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第四話:S級冒険者、ダンジョンへ

異世界転生から数日。

やちるは、この世界の常識と、

その奥深さに触れていく。


そして、S級冒険者リリアーナを伴い、

更なる美味を求め、

『居酒屋ダンジョン』の深淵へ。


そこで彼らを待ち受けるのは、

新たな魔物と、驚きの食材だった――。


『転生亭』は確かにそこに存在していた。


真新しい暖簾が、町の外壁沿いの、どこか寂れた一角で風に揺れている。

しかし、肝心の食材がない。


「まずは仕入れ、だよな……って、この異世界でどうやって?」


やちるは、この世界に転生してから数日が経っていた。

その間、リリアーナとの何気ない会話や、下町での簡単な買い物をしながら、

少しずつこの世界のことを知ることができた。


ここは何でもメソという通貨が使われており、

1メソが1円程度の価値だという。


世界にはマナが満ちていて、誰もが生活魔法を当たり前のように使う。

マナは主にダンジョンや、遠くにあるという世界樹から放出されているらしい。


人間以外にも、エルフやドワーフ、獣人など様々な種族が共存し、

それぞれが独自のコミュニティを持っている。


国は国王が治める王国制で、都市は領主が治めていた。

驚くべきことに、奴隷制度というものはないらしい。

治安は非常に安定しているという。


町から一歩出れば魔物も出るが、強い魔物はほとんどおらず、

田畑を荒らす小型魔物の駆除や、

ダンジョンからの素材集めは冒険者ギルドの主な仕事だ。


そして、この世界の食文化。

やちるが知る日本の料理に近いものが多く存在し、

なぜか醤油や味噌まであることには、何度聞いても首を傾げた。

ただ、この世界の住人は、ダンジョン内の魔物を気味悪がり、

ほとんど食べようとしないらしい。冒険者でさえ、

空腹をしのぐために焼いて食う程度で、基本は素材や魔石がメインだという。


やちるは、女神から与えられた「居酒屋ダンジョン」の能力を思い出す。

地下へと続く階段を恐る恐る降りていくと、そこには薄暗い洞窟が広がっていた。

足元には、見たこともない魔物や植物が蠢いている。


リリアーナは、従業員になったものの、いまだ『転生亭』の地下にあるダンジョンを警戒していた。

しかし、S級冒険者としての探究心と、ダンジョン産の食材がもたらす

あの「美味さ」の秘密への好奇心は募るばかりだ。


「リリアーナさん、もう少し美味しい食材を見つけたいんですが……ダンジョン、一緒にどうですか?」


やちるがそう声をかけると、リリアーナは眉をひそめた。


「ダンジョンだと? 私の仕事は店の護衛であって、あんたの食材集めに付き合うことじゃない」


だが、その表情にはすでに揺らぎが見える。

あの料理の味が忘れられないのだろう。やちるの純粋な情熱に押され、

結局、彼女は護衛として同行を決意した。


「あくまで食材調達のためだからな。

 私が本気でダンジョンを攻略すれば、すぐに店が潰れてしまうだろうからな」


そう言って、リリアーナはわざとらしく鼻を鳴らした。


ダンジョンに入る準備中、リリアーナの手際は見事なものだった。

剣や防具の手入れは完璧で、携帯食料やポーションの確認も怠りない。

しかし、ふと視線をやると、彼女の私室は散らかり放題で、

脱ぎ捨てられた服や読みかけの書物が山になっている。


「うわあ……」


やちるが思わず声を上げると、

リリアーナは顔を赤くして「な、なんだ!」と怒鳴った。


(冒険具の手入れは完璧なのに、私生活は壊滅的か……面白い人だな)


やちるは呆れつつも、どこか微笑ましく思った。


ダンジョンの入り口は、相変わらず禍々しい気配を放っていた。


リリアーナが先頭に立ち、S級冒険者としての圧倒的な索敵能力と、

抜き身の剣から放たれる凄まじい気迫で、周囲の弱い魔物を蹴散らしていく。

やちるはその背中を見て、改めて彼女の力量に感心した。


一階層の奥深く、さらに下へと続く階段を発見する。


「ここが、次の層か……」


やちるが呟くと、リリアーナは厳重に警戒しながら、先に足を踏み入れた。


二階層は、一階層よりも鬱蒼とした森のような空間が広がっていた。

薄暗闇の中、苔むした岩や古木が立ち並ぶ。


その時、リリアーナが不意に足を止めた。


「……来るぞ」


彼女の視線の先に、ゆっくりと、しかし確かな足取りで近付いてくる巨大な影があった。

それは、巨大なキノコのような頭部と、ずんぐりとした手足を持つ、岩石でできたゴーレム。

全身を硬い菌糸のようなもので覆われ、その節々からは様々な色のキノコがぶら下がっている。


「なんだあれは!?」


やちるが思わず叫ぶ。


「きのこーレムか。厄介な奴だな。防御力は高いが、動きは鈍い。

 だが、その硬度ゆえに冒険者泣かせだ」


リリアーナは冷静に分析しながら、一歩前に出る。

きのこーレムが鈍重な腕を振り下ろすより早く、彼女の剣が閃いた。

一撃、二撃。硬いはずの体表に、次々と深々と斬り込みが入る。

やがて、きのこーレムは軋んだ音を立てて崩れ落ちた。


「食材鑑定!」


やちるが鑑定すると、きのこーレムの残骸から意外な情報が流れ込んできた。

――【名称:菌核きんかく

――【特性:きのこーレムの中心部。非常に硬いが、砕いて粉末にすることで、

   独特の旨味と土の香りを料理に付与できる】


――【名称:苔きのこ(こけきのこ)】

――【特性:きのこーレムの表面に生息する緑色のキノコ。

   焼いて食べると肉厚ジューシーで、非常に濃厚な旨味成分を含み、

   煮出すことで出汁も取れる】


「へぇ! これは面白いぞ!」


やちるが感嘆の声を漏らしていると、地面がわずかに揺れた。


「ちっ、今度はこれか」


リリアーナが舌打ちをする。


地面から、するすると現れたのは、茶色い鱗に覆われたトカゲのような魔物だった。

それは素早く地中を潜り、一瞬で姿を消したかと思うと、

次の瞬間には別の場所から飛び出してくる。


「あれは!?」


やちるは、その予測不能な動きに驚愕する。


「あれはモグトカゲだ。地中潜りが得意な魔物で、素早い動きで獲物を仕留める。

 厄介なことに、体表の鱗が非常に硬い」


リリアーナは即座に臨戦態勢を取り、地面に意識を集中させる。

モグトカゲが飛び出した瞬間、彼女の剣が再び閃いた。

一瞬の攻防の末、モグトカゲは地面に叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなった。


「食材鑑定!」


やちるが鑑定結果を確認する。


――【名称:モグトカゲの肉】

――【特性:高タンパクで非常に癖がない。加熱すると鶏肉のような食感になり、どんな料理にも合う】


――【名称:モグトカゲの硬鱗こうりん

――【特性:非常に硬いが、細かく砕いて粉末にすることで、

   稀に特殊な風味を付与できる可能性がある】


「これはすごい! どれもこれも、素晴らしい食材になりそうだ!」


やちるは興奮を隠しきれない様子で、転送されていく食材の山を見つめた。


リリアーナは、自分が倒した魔物が、やちるの手によってどのような「美味いもの」に変わるのか、

すでに期待を隠せない様子だった。


今回の探索で得られた情報から、ダンジョンがさらに奥深く、

多様な食材を秘めていることが示唆され、今後の探索への期待感が高まるのだった。

新たな食材を求めて、

リリアーナと共にダンジョンへ!


きのこーレムにモグトカゲ、

異世界の魔物たちは、

やちるの料理の腕をどう試すのか?


そして、リリアーナの戦闘能力も

存分に発揮されましたね!


次回の『転生亭』は、

どんな美味しい料理が生まれるのか、

どうぞお楽しみに!

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