第六十四話 真実の凱歌、偽りの幕引き
白銀の光が収まり、処刑台の上に静寂が戻る。
人間に戻ったディアナは、失血こそ多いものの、エテルの命を分かち合ったことでその瞳には確かな生気が宿っていた。エテルは、愛おしそうに彼女を抱きかかえて立ち上がると、震える国王と呆然自失の民衆を見据え、毅然と宣言した。
「皆、聞くがいい! この惨劇の元凶は死神ではない。……すべては、亡き王妃リヴァベラが秘匿していた禁忌の魔具『万魔の壺』によるものだ!」
エテルの口から語られる真実。王妃が美貌を保つために民の生を啜っていたこと、そして義理の息子であるエテルさえも生贄として不老不死の呪いに縛り付けていたこと。
あまりに衝撃的な告白に民衆は動揺するが、先ほど目の当たりにした「死神が人間へと変わる」奇跡、そして自分たちの魂が浄化された感覚が、その言葔を何よりも雄弁に裏付けていた。もはや、彼女に石を投げる者は誰一人としていない。
言い逃れのできない証拠を突きつけられた国王は、顔を真っ青に染めて崩れ落ちた。
「リヴァベラが……まさか、そんな。エテルに呪いを、私を欺いて……」
がっくりと肩を落とす父の姿に、エテルは憐れみの目を向けた後、ディアナの冤罪を公式に認めさせた。
***
騒乱の処刑場を後にし、エテルはディアナを大切に抱えたまま自室へと連れ帰った。
柔らかなベッドにそっと彼女を座らせると、慣れた、けれどどこまでも繊細な手つきで、首筋の傷を手当てしていく。
「ディアナ……痛かったね。本当に、ごめん。君を守ると誓ったのに、こんな傷を負わせて……」
悔しさに唇を噛むエテルに、私は小さく吹き出した。
「ふふっ。守ってくださいましたわ、エテル様。私の命を、一番大切なところで」
そう言って微笑むと、彼もようやく憑き物が落ちたように、ふっと柔らかな笑みを返してくれた。
「……でもエテル様。寿命を分けてくださったのは嬉しいのですが、今のエテル様の寿命はあとどのくらいなのですか!? せっかく二人で歩めるようになったのに、エテル様だけ先にいなくなってしまうのは嫌ですわ。……私、貴方と白髪になるまで共に生きたいのです」
必死に詰め寄る私の額に、エテル様が優しく手を置いた。
「大丈夫だよ。僕は元々長寿種だったし、君の無意識の守りのおかげで『万魔の壺』の影響も最小限で済んだからね。元々三百年ほどあった寿命の半分を君に分けたんだ。……計算上、僕たちが共に生きる年数は、普通の人間と同じくらいになるはずだよ」
「……本当、ですか?」
「ああ。君と共に歳をとり、限りある人生を、一秒一秒大切に生きていく。それがこれからの僕の、たった一つの望みなんだ」
その言葔に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「良かったです……! 私を助けてエテル様が極端に短命になってしまったら、どうしようかと思いましたわ……」
安堵で急に眠気が襲ってきた私を、エテル様は慈しむように横たわらせ、布団をかけてくれた。彼は私の手をそっと握りしめ、そのまま寄り添ってくれる。
「おやすみ、ディアナ。……これからはもう、怖い夢を見る必要はないよ」
握られた手の温かさに、私は深い安心感を感じながら、ゆっくりと深い眠りについた。
窓の外では、呪縛の消えたヴィタ王国に、穏やかな夕刻が訪れようとしていた。




