第5話 目指すは24番札所・最御崎寺(ほつみさきじ)へ
「なあ、ウミ。提案がある!」
「はいどーぞ」
「同じ道通るんイヤちゃう?」
「イヤだね」
「あの徳島らへんの海沿いまた行く?」
「え……鳴門の渦潮見たあたりからの南下? 元の世界でいうところの阿南とかの辺?」
「イヤやなぁあそこ」
「死ぬほど迷ったよね?ありえないくらい同じところをぐるぐる」
「結局あれ、たぬきの親分にやられとったもんな」
「ソラ君がしばいて一回土下座させてから、話しつけて納得してくれたからなんとか抜けれたけどさ」
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そう、たぬきの親分——。
徳島、こっちではアーワの国とか呼ばれているところに昔からいた物の怪の類が出てきたのだ。ウミと2人で山の中にあった祠を元に戻したとき、封印が解けて出てこられたらしい。
せっかく戻してやったのに、なんか怪しい術でぐるぐる同じ場所を回された。ただでさえ足がだるい現代っ子の僕がキレるまで、そう時間はかからなかった。
「ウミ、ここ何回目や?」
「ん……4回目くらいかな?」
「なんぞ霊みたいなのが悪さしてるんかこれ?」
「こんな山の中に霊はそうそういないよ。いるなら平野メインだよ!」
アーワの国の平野なんて川沿いか河口付近しかありゃしない。自然、人はそこに集まるからか。
「ほなこれは霊以外のなんかっちゅうことやんの?」
「そういうこと。出番かな? ソラ君」
「しゃーないのぉ~」
そう言って僕はリュックの一番外側のチャックを開けて、メガネケースに入ったお宝を取り出す。
「ちゃっちゃらーん♪れいばん~」
深い青のレンズのレイバンのサングラス。
これは僕のおしゃれアイテムその1。今は社宅となった自室に置いてた運転用のサングラス(度入り&偏光レンズ)で、何度目かのAmazonならぬシャチョゾンの置き配で届けてもらっていたのだ。長旅の紫外線、目に悪いしね!
「なんでワシが~」とぶつぶつ言いながらも社長はちゃんと送ってくれる。ありがたい。
ちなみにこの前ビデオ通話にチャレンジしたけど、向こうからはこっちが見えてたみたいだが、戒壇の奥は真っ暗だから社長側はなんも見えなかった。懐中電灯をつけてもらったら肝試しのときみたいに下からぼわーっと顔が見えて怖かったので、それ以来やらせていない。
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眩しいのでレイバンを初めてかけて、アーワの吉野川と僕らが呼んでた川を見ると……なんかおる。
「ウミ、あそこの川の水面の波紋見える?」
「見える」
「その下のあれなんや?」
「ん? なに? 魚?」
「いやなんか人影みたいなん。漁師さんか?」
「いや、いやいよ。霊でも見えるの?僕には見えないけど」
「え?おるやん絶対。偏光ガラスの力なんか?これ。お、あそこの水の中の鮎までくっきり」
「昔、深夜のテレビショッピングで外国のお兄さんがやってたサングラのやつかな?」
「レイバンやレイバン!あんなイーグルなんとかと一緒にすな!なんぼした思てるねん」
「で、何が見えるの?」
「なにて……あれ、河童?」
「かっぱ?カッパ?河童!?」
「なんでソラ君にそんなん見えるのよ?なんか修行した?」
「いや知らんけど。サングラスを外すと……度が入ってないからよう見えんな。つけると……ひぇっ!かっぱ!!」
「僕のJINSとはまた違うけど、サングラスがなにか影響してるのかな?ちょっと貸して」
「ほいさ」
「うわ、乱視入ってる?揺れる揺れる視界が揺れる……ってうわ!河童、カッパ、かっぱ」
「何回言うねん。おるやろ?」
「いるねぁ……なんだろ?このサングラスって偏光だよね?乱反射防ぐ。妖怪って昼間とか光の下で見えないように光線を曲げたりしてるのかな。それが偏光ガラスでカットされて……」
「お前かしこいのお」
たぶんそう。知らんけど。
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そんな感じで、僕にはレイバンの偏光能力で光学迷彩で隠れているはずの物の怪が見えるようになった。
ただこいつら、いくらお経を読んでも知らん顔。目と目を合わせて語らないとわかってくれない。なのでたぬきの親分の交渉は、僕が担当した。
伝えたのはこういうことだ。
この世界は今、尋常ならざる事態に陥っていること。アデヤという女神が訳アリでこの世界を牛耳っていて、信者を使って寺社仏閣のみならず昔から存在していたあやかしの類まで封印してまわっていること。親分を救い出したのは他ならぬ僕ら2人であること。そして今後、寺社仏閣の封印を解いていく中で、仲間の妖怪や地域に根付いた信仰を取り戻し、以前のような人と人ならざる者たちの境界を守っていくのが僕らの使命だということ。
説得じゃない。きちんとメリットデメリットを伝えて、腹落ちしてもらって納得してもらったのだ。
そこは社長にめっちゃ厳しく教えられたから。
「受注のときは説得するんじゃない。喪主さんにきちんと納得してもらってから注文を受けるんだ。棺桶なんてどうせ燃やすんだから安いやつでいいと言う人には『故人様が最後にお休みになられる場所です』と一言伝えたら、ベニヤが刺繍入りやら紫檀やらに変わるんじゃ!」
……普通に怖いわ、社長。
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そんなこんなでたぬきはクリアしたものの、あの道はもうこりごりというのが2人の意見。
海沿いを避けるとしたら……山越えだ。
元の世界で言うところの阿讃山脈、剣山越えの難関ルート。
「海沿いだるいけど、あの山越えるんか……。クマさん出るんちゃうか? ツキノワグマ」
「いると思うよ。前にドキュメンタリーで見たよ」
「あと剣山ってさ、大蛇出るとか聞いたけど」
「そんな話もあったね。でもあれ昭和時代の話でしょ?道路に電柱が倒れてる!って思って営林署の人が木をどけようと見に行ったら、その電柱がゆっくり動いてたっていう」
「それそれ」
「大蛇って何年生きるのよ」
「はて?聞いたことないな。でもアナコンダならわかる!2~30年!」
「なんでわかるの」
「俺のツレが神戸の王子動物園の飼育係!」
「なんの知り合い……」
「俺、出身こっちの半島やけど、中学から神戸!そん時のツレ!」
とVサイン。
「あ~だから時々関西弁出るんだ?」
「こっちの言葉も関西弁に近いもんな。あ、ウミ君、ひとつ訂正させて。僕、関西弁じゃないから。こ・う・べ? 関西人じゃないよ?神戸っ子なの。そこんとこよろしく」
「何が違うの?」
「え?全然ちゃうわ。なに?ちょっと洗練されてる的な?おしゃれ的な?異人館みたいな?」
「わかんない……」
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そんなくだらない話をしつつも、僕たちの気持ちは決まった。
阿讃山脈を越えて、高知方面へ。
ちなみにこっちの言葉では高知のことを「トサァ」とか「トゥーサー」とか呼ぶんだと思うでしょ?
違うのよ。
「コーチ」だって。
そのまんまなんかいっ! どこのブランドや。
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熊よけの鈴をリュックにつけて、2人は山へと歩き出した。
ちりん、ちりんと鳴る鈴の音が、朝の山道に響いていく。
「なあウミ、元の世界の剣山って弘法大師も登ったんやろ?」
「登ったよ。剣山の山頂に剣を立てたって伝説があるくらいだし」
「ほな俺ら、裏の世界の弘法大師の足跡辿っとるわけやな。ちゃんと」
「……ほんとだね」
ウミが少し照れくさそうに笑った。
空の彼方で、アデヤさんが何か言いたそうにしていた気がした。
知らんけど。
*(第6話へ続く)*




