らしい笑顔でそう元気良く返事をする。しかしイシュタルが「じゃあ今日の練習はこれくらいで」というと、途端に彼女の表情は笑顔から悲しそうなものに変わった。
「もう終わりですの?」
「あ、お、王女はもうお疲れなんじゃないかと思ったのですが……」
ひどく残念そうな反応をするコハクに、イシュタルは困惑した顔になる。コハクは首を横に振り、「私、これくらいで疲れるような根性無しではありませんわ」と言った。
「お兄様じゃあるまいし」
「え?」
「いえ、こちら話ですわ。それよりも王子、もう少し私は剣の練習をしたいのですけど……」
コハクは遠慮がちに「王子にお時間があれば、もう少しお付き合いしていただきたいです」と呟く。その頬が少し赤くなっていたが、イシュタルはそれには気づかず「コハク王女がお疲れで無いのならお付き合いしますよ」と笑顔で返事を返した。
「はい! お願いいたします!」
「では……」
コハクがまた剣を構え、イシュタルは彼女に何か指示を出す。
イシュタルとコハクの様子を眺めていたフィニアは、遠く聞こえる会話に大体の事情を察したが、何故コハクがイシュタルに剣を習おうと思ったのかと不思議で考えた。
(マジでコハク、俺を暗殺しようと力をつけている? ……いや、まさかね)
まさか、とは思っても何故かフィニアは冷や汗が止まらない。そういえば昨日の妹の体術もいつ習ったんだと聞きたいくらい立派なものだったし、いつの間にか妹が強く逞しく成長しているのを改めて知って、フィニアは兄として妹の成長の喜びよりも恐ろしさにガクガクと震えた。
「後ほど王子の練習も見学してもよろしいですか?」
「かまわないよ。でも王女が暇じゃないかな?」
「そんなことありませんわ。私、王子と居るとすごく楽しいですし」
「そうか。それは光栄だな」
「ふふっ」
コハクとイシュタルが互いに笑顔を向け合う。そんなほのぼのな二人を、フィニアは植木の中で隠れながら蒼白な顔色で眺めた。
◇◆◇
コハクたちを目撃した後、フィニアは大慌てでロットーの部屋へ向かう。そして寝起きらしい彼に、早速今見てきた恐怖体験を伝えようとした。
「ロットー、すっごい大変なんだ! コハクが真剣に俺を殺そうとしている!」
「なに朝から被害妄想叫んでるんですか。……あ、コハクちゃんが王女を殺そうとしている事はあながち妄想じゃないですね」
「そうだよ、マジでコハクは俺を殺そうと……!」
「どうでもいいんですけど王女、俺着替え中なのに堂々と部屋に居座んないでください」
ロットーは下は寝間着のまま眠そうにシャツを羽織り、髭剃りを探して部屋をうろうろする。フィニアは部屋の椅子を占領しながら、真顔で「なんで?」とロットーに聞いた。
「なんでって……着替え中って普通遠慮して部屋出ていくもんでしょう。……あ、あったあった」
フィニアは少し考えてから、また真顔で「ロットーに遠慮してもなぁ」とかのたまう。ロットーは部屋の一角の洗面所へ向かいながら、「遠慮してくださいって」と呆れた様子で言った。
「王女は親しき仲にも礼儀ありって言葉知りません?」




