表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚は運命か否か  作者: 樫本 紗樹
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/58

やるべき事

「詳細は知らなくとも、大まかな情報は祖父から聞いているの。アスラン側が欲しかったのはお金なのでしょう?」

 アスラン王国の内情をテオはそれとなく把握をしていた。豊かそうに見えて実は国庫の底が見えている、それをわかっていてサマンサとの婚約話を進めたのだ。彼女は祖父の本意はわかっていないが、苦労する所へわざわざ嫁がせるとは思えないので、悪い方には転がらないだろうとは思っている。

「国はそうでも、私はサマンサさえ側にいてくれるなら持参金を返してもいい」

 セリムの言葉にハサンが驚いた顔を彼に向ける。

「よくありません。これ以上増税をすれば国が傾きます。何の為に戦争を終わらせようとしているのですか」

「それは無駄だからだよ。カエドと戦って得る物なんかない。戦地にいる者は全員それを知っているのに、議会は全然話を聞いてくれない」

 カエド王国はアスラン王国と現在戦争中の隣国である。カエド王国はただ国土拡大の為に戦争を仕掛けて来ており、アスラン王国は国防の為に大量の資金を投入している。現在議会では戦争を終わらせるか、増税してでも戦争を続けるかで揉めている。セリムはサマンサを迎えに行きたかったのだが、自分が国を離れている間に戦争続行で増税案が可決される可能性があった為、身動きが取れなかったのである。

「そのカエドという国はどこから資金が流れてきているのですか?」

 セリムとハサンはサマンサの方を見た。

「戦争は大金が必要です。戦争を止めるには敵国の資金源を絶つか、指導者を捕えた方が早いのではありませんか」

「サマンサは一体何を学んでいるの?」

「何と申されましても、王女として必要な事でしょうか」

 サマンサはレヴィ王国唯一の王女として自由に育っているものの、兄と同じ教育が施されている。彼女は勉強が嫌いではないので教えられたものは吸収したが、それを表に出すのは王女らしくないだろうと、普段は他の貴族令嬢同様に政治には興味がない態度で通していた。茶会でも宝飾品や噂話などで盛り上がり、貴婦人の夫の話は聞くだけに留めていた。

「サマンサ様は政治学も修めておられるのですか?」

「別に政治だけを学んだわけではないわ。歴史や文学と一緒に政治や経済も学んだだけ。それに私の知識はレヴィのもの。アスランで通用するかはわからないわ」

「いえ、問題ないと思います。法律は異なっても、国の仕組みに大差はないでしょう。もし大差があるのなら、テオ殿が話を持ちかけてこないと思います」

 ハサンの言葉にサマンサは一理あると思った。テオは長らくケィティの代表として、そして商人の一人として第一線で働いている。商人気質なので損な取引に手を出すとは思えない。お互いに利がある関係だからこそ結んだに違いないのだ。

「そうね。でも私は政治を仕切りたいとは思っていないの。これは勘違いされないようにして貰えるかしら。レヴィがこの国を乗っ取りに来たと言われたくはないわ」

「かしこまりました。そのような意見を申す者もおりますので、誤解のないように対応させて頂きます。ですが、力を貸して頂く事は可能でしょうか?」

「私はこの国の重要人物さえわからないのに、どう力を貸すと言うの?」

 サマンサはセリムが挨拶に連れて行ってくれなかった為、アスラン王国の重要人物を一切把握していない。王都で挨拶した人々は平民ばかりだった。

「セリム殿下、隠せるものではありませんよ」

 ハサンは呆れた様子でセリムの方を見る。セリムは視線をハサンとは逆の方へ流した。

「サマンサは私に嫁いだのだから、私の事を一番に考えて欲しいと思って何が悪い」

「しかしセリム殿下が何も教えて下さらなかったが故に私が対応出来ず、殺された場合はどうされるのでしょうか」

 セリムが拗ねた子供のように思えたサマンサは、あえて諭すような口調でそう言った。彼女の指摘に彼は眉根を寄せた。彼の中で葛藤が生じているのだろう。その様子を確認してハサンは冷めた視線を投げた。

「話はするべきです。サマンサ様がセリム殿下を第一に考えるかはこの件とは別の話で、セリム殿下が努力するべき事ですから」

「わかったよ、話す」

 そう言ってセリムはアスラン王国の実情を話し始めた。隣国カエドと約五年戦争が続いていて一時期はアスラン王国の領土を一部奪われたが、現在はそれを取り戻し、国境付近で膠着状態になっている事、議会では戦争続行派と和睦派で別れている事、ゼフラの父であるタラール内務大臣は戦争続行派である事。

「続行派なのですか?」

「内務大臣は正直に言って褒められた人物ではありません。自分の利益になるのなら国家の利益など考えない人です」

 サマンサは視線を落とした。自己中心的な人物が国の中枢にいる事は望ましくない。しかし一度大臣に就けてしまったのなら、不正でも暴かなければその地位を剥奪するのは難しいのかもしれない。セリムがゼフラと結婚しなかったのは、タラールの権力をこれ以上強くしない為にも賢明な判断だと思えた。

「国家の利益を考える方はどなた? その方の奥方と是非仲良くしたいわ」

 サマンサの提案にハサンは残念そうに首を横に振った。この国では結婚した女性は家にいるのが普通であり、女性同士で交流を持つのは難しいとの事だった。彼女は残念そうな表情を浮かべながら、一人の男性を思い出した。

「エイメン殿下はどちらの派閥なのかしら」

「アスラン王国では王太子以外の王子は内政に口を出す権利がありません。エイメン殿下は軍人でもありませんし、現状を把握されているかはわかりません」

 アスラン王国では兄弟で力を合わせて国を統治する仕組みがない。王位を継ぐ者だけが内政を知り、それ以外の兄弟は地方の長官になるか、セリムのように軍人になるのが慣例である。

「エイメンの事を聞いてどうするの?」

 セリムは不安そうな表情を浮かべている。

「同じ考えなら協力すればいいのではないかと思っただけです」

「協力は難しいと思う。王妃殿下は私を廃したくて仕方がないのだから」

「エイメン殿下は王妃殿下の言いなりなのですか?」

「言いなりかはわからないが、エイメンは王位に就きたいのだろうとは思う。王位に固執していない私に事あるごとに突っかかってくる」

 サマンサは戦争継続と和睦、次期国王をセリムかエイメンか、この二つは別の問題なのだろうと思った。もし同じ問題なのならばエイメンは戦争継続を支持しているべきである。それとも彼は表立って表明していないだけかもしれないと思った彼女は、一つの疑問を口にした。

「では王妃殿下の実家は戦争についてどう思っているのでしょうか」

「王妃殿下はサムルク王国の軍人の娘ですから、アスラン王国内に家族はいません」

 サマンサは嫁ぐ時に覚えたこの大陸の地図を思い出した。アスラン王国はカエド王国とサムルク王国に接しているが、カエド王国とサムルク王国の間は接しておらず、ニーデという小国かアスラン王国を経由しなければ往来は出来ない。

「サムルク王国は豊かな国なのかしら」

「豊富な森林資源と銀山があります。現在はどの国とも戦争をしていませんので、潤っていると思いますよ」

「アスラン王国との国力の差は?」

「現時点では互角といった所でしょうか。ただ内陸国なので別大陸からの品は我が国からの輸入に頼る部分が大きく、サムルク王国の銀は我が国に流れて来ています」

 レヴィ王国のある大陸とアスラン王国のある大陸、この二大陸の間で交易の定期船が出ているのはレヴィ王国とアスラン王国だけなのである。今回の政略結婚の条件としてお互い輸出入経路を増やさないというのも盛り込まれていた。

「流れてきている銀が戦争をする事によってサムルクに回収されていそうね。アスランは木材を輸入しているのでは?」

「待って、サマンサ。何故木材を輸入していると知っているの?」

 口を挟んだセリムにサマンサは微笑みかける。戦争するのには武器がいる。武器を作るにはまず製鉄をしなければいけない。製鉄をするには木炭が必要であり、つまり木材が必要である。森林資源があるのならそれで銀を回収すればいい、というのが彼女の理論である。

「知識だけですが、製鉄には木炭が必要でしょう?」

「それでも戦争から木材が要るという所へ発想はなかなかいかないものだと思うのだけど」

「一般論は存じませんが、私はこう考えてしまうのです。口に出すなと言われるのでしたら二度と口に致しません」

「いや、言って欲しい。戦争をなくす為に協力して欲しい」

「力になれる事でしたら何でも仰って下さい」

 サマンサは微笑んだ。やっとこの国でやるべき事が見えた気がして嬉しかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手
宜しければ拍手をお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ