第二話:飢えた冒険者と滋味深い一膳
女神様のお告げ通り、
異世界で居酒屋を開店したやちる。
初めての食材調達で、
ダンジョンに挑む!
そこで手に入れたのは、
不思議な食材たちだった――。
『転生亭』は確かにそこに存在していた。
真新しい暖簾が、
町の外壁沿いの、どこか寂れた一角で
風に揺れている。
しかし、肝心の食材がない。
「まずは仕入れ、だよな……って、
この異世界でどうやって?」
やちるは、女神から与えられた
「居酒屋ダンジョン」の能力を思い出す。
地下へと続く階段を恐る恐る降りていくと、
そこには薄暗い洞窟が広がっていた。
足元には、見たこともない魔物や植物が蠢いている。
「これが、ダンジョン産の食材ってやつか……」
やちるは、洞窟の壁にへばりつく、
まるでスライムのような半透明の塊に手を伸ばした。
「食材鑑定!」
脳裏にその名称が浮かぶと、
即座に情報が流れ込んできた。
――【名称:プニプニスライム】
――【特性:無味無臭、毒性なし。
適切に下処理を施せば様々な料理に活用できる。
身を細かく刻んで食べることも可能】
「へぇ……汎用性の高い食材だな」
さらにダンジョン内を探索すると、
湿った岩場に緑色の、
まるで絨毯のような苔が生えているのを見つけた。
「食材鑑定!」
――【名称:岩抱き茸】
――【特性:強い旨味成分を含み、
水で煮出すことで良質な出汁が取れる。
乾燥させることで保存も可能】
「これだ!」
やちるは、前世で培ったプロの技術と
「食材鑑定」を駆使し、
プニプニスライムと岩抱き茸を中心に、
他にもいくつかの薬草や
山菜のような植物を確保していく。
採取した食材は、気づけば厨房の貯蔵庫に
自動転送されていることに、
やちるは驚きと同時に確かな手応えを感じた。
これなら、無限に、そして新鮮な食材が手に入る。
その後、店の周囲を探索し、
店の準備を終え、『転生亭』の暖簾を掲げたやちる。
しかし、町の外れに突如現れた
怪しげな居酒屋に、客の影は全くない。
その日の夕暮れ。
することもなく店の入り口に腰掛けていた。
やちるの視界に、一人の女性が飛び込んできた。
道の真ん中で、ぐったりと倒れている。
真っ白な髪、まるで人形のような整った顔立ち。
だが、土埃にまみれ、着衣は破れ、
見るからに疲弊しきっている。
やちるは慌てて駆け寄った。
意識はあるようだが、ひどく衰弱している。
「大丈夫ですか!?」
女性の体が熱い。
このままでは危険だ。
やちるは迷わず彼女を抱き上げ、
**『転生亭』**へと運び込んだ。
女性を座敷に横にすると、
厨房へ急ぎ、
ダンジョンで手に入れた岩抱き茸から
丁寧に出汁を取り、
細かく刻んだプニプニスライムを加えて
温かいスープを作る。
それから、町の周辺に生えていた、
食べることの可能なねぎのような風味の草を添え、
採取した山菜のような植物を軽く湯通しし、
シンプルな味付けで小皿料理を二つ用意した。
出来上がったのは、
滋味深い香りのスープと、
二つの素朴ながらも体力を回復させそうな料理。
やちるはそれを、
倒れていた女性の前に差し出した。
女性はゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、深紅に輝く。
やちるは、その女性が
異世界で名を馳せるS級冒険者、リリアーナ
であることを、この時点では知る由もなかった。
初めてのダンジョン探索、
そして謎の美女との出会い。
やちるの異世界居酒屋ライフは、
予想外の展開を見せ始めます。
次話では、
リリアーナとの交流が描かれます。