その30 幽霊屋敷に行こう
この日の朝、メイシンは宿の部屋で優雅な朝を迎えていた。
「ふう・・・」
なんて清々しい朝なのかしら
入り込んでくる日差しが体を暖かく包み込み
窓の外には鳥たちが歌うように鳴いている
静かな朝・・・
「うおおおお!」
ドドドドという足音と共にバスターが部屋の入り口から入ってきた。思わずメイシンはずっこける。
「何よ、朝からどこか行ってたみたいだけど」
「ちょっと依頼を受注しようと思ってるんだけど・・・」
バスターが話をしようとしたその時、ドアからノックする音が聞こえた。彼がゆっくりとドアを開けるとそこには腰の曲がった老人が立っていた。今にも倒れるんじゃないかと思うくらい小刻みに震えている。
「お、大家さん・・・」
「テメェら朝からうるせぇぞ。他の客にも迷惑なってんだ。もう少し静かにしろ」
その見た目からは想像できない重低音ボイスが響く。
「すみません・・・」
バスターは弱々しく謝ると、そっとドアを閉めた。
「なんか、思ったんだけどさ・・・」
「ん?」
バスターの呟きに3人は耳を傾ける。
「拠点、欲しくないか?」
「・・・拠点?」
3人の声が揃う。
「だってよ、宿を使うだけで毎月金取られるんだぜ? なのにちょっと壁が傷ついただけで自分たちで修理しないといけない。その上改造もしたらダメなんだぜ?」
「まぁ、確かに宿だと費用もかかってるわね」
「宿を変えるたびに荷物の収納や設置するのも面倒だな」
メイシンとパワードもそれぞれ不満はあったようだ。しかし、グードは少し慎重な考えだった。
「でも家と土地を買うってなるとかなり高いんじゃない? それに遠くの町へ行くこともあるだろうしその間に泥棒が入るんじゃ・・・」
「そうだな、俺たちはこれからも色んな場所に行くだろう。でもよ、なんか帰るべき故郷ってやつがあってもいいんじゃないか?」
バスターの口ぶりから彼はもう既に家を買うことを決めているようだった。
「買うって言ったってグードの言うとおり私たちにそんなお金ないでしょ。 せいぜい犬小屋が精一杯よ」
「フッフッフッ・・・ そう言うだろうと思ったよ」
皮肉なことを言うメイシンに対してバスターはその言葉が出てくるのをわかっていたかのように笑う。そして彼は1枚の紙を3人の前に突き出した。
その紙には家の絵が描かれている。とても立派な家だが、雰囲気が暗いようにな悲しげな感じもした。絵の下には『幽霊退治の依頼』と記されていた。
「なんだこれ?」
パワードはその立派に描かれた家を見る。立派な家には間違いないが描いた人の気持ちが入ったのか見れば見るほどその不気味さが際立ってくる。
「掲示板で見つけたんだよ。依頼主が家を買ったらしいんだけど、そこ幽霊が出るみたいなんだよ。それをどうにかして欲しいって依頼だ」
バスターは浮き足立っているのか顎が前に出てしまっている。
「えっ、でもこれ家の怪奇現象をどうにかして欲しいって依頼でしょ? 僕らに家が手に入るわけではないんじゃ・・・」
グードの発言はメイシンとパワードにとっても当然の疑問だった。
「いや、依頼を受けるんじゃない」
「何よ、まわりくどい言い方しないでさっさと言いなさいよ」
なかなか要件を言わないバスターに痺れを切らしたメイシンが言う。
わかったよと言わんばかりにバスターはわざとらしい咳払いをした。
「この家を買おうと思ってる」
「家を買う?」
またしても3人の声が揃う。
バスターは続けて言う。
「あぁ、聞いた話だとこの間別のパーティーがその屋敷に入ったらしいんだけよ、そいつらの悲鳴が聞こえたんだと。そんで誰も戻ってきていないらしい」
「・・・・・・」
4人の間に不自然な間ができる。少ししてパワードが口を開いた。
「つまり、どういうことなんだ?」
「この話がいろんなところに広まって誰もあの家を買おうとしないらしいんだよ。もちろん買った本人も住めないだろうから譲ってもらおうかなって思ってるんだ」
「え?」
バスターの提案に驚きを隠せない3人。
「嘘でしょ!? 仮に譲ってもらったとしてその幽霊屋敷に住む気なの? 行方不明者が出たんでしょ?」
彼が冗談で言っているんじゃないかと思いメイシンは思わず声を張る。
しかし、彼は本気のようだ。
「大丈夫だろ、幽霊なんて俺たちで倒しちまえば」
あまりの楽観的な発言に呆れて口をあんぐりと開くメイシンとパワード。下アゴがもう地面につきそうなくらいだ。
「でもこの家大きくていいねー」
その何気ないグードの一言が事態を一変させた。
「私もそう思ってたわ!」
「さっさと行こうぜ」
さっきまでとはまるで別人のような掌返し。しかしこれで反対するものがいなくなりバスターは安堵した。
「よーし、依頼主は今酒場にいるらしい。お前ら行くぞ!」
「おー」
「ダメです」
即答だった。
「え・・・?」
バスターは思わず声がでる。しかしその声は酒場の賑やかな雰囲気の中へ消えていった。
依頼主のローデラと名乗った男は裕福そうではあったが、思っていたより普通の格好をしていた。彼は年季の入った机を挟んで4人と向かい合うように座っている。
「どうしてですか?」
譲ってもらえるわけがないと分かっていたが、グードは一応理由を尋ねた。
「あそこは私が買った物件なんです。マイホームが欲しかったのでね。あの物件、少し古いかったんですがそれでも何故か安かったんです。それを見た私はすぐに買ったのですが、まさか曰く付きだったとは・・・」
ローデラはため息を漏らす。
「どんなことが起きるんだ?」
パワードが訪ねる。
「試しに私1人で泊まってみたら夜中寝ていると女の笑い声が屋敷中に響いたり、1時間に1回くらい三角形のつみきを踏んでしまったりするんです。これじゃあ家族で暮らせません」
「なるほど、それでも手放したくないと?」
バスターは真剣な表情になる。
「夢のマイホームですから。あんないい物件はないと思うんです。立派な家で、庭も広いし・・・ まあ、あの家を恐れた周辺の住民が引っ越しただけなんすが」
すると突然メイシンが口を開いた。
「わかりました。その原因、突き止めましょう」
「本当ですか、ありがとうございます」
ローデラは拝むように言った。
突然依頼を受けると言ったことに他の3人はローデラにバレないように静かに驚く。そしてローデラが顔を上げた。
「では、屋敷まで案内します」
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