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この結婚は運命か否か  作者: 樫本 紗樹
本編

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14/58

暇の潰し方

 サマンサは朝食後、自室のソファーに腰掛け、セリムが王宮から戻ってくるまで何をして時間を潰そうか考えていた。

 昨夜のマッサージ中に、この国の女性の立ち位置についてサマンサは家政婦長に尋ねてみた。アスラン王国では仕事をする上で男女差はなくとも、それはあくまでも独身女性に限る。結婚をすれば女性は家庭に入り、子供を産み育て、夫や家族を支えて家を守る事が仕事に変わるのだという。ライラがジョージの横で問題なく通訳を出来たのは異国人だから許容されたのかもしれない。

「ポーラ、ミライを呼んでもらえるかしら」

「ミライさんをですか?」

「えぇ、少し話を聞きたいの」

 ポーラは不満そうな顔をしたものの、探してきますと言って部屋を出ていった。嫁ぐ前に風習などを覚えてきたとはいえ、この別館で王太子妃として何をするのが正しいのかは聞いていない。ミライは初日に何もしなくていいと言ったが、それを真に受けて何もしないのもどうかと思うし、そもそもサマンサは暇を持て余すのが苦手なので何かをしたかった。

 暫くしてポーラはミライを連れて戻ってきた。

「何か御用でございましょうか」

 相変わらずミライは無表情だ。そんな彼女にサマンサは微笑む。

「ミライはゼフラ様の侍女をしていたのよね?」

「はい」

「ゼフラ様は当時、ここで何をして過ごされていたの?」

 サマンサは以前王太子妃として別館で暮らしていたゼフラの行動を知ろうと思った。全てを真似る必要はないが、暇を潰せる何かが見つかるかもしれないと期待をしたのだ。しかし彼女の意図がわからないミライは冷めた目で彼女を見据えている。

「それを確認されてどうされるのですか?」

「私はアスラン王国の王太子妃を見た事がないから、ミライの意見を聞きたいと思っただけよ。ゼフラ様の事を話したくないというのなら一般的な王太子妃の話でもいいわ」

「私はゼフラ様にしか仕えた事がありませんから一般的な事は存じ上げません」

「それならゼフラ様はここで何をされていたの? セリム殿下のようにオルハン殿下と外出をされていたのかしら」

「オルハン殿下とは外出されていません。あの二人は夫婦としては成り立っていませんでしたから」

 ミライは淡々と答えた。ゼフラは昔からセリムの事が好きだったが、父親に強引に話を進められ渋々オルハンと結婚をしたのか、元々はオルハンに好意を持って結婚したものの、オルハンが冷たいのでセリムに乗り換えたのか、サマンサは判断しかねた。

「それはゼフラ様がここに引きこもっていたという事?」

「引きこもっていらっしゃったのはオルハン殿下です。王宮と別館しか往復されていませんでした。ゼフラ様は実家に遊びに行かれる事もありました」

 サマンサは気軽に帰れる距離に実家がない。これは全く参考にならないと彼女は聞き流す事にした。

「実家以外に友人宅に遊びに行かれる事もあったのかしら」

「私の知る限りではなかったと思います。そもそもご友人がいるという話を聞いた事がありません」

「つまりゼフラ様の友人はミライだけなの?」

 ミライは一瞬表情を歪めたが、すぐに無表情に戻った。

「私は友人ではありません。身分が違いますので」

「そう。ではここに誰かを招くという事もなかったという事かしら」

「ご家族がいらっしゃった事はあります」

 ゼフラは寂しい女性なのかもしれないとサマンサは思った。彼女も王女という立場上、親友となると難しい。だが一緒にお茶を飲んで噂話に花を咲かせる相手に不足した事はない。

「ゼフラ様はご家族と会う以外は何もしていなかったという事?」

「そうですね」

「それならば趣味に没頭されていたのかしら」

「特に趣味はなかったかのように思います」

 サマンサは猜疑の眼差しをミライに向けたが、ミライはそれを無表情で受け止めるだけで微動だにしない。ゼフラの事を何も言いたくないのか、本当に何もしていなかったのか、サマンサにはこれも判断出来なかった。

「アスラン王国の女性は結婚をしたら家で夫の帰りをただ待つのが仕事なのかしら」

「一般女性は家事が忙しいので、ただ待つという事は難しいでしょう。使用人を雇えるのはほんの一握りですから」

 ミライの言葉がサマンサの心の奥に鈍く響いた。彼女は王女なので、身の回りの事は誰かがやってくれるのが当然だと思って生きてきた。また、彼女が何かをしたいと言えばそれも誰かが叶えてくれた。しかし何不自由なく暮らせたのは王女だったからであり、他国へ嫁いだのなら考え方を変える必要があるかもしれないと思った。

「私も何か家事をすればいいのかしら」

 サマンサの発言に黙って聞いていたポーラは驚きの表情を浮かべた。

「いけません、サマンサ様。そのような事はさせられません」

「でもポーラ、ここはアスランだから」

「サマンサ様はほんの一握り側の人ですから、何もして頂かなくて結構です」

 ミライは無表情のままだった。サマンサもそれを無表情で受け止めた。そもそも彼女は家事をやる気など最初からなく、ただ言ってみただけである。

「他のほんの一握りの女性達は何をして過ごしているのかはわかるかしら」

「私はここでしか務めた事がありませんのでわかりかねます」

 一向に表情の変わらないミライに、サマンサはこれ以上粘っても収穫はないだろうと尋ねる事を諦めた。

「そう。仕事中に呼び出して悪かったわね。戻っていいわよ」

「それでは失礼致します」

 ミライは頭を下げると部屋を出ていった。

「サマンサ様、結局何がしたかったのですか?」

「ゼフラ様がどう過ごしていたのか純粋に聞きたかっただけよ。ここで何もしないというのも苦痛でしょう?」

「そうですね。レヴィにいた時は毎日のように色々な方とお茶会をしていましたものね」

「交友関係を築こうにもどこから手を付けていいのかわからないし、なかなか難しいのね、政略結婚というものは」

 サマンサはソファーに身体を預けた。今は午後からセリムが案内してくれるからまだいい。それが終わったらどうしたらいいのだろう。一日中何もしないで部屋に籠っているのは、彼女には正直辛かった。

「ポーラも仕事があったら気にせずしていいわよ」

「それが、私も特に仕事はないのですよね」

 ポーラは困ったようにそう言った。サマンサは不思議そうに首を傾げる。

「サマンサ様の身の回りの事以外はする事がないのです。掃除も洗濯も炊事もそれぞれ担当がいらっしゃいますし、むしろ私がいると今までの輪が崩れるのではないかと思ってここにいます」

「私が出かけている時もここでただ待機しているの?」

「えぇ、何もする事がありませんから」

 サマンサはまさか自分以上にポーラが暇を持て余しているとは思わず、申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「それなら今日から一緒に出かける?」

「いえ、お二人の邪魔をするような事は致しません。セリム殿下に悪いですから」

「セリム殿下なら気にされないと思うけれど」

「私が気になるので遠慮させて下さい。この部屋の掃除をしながらお戻りを待っていますから」

 慌てた表情のポーラにサマンサはにっこりと微笑む。

「それならポーラ、少しずつでいいわ。ここの使用人達と距離を縮めて、ゼフラ様とオルハン殿下がどのように暮らしていたのか探って頂戴」

「どのように、ですか?」

「ゼフラ様が何もしていないというのもおかしいと思わない? ミライは口を割らなくても他の使用人なら話してくれるかもしれないでしょう?」

 サマンサの言葉にポーラは頷いた。

「わかりました。ミライさん以外は温かく受け入れてくれそうな感じがするので頑張ります」

「不自然にならないように、あくまでもアスラン王国の王太子と王太子妃のあり方を聞くのよ?」

「はい。この国の上流貴婦人が何をして過ごしているかも合わせて確認します」

「えぇ、宜しく。そう言えばこの別館は全て覚えたかしら」

「だいたい教わりました」

「それなら案内してほしいわ。別館内なら歩いても怒られないでしょうし、今はとりあえずそれで暇を潰したいの」

「そこまで広くないので、あまり時間が潰れませんが宜しいでしょうか」

「レヴィ王宮に比べたら何処も狭いでしょうから構わないわ」

 サマンサはそう言うと立ち上がった。仕方なくポーラはサマンサに別館を案内する事にしたのだが、実際本当に広くないので三十分もかからなかった。

 結局すぐに部屋に戻る事となり再び暇を持て余したサマンサは、この国で流行っている趣味も合わせて確認するようにとポーラに指示を出した。

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