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最終話 朝日の下で、君と生きる

あの断罪の日から数日が経ち、首筋の傷跡も今ではほとんど目立たなくなっていた。

もちろん、古城から駆けつけたフェンリス様には「無謀すぎる」とたっぷりお説教をされてしまったけれど……。

一方のエテル様は、公務以外の時間は片時も私から離れようとしない。少しでも姿が見えないと、血相を変えて探しに来ては、壊れ物を扱うように私を抱きしめてくれるのだ。その腕の温もりに触れるたび、私は「生きている」という実感を噛みしめていた。

***

リヴァベラ様の裏切りと魔具の真実を突きつけられ、心身ともに疲れ果てた国王陛下は、ついに退位を宣言。エテル様が新王として即位することが正式に決まった。

そして、私以外の「死神」と呼ばれた人たちも、新しい一歩を踏み出している。

フェンリス様は、ヴォルフィード家の次男として家業を盛り立てる道を選んだ。身寄りのなかった死神の子供たちは、彼が責任を持って引き取り、ヴォルフィード家の養子として迎え入れられたそうだ。

死神がいなくなったことで「ヴォイド・ウォーカー」は解体。団長だったアルリック様は、自身の正義の危うさを痛感したのか、「自分は偽りに騙される未熟な人間だ。騎士を続ける資格はない」と職を辞した。後日、丁寧な謝罪状が届いたけれど、エテル様は「今さら遅い!」と暫くお怒りだった。……ふふっ、そんな彼も素敵だけれど。

姿を消したオーレリアンの行方は、誰も知らない。けれど、彼女が二度と私たちの前に現れることはないだろう。

国の人々も、少しずつ「終わりのある人生」を受け入れ始めていた。限りある命だからこそ、今この瞬間を精一杯に愛する。そんな温かな空気が、ヴィタ王国に満ち始めていた。

***

ある日の午後。公務から帰ってきたエテル様は、なんだかいつもよりソワソワしていた。

「エテル様、おかえりなさい。どうかされたのですか?」

問いかけると、彼は少し照れたように視線を泳がせた後、意を決したように私の前で膝をついた。差し出された掌の上には、朝日のように煌めく指輪が。

「ディアナ……遅くなってごめん。君を妻に迎えるという約束、やっと果たせそうだ」

エテル様のアイスブルーの瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。

「僕の妻は、君しかいない。これからの人生、一秒たりとも無駄にせず君と歩んでいきたいんだ。共に老い、死が二人を分かつその時まで……僕と共に、この『終わりある人生』を歩んでほしい」

プロポーズされるなんて、想像もしていなかった。驚きと、それ以上の溢れるような愛しさに、視界が涙で滲んでいく。

「はい……。喜んで、お受けいたします……っ!」

私は彼に飛び込むように抱きついた。エテル様も、壊れそうなほど強く、けれど優しく私を抱きしめ返してくれる。

***

数ヶ月後。

国中が祝福の花びらに包まれる中、エテル様の戴冠式と、私たちの結婚式が執り行われた。

豪華な礼装に身を包んだエテル様の隣で、私は純白のドレスを纏い、彼と手を繋いで大聖堂のバルコニーに立つ。

眼下には、かつて石を投げたことも忘れ、心からの歓声で私たちを祝う民衆の姿があった。

「綺麗だ、ディアナ。……世界で一番」

耳元で囁く彼の声に、私は顔を赤くしながら微笑み返す。

もう、紅い瞳も、不老不死の呪いもない。

あるのは、いつか尽きてしまう、けれど最高に愛おしい二人の時間だけ。

「愛しています、エテル様。……ずっと、ずっと、お隣にいさせてくださいね」

まばゆい朝日が、新しく生まれ変わった王国と、二人の未来を黄金色に照らし出す。

私たちは見つめ合い、重なる唇に永遠の愛を誓った。

不老不死でも、死神でもない。

ただの「人間」として、私たちは今日から、幸せな物語の続きを紡いでいく。

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